あかなこらむにようこそ

今回の「雪」のお話は、「思い出のフィールド」です。
雪のFootballに寄せるあつーい思いを感じて下さい。

私が幼少の頃、物心ついて、最初の記憶があるのは、実はイギリスだ。競馬とクリケット、そしてフットボールの国。そこで私は、小学校2年までを過ごした。もう20年以上も前の話だが、当時はまだ、ロンドン中心には、外交官や商社、銀行の支店長クラスしかおらず、私の父は、遊びに行ったようなものだったので、我が家は、ロンドンから電車で1時間以上も揺られた、郊外にあった。どこまでも続く、森と、芝生と、丘。そこを、よく、裸足で駆け回ったものだった。それが私の幼い頃の、一番印象的な光景だ。

ある日、友達の父親が、私たちを、フットボールの試合を見に連れていってくれた。その場所がどこだったか、一体何の試合だったか、記憶にない。ただ、その時に見た、眩しいばかりのフィールドの緑と、すごい数の観客に、圧倒された憶えだけがある。今思うと、きっといいカードだったのだろう。大変な数の観客だったような気がする。私は、幼心に、ドキドキしながら、試合を見た。本当に、イギリス人は、競馬とクリケットとフットボールというスポーツを、こよなく愛している。それらは彼らの生活文化に、深く根づいているのだ。
帰国して小学生の頃、近所に、サッカー好きの叔父がいた。当時はまだ、今のようなサッカーブームはなかった。少年たちがやるのは、もっぱら野球。しかし、叔父は近所の子供たちに、サッカーを教えてたりしていた。自らも、シニアのサッカーチームを結成し、草サッカーを楽しんでいた。男勝りだった私は、男の子の友達と一緒に、日曜日には、わくわくしながら、叔父の試合を見に行ったりしていた。そのせいか、小さな頃から、あの緑の芝と、広大なフィールドを縦横にボールを追うサッカーに、魅せられていたのかも知れない。
浦和、ひいては埼玉は、サッカー王国だと昔から言われている。高校サッカーでは、戦後、数多くの優勝を重ねている。私は、生まれて間もなく、大宮に住んだ。学生時代は、所沢で過ごしたため、これまたサッカーと接する機会を持つ事ができた。サッカー部の友達も、多かった。そして、Jリーグの話が盛り上がったのも、その頃だった。私とサッカーの、不思議な巡り合わせである。
私は、当たり前のように、浦和レッズを応援した。レッズサポーターの人の多くが言うように、私もその一番の理由は、『地元だから』。J発足当時は、チケットが飛ぶように売れ、どのカードも、かなりの観客を動員した。しかし、それにしても、初めてレッズ戦を見に行った時の驚きといったらなかった。スタンド中が真っ赤に染まり、地響きのような歓声と応援歌が、とどろいていた。『なんなんだ、これは』。正直、そう思った。私は、完全に、レッズに魅了されてしまった。
先日、ワールドカップの一次予選、日本ラウンドを観に行った。久しぶりに、整った、歌声を耳にした気がした。最近のレッズ戦では、太鼓が音頭をとっての歌声が、ない。しかし、ひとつ、感心したことがある。確かに、あの整った歌声、声援は、例えば代表の試合の場合、日本の応援を誇示する効果があるだろう。しかし、時に何故か、相手側がファウルをとられた時に、ブーイングが起きたりもしていた。それに、ずっと、単調な歌での応援だ。思わず、比較してしまったのだが、レッズ戦では、どこかのお父さんが、『違う、そこで逆サイドに展開するんだ!』とか、女の子が、『磯貝、クロスを放って!』などと叫んでいる。それに、レッズがボールをキープし、ここぞ、と上がって行くときには、自然に手拍子と掛け声が起きるのだ。みんな本当に、『サッカーを見ている』事がよくわかる光景だ。
サッカー好きの叔父が、よく言っていた。『僕がサッカーで好きなのは、センタリングなんだよ』。叔父は背が高くはなかった。しかし、サッカーは、それほど体格が恵まれていなくても、努力の余地が、ある。ふわっと上がるセンタリングに、ディフェンダーとキーパーの動きを読んで、スキを縫って、ゴール前に飛び込む。ボールに、体を合わせる。そして、ゴールネットが揺れる。ワンチャンスのタイミング。それは、決して一人では出来ないプレーだし、だからこそ、面白いんだ。ただ単に力を振り絞るだけがサッカーじゃないんだ。そう、よく話してくれた。
サッカーを見ていると、様々なイメージが広がる。一つのプレーを、目で追いながら、自分の頭の中で、次の動きを予想する。息つく間もなく、45分間は過ぎてゆく。頭の休まる暇はない。私も、はじめは、訳のわからなかったゲーム内容を、少しずつ知るにつれて、ますますサッカーの魅力に、取り憑かれてしまったのだ。それにしても、小さな頃に見た、あの緑の芝のフィールドと、縦横に動き回る選手と、スタンドの観客の姿が、目に焼き付いて離れない。本当に、ドキドキするのだ。ひとつ、気になっているのが、どうも、「あの日」見た選手のユニフォームの色は、赤だったような気がすること。あの緑のフィールドに、よく映えていた、赤。そういえば、緑に赤はよく映えるな、とレッズ戦を見ながらいつも思い出してしまうのだ。

〜雪〜


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