次で最終話なのですが…。実は左手の小指を軽く突き指してしまいました(TT)。
ローマ字打ちでは「a」がすぐ打てないのが辛い…。
最終話UPはちょっと遅れて24日夜か25日に…出来る…かなぁ…うぅ、キーボード打ちづらいー(泣)




 11.

 「おー、やっぱごーかだなぁ。」

 屋敷について、部屋に通された途端、デュオは喜んで部屋の中を見回して歩いた。
 毛足の長い絨毯、大きな窓、大きなベッド。
 部屋は広くて、この1部屋だけでヒイロと住んでるアパートの全部の部屋が入ってしまいそうだ。

 そう、…あの部屋はもっと狭くて、…でも二人で暮らしたいろいろなモノが詰まっていて。…自分がヒイロと一緒にいたという証拠がたくさん…残っている。
 もう、あの部屋に帰る事はない…。

 柔らかで座り心地の良いソファに座り、一息つく。
 そのままぼんやりと部屋を眺めながら、急激にはしゃいでいた気分が引いて行くのを感じていた。

 ここはすごくいいところだけど。
 でも、最後の間際までは…できるだけ、ヒイロと暮らしていたあのアパートにいたかったかな、と。…思いながらも、首を振ってその考えを振り払う。

 とりあえず、ここへ着いた途端迎えてくれたトロワには、久しぶりに会えて嬉しかった。
 おエライさんのパーティへ出るカトルと、警備の仕事が入っている五飛は、25日に着くから…絶対に会える事はない。

 気づかれたら、怒るだろうな。
 カトルも、五飛も、トロワも…ヒイロも。

 暗示が発動したら自殺をするという事が分かっていても、実際、どんな状態になるのかはわからない。自殺方法が自分で選べるくらいに意識が残っていれば、死体を残さない死に方も出来るだろうけれど……流石に、今回ばかりは、自分で自分がどうするか保証できなかった。自分の意識がまるきりなくなって、頭を銃で打ち抜いたりなんて事になれば、彼ら…特にカトルには迷惑を確実に掛ける事になる。

 ポールは飛び降り、アンナはナイフで喉を一突き、ジャックは銃で頭を撃ち抜いたんだっけ?

 物騒な事を指折り数えて、溜め息を付く。
 自分の死に方がどうなるかなんて、想像していて楽しいものじゃない。
 けれど、一人になってしまえば、最近いつでもその事しか考えられなくてなって、いい加減うんざりする。こんな事考えるくらいなら、さっさと終ってしまえばいい。
 …尤も、とうとうそれももうすぐだけれど。
 予定の日は、明日の夜。23日の夕方か…遅くとも24日に日付が変更されるその1時間前には、なにかしらの理由をつけて屋敷を抜け出さなくては。いくらなんでも、ヒイロやトロワに見られる場所で死にたくはないし、この屋敷で死んだら、カトルに迷惑がかかり過ぎる。
 
 「予定がくるっちまったよなぁ…。」

 くるべき日の為に、考えていた死に場所はあったのだけれど。
 23日になった時点で、何食わぬ顔をして、出て行こうと思っていたのに。
 だって…彼らに…特にヒイロだけには絶対に、自分の死んだところだけは見せたくなかったのだから。

 「…っ、やべぇ。考えても気が滅入るだけだな。」

 今更もがくつもりもないから、後、自分が望んだのは、この残された少ない時間を楽しく過ごす事。
 それなのに、ぼーっと何もせずに、考えても意味のない事ばかり考えているのは、時間が惜しい。
 せっかくここには、会う事が嬉しい人間が他にいるのだから。

 ソファから勢いをつけて立ち上がって、意識して軽い足取りで部屋を出る。
 デュオが割り当てられた部屋は2階。とりあえず、ヒイロの部屋は隣りだったかと思って、ノックをすれば返事はない。ドアを開ければやっぱり留守で、少しがっかりしながらも、恐らくトロワと話でもしているのかと、彼らの姿を探す事にしてみる。
 古い映画で見たような、細工の施された木の手すりに触れながら、一歩、一歩、絨毯の敷かれた階段を降りて行く。
 これだけ毛足の長い絨毯の上では、ゆっくり降りれば足音はまるでたたない。
 だから。
 背の高い手すりの向うに、ヒイロとトロワの見える場所へ来ても、彼らはデュオに気づかなかった。

 何、話してんだろ?

 残念ながら、声は殆ど聞こえない。
 ただ、二人ともやけに深刻そうな顔をしているのが、妙に気になる。
 それでも、普段のデュオなら、信頼する友人である彼ら二人のプライベートな会話には、無視を決め込んでいただろう。
 けれど、今は…もしかしたらという思いがあるから。
 軽くしゃがんで手すりに隠れ、じっと…話す彼らの口元を見て、その唇を読む。
 
 『…の為、門のコードは変更しておいた。』
 『薬は何時?』

 …まさか。

 『できればすぐに。俺がアイツの部屋に行く。』
 『暗示の発動は、ぴったり0時0分なのか?』
 『あぁ、俺が調べた…』

 デュオは、自分の手すりを掴む手が震えてくるのが分かった。
 知っていたのだ、彼らは。
 知っていたのだ、デュオの暗示の事を。
 ならばおそらく、こうしてパーティという名目でここへ連れてきた事さえ、彼らの計画なのかもしれない。

 「ちっくしょお……。」

 震えるまま、デュオが手を握り締めた。


      ************


 「デュオ?」
 「おー♪ヒイロ、いいとこきたな、お前も付き合えよー」

 部屋に入ってきた途端、ヒイロは訝しげに顔を顰めた。
 それも当然だろう、この屋敷に来て部屋に通されて、まだ1時間も経っていないのに、すでに酒で酔っ払っている相手をみれば。
 
 「デュオ…酔っているのか?」
 「ん〜?あぁ、ちょぉっとな。ほら、そこにこれ見よがしに飲んでくださいって感じに置いてあったからさー。こりゃ拝借しちゃってオッケーかなって。」

 溜め息をつきながら、ヒイロが近づいてくる。
 デュオはソファに座ったまま、手に持っていたグラスに口をつけた。

 「デュオ、いい加減にしろ。」
 「えー何だよヒイロー、付き合いわりーィ。お前も飲もうよぉ。」

 近づいてきたヒイロに抱き付いて、その服に頬を摺り寄せてみたりして。
 ほらほらと、そのまま服を掴んでひっぱれば、ヒイロは仕方がなさそうに、目線をあわせる場所までしゃがんでくる。

 「おーヒイロさん。アップで見るとやっぱいい男。」
 「デュオ、ばかな事は…。」

 いいながら、ヒイロは手に持っていたグラスを取り上げる。
 だからその隙に、デュオはヒイロの顔を両手で掴む。
 それから、その固定した顔に自分から口付けて…。
 口に含んでいたアルコールを、彼の口内へ無理やり流し込んだ。

 「………ッ…。」
 さすがのヒイロもそれには驚いたらしく、彼の手は反射的にこちらの腕を掴んでくる。だが、それも所詮酔っ払いの行動と諦めたのか、彼は大人しく口内に入ったそれを飲み込んだ。
 それを確認して唇を離す。

 ヒイロの、怒っているような、でもどこか辛いような表情が目に入って、少しだけ胸に痛みを覚えたけれど…。

 「よぉし、ちゃんと飲んだなーぁ。」
 「あぁ、飲んだ。付き合ってやったからな、満足か。」
 「おぉお、よしっ。満足満足〜ヒイロさん大好きっ♪」

 酔っ払いをあやそうとしていたヒイロの手が、一瞬止まる。
 だがすぐに、彼はなんでもないように、こちらの手からとったグラスを、テーブルの端の手が届かない場所に置いた。

 「デュオ……。」

 溜め息のように吐き出された、自分の名。
 彼の声で、こんな風に呼ばれるのは、とても好きだった。
 最後だと思うと、泣きたくなるくらいに。

 ヒイロがゆっくりと、何か恐れるものでも見るみたいに、こちらの顔に視線を合わせてくる。
 深い、深い彼の青い瞳は、今、自分だけを見ている。
 みたこともないくらい、今の彼の表情は不安そうで、何処か苦しげだった。

 ……なぁ、俺が死ぬかもって知って、お前は何て思った?

 酷く弱々しげな瞳で見つめる彼に、そんな言葉は残酷だろうけど。聞いてみたいと思っただけだから、神様も許してくれるだろう。
 じっと、何かをいいそうにこちらを見つめて…でもいわない、いえない、…そんな彼が愛しくて。
 手を伸ばして、自分から抱き付いて、思いきり彼の体温を感じる。
 …最後に、覚えておく。
 
 「…嘘じゃねぇよ。本当に…俺…お前が好きだったんだぜ…。」
 「デュ…オ…?」

 抱き付いて、彼の肩に顔を埋めて。
 …でも、抱きかえそうと上げられた彼の腕が、自分を抱きしめる事はない。
 こちらの腕の中、彼の膝が力無く床に落ちる。

 「ごめん、ヒイロ。お前はこんな言葉いらねぇとは思うけど…ありがとな。それから…本当に、俺、お前の事が好きだったから…。」

 腕を離せば、床に崩れ落ちる彼の体。
 使ったのは、ヒイロがデュオの為に用意した薬だ。それならば、同じ薬物耐性のある彼自身にもまた効くものだろう。
 だからデュオの狙い通り、ヒイロは床に倒れている。
 けれど、僅かに力を残した瞳の青が、自分を真っ直ぐに見詰めていた。
 責めるように。
 尋ねるように。
 …酷く、苦しそうに歪められて、でも、これ以上なく、きつく、強く。
 だれよりも強くて真っ直ぐな、一点の濁りもない彼の瞳。

 「デュ…ォ…俺…は…。」

 その瞳さえ、全て瞼に覆われたのを確認してから、デュオは一つ大きく息を吐き出した。

 「…ったく…馬鹿だなぁお前…。俺の事そんなに信用しちまってさ…。」

 毒薬だったらどうすんだ、なんて呟いては見たものの…。眉を顰めて眠る彼を見れば、その声だって震える。…目元も熱くなってくる。
 わざと軽口をかけようとした唇がわなないて、唇を噛み締める事しかできなくなる。


 「ごめん…ヒイロ…。」

 それでも、その一言だけを眠る彼にかけて。

 デュオの姿は部屋から消えた。
 残るものは、ただ、重い静寂だけ。
 窓の外は、既に完全な夜の風景だった。






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