暖かいローソクの光が揺れて・・

白いテーブルを ゆらゆら 照らしている。

 

夜景が静かに見える 窓際の席・・

 

あたしは 加持さんと 向かい合って

美味しいディナーを味わっている。

 

ここは あたしが選んだ 今 話題の

おしゃれなフランス料理店。

 

カップルや 若いお客さんばかりで

加持さんは はじめ ちょっと 居心地悪そうだったけど・・

でも すぐに 雰囲気に溶けこんで

 

今は すっごく素敵・・

 

テーブルマナーとかだけじゃなくて なんか動きそのものが

板についてて・・

やっぱり 加持さんは どんな事でも うまくこなしてしまう・・

 

凄いなーっ・・

 

 

「 ん? なんだ? 」

 

あたしの視線に気がついたみたい・・

コンソメスープを飲んでいた加持さんが顔をあげた。

 

薄い照明と ロウソクの光に照らされた 加持さんの顔は

どこか いつもと違って 神秘的。

 

「 ねぇー 加持さん! 

  あたし達って 恋人同士に見えるかな!? 」

 

ゴホ!

 

あ・・ 加持さんが むせた・・

 

「 ゴホ・・ ゴホッ・・

  ・・ ふぅ ・・

  ・・・

  ・・・・ それは 無理だろ ・・・ 」

 

「 えーっ・・ なんでぇ〜 」

 

「 かんべんしてくれよ・・・

  俺とアスカじゃあ 歳が離れ過ぎてるじゃないか?・・ 」

 

努力じゃどうにもならない事を加持さんが言うから

思わず あたしは むくれる。

 

「 恋人に最適な 年齢の差なんて 無いわよ 加持さん!

  それに いまどき15歳違いなんて ザラだもん。」

 

焼きたての フランスパンに バターをぬりながら

加持さんは 肩をすくめる。

 

「 俺みたいな オジサンなんかといても 面白くないだろ?

  大丈夫・・ アスカにだって すぐに 同年代の

  ちゃんとした恋人ができるさ・・ 保証する。 」

 

「 ヤダ・・・

  バカなガキには 興味無いもん・・

  あたしが好きなのは 加持さんみたいな 大人な人なの!」

 

「 ・・・

  はは・・・

  ・・・ 大人ねぇ ・・

  ・・・

  俺みたいな 男を 『 大人の男 』 として見ている時点で

  ・・・ アスカはまだ 子供だよ・・ 」

 

よくわからない 事をいって

加持さんは あたしにやさしく笑いかける。

とても暖かいけど・・

距離のある やさしさ。

 

「 それに・・・

  寝てても・・ 何もしなくても 時間さえたてば、

  誰でも大人になるもんだ・・・ 嫌でもな・・

  子供の時は 子供の楽しい事をしないと もったいないぜ?」

 

「 ・・・・

  で・・・ でも!! あたしは別に! 」

 

「 おっと・・・

  人間が怒るのは 本当の事を言われた時だけだ・・

  アスカになら そのくらいのこと わかるだろ? 」

 

 

「 う ・・・・ 」

 

加持さんは いつもそう・・

 

いつも 正しい・・

 

「 エヴァのパイロットだからって、

  なにも普通の幸せを放棄しちまうことは無いんだ・・ アスカ・・

  ・・・・

  エヴァのパイロットだけに固執してると、

  しまいには 『 セカンドチルドレン 』 の アスカしかいなくなっちまうぞ?」

 

パンをかじりながら

加持さんが サラッと

 

とても やなことを言う

 

「 ・・

  ・・・・ いいもん ・・・

  ・・・・ 」

 

「 ・・・・ アスカ ・・ 」

 

「 セカンドチルドレンとしての あたしがちゃんと存在していれば・・

  それだけで いいもん・・

  他には

  何もいらないわ ・・ あたし ・・ 」

 

あたしは 持っていたフォークと ナイフをお皿に置いて

少し うつむいた。

 

 

「 ・・・・・

  じゃあ ・・・ 

 

  なんで 泣いたりしたんだい? 」

 

 

「 ・・・・・・ 」

 

「 俺は アスカに そんな悲しい人間になって欲しくはないな・・

  ・・・・ セカンドチルドレンのみ・・

  そんな女性とは 俺は お付き合いしたくないぞ? 」

 

加持さんが 意地悪く ニヤリと笑う。

 

「 ・・・・・・ 」

 

パンをお皿に戻して、

ナプキンで 手を拭きながら

加持さんが あたしを やさしく見ている。

 

「 保証する・・

  容姿や成績、 ネルフなんか 関係無く

  本当のアスカを 受けとめてくれる奴が きっと現われる・・

  ・・・・・ 近いうちにな ・・・

  ・・・・

  人生は 意外と うまくできているもんさ・・ 」

 

そう言うと、 加持さんは 手を伸ばして

あたしの あたまを くしゃくしゃと なでた。

 

 

 

加持さんのこと 尊敬してる。

本当に 好きだった・・

 

だからこそ

 

 

その言葉が 重く あたしの心に 響いた。

 

 

 

  最高のプレゼント : 後編


 

 

「 たっだいま〜 」

 

玄関に入ったミサトは 言いながら

ブーツのヒモを はずしていく。

 

トタトタと 音がして

見上げると エプロンをつけた シンジの姿・・

 

いつもの風景だが・・

今日は 彼の表情が ちょっと違う。

 

眉毛をつりあげて

なんだか 怒っているみたいだ。

 

「 おかえりなさい 」

機嫌の悪さを証明するかのような

そっけないお出迎えに ミサトが怪訝な顔をする。

 

「 なーにぃ? シンちゃん・・・

  どーしたのよ・・ そんなにむくれて・・ 」

 

「 別に むくれてません 」

 

「 ・・・ むくれてるじゃないのよ・・ 」

 

「 むくれてません ・・ 」

 

「 あのねぇ・・・ 」

 

「 晩御飯できてます 」

 

「 ・・・ う ・・ うん 」

 

ミサトが うなずいて シンジの後について

リビングへ入ると、 その中は もっと酷かった。

 

レイが無言で ぱくぱくと サラダを食べているのはいつものことだが・・

アスカも 無言で 不機嫌そうに おかずを食べている。

 

チラリと ミサトの方を見た アスカが

シンジと目を合わせるが、

 

「 ふん!! 」

 

鼻をならして そっぽを向いてしまう。

 

「 なーにぃー? またケンカしてんの?二人とも・・ 」

 

「 してないわよ・・

  レイにばっか やさしくする シンジとなんかね・・ 」

 

「 なんだよ・・ アスカ・・

  アスカが悪いんじゃないか・・ 」

 

「 なによ・・ アンタがいつもいつも レイにばーっか

  料理を合わせるのが 悪いんじゃないのよ! 」

 

「 しょがないだろ? 綾波は食べられないものがあるんだから!」

 

「 あんたたち・・

  そんな事で ケンカしてるわけ? 」

ミサトが 飽きれた声を出す。

「 それが 悪いってーのよ!

  ただの好き嫌いなのに レイには甘くて いつもいつも!」

「 そんなんじゃないよ!」

「 コラコラ・・

  二人とも・・ 」

「 だいたい アスカはいつも 自分勝手な

  きまぐればっかり言って・・ 」

「 うっさいわね! もーいいわよ!

  ごちそうさま!! 」

 

アスカは 音を立てて 立ちあがると

そのまま リビングを出ていってしまった。

 

「 ・・・ あ・・・

  あの〜 ・・ シンちゃん? ・・ 」

 

「 なんで・・

  なんで 苦労して いつも他のメニューまで作ってるのに・・

  怒られなくちゃならないんだ・・

  僕は悪くありません・・ ミサトさん ・・ 」

 

「 あ・・

  あ〜〜・・ ん〜〜  確かにそうね・・

  でも・・ あのね・・

  レイのために いつもいろいろ考えて 他のご飯を特別に

  作ってあげるってのは・・・ その・・・

  うらやましいっていうのか、 微妙な女心でね・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 わかってるんだけど、 やっぱりくやしいっていうのか・・

  なんてゆーのか・・ 」

 

「 そんなの わかりません 」

 

「 ・・・ あ・・ ・・・

  う・・・ 」

 

結局、

レイと シンジと ミサトのみの晩御飯は

静か〜〜に 終わった。

 

シンジはむくれたまま お風呂に入り、

アスカと仲直りもしないままに

 

部屋に戻ってしまった。

 

 

「 ・・・・

  いつもなら・・ あんなことで 怒る子じゃないんだけどね・・

  料理は シンちゃんが 自信を持っている事だから

  それを 理解できない理屈で 怒られると

  頭にきちゃうみたいねぇ・・ 」

 

魚をくわえながら アグアグと 幸せそうな顔をしている

ペンペンの横で・・ もぐもぐと りんごをかじりながら

ミサトが 独り言を言う。

 

夜のテレビでは

今 話題の 嫁と姑ものの ドラマが流れている。

 

そのドラマを 興味深げに見ながら

みかんをむいているレイが チラリと ミサトを見る。

 

「 明日は アスカの誕生日・・

  二人で映画に行くってのに・・

  大丈夫かしらねぇ・・・ 」

 

そんな レイの顔を見ながら、

やれやれと ミサトがため息をつく。

 

「 せっかくの 初デートだってのに・・ 」

 

ミサトのぼやきに

レイが ニッコリと 笑顔になった。

 

「 コラコラ・・・・・ 」

 

ミサトは そんな彼女のほっぺたを

軽く 引っ張った。

 


 

 

レイの笑顔の効果なのかどうなのか・・

 

その次の日・・

つまり アスカの誕生日の 当日になっても

二人のケンカは 続いていた。

 

一晩寝れば 忘れるでしょ・・

 

と 思っていたミサトの予想は はずれてしまった。

 

はずれるどころか、 あろうことか 朝の食卓でも

レイのパンのほうが あたしより 大きいとか 大きくないとかで

口ゲンカ してしまった 二人は

すっかり 機嫌を悪くしてしまった。

 

こうなると、どうしようもない・・

なんと ミサトがネルフへ出勤しようと思っていた

朝の9時過ぎ・・

アスカも 同じように 玄関に立っていたのだ。

 

「 ちょっと アスカ・・・

  どうしたのよ? ・・ 」

 

「 別に?・・ 出かけるだけよ・・ 」

 

驚いているミサトに

アスカは素っ気無く 答える。

 

「 出かけるって・・ 何処へ?

  だって 今日は 午後から シンちゃんとデートでしょ? 」

 

「 何処だっていいじゃない・・

  ・・ ヒカリのところよ、 ヒカリの・・

  シンジとデート?

  ふん!

  冗談じゃないわ・・ レイと仲良くしてれば いーのよ! 」

 

「 アスカ・・・ ねぇ・・ 本気? 」

 

「 本気よ 本気! じゃあね! 」

 

「 あ・・! ちょっと!! 」

 

ミサトは 慌てて アスカの後を追って

エレベーターの中で 説得したのだが、

彼女は そのまま 委員長の家へと 出かけてしまった。

 

ミサトは 携帯で 家に電話をして

シンジに伝えたが、 すっかり怒っているシンジは

 

「 へー ・・ そうですか ・・ 別にいいですよ 」

 

と 言っておしまい・・

 

だからといって どうしようもないミサトは

やれやれと ため息ついて ネルフへ向かった。

 

 

ひょっとして 私が帰ったら 仲直りしてて

二人とも ちゃんとデートを・・

という 甘い考えは

午後9時ごろ・・ いつもよりも遅く帰宅したミサトを

出迎えた シンジの顔で

あっさり 否定された。

 

「 なによ・・

  じゃあ 結局 行かなかったわけ? 映画・・ 」

 

「 行かなかったもなにも・・

  アスカは 見るはずだった4時の回の 時間になっても

  連絡も無し・・

  委員長の家で まだ 楽しく遊んでるんじゃないんですか? 」

 

プリプリと 怒りながら

ミサトのご飯をよそいつつ シンジが言う。

 

こんな状態でも 家事をキチンとやってしまうところが

この子の 良いところなのだが・・

 

「 もしかして・・・・ アスカまだ帰ってきて無いの? 」

 

「 さあ・・ 知りませんよ・・ 僕はずっと部屋にいましたから・・ 

  でも 何の音もしなかったから まだじゃないんですか? 」

シンジがむくれる

「 だって 朝の9時に 遊びに行ったのよ?

  いくらなんでも 晩御飯をどうするか・・・とかの電話くらい

  してくるんじゃ・・・ 」

 

「 アスカがそんなに 気を使ってくれるわけないじゃないですか・・ 」

 

「 ・・・ それは そうだけど ・・ 」

困った顔で 言いながら

ミサトは 電話を取り出した。

 

「 ミサトさん・・ 」

 

「 いちおう・・・ 洞木さんのところへ 電話してみるわ・・ 」  

 

 

プルルル・・・プルルル・・・

 

「 あ、 もしもし? 葛城と申しますが・・

  え・・・ はい・・ ええ・・

  いつもどうも・・

  あのぉ・・ うちのアスカがですね・・ 」

 

リビングのドアの所で 電話しているミサトの声を聞きながら

シンジは アスカの部屋の前に立った。

いつもなら 異性の部屋へ無断で入るなんてことはしないだろう。

しかし すこし 彼女へ 仕返ししたいという

気持ちがあったのかもしれない。

 

「 まだ 帰ってるわけないよな・・ 」

 

シンジは アスカの部屋の中を こっそりと覗いた。

 

カーテンの閉じられた 部屋の中は薄暗くて

でも なんだか 少し 暖かかった。

 

ちょっと 中に入ってみると

なんともいえない 甘い匂いがする。

 

「 アスカの匂いだ・・ 」

 

( アスカの部屋なんだからあたりまえか・・・ )

シンジは なんとなく ドキドキしながら

部屋の中を見まわした。

 

シーツの敷いてあるベッドの上には 起きた時のままのシワ・・

ダンゴ状になった パジャマも ほっぽり出してある。

 

「 ・・・・ 」

小さなぬいぐるみが 何個か置いてある机の上を見て

シンジの動きが止まった。

 

テーブルの上には 小さな卓上カレンダーが置いてある。

 

白い 12月の カレンダーには

雪が降る 何処か 異国のお城の写真が写っている。

 

そして その写真の 右側・・

日付の所・・

12月 4日のところに 大きな 赤い丸印・・

そして ミミズののたくったような 字で

なにか 書いてある・・

 

「 ・・・・ 」

シンジは かがみこんで そのカレンダーを 覗きこんだ。

 

そこには まだうまく書けないのだろう・・

それでも 日本語で アスカが書いた

 

『 シンジと 映画館へ行く 』

 

の文字が 大きく書かれていた。 

 

 

「 ・・・ アスカ ・・・ 」

 

彼女が 慣れない漢字を使って

一生懸命 ペンをもって 書きこんでいる姿が

 

 

シンジの脳裏に 浮かんだ。

 

 

 

 

 

バタン!!

バタバタバタ・・・!!

 

「 シンジ君!!

  洞木さん、 アスカは家になんかに 来て無いって!!

  そんな予定ないって!・・・

  あの子・・いったい 何処へ・・・

   ・・・ って シンちゃん! ちょっと! 何処行くの!? 」

 

「 アスカを探してきます!! 」

 

電話を持ったまま 玄関に 駆けつけた ミサトの言葉に答えながら

壁にかけてあった自分のダウンコートをつかむと

シンジは靴をはくのも ほどほどに、玄関を飛び出した。

 

見ようといっていた 映画は 午後4時・・

腕時計を見ると、 もう 9時を過ぎている。

アスカがもし、 映画館にいたとしたのなら・・

もう 5時間以上経過していることになる。

 

マンションを飛び出したシンジは 駅の向う側の

映画館へと 走り出した。

 

 

「 青春だわ・・・ 」

 

玄関に残されたミサトが 感動したように呟くと

 

「 う〜 ・・ 」

 

なにごとかと やってきていたレイが

不機嫌に うなった。

 

 

あれだけ 怒っていたアスカが いるはずない。

10分だって 人を待たない アスカが 待っているはずない。

 

そう思うのに、 シンジの走るスピードは 早くなってゆく。

 

途中で 何人かの人に ぶつかって、

あやまりながらも シンジは 駅の構内を突っ切って

ショッピングセンターへ 辿りついた。

 

いろいろな お店の集合体である このセンターの終わる時間は

9時・・・ 明かりの消えた 巨大な建物が

ひっそりと シンジの前に 立っていた。

「 ・・ はぁ・・・ はぁ・・・ 」

すでに シャッターのおりた デパートの前を走りぬけ

広場のような所を渡り、 明かり消えた噴水を通り過ぎると

 

彼の目の前に 大きな 映画館が 現われた。

 

ショッピングセンターの施設のひとつである

この映画館は 普通とは違い、 もうすでに閉まっていた。

あたりには 人影が無い。

 

映画館の前に立っている

クリーム色のセーターを着た 少女以外には・・

 

「 ・・ アスカ ・・ 」

 

呆然と つぶやく シンジの声に

 

その少女の影が もぞもぞと動いて

彼の前に 歩いてきた。

 

「 ・・・ 」

アスカの服装は 厚手のセーターだった。

お昼頃は それほど寒くなかったから

あたりまえだ・・

 

しかし この時間になると猛烈な 寒さだ。

 

彼女は 鼻と 頬を 真っ赤にして

自分の両腕を 自分で抱きかかえながら

白い息を吐いて 立ち尽くしている。

 

「 ・・・ 」

引っ叩かれるのは 当然だ。

怒鳴られるに 決まっている。

一生 口をきかないなんて いいかねない。

 

なのに アスカは 黙って シンジの顔を見ながら

立ち尽くしているだけだ。

 

その瞳には 怒りや 悲しみは無い。

 

安心というか・・

自分の予測が 当たったような・・

 

そんな なんとも言えない 表情だった。

 

まさか 本当に アスカがいるとは 思わなかった・・

 

・・ いや ・・

 

それは うそかもしれない。

 

アスカに対する 申し訳無い気持ちと

後悔の気持ちで

シンジの胸は いっぱいになった。

 

寒そうに、 ただ 黙って立っているアスカの姿が

100回 平手打ちをされるよりも

 

もっと 痛かった。

 

アスカの姿を見て・・ 

あのカレンダーの文字を見て・・ 

 

シンジは初めて悟った。

 

素っ気無く、受けごたえしていたが

アスカがどれだけ楽しみにしていたのかを・・

 

そして、くだらない事で どうしてアスカが 怒ったのかも・・

 

 

( ・・僕も・・ 

   アスカと同じくらい楽しみだったから・・ 

   あれだけ意地を張ってたのかもしれない・・ ) 

 

 

・・・

その時・・

 

シンジと アスカの間に

白いものが ふわふわと 落ちてきた。

 

無数に・・ 次から 次へと・・

 

 

まるで ドラマのようなタイミングだ。

 

 

「 ・・・

  雪?・・・ 」

 

シンジは 空を見上げて・・

 

アスカも 同じように暗い空を見上げた。

 

「 ・・・・ 」

 

「 ・・・ 」

 

しばし 音も無く 空から落ちてくる 白い雪を

黙って見ていた二人。

 

シンジは ふいに アスカのほうを向くと

すこし 悲しそうに 微笑んだ。

 

「 映画・・・ 終わっちゃったね・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

アスカは 何も言わずに

そんな彼の目を じっと見ている。

 

「 ごめんね・・・

  アスカ ・・・ 」

 

シンジは自分のコートを脱いだ。

 

そして それを 立ち尽くしている アスカの肩に

そっと かけてあげた。

 

「 ・・・・ 」

 

「 ・・・・・・・ 」

 

「 ・・・ 映画の後は ・・

  どんな予定だったの?・・・ 」

 

「 ・・・ え ・・ 」

 

「 ・・・ どんなデートに ・・

  連れて行ってくれるはずだったの?・・・ 」

 

アスカが 聞く・・

彼女が どんな気持ちなのか

まったくわからない・・ 不思議な声だ。

 

「 あ・・・・

  えっと・・・

  あのレストランで 晩御飯を食べて・・ 」

 

「 ・・ もう 閉まってるわ ・・ 」

 

「 ・・・ う ・・ うん ・・・ 」

 

「 それで? 」

 

「 ・・・ そ・・・ それで ・・

  ・・ デパートで 少し 買い物でもして・・ 」

 

「 それも もう 閉まってるわ 」

 

「 ・・・

  ・・ う ・・・ ん ・・ 」

 

「 ・・・ それで おしまい? ・・ 」

 

「 あ・・・ 

  いや・・・

  ・・・ 後は・・ 公園の方を回って 少し散歩でもして・・

  その・・・

  帰ろうかと・・・ 」

 

「 ・・・ 決まりね ・・ 」

 

「 え? 」

 

「 公園なら・・

  まだ あいてるわ ・・ 」

 

「 ・・・・ う ・・・ うん ・・・ 」

 

「 ・・・ 」

 

「 ・・・・・・ 」

 

「 どうしたのよ? ・・ 」

 

「 ・・・ え? ・・・ 」

 

「 デートでしょ?

  男がエスコートしないで どーすんのよ・・ 」

 

「 あ・・ うん ・・ 

  じ・・ じゃあ ・・ 行こうか? ・・」

 

 

「 うん 」

 

 

 

あたりは 降り続く雪で

だんだんと あらゆるものが

白い色に 染められ始めた。

 

夜の暗い空から落ちてくる

白い 羽のような雪

 

公園までの 道・・

 

アスカは シンジと腕を組んで

何も言わずに 歩いてきた。

 

怒っているのか・・

どう思っているのか わからないシンジは

どうしようもなく

そんな彼女を 見つめていた。

 

 

街灯の 小さな光だけに照らされた

夜の公園は とても美しかった。

 

公園の中に入った二人は

ちょぅど 公園のまんなか のところ・・

 

たった ひとつだけ 立っている 街灯の下で

アスカが 足を止めた。

 

街灯に照らされた 足元は明るく・・

その外側は 少し積もり始めた雪で

白く・・ でも 暗く・・

とても 不思議な景色だった。

 

シンジは 街灯に 背中をつけて 立ち・・

アスカは その向かい側で じっと うつむいた。

 

降りつづける 雪の量はとても増えて

白い影が 無数に落ちてくる。

 

それなのに 何の音もしない・・

静かよりも もっと 静かだった。

 

「 ドイツにいた頃にね ・・ 」

 

ふいに アスカが 喋りはじめた。

 

「 加持さんに 言われたの・・ 」

 

シンジに着せてもらったコートの前を

手であわせながら アスカは続ける。

 

「 ・・ セカンドチルドレンではなく ・・

  ・・ あたしの 顔や スタイルではなく・・

  ・・・・

  そんなもの 関係無く・・

  ・・・

  あたし自身を・・ ちゃんと受けとめてくれる人が

  きっと 現われるって・・・ そう 言われたの・・ 」

 

シンジは無言で

うつむいた アスカのあたまを見つめる。

 

「 信じられなかった・・・

  そんな人・・・ いるなんて 思わなかったわ・・

  何もかも 無くしてしまったら・・

  きっと あたしの事なんて 誰も見てくれないって・・

  誰も好きになってくれないって・・

  そう 思ってた。 」

 

そう言うと、

彼女は ゆっくりと 顔を上げた。

 

 

「 あんたに 逢うまでは・・ 」

 

 

「 ・・ アスカ ・・ 」

 

シンジの言葉をうけて

アスカは さらに続ける。

 

「 あたしね・・・

  カケをしてたの・・

  ・・・ 来てくれるわけないと思ってたけど・・

  12時まで・・

  あたしの 誕生日が 終わるまで・・

  待ってみようって・・

  カケをしてたの・・ 」

 

「 ・・・ 」

 

「 最悪だった・・・

  寒くて・・ 暇で・・ つまらなくて・・

  ・・・

  ナンパしてくる男が 沢山いて・・

  追い払うにも 疲れて・・

  待ち合わせ すっぽかされた女の子って目で見られて・・

  ・・・ さみしくて ・・・ くやしくて ・・・ 」

 

「 ・・・

  ごめん ・・・ アスカ ・・ 」

 

「 肩を叩かれるたびに

  シンジかと思って振り向いて・・

  映画館も閉まって・・・

  暗くなって・・

  誰もいなくなって・・ 」

 

「 アスカ・・ 」

 

「 せっかく 楽しみにしてたのに・・

  デートなんて 初めてだったのに・・

  ・・ 映画も終わっちゃったし・・

  もう・・ 誕生日も 終わっちゃうし・・

  誰もいないし・・

  一人で・・ また ・・・ また一人で・・

  ・・・・・ せっかく・・

  せっかく・・ 」

 

アスカが みるみるうちに

泣きそうな顔になる。

 

「 怒りたくて・・ シンジを怒りたくて・・

  でも・・

  でも 悪いのは あたしだし・・

  でも 来て欲しくて・・

  ほんとは 早く来て欲しくて・・

  どんどん 時間が過ぎて・・

  時計見るのが怖くて・・

  何度も・・

  何度も シンジのこと 心の中で呼んで・・

  ・・・ 悲しくなって・・

  それで ・・ 」

 

「 ・・・・ 」

耐え切れなくなったように

シンジが アスカに近づき、

そっと 彼女を抱きしめようとする・・

しかし

 

「 駄目!

  駄目よ!!

  ・・・ い ・・ 今 抱きしめられたら

  絶対 泣いちゃう・・

  泣いたら駄目・・

  ・・・

  誕生日だもん・・・

  ・・ 悲しい誕生日は 嫌だって 決めたんだもん・・

  ・・・

  カケをしてたのは あたしなんだから・・ 」

 

アスカは そっと シンジの胸を両手で押すと

彼を 街灯に もたれさせた。

 

「 ・・・・ 」

 

その時 アスカの手にふれた シンジのセーターは

溶けた雪が 染み込んで すこし 濡れていた。

 

「 ・・ シンジ ・・・ 寒い?

  ・・ ごめんね ・・ 」

   

アスカは シンジのコートを 脱いだ。

そして それを持って 彼に近づき

シンジを見上げた。

 

「 いいよ・・ 僕は・・・・

  アスカが着ていなよ・・ 」

 

鼻と ほっぺたを 少し赤くしたシンジが

白い息をはきながら アスカに言う。

 

しかし アスカはかまわず 無言で

シンジの肩に 手を回して コートを掛けた。

 

「 アスカ・・ 」

 

「 あたまを使えばいいのよ・・ 」

 

なにか 言いかけたシンジをさえぎり、

アスカはくるりと シンジに背を向けると

その背中を そっと 彼の胸の中へと 押しつけた。

そして 両手で コートの前を 引き寄せて

自分も シンジと一緒に その中にくるまった。

 

「 ね?

  こうすれば 二人ともあったかいでしょ? 」

 

もぞもぞと シンジの胸の中で アスカが言った。

 

「 う・・・

  うん・・・ 」

 

体に触れる アスカの柔らかい感触に

シンジは真っ赤になって 立ち尽くした。

 

「 ・・・・

  ・・・・ あったかい ・・・ 」

 

ささやくような アスカの声・・

 

「 カケは あたしの勝ち・・ 」

 

「 え ・・ 」

 

「 ・・ シンジが来てくれたら・・

  シンジが そうなんだって・・

  ・・・ あたしを 受けとめてくれる人なんだって・・ 」

 

言いながら 動いた時、 少しだけ シンジの頬に触れた

アスカの耳は とても冷たかった。

 

「 ・・・・ 」

シンジは 無言で、 

ゴソゴソと コートの中の 手を 動かしはじめた。

 

「 きゃっ・・

  ち・・ちょっ・・・ バカ・・ 何処さわってんのよ・・ 」

 

コートの中に いっしょくたになっているアスカが

抗議の声をあげるが、

シンジはそのまま 手を持ち上げて 彼女を後ろからそっと

抱きしめると その体を もっと 自分に密着させた。

 

「 ・・ シ・・ シンジ・・ 」

 

しかし 彼の腕は それだけで 止まらず、

もっと 上の方へと移動すると

コートから 出ている アスカの顔のあたりに

辿りついた。

 

「 ・・・・・ 」

 

暖かくて 大きなシンジの手が

そっと アスカの頬を 包み込んだ。

 

「 んあ・・・ 」

 

手のあったかさが アスカの顔を包み込む。

冷たさで 赤くなっていた 耳も 鼻も ほっぺたも

今度は別の 意味で 真っ赤に燃え上がった。

 

つつむだけでは 飽き足らず、

耳をさわったり 鼻をそっとなでたり・・

まるで アスカの顔のカタチをなぞるように

シンジは 彼女を温めた。

 

「 こ・・ こら ・・・ シンジ・・・

  ・・・ あ・・・

  あたしの顔で 遊ぶんじゃ・・ ん・・ ・・ 」

 

されるが ままのアスカが シンジの手の中で

もごもごと言っているが、

頭の中も 熱く 火照ってしまって

もう 次の言葉が見つからない。

 

「 ・・・ 」

 

アスカは観念したように・・

黙って

ずっと シンジのやさしい抱擁に

身を任せた。

 

 

「 小さい頃・・

  冬に 雪が降ってくるとさ・・・ 」

 

シンジの声。

 

「 慌てて ガラス窓に走って・・

  外を見るんだよ・・・

  降ってきた!・・・ ってさ 」

 

シンジの言葉とともに アスカの後ろあたまに

熱い 吐息が感じられる。

 

二人の距離が近過ぎて

アスカは鼓動を押さえるのに 必死だ。

 

「 ・・・

  小さな 雪のつぶが ふわふわ落ちてきてさ・・

  とても 少なくて・・ 小さくて・・・

  窓から見ていても・・ とても積もるなんて 考えられないんだ・・ 」

 

「 ・・・ うん ・・・ 」

 

公園のライトの下に立つ二人の周りに

白い雪が 薄く積もり始めている。

 

明かりに照らされて キラキラと反射する雪が

まるで 白い花のように とても綺麗だ。

 

「 でも・・ 

  朝になって 起きて見ると 一面真っ白でさ・・

  ・・ 思うんだ・・

  すごいなぁ・・・って・・

  どうして あんなに 小さいものが・・

  こんなになるんだろうって・・・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 だから 思うんだ・・ いつも ・・

  雪が降り始めるとさ、

  絶対に寝ないで 起きていようって・・

  積もるところを ちゃんと見るんだ・・ってさ 」

 

「 ・・ うん ・・ 」

 

シンジは アスカを抱く力を

少し強くする。

 

「 でも 駄目なんだ・・

  起きていられなくて・・ 眠くなって・・

  ・・・・・

  それで・・・気がつくと・・

  いつも朝になってるんだ・・ 」

 

シンジの言葉に アスカがくすくすと笑う。

 

「 ・・・・

  シンジらしい・・

  こらえ性が無くて・・ 」

 

「 そ・・・

  そんなぁ・・・ 」

 

「 ふふ・・・

  でもさ・・ 」

 

アスカは 言いながら もじもじと動いて

コートの中で 体を反転させ

正面から すぐそばのシンジの顔を 見つめた。

 

「 今日なら・・

  それが 実現できるかもしれないわよ?・・」

 

「 ・・・ え? ・・・ 」

 

吐息が触れ合うくらいの距離に

シンジの鼓動が 早くなる。

 

そんな シンジの顔を見つめながら

アスカは うっとりと 口を開いた。

 

「 このまま・・

  ここで ずっと・・

  こうしていれば

  雪が積もるまで・・ きっと見ていられるわ・・ 」

 

二人とも もう耳の先まで 赤い。

 

シンジは あまりに近くにいる少女を意識して・・

視線を泳がせる。

 

「 ・・ か ・・ 風邪ひいちゃうよ ・・・ 」

 

しかし、 そんな彼の態度に容赦せず、

アスカは自分のおでこを シンジのおでこに

コツンとあてた。

 

「 ・・・大丈夫よ・・・

  あたし 今・・

  ・・・

  あたまおかしくなるくらい・・・

  熱いもん・・ 」

 

「 ・・・

  アスカ・・・ 」

 

「 シンジだって・・ そうでしょ?・・・ 」

 

 

「 ・・・ うん ・・・ 」

 

 

シンジの小さな答えの後、

 

二人は 自然に キスをした。

 


 

 

「「 ただいま〜 」」

 

自動ドアの玄関が開くと

 

アスカとシンジは ギョッとしたように

目を大きく開いた。

 

「 ・・・ あ・・・

  綾波・・・ 」

 

まるで 旦那様を迎える 奥さんのように

玄関に レイが 正座していたからだ。

 

「 ・・・ あんた・・・

  なにしてんのよ・・・ 」

 

飽きれたような アスカの声に返事をせず、

レイは 靴を脱ぎかけていた シンジの腕をとり

そのまま ぐいぐいと 家の中へと引っ張り込んだ。

 

「 綾波・・ちょっと・・ 」

シンジの言葉も気にせず

レイは そのまま シンジを持って

ドタドタと 自分の部屋に 引っ張っていってしまった。

 

「 こら!!レイ!!

  なにすんのよ!返しなさいよ!」

 

慌てて 靴を脱いで アスカが二人を追いかけて

レイの部屋の中を覗きこむと

まるで

 

『 わたさない 』

 

と言うかのように

きっちりと シンジを抱きかかえて

アスカを見上げるレイの姿があった。

 

「 あんた・・・ 」

「 おっかえりぃ〜〜 」

アスカが 何か言いかけた その時、

リビングの方から 赤い顔で ふらふらと ミサトがやってきた。

「 ミサト・・ 」

「 遅かったじゃな〜い?

  お? レイってば〜 さっそく独占欲

  丸だしなんだから〜 もぉ〜・・ 」

 

「 ミサト・・ あんた・・ 相当飲んでるわね・・ 」

 

「 へへ・・ アスカぁ〜・・・

  ん〜〜??

  ほほぉ・・・

  その顔は・・ なにかあったわね〜? 」

 

「 べ・・・別に・・・

  な・・ 何かって・・・何よ・・・ 」

 

「 んん〜〜〜?

  映画館から まっすぐ帰ってきたわりには

  ずいぶんと遅かったじゃなーい?

  もう 11時よ? 」

 

「 な・・・ た・・・ ただ

  ちょっと 散歩してきただけよ 」

 

「 散歩ねぇ〜え・・

  外は死ぬほど寒いってのに

  ずいぶんあったかそうな顔してるじゃない? 」

 

「 そ・・ そう? そんなことは・・ 」

 

「 それになんだか 妙にニコニコしてるしさ?

  ねぇ・・ なにがあったのよぉ〜・・

  ・・・ ?

  駄目? 教えてくんないのぉ〜?

  ・・ んじゃあ

  ねぇ〜・・ シンちゃん・・ お! お!

  シンちゃんも顔 赤いじゃないのさ〜 ねぇ〜 」

 

「 そ・・ そんなこと ありませんよ ・・ 」

 

「 なになに!?

  どんなイイコトしてきたの?

  ちゅー でもしてきた??コノコノ!!」

 

「 ・・・ 」

 

「 ・・・・ 」

 

「 お! 二人とも 黙った!! こりゃー図星か!

  へへ〜 そーなんだ! ちゅーしたんだ! 」

 

「 う、うっさいわね! 酔っ払いは寝なさいよ! 」

 

「 あーん! あやしい〜!

  ぜったい なんかしてきたわね!わかるんだから! 」

 

 

ミサトの言葉に心配になったのか、

それとも 仲良く帰ってきた二人に

くやしくなったのか・・・

 

レイは 突然

抱きかかえている シンジの唇に

自分の唇を そっと重ねた。

 

「「 あ! 」」

 

ミサトとアスカが 同時に驚きの声をあげる。

 

「 ん〜・・ 」

シンジは いきなりのことで 混乱しているのか・・

 

レイの抱擁の中から ひょこっと 外に出ている手が

ピクピクと 震えている。

 

いきなりのことで

ミサトとアスカは 何も言えない。

 

「 ん・・ は・・・・ 」

 

みんなの前で ゆっくりと 顔を離すと、

レイは うっとりと シンジの目を見詰めて

ほほを染めた。

 

「 あ・・ 綾波・・・ 」

なんと言って良いかわからないシンジは

呆然と 彼女の顔を見上げていたが・・

 

「 あ・・ 」

アスカの目の前だと言う事を思い出して

青い顔で レイの腕に抱きしめられたまま

恐る恐るアスカの顔を見上げる・・・と

 

彼女は 青筋を浮かべてはいるものの

なんとか 平静を保って 冷ややかにレイを見下ろしている。

 

「 ・・・・・ 」

いつもなら すぐに怒鳴るのに・・

 

レイにもなにか おかしいということがわかったようだ。

ちょっと不思議そうな・・

心配そうな顔で レイはアスカを見た。

 

「 ふ・・ ふん!・・

  キスのひとつくらい くやしくなんて無いわよ!あたしは!」

 

アスカは そう良いながら 腰に 両手を当てた。

 

「 ほぉ〜 ・・ 」

ミサトが興味深げな 声を出す。

 

すると アスカは急に 顔を真っ赤にして

もじもじと 落ち着かなくなり・・

 

「 ・・・・・

  ・・・・ でへへ ・・・・

   ・・・ だ・・・・

   ・・ だってさぁ・・・ 」

 

言いながら アスカは 自分の指をつつき合わせながら

ちらりと レイの両腕を 首にからませている シンジを見た。

 

「 もう とっくに ・・

  ・・・シンジと・・・

   いっぱいしてきたんだもんね! 」

 

「 やっぱり!!

  やるぅ〜 シンちゃん!」

「 あ・・ アスカ! 」

 

シンジが レイに抱っこされたまま 

慌てて 叫ぶが、

 

「 なによぉ〜 いいじゃない! もう 別に隠す事ないわよ!

  この際 レイにも びしっと 教えとかないとね! 」

 

アスカは 自慢気に ゆずらない。

 

「 ・・・・

  い・・・ いかり ・・・くん・・・ 

  ・・・ すん ・・・ 」

 

「 あ・・ 綾波! そ・・ そんな顔しないで!

  あれは・・ その・・・ 」

 

今にも 泣き出しそうな顔で ぎゅっと自分を抱きしめるレイに

慌ててシンジは言い訳を探す。

 

「 アスカ・・ 愛してるよ・・ って 言いながら〜

  はぁ〜・・

  超熱烈なキスだった〜・・ 」

 

両手を 胸の前で合わせて アスカが追い討ちをかける。

 

「 アスカ!! そんなこと 言ってな ん!!むー!」

 

否定しかけたシンジだったが

真っ赤な顔のレイがいきなり またキスしてきたため

最後まで言う事はできなかった。

 

「 ん〜! 」

 

「 ああああ!! 

  なにしてんのよ!! コラ!! 」

 

レイの とんでもない反撃に

アスカは慌てて 二人にとびかかる。

 

「 なーに?

 キスのひとつくらい どーってことないんじゃなかったの? 」

 

ドアの所で 楽しそうに見ていたミサトが アスカに聞くが、

 

「 ひとつよ!ひとつ!!

  誰も2回していいなんて言ってないわよ!! 」

 

レイの頭を かかえて 無理やり 引き剥がしながら

アスカは叫んだ。

「 いや! もっと・・ 」

「 ア・・・アスカ・・ 」

「 ざけんじゃないわよ!

  これはあたしんだからね!」

「 違う・・ いかりくんは 私のもの 」

「 あたしの! 」

「 私の! 」

「 あの・・

  ふ・・ 二人とも・・・ 」

 

「「 うるさい!!」」

 

ハモリで怒られたシンジは

助けてもらおうと、 今にも泣きそうな顔で 入り口に突っ立っているミサトを見上げた。

そんな 彼の視線に やれやれといった感じで

ミサトが 口を開く。

 

「 コラコラ〜・・ 二人ともぉ〜?・・・

  ・・・・・・

  そうねぇ・・・ んじゃ

  ・・・こうしたらどう?

  毎年、誕生日には シンちゃんを自分のものにできるってのは?」

 

「 え? 」

 

「 ? 」

 

「 ミサトさん!! 」

とんでもない 提案をいきなり出した 女性に

シンジが慌てて叫ぶ。

 

「 だから〜・・ レイの誕生日には レイがシンちゃんを好きにしていーわけよ

  あ〜んなことや こ〜んなことしても 全然 おっけーってな感じでね・・

  そのかわり、アスカの誕生日には アスカがその権利を手に入れる・・・と・・」

 

「 わかりました・・

  葛城三佐・・ 」

 

どんな想像をしているのか知らないが、

レイが 真っ赤な顔が 神妙にうなずく。

その目は 真剣だ。

 

「 ふ・・ ふざけないでよ!

  あたしの誕生日、もうちょっとしか残ってないじゃない!」

 

「 そーよー?

  ホラホラ〜 あと 1時間くらいしか ないわよぉ〜 」

ドアのところのミサトが ほれほれ と、部屋の中の時計を 指差して

ニヤリと笑う。

 

「 シ・・ シンジ!! 」

 

慌てて アスカは 彼の腕を掴むと 引きずって部屋を出ようとする。

 

「 ちっ・・ちょっと! アスカ! 」

 

「 こうしちゃいられないわ!

  早く!! デートのやりなおしよ!」

 

「 え?! 今から!? 」

 

「 あったりまえでしょ!! こら!

  レイ!くっついてくんじゃないわよ!」

どたばたと、レイを引き剥がして アスカはシンジを持って

玄関の方へと 走っていった。

 

「 あ・・・ 

  そうなると、 わたしの誕生日には

  わたしがシンちゃんを好きにしていいってことになるわね・・

  ふふふ・・・ 」

 

そんな二人を見送りながら 意味ありげに笑うミサトは

当然、 むくれたレイに 思いっきり睨まれた。

 

 

玄関が 騒がしい・・

 

「 映画よ!映画!! 」

 

「 もう とっくに閉まってるよ・・ 」

 

「 ・・・ じゃあ・・ 公園! また公園よ! 」

 

「 やめてよ・・ 凍えちゃうから・・ 」

 

「 なによ!あたしとデートすんのが

  嫌だってーの!?」

 

「 そういうわけじゃないけど・・・ 」

 

困り顔で 自分の腕をつかんでいるアスカを見ていたシンジだが・・

何かに気がついたように

ふいに 彼女の顔を見ながら くすくすと 笑い出した。

 

「 なによ・・ 急に笑ったりして・・ 」

 

「 ん?

  ・・・ いやね ・・

  そういうことなら、僕の誕生日には どうしようかな? って 思ってさ 」

 

シンジは楽しそうに

ニッコリと笑った。

 

「 え? 」

 

少し 驚いたアスカを 家の中にひっぱって

連れ戻すと シンジは 少し顔を赤らめて

彼女の 耳もとで そっと つぶやいた。

 

 

 

「 デートのやりなおしは その時にしようよ・・

   ね  ・・  アスカ  」

 

 

 

 

 


 

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