やさしい連結財務諸表

 

 リッカーという会社、おぼえてますか。ミシンのトップメーカーでしたが、昭和59年に倒産しています。同じ年に大沢商会も倒産しました。この二つの会社の倒産には実は共通することがありました。どちらも親会社だけの決算では黒字でしたが、子会社も含めた連結決算では赤字だったのです。リッカーは子会社に対する架空の売上などで決算書を粉飾していました。これより10年近く前の昭和50年には不二サッシの粉飾事件が起きていますが、ここでも子会社を利用した架空売上による粉飾が行われました。不二サッシは決算期末には子会社から小切手を振り出させて預金残高をふくらまし、決算日の翌日には返していました。

 こういう子会社を利用した粉飾を防ぐ意味ももちろんありますが、連結財務諸表の公表が強く求められるようになってきたのは、連結情報が海外の投資家から特に求められるようになってきたことと、企業経営をグループで判断しようという連結経営の考え方が強まってきたことに原因があります。

 では、この連結財務諸表というのはどういうものでしょうか。ちょっとここで料理になぞらえて、連結財務諸表の作り方を、手ほどきしてみましょう。連結財務諸表というコース料理は、「連結貸借対照表」「連結損益計算書」という2つのメインディッシュで出来ていますが、今日はそのうちの「連結貸借対照表」を取り上げてみます。

 ご用意頂く材料は親会社の貸借対照表と子会社の貸借対照表です。この二つをまず屋外に出して、大きな鍋に入れてよーくかき回します。二つが混ざるとそれぞれの会社の決算書から大事な記録を消してしまうことになりますので、屋外に出して(簿外で)行わなければなりません。この点が大事です。

 混ざったかどうかそれではちょっと味見してみましょう。現金のところを見てみましょうか。親会社の現金と子会社の現金がしっかり合わさっていますか。親会社の資本金と子会社の資本金はしっかり合わさっていますか。それで、よーく混ざっていたら、こんどは不純物を取り除きます。不純物は余計なものです。親会社が貸付金、子会社が借入金に計上しているものは、一緒にすると余計なものになりますので相殺して取り除きます。親会社が子会社株式、子会社が資本金にしているものも忘れないで取り出してください。そうそう、さっきの合わさっていた資本金、子会社の分は取り除きですよ。この不純物の取り出し方に、実はこの料理の真髄があります。ただ混ぜるだけではない、ただ合算するだけではないということですね。

 さあ、鍋から取り出してみてください。連結貸借対照表の出来あがりです。親会社のでもない。子会社のでもない。不純物を取り除いた後のまるで会社を一つにしたかのような財務諸表が、連結財務諸表なのです。