About WilliamGibson
別に解説する必要があるはずもないんですが、どうも世間では、Gibsonは"Neuromancer"だけの一発屋と見られているように感じます。確かに、その後の作品に"Neuromancer"を超えるクォリティのものは無かったし、新しい個性も無かったというのも事実でしょう。
でも、僕にとってはこれ以上ないほどの影響を受けた作家です。今でも年中読み返しては、感激しているような人間ですから。だから、もし彼の作品を読んだ事がない人がいるのなら、是非とも、一度でいいからあの物語に触れてみて欲しいと思います。
僕如きが紹介などと烏滸がましいにも程があるのですが、まあ、墓穴を掘らない程度に、ちょっとだけ。

まず、僕はすぐにアルファベットを使いたがる人間ですから、名前を見慣れない気がする人もいることでしょう。ウィリアム・ギブスンという人です。「ギブソン」と呼ばれることも稀にありますが(例の映画"JM"の予告ではでかでかと「ギブソン」と書かれていました。ま、あの映画ですから・・・)、大抵は「ギブスン」で通っています。
(以下、説明文という事で、丁寧語はやめます。面倒なもんで)
代表作は"Neuromancer"(以後、読みは後述)。他に長編が4篇。共作長編が1篇。最新作は"Idoru"。
"CyberSpace""Jacked-in"等の言葉を生み出し、独特の文体と共に"CyberPunk"と呼ばれるジャンルの魁となる。最近ではInternet関係の記事で"CyberSpace"の概念を生み出した人物として紹介されているが、その事実はともかく、Internetとの関わりはほとんど無いと言っていい。"Neuromancer"執筆当時、彼がコンピュータに触ったことすらなかったというのは有名な話。

作品紹介

"Neuromancer"
ニューロマンサー。1984年。邦訳・黒丸尚。
処女長編であり、Hugo、Nebula両賞を獲得してGibsonの名を世界に知らしめた傑作。"CyberSpace""Jacked-in"を初めとして、"Sprawl""ICE""ComputerCowboy""Simstim"等の独特の単語を駆使して描かれる近未来物語。"Sprawl"シリーズ長編3部作の第1作。
斧谷が最も愛する作品。「結局それかい」と言われそうだが、良いものは良い。残念なのは、13年前のこれを超える作品が未だ書かれていないこと。

"CountZero"
カウント・ゼロ。1986年。邦訳・黒丸尚。
"Sprawl"シリーズ長編第2作。"Neuromancer"の7年後を舞台として、異なる環境に生きる3人、裏世界のエージェントの男、元美術商の女、BeginnerCowboyの少年の物語が並行で描かれる。
この作品から、明らかに作風の変化が見て取れる。

"BurningChrome"
クローム襲撃。
全10作を収録した短編集(内3作は共作)。ここは斧谷お気に入りの作品をピックアップとします。
"JohnyMnemonic"
記憶屋ジョニー。1981年。邦訳・黒丸尚。
"Sprawl"シリーズ第1作。頭に埋め込んだチップに他人の情報を記憶する運び屋の少年の物語。"Neuromancer"のヒロイン・モリイの数年前の姿が描かれ、"Neuromancer"でもこの作品の主人公ジョニーの事が触れられている。"Sprawl"シリーズにはこういった「相互乗り入れ」が多く見られる。
因みに(本当に、「因みに」程度の意味しかないが)キアヌ・リーブスとビートたけしの共演で(少しだけ)話題になった映画"JM"の原作。Gibson本人が脚本を手掛けたという事になってはいるが、そのストーリー、世界観は彼の作風とは程遠く、事実のほどはかなり疑わしい。
"NewRoseHotel"
ニュー・ローズ・ホテル。1984年。邦訳・朝倉久志。
CyberSpaceこそ出てこないが、"Sprawl"シリーズの一つ。企業間のHeadHuntingを請け負う主人公達は"CountZero"のターナーに通ずるものがある。
"The WinterMarket"
冬のマーケット。1985年。邦訳・朝倉久志。
"Sprawl"特有の単語は出てこないため、シリーズの認識はされないが、明らかにその雰囲気を持った作品(それを言ったら全ての作品に当てはまる気もするが)。
麻痺した全身を補助具に支えられて生きる少女の内面には、人々を驚愕させ感動させるイメージが隠されていた。少女と出会った編集屋は、そのイメージを取り出しソフトウェアとして発表する。
実は"Neuromancer""BurningChrome"に次いで好きな作品。自分はどうやらこういう雰囲気が好みらしい。しかし、以降の作品はその方向性を変えてしまっていく。悲しい。
"DogFight"
ドッグ・ファイト。1985年。邦訳・酒井昭伸
マイクル・スワンウィック(スペルが解らない)との共作。そのためかかなり毛色の変わった作品。
"BurningChrome"
クローム襲撃。1982年。邦訳・朝倉久志。
"Neuromancer"の原型とも言える"Sprawl"シリーズ傑作中の傑作。

"MonaLisa Overdrive"
モナリザ・オーヴァドライブ。1988年。邦訳・黒丸尚。
"Sprawl"シリーズ最終作。4組の主人公達が入り乱れる、"CountZero"からさらに数年後の物語。モリイ3度登場、"CountZero"のアンジイも再登場。

"The Difference Engine"
ディファレンス・エンジン。1990年。邦訳・黒丸尚。
BruceSterlingとの共作。19世紀のロンドンを舞台として、蒸気機関コンピュータが実現していた世界を創作した"DifferenceHistory"。俗にいう"SteamPunk"物。
Sterlingの作品を読んだ事のない僕には、どちらがどういう役割で書いていたのかよくわからない。少なくとも、普段のGibson作品の雰囲気は薄い。
尚、邦訳は黒丸氏の遺稿となった。

"VirtualLight"
ヴァーチャルライト。1993年。邦訳・朝倉久志。
"Sprawl"以外では初の長編。大震災に見舞われた後のサンフランシスコを舞台に、視神経に直接イメージを送り込むサングラス"VirtualLight"を巡る争いを描く。ホームレス達に占拠され、巨大な廃棄物のオブジェと化したゴールデンゲートブリッジが主的イメージを形作っている。

"Idoru"
アイドル。刊行されて間もない最新作。邦訳版は97年前半の予定。
"VirtualLight"の続編であるとされており、また一方ではTechnoThrillerであるとも言われる未知の作品。先日、"Wired"誌に冒頭部分の訳が掲載されていたが、自分は読んでいない。中途半端は良くないと思ったのだが、今になって後悔している。


この他にも、"VirtualLight"の原型となった短編「スキナーの部屋」や、映画"Alien3"のシナリオ(もちろん、実際には採用されなかった)、詩"AGRIPPA,A Book of The Dead"等があります。でも、僕は読んでいません。翻訳ソフトを買わねば。
なお、ここに挙げた作品は、文庫本の刊行順に並んでおり、"MonaLisa Overdrive"までがハヤカワ文庫、それ以降が角川文庫からそれぞれ刊行されています。No.も載せようかと思いましたが面倒なので止めました。Gibsonを問い合わせて調べられない書店は止めた方がいいです(と、乱暴な意見を吐く)。

Gibsonを語る上で、決して忘れてはならないのが"Neuromancer"等を翻訳した故・黒丸尚氏の存在。僕などは原語版を読んでみても、どうしてあんな風に訳できるのか解りません。まさに妙訳。
しかし残念なことに、94年、41歳の若さで急逝されてしまいました。ご冥福をお祈りします。
尚、朝倉久志氏を初めとする他の翻訳家諸氏も立派な仕事をしておられることは言うまでもありません。

to Toppage