これも前半部分は「歪む時間」に入っていたおまけ短編です。
ただ、それにちょこっと後半部分をつけてみました。
設定としては、前半はTVの南極に来た時の話ですね、
後半は…きっと戦後二人で彼らは暮らしているのでしょう。
…ただ、この話を読むのには前提条件として
「ヒイロもデュオも雪は地球に来て初めてみた」という事にしてやってください
……だって…ずっと前に書いたモンだもん…コロニーにも雪降るとは知らなかったんです〜。
しかしこのヒイロ…ドリーマー(^^;;…まぁ、イチニの日記念だから甘々でね。





 雪が、降っている。
 冷たくて、寒くて………。





 ゼクスという者の使者に連れられ、トロワと共に来た南極という地。
 南極は、雪で覆われた極寒の世界だった──────。

 白い世界。
 山も道路も木も地面も。全てが真っ白に包まれて、視界さえも白く霞がからせる。
 白一色に塗り固められた大地は、白い部分でその実際の姿を覆い隠していた。
 空を見上げれば、灰色の光の中から白い影が無数に落ちて来る。
 それは、小さいけれど本当に膨大な量で・・・この世界を全て包み込む程に。
 服に落ちる小さなソレは、良く見れば細かな模様を持っていて。さらに良く見ようとしたら、自分の吐く息の熱で解けてただの水滴になってしまった。

 これが、雪?

 瞳を大きく開いて、じっと目の前の光景を見つめる。
 自然現象ノ一ツ、空ヘ昇ッタ水蒸気ガ空気中ノゴミヲ核トシテ・・・・。

 ああ、知識ならば知っている。

 けれど、当たり前だが実際見るのは初めてだった。
 この小さな一粒、自分の息程度で溶けてしまう儚いモノが、カタチを残したままこんなに積もるには、一体どれ程の量の粒が落ちなくてはならないのだろう?
 数え切れない程。星の数程、人間の数ほど。
 バカな事を・・・そんな事考えてどうするつもりだ? だって、普通星の数や存在する全人類の数なんて学者か管理者でもなければ数えないし、数えようなんて思わない。

 人が意図して作ったものでない、自然現象。
 見ているとこちらの頭の中まで白くなりそうだ。

 何も、考えてないで。
 ただ、見ていたいと思う。
 この気持ちを表す言葉なんて知らないから。

 『なぁ、ヒイロ。すごいと思わねぇ?』

 ふと、頭に浮かんで来る一人の人物の青い瞳。
 確か一緒の学校に通っている時に、海を見つめて言っていた言葉。

 『あれが全部水で、ずーっと先、見えないくらい遠くまで続いてるんだぜ。すげぇよなぁ。』

 そう言って、水面に見える光をその瞳に宿らせうっとりと海を見ていたアイツ。もし、アイツがこの風景を見たら何というだろう?
 きっと、ただでさえ大きい瞳を目一杯に開いて、濡れるのも構わずに走りまわる。
 寒くても、冷たくても、この雪を体に浴びて喜ぶ。

 ・・・・何?

 我知らず、自然と思い浮かべていた頭の中の光景に、思わず眉を顰めた。

 (何を考えていたんだ、俺は。アイツの事なんて・・・。)

 何故か沸き上がっていた、柔らかな心の感触を無理矢理握り潰して、なにも無かったように歩き出す。こんなところでいつまでも惚けていられる立場ではない。こんなモノを見ていたところで何のメリットにもなりはしない。意味のない事はする必要はない。

 そう、アイツではあるまいし・・・。

 歩みを止めて、もう一度空を見上げる。
 ああ、多分。アイツは自分が死んだものだと思っているだろう。もう、生きていないモノだと。
 死んだ者の事を考えるなんて、自分達には無駄な、意味のない事。
 だからアイツは、自分の事なんて考えない、記憶の片隅にそういう人物がいた事だけを記録して、表面の思考からは忘れ去っている筈。

 ────寒い。

 急に感じる外気の冷たさに、体が震える。
 寒い。肌が冷えている。体の末端から感覚が鈍って来ている。
 冷たい手は感覚が鈍っているらしく、動かしても反応が多少遅れてしまう。触れても感触が今一つ掴めず、自分のモノでない違和感を覚える。

 『ったく、寒くないのか?お前は。』

 何時だったか、アイツがそういってこの手に触れて来た事があった。

 『うわっ、冷てー。お前よくそんなんで平然としてられんなー。』

 思わず振り払った手をさらに両手で掴んで、アイツはこちらの手を暖めようとした。確かにヤツの手は暖かくて、少しずつ自分の手にもその温度が移ってくるのが分かったけれど、気付いた時には自分はその手を叩き飛ばしてヤツを睨みつけていた。

 『余計な事をするな。』

 平常よりも速い心臓の音、乾く喉。
 何故だか、あの時の自分は動揺していた。
 それをヤツに悟られたくなくて、すぐに背を向け、その場から立ち去った。
 ────顔を背ける直前に見たヤツの目には・・・ヤツらしい明るい光が消えていた。

 何故、アイツは自分に構おうなどとしたのだろう。
 何故、自分はあの時動揺なんてしたのだろう。

 右の手に左の手を添えて、胸の前で軽く掌を丸めて組む。互いの手が触れ合って、少しだけ体温が飛ぶのを防ぐ。

 頭に浮かぶのは長いおさげ髪の少年。
 こうやって自分の手だけで暖めようとしても、あの時のアイツの手程に暖める事はできなくて…。

 アイツにとっては、自分はもう死んだ筈の人間──────。

 「デュオ。」

 小さな声でその名を呼ぶ。出された声は風景と同じく真っ白に染められてすぐに消える。
 白い息が、目の前の今落ちて来たばかりの雪の粒を溶かす。
 顔を上げれば真っ白な世界。余りにも白過ぎて目が眩しさを訴えている。

 寒い────。

 何故今自分はこんなにも辛いのだろう。





**********************************


 「雪か…」

 呟いただけの言葉に、耳ざといデュオはすぐに反応した。

 「えぇっ、雪降ってんのか?本当に?」

 すぐに急いで彼もまた窓際に走ってくる。
 それに少しだけ居場所をずらして彼にも外が見えるようにしてやると、それだけでは満足しないのか、デュオはこちらに断りなく勝手に窓まで開けてしまった。
 すぐに冷たい風が、暖房の効いた室内に流れ込んでくる。

 「うっわー、寒ッ。」

 けれど言っている言葉とは裏腹に、外を眺める彼の顔は本当に嬉しそうで。瞳を輝かせて、空から落ちてくる白い影を見つめていた。
 …暫くの間、寒さを忘れたように、彼はうっとりと唇に笑みさえ浮かべて外を眺めて…。…だから自分は、その彼の横顔に引き付けられるように見入ってしまう。そうしていれば、彼の浮かべる笑みにつられるように、自分にも笑みを浮かべたいような感情が沸き起こる。

 「なぁ、ヒイロ、外、明るいと思わねぇ?…もう夜中なのにさ。」

 いわれて改めて外に目を向けると、既にそこは真っ白で……どうやら、雪はもうずっと前から降っていたようで、二人とも今朝データを受け取ってからずっとパソコンの前で作業していたため、今の今まで気づかなかったらしい。もうすぐ住んで1年になるこの部屋の窓から見える見なれた風景は、どこもかしこも雪に覆われて白一色に染められている。そのセイで、真夜中とは思えない奇妙な明るさを持っていた。

 「雪が月の光を反射しているだけだ。」

 そういってから、自分でもその白く浮かぶ風景に目を奪われる。
 もう夜半を過ぎた時刻、人通りなどなく、見える中に明かりのついた家もない。
 外套の明かりがぼんやりと浮かんではいるものの、その風景を照らすための光源は、殆ど月の光だけといっていい筈だし、事実そうなのだ。
 …けれど、それだけなのに、何故こんなに明るい?
 真夜中の静けさはあるのに、『夜』というには明るすぎて、いつも見ている風景でないようにさえ見える。

 「うーん、原理は分かっちゃいるんだけどさぁ…」

 でも、不思議な感じだよな。そう思わねぇ?
 デュオが笑って、今度は自分に顔を向けてくる。

 「なんかさ、こんなに明るいと、冷たいのは分かっちゃいるんだけど、…あったかそうにみえるよな。」

 大地を覆うのは冷たい氷の結晶。だから冷たい、もちろんそんなものが降るのだから寒いのは分かっている。…けれど、でも、不思議な明るさに包まれた風景は暖かそうだと、彼はそういって目を細めた。…嬉しそうに、楽しそうに、………幸せそうに。

 「そうだな。」

 呟いた言葉に、デュオは驚いたように顔を向ける。
 けれど目が会うと、その顔はすぐに笑みに変わって、彼は自分に体を寄りかからせてきた。
 服越しに彼の体温を感じて、それを暖かいと感じた事で自分の体が何時の間にか冷えていた事に気が付く。

 「あーあ、お前また薄着してるから…こんなとこいて体冷えちまってるじゃねーか。」

 それからデュオは、思い出したように自分の手を取って、それを暖めようと彼の手で包み込んだ。
 前にもあった、あのときのように。
 けれど今は、それをただ受け入れることができる。
 あの時振り払った理由もわかる。

 「悪いな、俺が窓開けちまったから、寒いだろ?」
 
 それには静かに首を振って。

 「寒くない。」

 いわれた彼は肩を竦める。笑い半分、呆れたの半分な表情で。
 もう一度首を振れば、それは殆ど笑うだけになってしまったけれど。

 「おいおい、こんなに手ェ冷たいのに?…ったく、お前は最初に会った時から、そーゆーとこは強情っつーか意地っぱりっていうかさー…。」

 それにはまた首を振る。
 今度はデュオは首を傾げて、眉を細めた。
 彼は、分からないのだろうか?…考え込むその姿が可笑しい。

 「違うんだ、デュオ。」
 「だから何が?…ってぇオマエ、何笑ってるんだよッ。」

 拗ねたように唇を尖らせて。彼は大げさにため息を吐くと、背を向けて部屋の奥へいってしまう。
 窓閉めといてくれなと、そう一言だけを残して。

 窓の外を見る。
 雪は降っている。外の空気はつんと冷えて、冷たい風が体に吹きかかる。
 吐き出す息が、白い。

 前にも見た雪の風景。
 あの時は寒いと確かに感じたのに、今も体は冷えているのに。
 けれど、寒くない。

 そう、寒くないんだ、デュオ。…本当に…今は、もう。



******* END


 


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