ドイツ海軍 補助空母“ヤーデ”級改造案
〜空母神鷹の兄弟達〜




  ドイツ海軍が計画した補助空母建造案の内、その他商船改造空母に当たるのが、補助空母ヤーデ級です。
  ヤーデ級は、補助空母ヤーデ(客船グナイゼナウ改装)と補助空母エルベ(客船ポツダム改装)から成っていました。

  貨客船シャルンホルスト、グナイゼナウ、ポツダムは北ドイツ・ロイド社の所有する準同形の貨客船で、、1935〜1936年に竣工し、極東航路に就役した新鋭船でした。
  客船グナイゼナウはデシマーク造船所(ヴェーゼル)で1934年起工、1935年5月17日進水 1936年1月3日に竣工しました。
 推進機関は姉妹船でそれぞれ異なり、グナイゼナウは缶にヴァーグナー缶2基 (蒸気性状48.54atu(50kg/cu) 470℃)、機関にヴァーグナー式オールギヤードタービン2基を搭載し、出力26,000hpで速力20ノットを発揮しました。艦首形状はマイヤー艦首でした。

貨客船グナイゼナウ
貨客船グナイゼナウ
「Die deutschen Kriegsschiffe 1915-1945 Band5」 出版社Bernard&Graefe Verlagより引用


 客船ポツダムは、ブローム・ウント・フォス社(ハンブルク)で1934起工、1935年1月16日進水 1935年6月27日に竣工しました。
 推進機関には缶にベンソン缶2基(蒸気性状87.37atu(90kg/cu)470℃)、機関にジーメンス・シュッケルトタービン2基、ドレーストローム発電機2基のターボ電気推進方式(10,000VA/6,000V)を取っており、出力26,000hpで速力21ノットを発揮しました。

貨客船ポツダム
貨客船ポツダム
「Die deutschen Kriegsschiffe 1915-1945 Band5」 出版社Bernard&Graefe Verlagより引用


  第2時世界大戦勃発後、グナイゼナウ、ポツダムは1940年6月より輸送船として海軍に徴用されました。そして、1942年5月に補助空母“ヤーデ”、“エルベ”(仮称。正式名称不明。)として改装が決定されました。
  改装工事の担当は、ヤーデがヴィルヘルムスハーフェン海軍工廠、エルベがホヴァルツヴェルケ造船所(ハンブルク)でした。

  下の図は、1942年6月時点の空母改装案です。右舷に張り出して艦橋構造物とマスト、直立煙突を設け、高角砲と高射装置を設置した、島型空母として設計されました。また、格納庫、飛行甲板が左舷寄りに設置されています。バルジは、水線部分のみに設置されています。

ドイツ海軍 補助空母エルベ設計U 1942年6月
ドイツ海軍 補助空母エルベ設計U 1942年6月
「GERMAN WARSHIPS 1815-1945 Volume One:Major Surface Vessels」 出版社 CONWAYより引用。


  次の図は、1942年12月の空母改装案です。基本配置は変わりませんが、バルジを船体上端まで拡大し、船体自体の幅増しを行っています。

ドイツ海軍 補助空母エルベ設計Ub 1942年6月
ドイツ海軍 補助空母エルベ設計Ub 1942年12月
「GERMAN WARSHIPS 1815-1945 Volume One:Major Surface Vessels」 出版社 CONWAYより引用。


◎補助航空母艦“ヤーデ”(貨客船グナイゼナウ)
設計排水量:18,160t
全長:203.0m 水線長:191.0m 全幅:飛行甲板27.0m バルジ26.8m 設計吃水:5.10m 満載喫水:8.85m
機関:商船時代のまま
    馬力26,000hp
    設計速力:21.0ノット 最大速力(実際見積もられた速力)19ノット
    燃料搭載量:設計重油3,400t 最大重油4,570t
    航続力9,000浬/19ノット
武装:10.5cm65口径連装高角砲4基 高射装置2基
    3.7cm連装高角砲5基
    20mm四連装機銃6〜8基
    カタパルト2基
    エレベーター2基
搭載機:JU87D 12機 BF109G 12機
装甲:装甲材質硬質ヴォータン
    格納庫甲板20mm 格納庫側壁10〜15mm
飛行甲板長:186m 飛行甲板最大幅:27m
格納庫全長:148m 格納庫最大幅:18m 後部30m 格納庫高さ不明
乗員;士官79名、兵804名(空軍要員134名含む)


◎補助航空母艦“エルベ”(貨客船ポツダム)
設計排水量:18,160t 満載排水量23,500t
全長:203.0m 水線長:189.0m 全幅:飛行甲板27.0m バルジ26.8m 設計吃水:5.10m 満載喫水:8.85m
機関:商船時代のまま
    馬力26,000hp
    設計速力:21.0ノット 最大速力(実際見積もられた速力)19ノット
    燃料搭載量:設計重油3,145t
    航続力9,000浬/19ノット
武装:10.5cm65口径連装高角砲4基 高射装置2基
    3.7cm連装高角砲5基
    20mm四連装機銃6〜8基
    カタパルト2基
    エレベーター2基
搭載機:JU87D 12機 BF109G 12機
装甲:装甲材質硬質ヴォータン
    格納庫甲板20mm 格納庫側壁10〜15mm
飛行甲板長:186m 飛行甲板最大幅:27m
格納庫全長:148m 格納庫最大幅:18m 後部30m 格納庫高さ不明
乗員;900名(空軍要員190名含む)


  補助空母ヤーデ、エルベは、空母改装にあたって、次の問題があると考えられました。

1.一線級の空母としては極低速。
2.トップヘビー。復原性の不足。
  この対策として、バルジの設置がなされました。
3.客室を設置していた位置に左舷側に格納庫を設置したため、船体ののバランスが崩れました。
  これは、両舷バルジの計画吃水線下にコンクリートを充填して、補正することとしました。また、このコンクリートは“コンクリート・アーマー”として水中防御にも役に立ち、バラストして重心を下げる役割も果たすと期待されました。

  また、復原性の不足を解決するために、補助空母エルベ設計Uでは単なるバルジの追加であったのが、設計Ubでは、軽巡洋艦カールスルーエの改装で行われたような、バルジが船体の上端まで達する、船体の幅増しへと改良されています。

 補助空母ヤーデは改装工事開始前、1942年11月25日に計画中止、補助空母エルベは同日練習空母に変更、1942年12月に改装工事に入り、客船設備の取り外しを初めましたが、1943年2月2日に工事中止となりました。


  その後、貨客船グナイゼナウ−元補助空母ヤーデ−は兵員輸送船となりました。そして1943年5月2日12時2分、触雷により沈没しました。

  改装中止になった貨客船ポツダム−元補助空母エルベ−はゴーテンハーフェンに繋留され宿泊船となりました。大戦終結まで残存し、1946年6月20日イギリスに賠償として引き渡され、エンパイア・フォーウェィと改名され、兵員輸送に使用されました。その後、1960年、パキスタンの移民船となり、1976年解体されました。


  もう1隻の姉妹船、貨客船シャルンホルスト(機関 ヴァーグナー缶2基(蒸気性状48.54atu(50kg/cu)470℃)、AEG式ターボ電気推進2基2軸、出力32,400hp)は、神戸に入港中、第2時世界大戦の勃発により帰国不能になり、その後日本に譲渡の上、空母神鷹に改造されました。1943年12月15日、1度竣工していますが、ヴァーグナー缶の不調により、缶をロ号艦本式水管缶2基に改装して、1944年3月に改めて竣工しています。

日本海軍 空母神鷹
日本海軍 空母神鷹
世界の艦船別冊NO.481「日本航空母艦史」 出版社 海人社より引用。


 貨客船シャルンホルスト、グナイゼナウ、ポツダムは、全準同型艦が、2カ国で、空母への改装が検討されたという、珍しいケースと言えるでしょう。この内、空母として完成したのは日本の空母神鷹のみでしたが、日本式の神鷹の艦容と、ドイツ式のヤーデ、エルベの艦容の違いが見て取れて、非常に興味深くあります。  両国の設計を比べると、ヴァーグナー缶の不調は解決できなかったものの、バルジの増設もせず、すっきりと艦をまとめて見せた日本の方が、やはり空母先進国だけあって、経験が上であると言えるのではないでしょうか。


◎参考資料
・「GERMAN WARSHIPS 1815-1945 Volume One:Major Surface Vessels」 出版社 CONWAY
・「Die deutschen Kriegsschiffe 1915-1945 Band5」 出版社Bernard&Graefe Verlag
・「機關通報 第四十五號」 海軍省軍務局 昭和11年
・「日本の航空母艦パーフェクトガイド」 出版社 学習研究社
・世界の艦船別冊NO.481「日本航空母艦史」 出版社 海人社

  また、グランドパワー別冊 ファイティングシップシリーズNo.9 「ドイツ海軍水上艦艇[4]」にも、補助空母ヤーデ、エルベ改装の説明が掲載されています。



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