サッカー日記 97年10月20日

最後の瞬間


ナビスコ杯準々決勝2ndleg ジュビロ 3−2 レッズ

9/13そして10/15に見た試合と一体何が変わったのだろうか。同じチームと短い内に3試合。 戦い方ぐらいわかるのが普通ではないのだろうか?

10/18に見た試合はまるで過去2試合の再現。鋭いドリブル突破、局面を打開するドゥンガからの素晴らしいパス、 闘志むき出しに飛び込んでくるゴン、藤田、奥。必死に防戦のレッズ。やっととったボールはつまらないトラップミスで 自らラインアウトさせてしまい、早い詰めに前を向けず、遅い攻めでゴール前には切り込めず、センタリングは直接ラインを割る。

先取点を取られた時は正直もう駄目かと思った。このチームから得点できるような力は今のレッズには無い。 なんとか無得点におさえてVゴールまたはPK戦で、と思っていた。それが何故か逆点。 これだからサッカーはわからない。正樹の2点目は誰もが「打て!」と思った瞬間に打って入ったもので、 すばらしくスカッとするシュートだった。

あのジュビロから2得点で逆転!嬉しいというより驚きの(^^;)前半終了。 でも正樹のシュートがきまった時ギドが大喜びしていたと聞いて、すごく嬉しくなった。(見てなかった^^;) ギドだってもう一度駒場でプレイしたいんだから。

そして後半。相変わらず選手交代は無し。正直言って調子の悪い堀と内舘を何故使い続けるのかわからない。 桜井と福永の登場が待たれるところ。
それにしても攻撃もさることながら、ディフェンスのぼろぼろさはどうした事だろうか。 アルフが必死にゴンを押さえているからいいものの、マークの受け渡しがうまくいってないのかゴール前でフリーの選手が多すぎる。 相手がボールを持っていても早いチェックでバックパスを繰り返させるのならばいい。 でも見ていると誰もチェックに行かず、あっという間にゴール前。さあどうぞ、と言わんばかりのドリブルコースが空いている。 ちょっと待ってーーーーー!!!!と悲鳴をあげている内にゴンに決められてしまった。

アルフのマークもゴンに引きずられてずるずると下がるばかりで、全くオフサイドがとれない。 誰かディフェンスラインを統率する人間はいないのか?広瀬は?西野は? みんながバタバタしてしまってお話にならない。

逆転されたが、まだまだ時間はある。 桜井と福永も入り、なんとか・・・・少ないながらも攻めの形が出来る。とにかく1点!1点でいい! 同点にすれば延長に望みをつなげられる!!
またしてもジュビロの動きの悪くなってきた後半30分過ぎから怒濤の(?)攻撃が始まった。なんでこれが最初からできないかな〜(T_T)
そして終了間際、ゴール前誰かがはじいたボールに福田が飛び込んだ!!
ゴールまであと1メートル・・・・!!!!
・・・・・・キーパーに阻まれた。

時計は45分をまわる。かなり負傷者が出たのでロスタイムは長いはずだ。まだいける、まだあきらめない! しかし試合巧者のジュビロは大げさに倒れてみせ時間をかせぐ。 レッズサポーター席の真ん前で、誰ともぶつかっていないくせにいつまでも起きあがらない大神に罵声が飛ぶ。 「早く起きろ!」「汚ねぇぞ!」「退場だ!」
時間がなくて気が気じゃない。試合ではなく、ついついギドを見てしまう。手を握りしめる。 お願いだから、ギドの為にもう少し頑張ってよ・・・・・・・。

終了の笛が思ったよりも早く鳴り響いた。

ブーイングは・・・・起きない。呆然としている、という言葉がぴったりくる。 フィールド中央に並んでの両チーム選手の挨拶につっちーは加わらない。憮然としているのか呆然としているのか。 遠くて表情はわからない。

引き上げてくる選手達にはそれでも静かな拍手が起こった。その拍手には「よくやったね。これが今の精一杯の力だね。」 というような悲しみさえ感じられた。

向こう側のジュビロサポーターが勝利の歌を歌っている。誰もその場を動かない。誰も帰り支度をしない。 手すりにもたれてじっとしている者、へたり込んでいる者。
「もう一度、駒場でギドに会いたかったのに・・・・。」そう思ったら涙がにじんできた。 セレモニーの時の涙とは違う。ただただ悲しい涙。そっと周りをうかがうとみんなが声を立てずに泣いている。 口を押さえ、目を押さえ、じっとうつむいて。すすり上げる音だけが聞こえてくる。こんなに悲しい負けは初めてだ。

なぜ誰も動かないか。ギドを待っているから。これでもう、ギドには会えないから。

せめて顔が見たい。「ギドーーーーー!」誰かが叫ぶ。「顔見せてーーーーー!ギドーーー!!!」 みんなが泣きながら顔を上げる。ベンチの横の銀色のドアを見つめる。
何分たっただろう。
「ギドだ!!」
皆が立ち上がる。親を待っていた子供の様に。 ベージュのタートルネックのセーターに暗い色のジャケットのギド。ユニフォーム姿ではないギド。 「ギド!ギド!ギド!ギド!」ギドコールが始まる。涙で喉が詰まって声が出ない。 でも今を逃したらもう、ギドにコールを送るチャンスは無い。永久に無い。声を振り絞る。 もう一度、もう一度会いたかった。駒場で。

ゴール裏までギドが来る。ギドが両手を挙げる。黙って、少し笑顔を見せて。

そしてベンチの方へ歩み去る。その後ろ姿が銀色のドアの向こうに消えた。


やっと少しずつ帰り支度を始めるが、大部分の人はまだその場で顔を覆っている。 泣きじゃくる彼女の肩を抱いてゴール裏を後にする人。立ち上がれない友達の背中を黙ってさする人。 「じゃあ、帰りますので」 挨拶に来る知り合いはみんな涙目になっている。

やっと上着を着て競技場を出た、と表側?に選手バスが! 後ろの方で弁当を食べる堀、福田、暢久。永井もいる。みんながギドを待ってバスを取り囲んでいる。 次々とバスに乗り込む選手達。一応小さな歓声があがる。そしてケッペル登場。大きなブーイング。 何事かとバスの中の選手達がこちらを見る。このブーイングを選手達は一体どう思うだろう。どう受け止めるだろう。

「ギドだ!ギドが来た!!」
いっせいにカメラのフラッシュ。「ギドーーー!!」「ギードーーーー!!!!」 バスのステップを1段登りギドが振り向いて手を振った。そしてバスが出た。 また少し涙が出たがでも笑顔を作れたと思う。

レッズバスが行った後、蜘蛛の子を散らすようにレッズサポが解散する。その後にぽつんと残されたジュビロバス。 駐車場へ向かって歩く私達の横をそのジュビロバスがゆっくり通過した。 ふと見上げると窓を少し開け、窓枠に両指先をかけて藤田がちょこんと顔を出しなぜかこちらに手を振っている。 その時連れが「藤田ーーーーっ!!代表行けーーーーーーーーっっ!!!」と叫んだ。 とたんに藤田はにこにこっとして少し体を乗り出し、こちらに手を振った。
試合終了間際の時間稼ぎ攻撃にすっかり「ジュビロ嫌い」になりかけていた私であったが、毒気を抜かれてしまった。

しかも駐車場で車に乗ろうとしたとき、ジュビロレプリカを着た女の子が2人近づいてきて 「あの〜、このJリーグカードもらってくれませんか?ジュビロのカードが欲しくていっぱい買っちゃったんで 捨てるのももったいないし。」 そう言ってレッズのカードを大量に差し出してくれた。
彼女の背中には試合中私が散々罵倒した「HATTORI 6」の字が入っている。なんだか急にはずかしくなった。 「ありがとう」 とても嬉しかった。サッカーを愛する人に悪人無し。

悲しみと爽やかさと。不思議な思い出の残る試合となった。行って良かった。
ギドに会えたから。

22日、ギドは故郷に帰る。


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