J/
公開前からずいぶん話題になって、英国好きの僕としては、すごく
期待をして観に行ったんだけど……。
B/
私は原作を2年ほど前に友だちから薦められて読んでいて、
一体どういう風に映画にしたんだろうと楽しみにしてたんだけど、
「何かが違う」…そんな感じだったわね。
J/
冒頭のシーンから、マーク・ダーシー一家のパーティ、
一人家に戻って歌を口パクで絶叫するところまでは、強がっているようで、
実は寂しい侘しいっていうブリジットの複雑な心模様が描かれていて、
快調なすべり出しだったんだよね。
B/
そうそう、150年前のイギリスなら、きっと新しいジェントリー
階級だっただろう弁護士のマーク・ダーシー一家。
そんな彼と結婚させたがっている"普通の人々"のジョーンズの両親。
J/
そんな俗っぽいせめぎ合いがチラチラと見えたね。
30歳過ぎた女性のシングルに対する偏見と、
それを言葉に出すお節介な人々。
まさに、この日記に流れているジェーン・オースチンの世界だね。(笑)
B/
さて今回は、二人とも★が3つ
なんだけど、その辺の話をしてみましょうか。
J/
僕が残念に思ったのは、イギリスの出版社に勤めている女性なのに、
知性が感じられなかったことかなぁ。
原作では、映画も演劇も一通りは観ているし、今はやっているテレビ
なんかのミーハー的情報も持っている結構知的な女性なんだよね。
でも、僕にはただのおバカさんとしか見えなかった。
B/
確かに、映画のブリジットは、そういう部分が感じられなかったわね。
なんかアタマの中身は、タブロイド紙みたいな……。(苦笑)
J/
本当は、わざとタブロイド紙してみて失敗しちゃったり、その逆に知的
なこと言おうとして失敗しちゃったり、そういう中途ハンパな女性なの
だけれど、完全にタブロイド女になってしまっていた。(笑)
B/
その中途ハンパさっていうのは、彼女の階級からもきているところなのかも
しれないわね。映画ではそんな微妙なニュアンスが出ていなかった。
J/
あと、これは演出上必要だったんだろうけど、男にとって見たくない
シーンもあったことかなぁ。
お腹の贅肉とか、ガードルとか……。リアル過ぎる。臭いまでしてきそうで(笑)
まぁ、これは趣味の問題だけど。
B/
ははは!なるほど、ガードルのシーンねぇ。私は、あまりにも
現実的すぎて、目をそらしたくなったわ。
J/
はぁ???
B/
私はね、作品全体に英国的な匂いが感じられなかった
ことが残念だった。
独特の毒々しさ、自虐的な笑い、ジメジメした暗〜い感じ。それがないから、
ラストだけは、ジェーン・オースチンの小説みたいに、最後は収まるところに
収まったっていう風にはなっているけれど、アメリカ映画みたいにになっちゃった。
J/
映画を見終わっていたあと、若い2人の女性がしていた会話が
印象的だったね。
「孤独なシングルだとか、ブス、デブとか言ってるけど、
結局はブリジットが一番モテたってことじゃない?」
B/
それって、ある一面この映画を言い当てていると思うな。
英国的な人間描写がほとんどないから、ただのサクセス・
コメディになっちゃったのよ。
J/
まあ強いて言えば、ダニエルはブリジットの中に自分の同類的なものを見たのかも
しれないし、マークは彼女の奔放さ、悪く言えば下品さが新鮮だったのかもしれな
い。
B/
ただ、それだけでは、マークが婚約破棄をしてまでというのは理解できない。プラス・
アルファの魅力がなくてはね。男から見てああいう子っていうのはどうなの?
J/
ポチャポチャしていて、おっちょっこちょいでっていう意味では可愛いところがある
とは思うけれどね。そりゃ、『ジャニスのOL日記』の彼女と較べれば、愛嬌もある
し、ちょっとカワイ系だし、男としては悪い気はしないんじゃないかな。ただ相手が
ヒュー・グラントとコリン・ファースだからねぇ。「結局はブリジットが一番モテた
ってことじゃない?」って出てくるのはわかる。
B/
ふーん、そんなものなのかしらね。やっぱりモテるほうではあるわけだ。
J/
何年か前に『ユー・ガット・メール』というアメリカ映画があったよね。
この間、テレビで久々に観て見たら、僕はそっちの方が
ジェーン・オースチンのテイストをじょうずに取り入れていた、と
思ったな。
B/
あとね、私はどうしてブリジットの友人たちをもっとじょうずに
使わなかったんだろうって思ったの。
だって、ブリジットの友人たちって、最近の若い人たちの
さまざまタイプをそのまま地で行ってるじゃない。
J/
そうだね、ジュードはバリバリのキャリア・ウーマンだけど、
男性への依存症が強くて、小さなことでクヨクヨしている。
シャロンは、完全なる独身主義者。社会の偏見には目も
くれない自立した女性。
B/
そして、トム。イギリスではすでに認められつつあるゲイね。
彼は、一番ブリジットに近いんじゃないかな、立場的には。
J/
その中で、ブリジットはどこへも属せないんだよね。
属さないから、中立的な立場で人間たちをも見ている。
だから、もっともっとそんな友人たちを通して、
ブリジットを描いたら良かったと思う。
B/
そしたら、彼らとの会話の中で、彼女が持っていた知的な部分にも触れられたのにね。
ただの飲み友達って感じだったものね。もったいなかったわ。
J/
彼女の結婚願望にもどこか矛盾があるんだ。結婚をしたい、けれどもその一方で普通の
幸せな夫婦であったはずの両親が別居しているという現実も見せられる。
B/
中流家庭の主婦が、ある日突然自分が自分自身のために人生を生きていなかったことに
気がついて、家を出ていく。お決まりのパターンなのだけれどね。
J/
そんな姿を見ているとツライね。彼女はもうすでに社会人として仕事に出ていて、色々な
世界を見ている。特に彼女はマスコミ業界だから、有名人と会う機会もあるしね。そんな
彼女が中流家庭の主婦に収まるとは考えられないな。
B/
そうなのね。女としては年齢がいけばいくほど、そうした矛盾が増えていくものなのよ。
特に彼女のような階級の人たちだとね。家のパーティーに集まった人たちの俗物ブリを
見れば、結婚になんて憧れてなんかいられない。
J/
恋人はほしいけれど、回りから「結婚は…」とかひっきりなしに言われていれば、それはそれで
アセってくるだろうしね。彼女自身、中流家庭のモラルに反発しつつ、それでもその束縛からは
逃れられないようなところがある。結局彼女はすべてにおいて中途ハンパなんだね。
B/
実は、この映画に共感できるとしたら、まさにその部分なのね。世間のモラルと自分の生き方の間
に挟まれて。だけど、私にはこの映画はあまりにも戯画化され過ぎていて、コメディとしては面白
いのかもしれないけれど、その分原作にあった切実さの部分が薄まってしまったような気がするのね。
J/
ふむふむ。確かにこの映画では、彼女が自分自身のそうしたさまざまな矛盾をしっかり理解していたのか
どうかが、実はいまひとつ出ていないよな。
B/
あの恥じも外聞も捨ててマーク・ダーシーの元に走る、あのドラマティックなラスト。あれは私には
複雑だった。タブロイド頭のブリジットならいかにもありなんのラストではある。けれどもマーク・
ダーシーっていうのは、真面目で優しい男ではあるけれど、彼の元に行くというのは、あの俗物たち
の世界に彼女が回帰していくことに他ならないのね。
J/
確かにそれにしてはあっけらかんとしたラストだった。あれはあれでいいけれど、ただほんのちょっと
疑問符は残しておかなきゃいけないんだね。
B/
そうそう。アメリカ映画風のハッピー・エンドではいけないのよ。私としてはあのラストもう一工夫欲
しかったように思うな。それと原作の雰囲気として、朝起きる時の気分みたいなのをちょこちょこと入
れて欲しかったような気もするのね。
J/
あのベッドで歌をうたった時のあの雰囲気ね。あれを全編に散りばめても良かったような気がするね。
章にわけてもいいからさ。
B/
決してつまらない映画ではないのだけれど、どこか喉の奥に小骨が刺さったような違和感を感じながら
観てしまったことは否定できないわね。
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