《↑戻る》

2005/05/30

 仕事っちうのは油断するとすぐ忙しくなりやがりますのね。あっさり五月も終わり。今年こそ満喫するはずだったのに。五月病ってやつ。

「PLUTO 2/浦沢直樹×手塚治虫」(bk1)
PLUTO 2 これがアトムかーっ、と前巻ラストで衝撃の登場しでかしてくれた、見た目フツーの男の子ってなカンジのアトム。でもね、ちょっとだけなのに、この髪のハネはやっぱしアレだ、アレ。という具合でたしかに浦沢キャラなのに手塚キャラでもあるという絶妙な造型。お茶の水博士もタワシ警部もね。いやはや。
 オハナシの方はどんどんサスペンス色強くなっていくと同時に、ロボットとは、ロボットと人間の関係とは、なんていう手塚版アトムの中で繰り返し語られていたテーマがじわじわ浮かび上がってきている。「地上最大のロボット」一話だけのリメイクじゃなくアトム全体の総括をしようというんじゃないかってくらい。や、個人的にはやってほしいんですが。それが出来るくらいの風呂敷広げてると思うし。完璧なロボットでありかつ“殺人”を為したブラウ1589とか、それ以上の高性能な頭脳を持っても可動部分がないDr.ルーズベルト(インターフェイスがテディ・ベア、冗談きつい!)とか。ぞくぞくするですよ。読んでて。マジで。

2005/05/15

 映画館行く途中で数分ですが、すんごい雨に降られました。夕立って季節じゃないとおもうんですが。あう。

キングダム・オブ・ヘブン/リドリー・スコット監督作品」(amazon)
キングダム・オブ・ヘブン 十字軍のハナシらしーぞってこと以外の事前情報一切入れずに観に行きましたが、や、これがかなり面白い、つーか燃え。ハラショー、投石機!
 例によって以下ネタバレ全開で。
 えー、正確には十字軍じゃありません。描かれるのは、第一回十字軍によりキリスト教側に征服された地にできたエルサレム王国をめぐるキリスト教徒軍とイスラム軍との攻防。第三回十字軍の直前、エルサレム陥落までであります。2時間25分の長尺ですが、これでもかなり削ったそうです。主人公はフランス片田舎の鍛冶屋バリアン(オーランド・ブルーム)、実は父が騎士団員でその跡を継ぐようなカタチでエルサレムにやってきまして、現地で開墾作業やったりエルサレム王ボードワン四世の妹といい仲になったりとかいろいろあります。とはいえ正直、前半は物語としての風通しが悪いというか良すぎるというか。おそらく省略されたのがここら辺なんでしょうが、短いシーンがぱしぱし重ねられる連続でかなりつらい。なので、これだけチェックすればいいでしょう。イスラムとの危うい均衡の上に成り立ってるエルサレム王国にあって王や首脳は和平派だけど騎士団の一部が対イスラム強硬派、これ重要、試験に出ます(何の
 で、その和平派だった王が病死してその妹婿でもあるテンプル騎士団員ギー・ド・リュジニャン(マートン・ソーカス)が実権を掌握。この人がガチ強硬派でして、さんざん挑発行為を繰り返し、とうとうイスラムの王、サラディン(ハッサン・マスード)の姉を殺害するに至って両者の激突は不可避となり、戦史に名高いハッティンの戦いとなるわけです。「真の十字架」を押し立ててきらびやかな軍装で進軍する騎士団、騎兵と長槍で勢揃いのイスラム軍、さあいよいよ両軍激突……と、思ったら、ぬわんと、いきなり敗走するキリスト教徒軍のカットになって、つまりハッティンの戦いまるまる省略なのですよ。オーマイガッ(涜神的暴言)。なので映画のホントの山場はこの後、雲霞のごとく迫るイスラム軍に対して消耗しきった一部の騎士団と住民だけで行われた絶望的なエルサレム防衛戦、コレになります。で、これが燃える燃える。投石機から唸りを上げて放たれる大岩! 吶喊するイスラム兵により連打される破城槌! 空を埋め尽くさんばかりの矢! ついに崩れた城壁の上で崖っぷちの白兵戦! これぞリドリー・スコット、もー燃え燃えっすよ、奥さん!
 けっきょく善戦およばずエルサレムは開城しますが、主人公以下キリスト教徒側の戦意の高さにサラディンも折れて、騎士団や住民はエルサレム退去と引き替えに助命を保証されます。敗者は皆殺しかよくて奴隷(第一回十字軍では勝者キリスト教徒によりエルサレムのイスラム教徒はほとんど虐殺された)っていう時代、この寛大な措置を引き出した守備側の善戦は評価されていいでしょう。とくにその寡兵を考えれば。この映画が謳う点の一つはそこにあります。
 でもって、同じく謳われるのはカリスマを備えたリーダー、サラディン。史実においても有能な指揮官であると同時に無用の流血を好まなかった彼ですが、この映画でもアメリカ映画(20世紀FOX)なのによくここまでイスラム側を評価した描き方したなーと感心するくらい。それにまた演じてるハッサン・マスードが貫禄じゅうぶんでいいのよ。シリアじゃ有名な俳優なのだそうですが(だからサラディンじゃなくちゃんとサラーフッディーンって発音する)、後半はほとんど主人公食ってますね。ちなみに歴史オタ的にはハッティン戦で捕虜にしたエルサレム王ギーに対して「王は王を殺さぬ」ってな名言をしっかりしゃべってくれますのよ。うはー。
 というわけで燃え燃えなこの映画ですが、昨今の中東情勢からして政治色をもって語られるのも避けられないと思います。投石機からの大岩に逃げまどうエルサレム住民は、自爆テロにおびえるイスラエル人にも見えるし、息を潜めて暮らす西岸地区やガザ地区のパレスチナ人にも重なる。でも、あえていうなら、獅子王リチャードとかの活躍する第三回十字軍でなくイスラム側の勝利に帰したエルサレム攻防戦を扱い、敵にも敬意をもたれたイスラムの英雄サラディンに大きくスポットを当てたのがひとつのメッセージになっているのでしょう。開城後、エルサレムの尖塔には十字架でなくイスラムを象徴する三日月が掲げられるのですが、その前に、棄てられた王宮を歩くサラディンが十字架の置物が転がっているのを見て元の位置に戻すっていうシーンもあります。派手な戦闘にも燃えますが、こういう短いシーンからもいろいろと考えることの出来るいい映画だと思います。

2005/05/07

 先月末、社用で北海道に一泊二日しまして、花粉の無い空気ってのを吸ってきました。で、帰ってきてみるとこっちも花粉がおさまっている、ような気がする。善哉善哉。

「ラスト・オブ・カンプフグルッペ/高橋慶史」(bk1)
「続 ラスト・オブ・カンプフグルッペ/高橋慶史」(bk1)
ラスト・オブ・カンプフグルッペ続 ラスト・オブ・カンプフグルッペ 労作であります。すばらしい。
 第二次大戦の欧州戦線から巷間あまり知られてない部隊や戦闘を、編成や装備といった切り口で取り上げた本。や、こーゆーの好きですのよ。書名からもわかるようにドイツ側の部隊中心。とくに続刊ではほぼ末期東部戦線のドイツ軍だけなんですが、これが部隊編成って点からみるとたいそう面白い。いや、敗色濃厚のドイツ側からすりゃ笑い事じゃないんですが、外国人義勇兵部隊だとか海軍の陸戦部隊だとか軍学校の生徒を編成した部隊とかなんてのはかわいい方で、警察旅団だとか囚人編成した部隊もあればヒトラーユーゲントだとかRAD(帝国奉仕団)から編成された部隊もあったり。んで、その元囚人中心の師団(ディルレヴァンガーですな)を最後は保安警察出身の将官が指揮したりと、一つの帝国が滅亡の淵に追いつめられたときどんだけ混乱状況になってしまうのかがイヤってほどわかります。
 写真資料としても価値ある物がたくさん。ティーガーとかパンターだけでなく、正巻のルーマニア軍やブルガリア軍の装備も興味深いですし、続巻で出てくる小型潜行艇ゼーフントとかビーバーの写真もミリオタ的にうれしいかぎり。
 取り上げられているのは、配色濃くなった中での一部隊の苦闘や小さな勝利ってのがほとんどなのでどうしても暗いトーンになりがちですが、著者のユーモラスな語り口には救われます。たとえばベルリン地区国民突撃隊の写真、コートに山高帽といったごく普通の市民が機関銃やパンツァーファウスト肩に担いで整列してるってゆー異様な一枚なんですがそこにつけられたキャプションが「……一見するとシカゴギャングの出入りのような……」なるほど、いわれてみれば、もうそうとしか見えない(笑)。
 丹念に集めた資料をまとめた在野史家の労作、非ミリオタには敷居が高いかも知れませんが、そっち方面にちょっとでも関心のある方、オススメです。

Copyright くわたろ 2005