今回からデュオサイドになります(・w・)




 10.

 『やっぱり、行くのかい?』

 寂しげな笑みを浮かべた男は、荷物をまとめていたデュオにそう声を掛けた。

 『まぁな。もう…人殺しはしねーって約束したんだ。』

 誰に、とは聞いてはこない。
 笑顔を向けたデュオに、男はただ、胸の上で十字を切って、幸運を…と呟いた。
 それから、本当に小さな声で、すまない…とつけたして。

 『いいよ。別に、うらんだりはしてねーから。アンタはアンタの仕事をしただけ。俺も…自分の意志で選んだ事だからさ。ここまでしてくれたのには、感謝もしてるし…な。』

 いって荷物を肩に背負えば、男は僅かにドアの前から避けた。
 その、うつむいている、男の表情は見えない。
 デュオが男の横を通り過ぎる。
 すれ違った背の差は、初めて会った時にくらべれば、随分と近くなっていた。
 デュオの身長が伸びたのか、男が小さくなったのか…。
 向けた背に苦しげな声が掛けられる。

 『私は地獄に落ちるだろう…』
 『んじゃ、この死神様が先に行って待っててやるぜ。』

 それを別れの言葉として。肩ごしに手を振って。

 『あばよ、シルバー。いや…グリーン神父。』




 ゆっくりと意識が浮き上がって、慣れない場の雰囲気に一瞬戸惑う。
 けれどもすぐに、慣れた気配を感じ取って、一瞬纏った緊張がほぐれる。

 「たっ…」

 起き上がろうとして、身体が軋んだ。

 「馬鹿が、だからベッドまで行けといったんだ。」

 不機嫌そうな声がそういってきて、やっぱり不機嫌そうな顔がこちらを見つめてくる。
 けれど、体に掛けられていた毛布とか、寄りかからせてくれたらしい事とかが分かってしまえば、不機嫌いっぱいの彼とは対照的に、デュオの方は笑みが浮かんでしまう。

 「えー?だってさぁ…ひっさびさに宇宙に上がったんだぜぇ…やっぱ外を見てぇじゃん…」

 窓から見える星。ずっと地に降りた生活をしていても忘れられない、懐かしい世界。
 やっぱりここが自分の故郷。
 最後の地が地球というのも贅沢だけれど、コロニー生まれのコロニー育ちとしては、宇宙に還れた方が嬉しい。

 「あ、気ぃ使ってくれてどうもな。お前こそ寝ンならベッド行けよ。」

 いっても彼が動く気配はない。
 どれくらい同じ格好をしていたのか、無表情を決め込んだままの横顔。自分を寄りかからせるままにして、手だけが伸びてきて毛布の位置を引き上げてくれる。
 どうやら、意識してなくても、窓際にいるのは、少し肌寒かったらしい。
 毛布の温度を感じれば、少しだけ冷えてる事に気がついて、思わず、暖かい彼にいっそう体を寄せてしまう。
 昔なら、寄りかかろうなんてした日には、きっとふざけるなと突き飛ばされてでもしていただろう。
 けれども、今は、こうして自分に寄りかかる事を許してくれるどころか、その為にずっと同じところにいてくれて……毛布を掛けてくれたりなどと、彼はこんなにも自分を気遣ってくれる。

 自分に対して、優しい、ヒイロ。
 あんまりにも優しすぎて嘘みたいだ。
 しっかりと彼の気配に包まれて、それがすごい安心できる。
 だから、なんだか、幸せだなーなんて平和な事さえ考えて。
 少しばかり甘えて彼に寄りかかったままでいれば、平和ついでに再び眠気が襲ってきた。

 「デュオ…寝るなら…」
 「だ…から…いいってぇ…」

 意識が飲まれて行く中、ヒイロの声が微かに聞こえて、半分寝ながらもかろうじてあやふやな返事だけを返す。
 それでも彼の溜め息の後、浮遊感があったから、…もしかして、ベッドまで運んでくれてるのかもしれない。
 宇宙も見たかったけれども、眠気には勝てなくて。こうして抱きかかえられているのも、ひどく心地よかったから。
 悪いかな、と思っても、今は甘えるのもいいかと思い直して、…だから、安心して眠りにとらわれてしまおう。

 好きな人の気配の中、思いきり甘えて眠りつくなんて、最高に幸せだと思う…そう、最後の思い出としては、これ以上なく…。


      ************


 どうもシャトルでは寝てばかりいたせいか、頭はやけにさっぱりしていたけれど、体が軋む。
 デュオは宇宙港から出た途端、しきりに背伸びをしたり、肩や首を回した。

 途中、特に問題もなく、予定通りの到着。
 あたりの風景は、コロニーの擬似的な物とはいえ、既に夕方になっていた。
 けれど、夕暮れに浮かぶ家々の灯の中、クリスマス直前というのに、そこには、この時期見慣れた色鮮やかなイルミネーションを見る事がなかった。

 「なんかなー。寂しいっていうか、違和感っていうか…」
 「別に、ただの宗教の違いだ。」

 それはもっともな事ではあるが、この時代、完全に単一民族しかいないコロニーは滅多にないから、必ず西洋圏出身の者達がどのコロニーにもそれなりにいる。だから、彼らにとってクリスマス程の大きなイベントならば、彼らだけでも必ず何かしらやっているのだと思うのだが…。

 「まぁいいか…。でもさー、クリスマスパーティーに呼ばれて、クリスマスを祝わないとこまでわざわざ来るってのも何だかなぁ…。」
 「ウィナー家の別荘まで行けば、大きなツリーが用意してあるそうだ。」
 「そりゃ期待しとこう。」

 肩を竦めるデュオの腕を、ヒイロが引く。
 直ぐ見える場所に、別荘から迎えの車が来ていた。





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