第2回 TOGETHER FOREVER

ちょうど1年前のことだった。もう1年も経つ。あの夜、あの場に私がいることができたのは、幸せというほかない。1997年11月16日、深夜。あの瞬間には、誰が決めたのかすら判らなかった、ゴールデン・ゴール。ほの暗い中で、舞い散る紙テープ、紙吹雪、そして焚かれる無数のフラッシュ。マレーシア、ジョホールバルのあの夜。伝説の、夜。



14日の駒場スタジアムに行った。今年リーグの最終戦である。対名古屋、どちらか勝ったほうが3位。負けると、最悪6位までの転落があり得る。負けたくないのは、どちらも同じだ。だが、レッズには決定的に違う点があった。サポーターの数、スタジアムを包む大声援とファンの数である。この日、駒場には2万を超えるお客さんが集まった。いつもと同じ、といえばそれまでである。いつもと同じ、そんな幸せな環境が、駒場スタジアムにはあった。内容に関しては敢えて何も言うまい。とにかく、レッズは勝った。この日を勝利で締めくくり、98年度セカンドステージを、3位で終った。おめでとう、レッズ。お疲れ様、レッズ。今年のリーグも、ありがとう。



忘れられない光景。こう聞いてあなたは何を思い出すだろうか。忘れられないゲーム。忘れられないプレー。忘れられない、シーン。福田の復活ゴールだろうか。得点王の瞬間だろうか。それとも96年11月の鹿島戦。長良川での、ギド?それとも、怒りのロング・シュート。負け続けた頃の、しかし何よりもあの壮絶な「応援」を生んだ大宮のスタジアムだろうか。レッズに限らなくてもいい。何がある?伝説の和司さんのフリーキック?くぎ付けにされるような、あのディエゴのドリブル?話は尽きない。それぞれの胸に、いろんな想い出があることだろう。様々な経験が、ある。100人いれば、100通りの、「忘れられないシーン」がある。サッカーに惚れてしまった私たちのそばには、いつも素敵なプレーがあった。素晴らしいゲームがあった。



私は仲間のことを想い出す。ゲームやプレーとともに、その時周りにいた、仲間を想い出すのである。86年大会を、私はテレビで観ていた。まだ高校生である。大学に入ると、相馬君がいた。Jリーグがはじまった。会社に入ると、レッズ好きの仲間と出逢った。95年頃から、数人の友達、仲間とスタジアムに行くようになると、さらに多くの仲間が増えてきた。インターネットを通じての仲間も増えた。昨年、最終予選の時には、日に何10通ものメールをもらうこともあった。世界中の仲間と協力しあって、大きなスケールの応援やスタジアムの演出ができた。すべての仲間あってのことである。夜の試合の日に、早朝から駒場に来る人を、バカだと思う人がいるだろうか。国立で、何日も前から、テントを張って仲間と鍋をつつきあうヤツらを、愚かしいと思うだろうか。サッカーファンなら、苦笑いするだけだろう。一度もサッカーを生で観たことのない人には、「いいから、とにかくスタジアムへ来てごらん」といいたい。何かがかわるから。



ある友人は、今年のダイナスティ・カップから、スタジアムで観戦するようになった。それ以来、病み付きになったという。フランスまで足を運んだというのだから、たいしたものである。それまでは、ニュースなどで目にするものの、まさか自分がレプリカ・ユニフォームを着てスタジアムに立っているとは想像すらしなかったらしい。彼が言うには、スタジアムの圧倒的な雰囲気、サポーターの空気にけおされたのだという。今や、いちサッカー狂として、彼も相当な心眼を持っている。関西在住のため、そうそう上京するわけにはいかないが、関西での試合にはたいてい、彼ら夫婦とご一緒する。すっかり、「仲間」というわけである。実は、この夫婦とは、昨年ジョホールの前日に事故に遭った仲間の、ご両親なのだ。



忘れられない光景とともに、忘れられないひとがいる。いつもいつも憶えていなくてもいい。ただ、ずっと憶えていたいひとがいる。いや、忘れることなんてできない。国立で、大PK合戦の末、ギドが外したゲームを一緒に観ていたのは、クリだ。96年駒場の川崎戦でゴールの瞬間、私を胴上げして投げ飛ばしたのは、ヤスオとタクマ。オウンゴールの1点を守った長良川には、キヨちゃんの車で行ったっけ。ヤスエと初めて会ったのは、昨年の平塚。超野人倶楽部にカズヨを引き込んだのは、私だっけ?韓国で一番正体不明になっていたのは、タカオ。ヨシヒロとエツコなんか、結婚までしてしまった。最終予選の時には、いつも仲間が青山門前に集まった。駒場の朝には、缶ビールがいつもある。忘れられないゲームのそばには、忘れられない仲間がいつもいる。



記録に残るゲームだけではない、記憶に残る光景とともに。やはり、11月15日と16日は、私にとっては、特別な日である。あなたの忘れられない光景とは、どれだろう。そのとき、そばにいた人は誰だろう。大好きなサッカーのそばには、大好きな仲間たちがいる。いつまでも。




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