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2006/08/21

 5、6、7月とめちゃくちゃ忙しかったですが、最近ようやく仕事のペースも落ち着いてきました。有明ロックフェスティバル(仮称)も行けたしね。

 でもとりあえず映画について書くです。ロシア映画ふたつ。有明の戦利品は後日書くかも。

太陽/アレクサンドル・ソクーロフ監督作品」(amazon)
太陽 今日観てきたです。いやいや、面白い映画じゃないですか。
 あらすじなり時代背景なりは公式ページで読めますんで、そちらで。この映画、なんといってもイッセー尾形、イッセー天皇。セット・美術も素晴らしいんだけど、でもこのヒトが出てくるともうそこにしか目がいかないってくらいの怪演。っていうか神演ですか。神々しいっていうんじゃないです、すごく人間くさい、現人神。ヘイケガニの標本を前にしてとうとうと喋り出すなんていうあたりなど、神経質な研究者っていうよりももうバイオオタクというか。
 それでいて、現人神、という立場にある存在、でもあるんですよね。少なくとも1945年8月時点で、世界で最も存在自体に意味性を求められていた人物だったってのは間違いない。しかもそのキャストに一人芝居の練達者をあてた。だからもうイッセー天皇のたたずまい、それだけで絵になるし現代史的な意味を持つってのが面白いのですよ。菊のタブーからは遠いロシア人ソクーロフ監督だからして撮る構図も大胆。昭和天皇の前で(藤田)侍従長が、GHQからのギフトだっていうハーシーズの板チョコをおそるおそるかじる、なんて場面は日本映画じゃまだまだ無理なんじゃないでしょか。
 全体見終わっての印象ですが、伝記というよりも詩的な映画だなって感じでありました。空襲シーンの悪夢的表現(これ公式ページの予告編FLASHでもちらっと見られるんでゼヒ)はむしろ直喩、とにかくイッセー天皇の仕草とか眼差しとかに含みがあって面白いのですよ。寓意的というよりも詩的に。
 逆に歴史映画、戦史映画として見ようとするとたぶんガッカリするのでご注意。御前会議とかマッカーサーとの会見とかは巷間知られてるエピソードそのままではなく、かなり整理、翻案されてます。史実的精確さを求めないほうがいいでしょう。(ついでにいえば、カニやナマズについて天皇が熱く語るけど、本人が研究分野としてたのは粘菌とかヒドラ。まあカニについて一般人よりオタク、もとい、詳しかったのは間違いないでしょうけど)
 あ、でも役者の容貌的精確さはなかなかかも。特に重臣の面々。平沼枢密院議長はそっくり。木戸内大臣もよく似てる。阿南陸相、米内海相も雰囲気でてます。惜しいのはマッカーサー元帥だなあ。いくら本人若作りだったにしても、20も年下の昭和天皇より若く見えちゃうのはちと残念。
ククーシュカ/アレクサンドル・ロゴシュキン監督作品」(amazon)
ククーシュカ こっちは5月連休のあたりに見たんだけど、感想書こうとおもってたらバタバタしだしてそのままになっちゃってました。そういうわけですんで、もうほとんど公開終わってます。すまぬ。とりあえず「太陽」と同じくロシア映画つながりということで書くですよ。
 ソ連・フィンランドの継続戦争末期、フィンランドでもさらに北、ラップランドが舞台。両国間で起きた二回の戦争(冬戦争、継続戦争)で主戦場となったのは南カレリアの国境近辺(レニングラードの北あたり)ですんで、マイナーな戦争のさらにマイナーな戦場ともいえますね。作中描かれてるのも、いかにも氷河の跡ってな岩だらけの山肌でして戦略的価値まるで無し。登場人物は三人、フィンランド兵のヴェイッコ、ソ連兵イワン、そして夫が戦争にとられたという現地のサーミ人のアンニ。言葉が全く通じない三人が極北の荒野で出会ったことで繰り広げられる一幕の物語。
 アンニはともかく他の二人がラップランドに放り出された理由は、ちと複雑。フィンランド兵ヴェイッコは懲罰として(理由は反戦的な行為があったからと本人が言いますが詳しくは描かれない)足枷で岩に繋がれたまま放置。しかもドイツ軍SSの軍服を着せられた状態で。これはつまり赤軍に見つかったら捕虜にされず即処刑ってことですね。でもってイワンの方はというと、詩作が反戦的だとかでNKVDに連行される途中に友軍機の誤爆で負傷、落伍したのをアンニに助けられて。つまり二人とも軍隊からはじき出されてしまってるわけです。
 でもって、三人が三人とも言葉が通じない。しかも男二人は軍服きたままだから、お互い敵だってことで最初はもちろん殺し合おうとする。なのにアンニはというと、戦争なんてどーでもいーじゃない、それよりケガの手当しなきゃ、あと治ったら家事手伝ってね、みたいな態度。っていうか内心は、ずっとひとりだったのにいきなり目の前にオトコが二人も、きゃー、みたいなカンジなんですな。んで、共同生活が始まるんですが、三角関係って以前の、言葉の通じない空回り三重奏状態が延々と続くのです。まあ日本語字幕で観てしまってるので、三人それぞれの言い分だけはわかるんですが。(でもロシア人とかフィンランド人が字幕なしで母国語の部分だけ聞き取れるって状態で観たら、がらっと違う映画になっちゃうような……)
 空回りディスコミュニケーションが喜劇的ではありますが、舞台であるラップランドの、美しさというのが魅力でもあります。石ころだらけの沢というのも迫力ありますし、鏡のような湖だとか春を迎えた白樺の林なんてのは、厳しくも美しい、いかにもフィンランドやなあと。ラストはベタなオチかもしれませんが、それなりにハッピーエンド。放り出された兵士が軍服脱ぐ、その契機は停戦。そう、戦争は終わるのです。フィンランドの条件付き講和という形で。ここらへんがガチで全面戦争やってしまった独ソ戦、日米戦との違いでしょう。

Copyright くわたろ 2006