「 セカンド・・・

  もう一度・・

  はじめから やりなおすわよ・・・ いいわね? 」

 

エントリープラグの中に流れる

スピーカーからの声。

 

無機質な

有無を言わさない命令

 

「 了解 」

 

私は 簡潔に 答える。

 

優秀な戦闘兵器パイロットの 絶対条件は

『 命令に忠実な事 』

 

どんな組織でも それは同じ。

 

ブゥゥンン・・・・

 

目の前に ホログラムで映し出される

奇妙な物体。

 

使徒

 

私達の 敵

 

「 セカンド・・

  いいわ 始めなさい 」

 

そして

それを倒す事が

 

私の・・

 

私としての 価値

 

 

「 ・・・・

   ・・・・ 了解 」

 

真紅の機体は まるで獲物を見つけたハンターのように

素早い動きで 間合いをつめ

 

「  だあっ!! 」

 

一気に 空高く 跳躍すると

その 奇妙な物体の ちょうどど真ん中に

 

光り輝く ナイフを付きたてた。

 

「 ヲヲヲヲヲオオオオオオオオオオオ!!!」

 

断末魔とも聞こえる 奇妙な音を立てながら

 

ホログラムの敵は

 

溶けるようにして 消えた。

 

 

 

  最高のプレゼント : 前編


 

 

「 殲滅に費やした時間の平均は 3分と40秒 ・・・

  素晴らしい成績だわ・・

  セカンド 」

 

さまざまな 実験データを解析するための

コンピューターがひしめく 広い部屋。

 

「 はい・・

  ありがとうございます 」

 

薄い金髪の 長い髪

見るからに 神経質そうな ふちの無いメガネ。

 

ネルフ ドイツ支部・・

エヴァンゲリオン弐号機 開発担当の女性の言葉に

私は 短く答える。

 

「 反応速度・・

  運動性能・・

  どれをとっても 最高のレベルだわ・・ 

  後は この状態を 維持することが 大切ね 」

 

何度 テストしても 同じこと・・

私の操縦は完璧だわ・・

 

誰もにも負けはしない

 

使徒にも

 

そして 日本にいる

 

ファーストチルドレンにも・・

 

 

「 はい ・・ まかせてください 」

 

 

私の言葉に、

開発担当の 白人女性が 満足そうな

笑みをうかべた。

 

 

ガコン!!

 

立て付けの悪い音を立てながら

ロッカーのドアが開く。

 

あたしは その中から 自分のバッグを取り出した。

 

プシュ〜・・・

 

手首のボタンを押すと

このプラグスーツは 外の空気を吸いこんで

ゆるくなり、 脱いだり着たり できるようになる。

 

初めのうち・・ 体にピッタリフィットする このスーツは

なんだか ハダカで歩いてるみたいな気持ちがして

落ち着かなかった。

 

でも、 今では もう そんな事は無い。

毎日 着ていて

慣れてしまった。

 

「 ・・・・ 」

 

バッグから ブラとパンツを取り出す。

・・・

どうでもいいけど あたしぐらいしか使わないこの更衣室・・

こんなに広く作る意味は あるんだろうか・・

 

カタン・・

 

そんなことを考えながら シャツを引っ張り出したら

バッグから 手帳が床に落ちてしまった。

 

ボタンをとめながら それを拾うと

何気なく あたしは 今日の予定が書いてある ページを開いた。

 

薄い 肌色のページに

小さな文字で びっしり 予定が書きこまれている。

・・・・

起床は 5時半・・

ネルフ地下の訓練場で 朝の簡単な運動

栄養管理センターで 朝食・・

体の調子を測定するための 報告書への記入・・

午前中は エヴァの操縦に関する勉強と 格闘技の練習・・

昼食の後、 エヴァの搭乗・・

シンクロテスト、模擬体との 戦闘訓練

そして ミーティング・・

 

私の 一日の行動は

文字通り、 分刻みで 決められている。

 

訓練にあけくれ・・

厳しい毎日だけど

それは 私に エヴァのパイロットとしての実力と、

自信をあたえてくれる。

 

世界一になるんだ

 

必ず

 

優秀に・・

トップになるんだ

 

誰にも 負けない・・

大人にも・・

ファーストチルドレンにも・・

 

・・・

自分にも

 

 

 

「 見ていてね・・

    ・・・ ママ ・・ 」

 

 

あたしは スカートをはき、

手帳をしまおうとした。

 

ふと、 その手が 止まった。

 

・・・

12月 4日・・

 

今日の 日付・・

 

そうか・・・

今日は

あたしの・・・

 

 

 

誕生日だったんだ・・

 

 

 

 

 

夜の街は 寒い・・

 

12月は 年末。

クリスマスやなにやらで

なんだか 街も うかれてるみたい。

 

街灯の光と、 お店のライトで明るい町並みに

コートや マフラーをして 忙しげに歩く沢山の人々が 照らされている。

 

ネルフからの 帰り道。

 

コツ・・コツ・・・コツ・・

ちょっと 足を止めて

くずれてきた 白いマフラーを

もう一度 首にまきつけて

あたしは バッグを 持ちなおした。

 

はあーーーって

息をはいてみたら

白いもやもやが 顔の前を通り過ぎる。

 

「 だよな! 見ろよあれ! 」

「 おおー! 」

 

コートを着こんで、 寒さに少し 鼻の頭を赤くしていたあたしの耳に

道路のそばの ベンチから 小さい声が 聞こえてきた。

「 ・・・・ 」

そっちを 振り向くと

何人かの 人影が 見えた。

 

15、6 歳の 男の子が4人・・

もう 夕食の時間を過ぎたっていうのに

同じ歳くらいの 女の子も 2、3人 そばにいる。

 

男の子たちは あたしの姿を見て 騒いでる

顔を赤くして 指をさして 興奮してるみたいだ。

女の子のほうは と言うと

露骨に あたしに 険悪な視線を向けて

仲間内で なにやら ヒソヒソ話してるみたい。

 

「 ・・・ 」

 

悪いけど、 あたしは こーゆーのに 慣れてる。

慣れてるというよりは、 もううんざりって感じだ。

 

ファンレターや ラブレターを送ってくるのは

みんなあのくらいの歳の男の子。

あいつらは いつもスケベなことばっか 考えてる

どーしようもない 奴ら。

 

あたしの顔や スタイルを話題にしては

くだらないことばっかり 話してるだけ。

 

はっきりいって 興味ゼロ

 

あたしとつきあいたいなら

それ相応の 男になってから 言ってほしいもんだわ。

・・・

・・

女の子も 同じようなもの

あたしを見ると すぐに露骨な嫌な顔。

嫉妬 ねたみ 多いに結構・・

もう沢山だわ・・

 

あたしと 同じ歳の連中なんて

てんでレベル低過ぎて 話にもならない。

 

選ばれた人間と

そうでない 凡人の差ってやつよ。

 

せいぜい そんなところで つるんで

仲間内で 楽しくやってればいいわ。

 

あたしは  片方の手を コートのポケットに突っ込むと

そのまま 歩き始めた。

 

帰宅する 大人達の群れ。

背広姿の 背の高い男・・

見るからにキャリアウーマンって 感じの女・・

あたしを みんな チラチラ見ていく。

 

そんなに めずらしい?

 

こんな時間に 一人で歩いている 美少女が・・

 

あんた達と あたしは

 

全然違うのよ

 

さっきの バカなガキ達の姿が

頭に浮かぶ。

 

「 ・・・ 」

 

とっとと 大学まで進んでよかったわ・・

あんな連中と いつまでも一緒の空間にいたかもしれないと思うと

ゾッとする。

 

あたしは メインストリートを過ぎて、 路地を曲がる。

ちょっと 入り組んだ道 ・・

街並みは ほんの少し さびしくなるけれど・・

高級感というか・・ 品の良い 静けさが あたりに漂い出す。

 

駅に近い このあたりは 高級住宅街。

 

あたしの 『 家 』 も この先にある。

 

ここからでも 見えるわ・・

大きくて 綺麗な 高いビル・・

完全オートロック、 警備万全 見晴らし完璧・・

今年のはじめに出来たばかりの 超高級マンションの

最上階・・ 一番高級な ひろーい 1部屋・・ まるまるが 私の家。 

 

もっとも・・ ネルフからの支給だから

家賃なんて 払った事ないけどね。

 

育て親のいる家を出て・・

ネルフ ドイツ支部に来て もう 半年

 

自分の誕生日を忘れるくらい

忙しかった。

 

 

「 ・・・・ 」

 

 

空を見上げたら 満点の星

 

青くて 黒くて 綺麗な夜空に

 

まるで 光の粉をばら撒いたように

星が キラキラしてる。

 

また 歩き出そうとして・・

 

あたしは ふと 足を止めた。

 

表の通りから 離れた街並みの中に

一軒だけ・・

小さいけど 綺麗なブティックが立っていた。

 

・・・・ 今まで 気がつかなかった

 

あたしは 歩いて その前まで 行くと

何気なく ショーウインドーに飾られた マネキンを見上げた。

 

赤・・ というよりは 茶色に近い色のコート。

まるで サンタクロースみたいな 白いふわふわした丸いボンボンが

袖のところと、襟のところ・・ ボタンにまでついている

かわいい服だ。

 

「 ・・・・ 」

 

ちょっと 気に入った。

 

値段を見たけど、 まあまあの値段・・

・・・

自慢じゃないけど ネルフから 給料というか カードを支給されているから・・

この服が いくらでも  高くて買えないなんてことはない。

・・・

今日は あたしの 誕生日・・

・・

でも ネルフのスタッフや

大学の知り合い・・

訓練の時の 教官・・

 

誰からも プレゼントなんて もらわなかった。

 

あたりまえね・・

 

あたしは セカンド

 

・・・

 

誕生日なんて

自分さえ 覚えてなかったんだもん・・

 

・・・

家に帰っても

プレゼントが届いている ワケは無い。

 

セカンドチルドレンのあたしの住所は

世間では 機密扱いだ

 

・・・・

 

・・・・・・・

 

・・

 

下から ライトに照らされた その服を

もう一度 あたしは 見上げた。

 

・・

 

・・・・

 

・・・・  やめた ・・

 

自分で 自分に プレゼントなんて・・

・・・

なんか おかしいから・・

 

・・・

・・

 

ほどなくして

 

あたしは マンションの前についた。

 

暖かい光で マンションの前の緑の木が照らされている。

 

大きなガラス張りの 入り口に入る。

鍵や 暗証番号なんて 古臭いものは当然いらない。

今の主流は 網膜パターンか 指紋だ。

 

あたしは 玄関の奥へと 進む。

すると、 守衛のいる窓口のところで 中の人と何やら話していた人影が

あたしのほうを 振り返った。

 

「 ・・・ あ ・・・ 」

 

あたしは 思わず 声を上げる。

 

「 よっ・・ やっと お姫様のご帰宅か・・

  お疲れさん 」

 

近づいてきて、 あたしの頭に ぽん と手を置く。

 

その 男性を見上げる。

 

「 加持さん! 」

 

シワのついたシャツを着た 加持さんは

自分のあごをなでながら

 

「 一人の部屋に帰って、 一人でメシを食うのはあんまりいいもんじゃないだろ?

  俺も一人だから よくわかるんだ・・

  それに 今日は アスカの誕生日だったよな?・・

  どうだ・・・  一緒にディナーでも  」

 

ナイフとフォークを持つマネをして ニッコリと笑った加持さんに

 

あたしは 思いっきり 抱きついた。

 

「 お!・・ おいおい・・・

  ・・・んな・・・

  なにも 泣く事ないだろ・・ 」

 

抱きついたら

 

胸の中が あったかくなって

何故だか 涙があふれ出て来て

 

あたしは 加持さんに抱きついたまま

少しの間 泣いた。

 

それ以上 何も言わずに・・

 

加持さんは そんなあたしの頭を

 

 

ずっと なでてくれていた。

 


 

 

「 ねぇ〜〜〜 シンちゃん、

    ど・う・す・る・の!? 」

 

「 ・・・・

  ・・・や・・ やですよ・・・

  ・・・・ そんな ・・ 」

 

夕食前の ひととき・・

 

台所から 食器を持って リビングのテーブルへ・・

何度も往復しながら 夕食の支度をしている シンジの後ろを

金魚のフンよろしく ミサトがついてまわっている。

 

「 いいじゃんー! ねぇー! シンちゃんってば! 」

ガチャガチャと 戸棚から コップを取り出しているシンジに

ミサトが甘い声で 媚を売っている。

 

彼女の手の中には、

ひらひらと たなびく

長方形の 細長い 紙が 2枚・・

にぎられている。

 

「 ミサトさん・・

  暇なら これ持っていってください 」

 

しかし、返事のかわりに、

そんな彼女の手の中に シンジは コップを何個か持たせた。

 

「 ・・・ 」

 

そのコップを ぼーっと しばし 見ていた彼女は

我に帰って

さっさと 目の前から消えしまった少年を追って

リビングへと 急ぐ

 

「 ねぇ〜〜! ぜったい 喜ぶからさぁ〜! 」

コップをテーブルに置きながら

なおもしつこく言う 彼女に

テーブルを拭いていたシンジが 少しため息をついた。

 

「 ・・・・プレゼントをあげるのは いいですよ・・

  僕だって そのつもりで・・・

  お小遣い 貯めてましたから・・ 」

 

テーブルの向うにいる シンジの顔を

ミサトが期待を込めて見つめる。

だが・・

 

「 でも・・・ デ・・ デートだなんて・・

  そんな・・・

  アスカは・・・ その・・・ 」

 

そこまで 言って 顔を赤くして言葉を濁すシンジに

ミサトはちょっと肩をすくめてみせると、

今度は自信ありげな笑みをうかべて・・

 

「 だ・か・ら!

  だいじょーぶだって!! アスカだってメチャ喜ぶわよ、

  男なら バシッと誘いなさいよー! 」

 

言いながら、 手に持った二枚の紙を

シンジにつきつける。

 

「 ・・・ で・・・・

   ・・・ でも・・・ 」

 

その紙を チラッと見たシンジは

それでも 赤い顔で もじもじと テーブルをふくばかりだ。

 

「 心配しなくっても 大丈夫だって!

  ねぇ・・ いいじゃない? たまにはさぁ〜 」

 

なおも シンジの前で ひらひらと振られる 2枚の紙に

「 ・・・・ う ・・・・ 」

彼は沈黙した。

 

ミサトの持っているのは 最近、駅の反対側に出来た

大きなショッピングセンターの 中にある

最新の映画館の 無料チケットだ。

 

自衛隊との戦闘での傷跡が残る この第三新東京市の

復興のシンボルとでも 言うのだろうか?

とにかく 話題の場所であることに 変わりは無い。

そんな場所の 映画館のチケット・・

どーやって 手に入れたのかは謎なのだが

このチケットで もう間近に迫った アスカの誕生日に

二人で映画でも見て来たら?

というのが 彼女の提案だ。

・・・・・

一応、 毎月お小遣いをもらっているシンジが

アスカの誕生日に なにかプレゼントを 買おうと思ってはいたのだが、

はたして どんなものがいいのか?

ミサトに聞いたのが 事の発端だ。

 

『 プレゼントってのは 別に 物 じゃなくたってかまわないのよ?

  二人っきりの ステキな時間をプレゼントにするってのが

  いーんじゃないのよぉ〜 』

 

と 言った次の日に、 何処からとも無く チケットを手に入れて

こうして 『 デートプラン 』 をシンジに押し売りしているのだ。

 

「 映画見たあとで、 いいレストラン教えてあげるから

  二人だけで食事してぇ〜 ・・ そんで

  その後で 公園でも散歩してさ・・・・

  ・・・・・

  アスカ・・・ 寒い?・・

  ・・・・ え?・・・

  ・・・ もっと そばにおいでよ ・・

  ・・ あ・・ シンジ ・・・

  ・・・

  とか言ったりしてさ!

 遅くなったって ぜーんぜん かまわないわよ!? 」

 

「 ミ・・・ ミサトさん・・・

  楽しそうですね・・ 」

 

疲れた声のシンジに

ミサトは 慌てて首を振る。

 

「 え?  あ・・・ あは・・ あはは・・・

  ・・・・ そーんなこと ないわよ?

  あたしはただ・・ 」

 

とりつくろう 彼女を尻目に、

シンジは 目の前のチケットを見たまま

それでもまだ 浮かない顔だ。

 

「 ・・・ ふぅ ・・・・

  でも、 どーして 嫌なわけ?

  別に いーじゃないのよ、 映画くらいさぁ・・ 」

 

「 え・・・映画くらいなら・・・ いいかもしれませんけど・・

  その・・ 食事とか・・・ 二人でとか・・・

  そ・・ それじゃぁ まるで 僕と・・ アスカが・・

  こ・・・  こ・・・・

  恋人どうし・・・ みたいじゃないですか・・・ 」

 

「 ・・・・・

  ・・・・・・・ え? ・・・ 」

 

赤い顔で うつむくシンジに

ミサトは 間の抜けた声を出す。

 

「 ・・・・・ ち・・・ 違うの? ・・・ 」

 

「 ち・・ 違いますよ! ・・ 恋人だなんて・・

  そ ・・・ そんな・・・ 」

 

慌てて 首と 手をぶんぶんと振るシンジ

 

「 うそ? だって・・・

  アスカはシンちゃんが好きなのよ?

  シンちゃんは? 」

 

「 え・・・ あ・・・ いや・・・ その・・・ 」

 

「 嫌いじゃないでしょ? 好きなんでしょ?

  だったら 恋人どーし じゃないの! 」

 

「 そ・・ そーゆー もん・・ なんですか? 」

 

「 あったりまえじゃない!

  最近のシンちゃんとアスカ見てて 恋人同士じゃ無いと思う人なんて

  何処にもいないわよ! 」

 

「 います 」

 

「「 へ? 」」

 

ミサトの結論を いきなり否定した声に

二人は リビングの入り口を振りかえる。

 

「 ここにいます・・ 葛城三佐 」

ガラスのドアを開けて 現われた 水色の髪の少女は

ちょっとサイズがあわなかったパジャマのズボンのすそを

引きずりながら 二人のところへ 足早にやってきた。

 

「 あ・・・ レ ・・・ レイ ・・・ 」

やや のけぞり気味に ミサトが うめく。

そんな 彼女を見上げながら

レイは シンジとミサトの間に 割って入った。

 

「 あ・・ 綾波・・ こ・・ これは・・ その・・ 」

「 いかりくんと あの人は

  恋人 というものでは ありません 」

シンジの声など 無視して

レイは強い視線を ミサトに向ける。

 

「 や・・・

  ・・・や〜ね レイ・・ なにをそんなに・・・ 」

 

やや 怯えながら とりつくろうミサト

 

( さ・・・最近 この子 性格かわったんじゃないの?)

 

実は 非常に嫉妬深くて 独占欲の強い レイ

根が真面目で 一途なので さらに始末が悪い。

ミサトの好きなかる〜い 冗談も

この少女にはまったく 通用しないのだ。

 

「 違います・・ 恋人 というものでは ありません・・

  だって・・

   だって・・・・ いかりくんは・・・

   ・・・・ 私・・・  」

 

言いながら 不安になったのか

レイが 泣きそうな顔になる。

 

ミサトは 慌てて レイの肩に手を置く。

 

「 そ・・ そうよ〜! 恋人じゃないわよね〜

  あたしの 勘違い! そう! ね、 レイ そうよ そう! 

  あ・・ あはは・・・ 」

 

( これじゃあ わたしが いじめてるみたいじゃないのよぉ〜 )

レイに聞こえないように 小さくため息をつくと

目の前のシンジも 同じように やれやれといった 顔をしている。

 

「 で・・ でもね、 レイ ・・ 聞いて?

  この映画のチケットはね ・・ プレゼントなのよ?

  わかるでしょ? 誕生日のプレゼント・・

  でも、 アスカに 一人で見に行け なんて言ったら

  かわいそうでしょ? だから プレゼントしたシンジ君が 一緒に行く・・・

  それだけのことなのよぉ〜 やあ〜ね〜 レイったら・・・ そんなに 怒ること ないわよぉ〜 」

 

冷や汗を流しながら 真紅の瞳の 威圧を受け流す ミサト

そんな彼女の顔をじっと見ていたレイだったが・・

しばらくして

くるりと 後ろを向くと

やや 顔を引きつらせている シンジに

 

「 いかりくん ・・・ ほんとう? 」

 

心配そうに 聞いた。

 

( なんで シンちゃんに聞くのよ・・ )

突っ込みを入れたいところだが 後が怖いので ミサトは黙っている。

 

「 う・・ うん そうだよ・・・

  別に 恋人同士だからとか・・ そんなんじゃなくてさ・・

  ・・・うん・・ 」

 

なにを言っているのか 自分でもよくわからないシンジだが

なんとか そう 答えた。

 

「 そう・・・・

  ・・・

  ・・・ よかった ・・ 」

 

その答えに

今までの 不機嫌なへの字の口は 何処へやら・・

レイは うれしそうに 微笑んだ。

 

確かに アスカと自分が 恋人同士だと言われると

シンジには なんだか 恥ずかしくて違和感がある・・

ちょっと 違う気がする。

しかし、

どう考えても 誕生日に 映画と食事なんて

デート以外の なにものでも無いのだ・・・

が、

レイは シンジの言葉を 疑わない。

彼の言う事が 彼女にとっての 真実だ。

 

あまりにも 純粋な 彼女の笑顔に

少し心の痛くなったシンジは

 

「 じ・・じゃあ・・・

  ・・綾波の誕生日にも・・ 一緒に映画に行こうね・・ 」

 

そう 付け加えた。

 

びっくりした 顔で

おおきく目をひらいていたレイは

うつむき、顔を真っ赤にして

 

「 ・・ うん ・・ 」

 

小さく 答えた。

 

 

 

「「「 いただきまーす! 」」」

元気な声が 響いたにもかかわらず、

食卓には 張り詰めた空気が流れる。

 

「 い・・・ いただきます ・・ 」

 

先ほどの 話で アスカとシンジのデートを納得したそのかわり・・

というつもりなのだろうか?

 

自分の誕生日に 映画に連れていってくれるという約束が

そんなにうれしかったのだろうか?

 

レイが シンジの左腕に 手を回して

ぴったりと ひっついたまま 離れないのだ。

 

「 あの・・ 綾波・・ 

  ご飯が・・食べにくいんだ・・

  ちょっと 手を離してほしいな・・ 」

 

目の前に座る アスカの顔色に おびえつつ

シンジが 隣りに少女に 小声で頼むが・・

 

 

「 ・・・・・・

  ・・・・・ いや 」

 

聞いてくれない。

 

「 ・・・・・ 」

シンジは 沈黙し、

 

「 ・・・・ 」

ミサトは ニヤニヤとした笑いをさらに深め・・

 

「 ・・・ 」

アスカのまゆげは さらにつりあがった。

 

「 あ・・・ いや・・・ でも・・

  お茶碗が・・ 持てないよ・・・ 綾波・・ 」

 

「 ・・・ 」

 

すまなそうに 言うシンジの顔を見上げて

口をへの字にまげていた レイだったが

 

しばし 思案した後・・

左手で 彼のお茶碗を 持った。

 

「 はい ・・ いかりくん 」

 

「 え ・・ 」

 

ニコニコと 笑顔のレイと お茶碗を交互に見たシンジは

青い顔になる。

レイは 自分が シンジの左手の かわりになるつもりなのだ。

 

「 お手伝い・・・

  いかりくんの ・・ 」

 

確かにレイの好きな事は シンジの手伝いをする事だ。

しかし、これは あきらかに お手伝いというものでは ないような・・

シンジは 冷や汗を流しながら 白いお米のはいった お茶碗を見つめる。

 

「 で・・ でもさ・・・ 綾波がご飯食べられないじゃないか・・

  や・・ やっぱり 手を離してよ・・・ 綾波・・・ 」

 

「 ・・・・

  ・・・・・ いや 」

 

「 いーかげんに しなさいよ! 

  レイ!! 」

 

二度目の 簡潔な 拒否が出た時

アスカの堪忍袋は あっさりと 破けた。

 

「 だいたい さっきから 黙って見てたら調子にのって!

  シンジはね、 あんたの所有物じゃないのよ!」

アスカのゲンコツが テーブルをまたいで

レイの水色のあたまを グリグリする。

「 う〜・・・ ううう・・ 」

「 ア・・アスカ・・ やめなよ・・ 」

「 だいたいね、シンジ! 

  あんたがはっきり迷惑だって言わないからいけないのよ! 」

「 ・・ う・・・ うん ・・ 」

「 ・・・ いかりくん ・・・

  めいわく? ・・・ 」

グリグリ攻撃をされながらも

レイがシンジを上目遣いに こっそりと 見る。

「 あ・・ いや・・ そんなことは・・・ 」

「 シンジ!!」

 

 

「 いやぁ〜 ほんとに 飽きないわねぇ・・・

  最高のおつまみだわ・・ これが・・

  エビチュがおいしーわぁ〜・・ ね〜 ペンペン 」

どやどやと にぎやかな食卓を眺めながら

ミサトが となりのペンギンのとさかをなでる。

 

「 キュ〜〜〜 」

 

シンジがアスカの平手打ちをモロに食らう場面を見ながら

ペンペンは 冷や汗を流した。

 

 

結局 いろいろあったのだが なんとか夕食は終わり

デザートのフルーツを みんなでつまみながら

今はテレビを見ている。

 

無論 誰も内容なんて 見てはいないのだが・・

 

頬に 赤いもみじの跡をつけたシンジが りんごをかじり、

その隣りに グリグリされすぎて 髪の毛がぼさぼさになったレイが

それでもなお 彼に ひっついている。

 

アスカはすっかり不機嫌になり 柿を ヨウジで

ブスブスと刺しながら そっぽを向いている。

 

テレビから流れる番組が 何度目かの CMになった時・・

それまで 黙って ビールを開けつづけていたミサトが

意味ありげな視線を シンジに向けた。

 

「 ねぇ〜 シンちゃん・・・ そろそろ・・・ ね 」

彼女の言葉に シンジが 緊張した顔になり、

隣りのレイが むっとした 顔になる。

 

「 ん? なによ? ・・・ あんたたち ・・ 」

なにやら 自分の知らない 話題に

アスカが さらに 不機嫌な声を出す。

 

すると

 

「 ア・・・・ アスカ・・・ あのさぁ・・・ 」

 

シンジが 恐る恐る 彼女の顔色を伺いながら

声を出した。

 

「 なによ・・ 」

 

アスカは 不機嫌だ。

 

彼女の反応に 怯えたシンジが 言葉をつまらせるが

ミサトが 『 大丈夫よ! 』 とでも言うかのように

ウインクするので なんとか 言葉を続ける。

 

「 あ・・ あのさ ・・・ 12月4日って・・

  ア・・・アスカの・・・誕生日 だよね・・・ 」

 

「 そーよ ・・・ で?

  ・・・ なによ・・ 」

 

なにを 言い出すのか?

アスカの声にも わずかに 緊張がまじる。

 

「 あの・・・・ よかったら・・・

  ・・・・ その ・・・ 」

 

もじもじと 言いにくそうにする シンジ。

 

と、 隣りのレイが 耐え切れなくなったように

さらに ぎゅっと 力を入れて 彼にしがみついた。

 

「 レイ! 何度言ったらあんた・・ 」

 

「  ・・・映画に 行かない? ・・ アスカ ・・・ 」

 

「 ・・・・

  ・・・・ え ?・・・ 」

 

思わず 席を立って 怒鳴りかけたアスカは

急なセリフに 見る見るうちに 赤面した。

 

「 え?・・ あ・・・ な・・・ なに? ・・ 」

 

立ったまま アスカは シンジを見つめる。

 

「 誕生日の日にさ・・・ あの ・・

  え・・ 駅のむこうに 映画館が出来たでしょ?・・

  チケットが・・・ 2枚あるんだ・・

  あの・・・

  だから・・ その・・

  ・・・ 僕と・・ その・・・・ 映画を見に・・・

  ・・ い・・・ 嫌だったら いいんだよ・・・ ぜんぜん ・・・

  ・・・ あの ・・・ 」

 

言いながら 恥ずかしくて うつむいてしまったシンジに・・

 

「 ・・・ え・・・・ う・・・

  うん ・・・

  ・・・・・・・

  ・・・・・いく 」

 

さっきの 剣幕は 何処へやら・・

アスカは 急におとなしくなると 真っ赤な顔で

ペタンと 座り込んだ。

 

「 ・・・あ・・・・よ・・よかった ・・・ 」

 

シンジは ホッとしたような 笑顔になる。

 

「 ・・・ と ・・・

  特別に ・・・・ よ ・・ 」

 

彼の言葉に うつむいたまま

アスカが答えた。

 

「 ・・・・・ 」

 

「 ・・・・・・・ 」

 

そんな二人を ミサトは満足そうに・・

レイはひたすら 不機嫌そうに 見ている。

 

 

「 な・・

   なによ ・・ 」

 

そんな 二人の視線に 気がついたのか?

アスカが 赤面したまま うろたえた声をあげた。

 

「 特別に・・・ねぇ・・・ 」

 

ニヤニヤと ミサトが 意味ありげな笑みを

アスカにむける。

 

「 むぅ〜・・・ 」

 

レイは というと うらめしそうに うなりながら

彼女を見るばかりだ。

 

「 あ・・あたしは別に・・

  チケットがあるから・・・

  ・・・ その・・・

  出来たばっかりだし・・・ 興味もあるし・・ 」

 

アスカは慌てて もごもごと 言い訳を始めたのだが・・

 

「 へぇ〜 ・・・ 

  そうなんだって・・・ レイ ・・ 」

 

「 むぅ・・・ 」

 

「 な・・ なによ べ・・べつに シンジの誘いは・・

  か・・ 関係ないわよ・・・ 」

 

「 ほぉ〜・・・ 」

 

「 むぅ〜・・ 」

 

「 うるさいわね!いいでしょ!なんだって!

  ごちそうさま! 」

 

ミサトのからかいとレイの陰湿な非難に

 

「 ア・・・ アスカ・・・ 」

シンジが 慌てて 言ったが

 

アスカは さも 不機嫌そうに・・逃げるように部屋へと帰ってしまった。

 

 

「 く・・くく・・・・ 」

 

 

横から聞こえた 押し殺した笑い声に

シンジはそっちを見た。

 

ビールの缶を口にくわえたままのミサトが

目を細くして 肩を震わせている。

 

シンジの疑問の視線に気がついたミサトは

ちゅぽん!と 缶から口を離すと

アスカが消えた 扉を 薄く目をあけて 見つめながら

 

「 素直じゃないんだから・・ 

  ・・・まったく・・・

  あの子はほんとに・・・

  意地っ張りが服着てるみたいね・・」

 

そう言うと、 また さも楽しそうに

ミサトは 笑顔になった。

 

「 どういう・・

  ・・意味ですか? 」

 

彼女に質問する シンジのとなりで

レイもそれを真似するかのように

ミサトを見た。

 

二人を交互に見た後で

ミサトは やさしい顔で 口をひらいた。

 

「 ・・・

  ・・・アスカはね・・・

  本当は あなたたちみたいな歳の友達と・・

  ほとんど 遊んだ事なんてないのよ・・ 」

 

「 え ・・ 」

 

彼女の言葉に シンジが目を大きく見開く。

ミサトは 軽く 彼にウインクすると

『 ナイショよ 』

とでも言うように、 人差し指を立てて 唇につけた。

 

「 エヴァのパイロットとして 英才教育を受けてきた あの子は

  実験・・実験・・

  テスト・・テスト・・訓練・・訓練の毎日で・・

  これといった 友達もいなかったし・・・

  ・・・・・・ 遊んだりも ・・・・できなかったのよ・・

  ましてや デートなんて・・・  とんでもない話だったわ・・・ 」

 

すこし 彼女の口調に

辛そうなものがふくまれているのは・・

ネルフの作戦部長としての 立場のせいだろうか・・

 

「 ・・・・ 」

シンジは 黙って 机の上に 視線を落とした。

 

レイは そんな彼の横顔を

じっと 見ている。

 

「 シンちゃん・・ レイ・・

  だから あの子と とびっきりの 友達になってあげて・・

  そして・・・

  暇な時は 沢山 ・・・ 一緒に遊びなさい 」

 

ミサトは笑顔のまま テーブルに 缶を置くと

手をのばして シンジの頭を くしゃくしゃと なでた。

 

「 ミ・・・ミサトさん・・・・ 」

シンジが くすぐったそうに 身をよじる

 

「 沢山遊んで・・ 沢山笑って・・

  それは あなたたち 子供の 当然の権利なんだから・・ 」

 

お気楽な いつものミサトの口調だったが・・

シンジには なぜか その言葉が

 

とても 重く 心に響いた。

 

 

 

 


 

せっかく決まった デートの予定

しかし 誕生日を前に

アスカとシンジは大喧嘩をはじめてしまう。

すれ違う二人の気持ち・・

最高の日に贈られた

最高のプレゼントとは・・・

 

 

次回:最高のプレゼント 後編

 


 

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