少しラブラブっぽいシーン入れないと寂しいですよね(笑)



 6.

 夜中、なんとなく異様な雰囲気を感じて、ヒイロは目を覚ました。
 体を起こせば、向かいのベッドに眠るデュオの様子がおかしい事に気づく。
 とりあえずは、ちゃんと様子を伺う為に、起きて彼のベッドの傍まで近づいて、その顔を覗き込めば……。

 「っツ……」

 固く掌を握り締めて、体を丸めて眠るデュオの姿。
 うなされているのか、額からは油汗を滲ませている。
 こうしてヒイロが触れる程傍まで近づいて起きないというのだから、余程精神的に負荷がかかる夢でも見ているのか。…どちらにしろ、まずは起こさなくてはならないと思う。

 「デュオ…」

 声を掛けて肩に触れれば、その肩をビクリと跳ね上げて、途端、デュオの瞳がハッキリと大きく開かれる。
 ただ、それでも本当に覚醒をしたというのとは違うようで、開いた瞳が恐ろしいものでも見るようにヒイロに向けられた。

 「デュオ?」
 「………っ…あぁ…ヒイロか…。」

 それでもすぐに気づいたようで、ヒイロをヒイロと認識すれば、その瞳がゆっくりと緊張を解いてく。

 「悪ィ…俺…うなされてたか?」

 そういって、笑顔を向けるデュオ。
 額にはまだ汗を浮かべたままで。
 その笑顔は優しげで…恐らく、彼が誰からも好かれる理由の一つ。
 でも…今はその笑顔がとても腹立たしくて。
 何故、そう思うのかもわからない。別に彼に向かって何かを怒っているわけでもないのに。

 「本気でごめん。お前寝たの遅かったんだろ?起こして悪かったな。」

 深刻な時程笑って誤魔化そうとする、彼の笑み。
 彼が、自分に対してそんな顔をすることが…腹立たしい。いや、悔しいのだ。
 一緒に暮らして、互いに傍にいる事を許して、きっと他の誰よりも自分は彼に近づいたと思う。…けれど、彼はまだ何か、本当に苦しい事は、自分に隠している。
 確かに、自分も彼の立場であればそうするだろう事が分かるからこそ、悔しい。
 頭で分かっている分、言い出せない自分が悔しい。
 自分も、彼も、結局は他人なのだと認識する事が……悔しかった。

 それでも。

 「デュオ…。」
 「なんだ?」

 即答で返される言葉に、却って口が開かなくなる。
 今迄なら、彼のいいたくない事は聞かなかった。
 お互いに言えない一線を引く事は、自分たちのような人間が共にいる為に必要な条件であった。
 けれど、もし、その線を越えてしまえば。
 何かが…変わる、のだろうか。

 「何か…あったのか?最近、お前は様子がおかしい。」

 聞かれたデュオの顔が、一瞬だけ、強ばる。
 けれどその顔は、すぐに昔良く見た茶化すような笑みに取って代わる。

 「なんだー心配してくれんのかよ。やっさしーヒイロさん。嬉しいなぁ〜。」

 その明らかに作ったように見える笑みは、彼なりにこちらに対しての牽制だった。
 これ以上は踏み込むな、と。
 わざとらしい笑みの中、笑っていない目だけがそういっている。
 冗談のような言い方は、都合の悪い話をなかった事にするための彼の上等手段だ。
 けれども。

 「そうだ。お前を心配している。」

 たとえ彼にとっては冗談でも、真剣に答えてしまえば、それはないものに出来なくなる。
 予想通り、デュオの顔から笑みが剥がれ落ちて、顔には表情らしい表情が無くなる。
 けれども、もしかしたら怒り出すかもしれないと思った彼の反応は静かなもので、ただ、悲しげな瞳を自分に対して向けてくるだけだった。

 「デュオ?」

 何もいって来ない彼に、不安になる。
 名を呼べば、彼は今度は力なくはあるが嘘ではない笑みを浮かべた。

 「心配してくれたんなら…俺は本当に嬉しいさ。…でも、お前には言えない。ごめん、ありがとうな。」

 瞳は悲しげで…けれど、嘘をいっていない分、もうこれ以上彼を追求する為の言葉を見つけられない。
 こんな時にどうすればいいのか…どうしたいのか…それがヒイロには分からなかった。
 だから、やはり手を伸ばして、彼を腕に抱きしめて。
 …そうして、彼の体温を感じて、行き場の無くなったこの自分の感情をおさめるしか方法を知らない。
 デュオは黙って腕の中でじっとしている。
 この腕の中に確かに彼はいるのに。…とても、不安で、もどかしくて。
 言葉を何も知らない自分が悔しかった。
 自分が何を求めて、どうすればいいのか…答えはいつも見えない。

 「ごめん…お前には迷惑かけっぱなしだよなぁ…。」

 声には笑う気配さえ含まれているのに、どうしてこんなに自分を不安にさせるのだろう。
 答えが見えなくて、自分が分からなくて…不安の正体も掴めないから、どうすればいいのか途方に暮れる。それでも、考えて……浮かんだ言葉をゆっくりと辿る。

 「迷惑か…迷惑でないかは俺が決める。少なくとも、こうして暮らしてから…迷惑をかけられたと思う事はない。お前が迷惑だろうと思う事が…俺にとっては迷惑でない可能性もある。逆に、お前が俺に迷惑をかけまいとした事が…迷惑の事もある。」

 デュオは抱きしめた腕の中で、溜め息を付いた。
 彼が、言葉を返してくれる事はない。
 けれど、腕を振り払う気配もない。

 「最後に一つだけ聞いておく。…俺に出来る事は?」

 閉じていた目をデュオが開く。
 それから、顔を上げて、ゆっくりと自分の瞳を真っ直ぐに見つめ返してくる。

 「…ない。」
 「そうか…。」
 
 声には明らかに落胆が混じってしまったかもしれない。
 けれども、否定の言葉はあまりにもハッキリとしていて、これ以上彼に聞く言葉は見つからなかった。
 自分では、彼に何もできない。
 何かに苦しむ彼に、何も出来ない。
 だが…。

 「あぁでも、もし、頼めるんならさ。」

 再び目を閉じて、デュオが腕の中、その顔をこちらの胸に押し付けてくる。

 「悪いけど、もう暫くこうしていてくれ。」

 そういって、デュオは声も出さず顔も見せずに、縋り付くように体を押し付けてくる。

 そうして、気配だけで、彼の異変を知る。
 彼は、涙もなく、鳴咽もなく泣いていた。
 それから小さく…本当に小さな声で呟いたのだ、ごめん、と…。


 ヒイロはただ、いわれた通りデュオを抱きしめる事しか出来なかった。
 彼の為に出来る事はそれだけだった。
 彼の苦しみに何も出来ない、ただ見ているだけの自分に、ヒイロは、自分が無力だという事を感じるだけだった。





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