いつまでこのペースが続けられるかな…。



 3.

 時計台の下で。
 そこが、待ち合わせる時のいつもの場所。
 デュオは、仕事の帰りに、ヒイロは学校の後のバイトの帰りに。
 とはいっても、ここのところ、どちらも忙しくて待ち合わせして帰るなんて事は出来なくなっていたからか、いつもの時間であるのに、もう完全に陽は落ちて、辺りはすっかり暗くなっている。
 そして、まるでその分を人工の光で補おうかでもするように、街路樹や建物の柱等にとり付けられた電飾が、街を色とりどりの光りに浮かびあがらせていた。

 そういえば…もうすぐクリスマスか。

 すこしばかり時間に遅れた足を急がせながら、ヒイロはふと思う。
 目に入るショーウィンドウには、赤と緑のお約束の色合い。
 となれば、あれから一年。そして、自分たちが一緒に暮らしはじめてからも…もうすぐ一年になるという事だ。
 マリーメイアの乱が終わってから程無くして、暮らしはじめた自分たち。…探すべき答えは…まだ、見つからないが…。




 いつもの場所、約束した時間よりも少し遅れて、ヒイロは着く。
 予想通りに、彼の姿のない事に苦笑して、そのまま時計台の下の壁に寄りかかった。
 そういえば、他人を待つ、などという事もかつての自分では考えられなかった行動かもしれない。
 今迄自分が通ってきた道は、待つ事なんて許されなかったから。そんな余裕のある時などなかったから。
 一つ息をついて、ヒイロはぼんやりと視線を定まらせずに、辺りの大まかな風景を眺める。けれどそれはほんの数分の事で、視界に映った三つ編みの少年の姿に、視点はすぐに固定された。

 「悪いな、おくれちまってさ。」

 謝ってくるその姿をちらりとだけみて、ヒイロはすぐに歩きだす。

 「おいっ、ヒイロっ。ンな怒るなよっ。」

 デュオが急いでその後を追いかけてきた。
 けれどヒイロは足を止めない。ただ、振り向きもしないで、でも、彼には聞こえる程度の声で呟いた。

 「別に、怒っていない。俺も今日は遅れてきたから、あまり待ってもいない。」

 いってから、背後でデュオが息をついたのが分かって、そこでやっとヒイロは彼を振り返る。デュオは少しだけ驚いたように目を見開いた。

 「ただ、時間が予定より遅れているのは確かだ。買い物をするにも急がないと店が閉まる。」
 「だな、了解♪」

 にっと笑う彼の顔につられて、思わずヒイロの口元にも僅かな笑みが浮かぶ。
 …こんな生活が楽しいだなんて、自分も随分丸くなったものだ、と。思った途端、口元の笑みは自嘲とも苦笑とも取れない複雑な要素も含んでしまう。
 デュオはヒイロの横に並んで、二人共にイルミネーションの通りへと足を進める。
 けれど、その時。

 カーン、カーン。

 時計台が午後8時の鐘を慣らした。
 同時に、時計の下にある小さなボックスが開いて、中から電気仕掛けの動物達がジングルベルの演奏を始めた。道行く人たちの視線もそちらへむけられ、それにつられるように、デュオの顔も時計台の方へと向けられていた。

 「もうすぐ、クリスマスか…」

 呟いた一言。
 先ほどヒイロも思った、何でもない筈の言葉。
 デュオは、回りの人々と同じ、人形達が奏でるジングルベルを聴いているように…でも、視線は人形達を見ずに、どこか遠くへとさ迷わせていた。
 そして、ほんの一瞬だけ、悲しげに眉を寄せてから…。

 「急ごうぜ、ヒイロ。」
 
 すぐに笑顔を浮かべてヒイロに振り返る。
 ヒイロは何も言わなかった。何も聞かなかった。
 けれど、自分の中の予感が確信に変わるのは分かった。

 何も言わないなら、何も聞かない。
 彼と自分の関係は、そうなのだろう。
 けれど、何も知らないままなにはする気はないと、ヒイロは心の中で誓いのように強く思った。





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