回転扉<9>




解決編2であり起承転結の「結」の2。
…しかもこれでまだ全部解決してません(TT)
見直したら、10で終わるかと思ったらエピローグ入れると11まででした…。
なんでこんなに複雑な話になったんだろう…これ…。
あと解決してないのは、何と何か……分かります??
あ、後、今回はHシーンあるので注意ね(^^;;






******************

 「まず第一に、結局、お前の本当の目的は何だったんだ?…何の為に、奴等の仲間のふりまでして、この件に関わっていたんだ?」

 デュオはじっとヒイロを見つめる。
 ヒイロは、それでも、瞳を揺らしもせずに、じっと彼もまたデュオを見つめ返してくる。

 「それは、この間もいったな。…お前が、この件に関わっていたからだ。」

 あまりにも強い瞳、今は自分の方が彼に問いただしている筈なのに、何故かこちらのほうがとがめられているような気さえしてくる。
 あの、瞳を真正面から見つめる事が、苦しい。

 「お前は、プリベンターの依頼で働いている…筈だった。」

 吐き出すようにデュオは呟く。だが、ヒイロはそれには平然と答える。

 「確かに、この件については、向こうからの協力要請があったとはいった。だが、俺は一度も、それを受けたとはいっていない。」

 なぜ、今、自分は追いつめられているような気がしてしまうのだろう?

 「でも、結局はプリベンターに知らせることにしたんだろ?だったら何で、すぐに向こうに知らせずに、あんなまだるっこしい手を使って…あれじゃぁ、お前だって危険だった筈だ。さっさとプリベンターに協力要請しちまえば、お前にとってはそれで済んだ話じゃねーのか?」

 デュオの言葉に、ヒイロは少しだけ苛立ちを声に含め出した。

 「それをいうなら、お前の方がさっさと向こうに連絡をしてれば済んだ話だな。」
 「だって俺は…ハンスの…死んだハンスの望みを叶えてやりたかったから…でもお前にはそんな事情関係ないだろ?」

 その言葉にヒイロはぴくりと眉を寄せる。
 
 「関係ないだと?」

 それでもまだヒイロの表情は変わらない。
 けれども、声は低く、怒りの色を多分に含み出して、デュオは思わず身構える。

 「お前が、単独で動いていたのに、そうして奴らを捕まえるだけじゃない目的があると思ったから、俺もそうしなかったと、お前は思わないのか?」

 声だけなら、ヒイロの平静さは既に無かったかもしれない。
 けれども顔だけは、じっといつも通りの冷たい無表情でただこちらを睨みつけてくる。
 デュオはそれのプレッシャーを押しきるように声を張り上げた。

 「なら…なんでっ、俺に何もいわなかった?俺に黙って、奴等と接触をとって…いや、俺に黙ってただけじゃないよな、お前は明らかに俺に隠そうとしてた。…なんでだよ、いってみろよッ。」

 そうして初めて、ヒイロの瞳が、動揺を映して揺れる。
 悲し気に、けれども、まるで慈しむように、自分の姿をあの奇麗な蒼の中に映す。

 「分からないのか?」

 苦しそうだ、と思った。
 見たこともないほど、今、ヒイロの表情が苦しそうだと。
 いつでも強かったあの瞳が、驚くほどに、弱く、苦しげだと。

 「分からないね。」

 挑戦的に睨みつければ、それだけで今、ヒイロが傷ついたのが分かった。
 それでも彼は、瞳を逸らしはしない。
 彼は、逃げない。
 …自分は逃げてしまったのに。

 「お前を、俺がどう思っているかはいった筈だ…。」
 
 ヒイロの呟きは、静かだけれど、苦しげで。
 それに引きずられそうになるから、殊更に、声が大きくなってしまう。

 「俺の事を好きだって?だから、俺に関わらせないようにして、お前だけで解決しようと思ったとでも?」
 「…あぁ。」
 「俺の為に、奴等に協力したふりをして、俺の為に、今回の件に関わっていたっていうのか?」
 「…お前が…巻き込まれるのが分かっていたから…。だから俺は…やつらが協力するよう、接触を取ってきた時に承諾した…。」

 彼らしくない歯切れの悪い声、だけれど目だけは自分をずっとみつめている。
 彼は、強かった。
 確かに、強かった。
 同じGのパイロットでありながら、今では自力で正気を保つのさえ難しくなった自分にくらべ、彼は自分の力だけで今も立っていられる。
 …そんな彼に、自分は結局すがってしまうくらい…彼は、強かった。

 「俺は、お前に守られるつもりなんてないね…。」
 「分かっている。だが…、」

 ヒイロに言葉を続けさせずに、デュオは声を張り上げる。
 自然、唇が引きつるような笑みを浮かべて、笑い声さえ出そうになる。

 「あぁ、お前は強いさ。そして、俺は今、お前に心配されるくらい弱いさ。お前は気付いてたもんな、俺がおかしいって。確かにそうだ、俺はおかしい、マトモに戦える状態じゃない。自分の身を守るのさえ、致命的な程にやばいさ。今の俺なら、お前にとって、確実にただの重荷になれる自信があるくらいな。…だから、お前が、俺を関わらせない方がうまくいくと考えたのは正解だ。」

 自分は、何が恐かったのだろう。

 ヒイロとの事を、ちゃんとけじめを付けようとして、結論を出す事が恐かった。
 彼の真実を知るのが恐かった。
 それが何だったのかはわからない。
 けれど、今はもう、どうでも良かった。
 彼が裏切ったかどうかより、それよりも、惨めで、苦しかった。
 既に、自分の中にあった守ろうとしていた何かは、砕け散ってしまったから…もう、何も怖くなかった、ただ苦しくて…早く彼と別れたかった。

 「何をいっている?デュオ…。」
 
 ヒイロが困惑を見せて、こちらへ近づこうとする。
 触れようとしてくるのを目で制して、一歩彼から離れてから言葉をぶつける。
 
 「本当の事をいってみろよ、ヒイロ。全部俺の為だったって?くだらねぇ嘘いってんじゃねーよ。あそこまで徹底して、俺をあの件から排除して、奴等の中にまで潜り込んで…それが全部俺の身を案じてなんて理由じゃあ、あんまりにも不自然すぎる。あれだけの事やって、それがただ単に俺の為にお前個人の感情が理由で動いてたなんて、どう考えてもわりにあわねぇし、大袈裟すぎるぜ。……なぁ、本当はお前には、もっと別の理由があったんだろ?プリベンターじゃないなら、あのお嬢さん直の命令か、それとも、昔お前が関わっていた組織からの命令か…お前のやってた事は、たかだか、俺一人の為にする事じゃねーんだよ。」 

 いいきって顔を上げる。
 涙を堪えるために笑う。笑い声を上げる。

 「…デュオ…。」

 絞り出すようなヒイロの声は、明らかに、怒って…いるのだろう。
 けれどもだめだった、自分には彼を信じきる事はできなかった。
 何度も何度も、信じられる、信じようと思っても、やはり信じられなかったのだ…きっと。

 「じゃぁな、ヒイロ。」

 いって背を向ける。
 地球でのやるべき事はすべてやった。明日にはコロニーへ帰ろう。
 …もう、ヒイロに会うこともなく。

 けれど、部屋を出る前に、腕を掴まれて、有無をいわさぬ力で引きとめられた。

 「なんだよっ、まだ用が…。」

 振り返って、だが言葉は唇を塞がれて途中から音を失う。
 腕を力任せに掴まれて、もう片方の腕でこちらの体を引き寄せて、逃げる事も出来ない状態で、深く、唇を合わせられる。
 丁寧に、…彼が怒っているのは分かるのに、絡めてくる舌の動きは優し気で、それに身を任せてしまいそうになる自分の体がいやだった。

 「はっなせよっ…」

 力を振り絞って、唇をどうにか離す。
 けれどもちろん、体はヒイロにがっちりと捕まえられているから、彼をつき飛ばして、逃げる事は叶わない。
 まっすぐ、自分を睨むように見下ろしてくるヒイロの瞳は、やはり、怒りに彩られて。
 その瞳を、間近から見なくてはならない事が耐えられなかった。

 「なぜ…お前は分からない。」

 蒼の瞳が浮かべるのは、明らかすぎる怒り。…けれどまた、その中に見ているだけでこちらが苦しくなるほどの痛みもある。

 「俺はいった、お前は俺を利用してもいいと。お前の為に俺がする事は、俺の意志でお前が気にする必要はないと。…俺は、お前に頼られるのが嬉しいんだと…いった筈だ。」
 「俺は、助けてくれとも、守ってくれともいった覚えはないね。」

 茶化すようにそう返せば、ヒイロはますます自分を強く見つめてくる。

 「お前の為にやる事なら、あれくらい、俺にとって割のあわない事じゃない。しかもへたをすれば、今回の件はお前の命さえ危なかった。…それが分かっていて、俺に黙って放っておけば良かったというのか?お前はっ」

 ヒイロは強い。
 彼が泣いたところなんて見たことがない。
 実際、今目の前で自分を睨みつける瞳が浮かべているのは、泣くというものからは程遠い感情であるのに。
 彼は、泣くんじゃないだろうか、と。
 そう思って、思った途端に自分の瞳の方から涙があふれて来た。

 「分かんねーよ。分からねぇんだよ…お前がどう思っているかも、どうして俺の為ならそんなことするのかも…。俺の事を好きだからって?好きだから何だよ?…俺はお前に何にもしてやれないし、絶対お前を裏切らないっていう事も出来ない。お前がどんなに俺の為に何かをしてくれても、俺はお前を最後まで信じることは出来ない…きっと、お前を裏切り続ける…。そんな俺に何を望んでるんだよ、お前はッ…。」

 けれど、言葉は言い終わらない内に、今までヒイロの強靭な腕力で押さえつけられていた体は、今度はベッドに投げつけられる。
 
 「痛ッ…」
 
 ギシリ、というよりもミシリ、と。
 古い木製のベッドは、必要以上の負荷を掛けられて、高い悲鳴を上げた。
 しかも、デュオが起きあがるより早く、ヒイロはすぐにのしかかってきて、それだけの衝撃を計算されて作られていないベッドは、バキリという音を立てて、足の一つが折れてしまう。
 ガクリと、乗っていた二人は体制を崩す。
 だがヒイロは、構わずにデュオを落とされた床の上に押さえつけた。
 
 「てめぇ、何やって…」
 「黙っていろ…。」
 
 重なる衝撃と打撲に混乱しながら、やっとのことで現在の状況が理解できたデュオは、のしかかってくるヒイロの顔を見上げる。
 ヒイロは、不気味なほどその端正な顔から表情を消して、ただ、冷たくデュオを見下ろしていた。
 ヒイロの手が、デュオの服の襟に掛かる。
 そのまま、思いきり引かれる衝撃があって、高い衣擦れの音と共に、上着が見事に引き裂かれる。
 
 「な…」

 信じられないものを見るように、デュオは呆然とヒイロを見た。
 ヒイロは、平然とした様子で肌を晒したデュオを見下ろし、すぐにまた、その上へ乗り上げてくる。
 思わず目を逸らしたデュオの顔を掠めて、その耳元へ唇を寄せる。
 首筋をたまに吸い上げながら舌で辿って、晒された胸を手でゆっくりと撫で回してくる。
 
 「て…めぇの望みは、こういう事かよ、ヒイロ。俺の体が欲しいって?性欲を満たす対象として、俺が欲しいっていうのか?」
 
 声が震える。
 だが、ヒイロは何もいわなかった。
 顔さえ見ないで、ただ、デュオの体をなぞっている。
 
 「ン…。」
 
 胸の頂きに舌を絡ませられて、思わず声が漏れる。
 濡れた感触で煽られていく片方のそこと、乾いた指で痛いくらいに摘まれて擦られるもう片方。何度も肌を合わせた彼の手に、体は簡単に熱を持ち始める。
 やがて、手は、わき腹をなぞって、ジーンズとウエストの隙間へと滑り込んでくる。暫くそこを柔らかに撫ですさって、それから耳に届く音を立ててジッパーをおろしていく。
 
 「ウ…ッ。」
 
 下着を掻い潜って、すぐに手はデュオの中心に直に触れてきた。
 小柄な体格の割りにごつごつしていて大きめなヒイロの手が、そこをやんわりと握り込んだのが分かる。
 掌全体で握られて、でも撫でられて擦られるのは先端だけで。ヒイロは、優し過ぎるほどのゆるやかな刺激を与えてくる。
 そちらの刺激に意識を奪われていけば、忘れた頃に胸の頂きへ歯を立てられて。
 そうして、また両方からの刺激へ強く反応してしまって、体が浮く、腰が揺れる。

 「や…めやがれ…このッ…」

 何時までも胸を嬲るヒイロの頭を掴んで、無理やりこちらを向かせる。
 思ったよりもすんなりと、ヒイロは顔を上げ…そうして、暗い怒りを映した瞳をじっと向けてきた。

 怖い。

 どうしてそう思ったのか。
 何故、背筋に冷たいものが走ったのか。
 何度も、こうしてヒイロと肌を重ねてきたのに。

 目を見た途端何も云えなくなったこちらから視線をはずし、ヒイロは、上体を起きあがらせると、無造作に、ジーンズを下着毎掴んで一気に足から引き抜いた。
 あまりな勢いに、デュオの体も少し引きずられる。
 だが、ヒイロはそんなことも大したことではないのか、表情を少しも変えず、デュオの足首を掴んで、そのまま大きく開かせた。

 「あ…。」

 あんまりだ…と声に出そうとして、唇が動かなかった。
 ヒイロは無造作に、大きく足を開かせたデュオの間に体を滑らせてくる。
 股間同士を近づけて、ヒイロもまた、自分のジーンズのジッパーを下ろして彼のものを取り出してくる。そのまま、上に倒れ込んできて、そうすれば当然、互いのものが触れ合ってしまう。

 「嫌…だ。何…。」

 文句をいって、突き飛ばすことも出来ない…。いや、出来たとしても、ヒイロを自分の力で突き飛ばすことは不可能ではあったろうけれど。
 知っている、ヒイロには勝てない。
 例え、戦時中の、自分が一番戦えたときでも、ヒイロには勝てなかった。

 「くっそぉ…。」

 ずっと認めてはいたけど、悔しかった。
 ずっと身近に感じてきた彼を、自分が怖いなんて思うのは。

 ヒイロの手が、触れあったままの互いの中心へと伸ばされる。
 両方のそれを、擦れあうように握られて、その感触に目を瞑って息を飲み込む。
 ぬめりのある感触、ぬめりのある音。
 嫌だと思うのに、自分のそこは熱を持って煽られていく。

 「うん…やめ…」

 散々煽られて、限界が近づいてくる。
 ベッドから零れたシーツを握りしめて、懸命にその感触に耐えた。
 足が引きつって、筋肉がガクガクと強張る。
 意識せずに腰が浮く。
 唇をかみ締めているのに、甘い声が漏れるのを止められない。

 「クッ…。」

 それでも出来るだけ声を押さえて。だがヒイロのものに合わせられたまま吐き出してしまえば、途端に酷い羞恥心がこみ上げてくる。

 「お前の…」

 呟くような声が僅かに聞こえて、デュオは息を整えながら、自分の肩口に俯いたままのヒイロを見た。

 「お前の、体が欲しいだけなら…こうして…俺はお前を無理矢理にでも抱けば良かった…。……だが…そうじゃない…それだけじゃないんだ…。」

 殆ど抑揚のない、平坦な声が、自分の肩に向けて落とされる。
 それからゆっくりとヒイロは顔を上げて、彼を見ていた自分の瞳と瞳が合わさる。
 今の彼の瞳には、怒りはなく。
 悲しみと。
 慈しみと。
 静かな感情をその動かない瞳に乗せて、じっと、ただ見下ろしてくる。

 …まだ、怒りのまま犯されたほうが、数倍マシだと思った。

 だって分からない。
 何故まだ、彼がそんな顔をするのか。
 とっくに、彼は自分を見限ってしまって良いはずなのに。

 「デュオ…。」

 もう一度、名を呼ばれて。
 ゆっくりと瞼を伏せると、ヒイロの顔が近づいてくる。
 静かに、静かに。…そっと唇同士が触れ合って、押し付けられて。
 互いにどちらともなく、唇を開いて舌を絡め合う。
 角度を変えて、深さを変えて。
 離しては合わせて、何かを伝えるように唇だけを求め合う。

 自分の中では、押し上げるように、感情の高ぶりが沸きあがってきて、…ヒイロにもっと触れたくて感じたくて、その体に手を伸ばした。…その背を抱きしめた。
 舌がしびれるくらい、何度も触れ合って感じあって。
 そうしてやはり、どちらともなく唇を離せば、驚く程落ち着いた自分の感情を実感できてしまう。

 ヒイロは、いつもキツイ蒼の瞳を、僅かに…まるで少しだけ笑みを浮かべるように…細めて、自分をじっと見つめていた。
 それから手が伸びてきて、前髪を払われて。頬をゆるやかに撫ぜてくる。

 「好き、という感情は…俺もよく分からない。」

 呟くように。考えるように。ヒイロは静かに声を紡ぐ。
 不思議と、今はヒイロの言葉を、穏やかな気持ちで聞く事ができた。

 「だが、多分、お前に対する気持ちはそうだと思った。俺にとっては、お前が誰よりも大切で、誰よりも欲しかった。お前の為なら、何をしてもいいと思ったし、何を捨てても構わなかった。……そうやって、お前が欲しいと思うと同時に、お前に与えたいと願う事が…人の愛情、というものではないのか?」

 真剣な瞳は、表情を映していないのに、酷く悲しげだと、そう思う。
 …いや、きっと本当に彼は悲しいのだ。悲しくて、苦しいのだ。…自分が、彼のことをわからないのが…分かろうとしないのが。

 「お前の体を欲しいと思う。いつでもお前を抱きたいと思っている。けれど、それを俺がお前にしたことの見かえりとして要求するつもりはない。お前から返されるものがあれば…俺は嬉しいと思うが、何も返されなくても構わない。お前が何も返せなくても、お前は俺からのものを受けとっていいんだ。…それともお前は、それさえも俺に許せないほど、俺を嫌っているのか?」

 苦しげな声。悲しくて辛そうな顔。いつでも強かった彼が、酷く弱く見えるほどに。
 …こんな弱い彼は見たことがない。…何故?

 壊レテシマウ…。

 ヒイロを信じて、裏切られたら…自分は壊れてしまうと、そう思った。
 他の誰よりも信じたくて、信じていて…でも、信じる切ることが怖かった。…だから逃げた。
 何故、そんなに怖かった?
 
 ――彼ガ、自分ノ一番欲シイモノヲクレタトイウ事ガ、スベテ嘘ダッタラ…。

 それが怖かった。
 彼が好きだといってくれたから。自分は彼に期待してしまったのだ。
 欲しいモノは手に入らない……いつでもそう思っていたから、いつも全て諦めてきたのに……彼が、一番欲しかった彼が…向こうから自分のものになってくれるといったから…。
 だから怖かった。無理だと思っていたものが余りにもすんなりと手に入って、それはいつでも、すぐに手から零れ落ちてしまいそうに感じたから。
 初めて手に入れられた本当に欲しかったものだから、いつでもこの手にあるのが怖かった、それくらい――……。

 本当は、ヒイロが欲しかった。

 彼の傍にいたかった。
 彼の為に、自分は何をしてもいいと思っていた。
 かつて自分は、彼に体を許してまで傍にいたいと思ったから、抱かれたのではなかったか?
 自分から、彼へと与えようとしている時は怖くなかったのに…彼から与えられる事が怖かった…彼から与えられたら、それに何か返さなくてならないとそれだけで焦って、彼の気持ちを考えようとはしなかった。

 だから本当はわかっている。
 「好き」だという事が、彼のいう通りの感情なら、きっと、自分はもうずっと前から…。

 「…好きだよ、ヒイロ。」

 ヒイロの瞳が驚きに大きく見開かれる。

 「本当は、きっとずっと好きだった。」

 でも、それに気付きたくはなかった。
 「好き」だなんて感情は、きっと一生もてないと思っていた。…そんな気持ちは知らなかった。気持ちに引きずられて、弱くなる事が許せなかった。
 …本当は、おかしくなっていく自分を、引きとめる為に彼を頼った時点で、認めてしまえば良かったのかもしれない。
 弱みを見せようと思えた事は、自分にとってどんな意味を持つか、考えれば分かるはずだった。

 けれどずっと認められなかったのは、彼に対して、自分が嫉妬していたからだろう。
 彼の強さがうらやましくて、まぶしくて、…悔しかった。
 対等になれないから、卑屈になっていたかもしれない。

 「デュオ…。」

 声だけで彼が嬉しいのだというのが分かって、自分も暖かい気持ちになる。
 顔を近づけてきたヒイロの頭を、今度は最初から抱え込んで、自分からも彼の唇に近づいて行く。
 ゆっくりと、だんだんと深くなっていくキスに、うっとりと瞳を閉じて。
 ただ、気持ちさえもが交わされたようなキスを感じる。

 唇を離すと、今度はにっと、唇に笑みを浮かべてヒイロを見上げた。
 それから、ベッドからこぼれたシーツをぐいっと引っ張って、その上に乗ると彼に向かって手を伸ばした。
 
 「ほら、やるんだろ?…見返りのつもりで要求しねぇっていっても、やりたい事はやりたいんだろ?…無理矢理じゃなくてさ、俺からも求められて…やりたいんだろ?」

 一瞬ヒイロは、面食らったように目を見開いた。
 だがすぐに、彼も唇に呆れたような笑みを乗せると、上着を脱いで、こちらの胸に彼の胸を押しつけ、キスをしてくる。
 深いけれど、今度は少しだけ舌を絡めてすぐに離して。
 変わりに、ヒイロの剥き出しの胸と自分の胸が直接合わさって、深い安心感のような心地よさを伝えてくる。

 「デュオ…。」

 名を呼んでくれる彼の声も、こちらの肌を震わせて。
 優しい手が、静かに再び互いの中心へ降りてきて、もう一度軽く擦りつけるように触れられる。
 濡れた音に、今、彼の手に握られたものはすぐに反応を返してしまって。
 けれどヒイロは、すぐにそこから手を離して、指をもっと奥の…いつも彼を受けいれる場所へと伸ばしていく。
 ごくりと、唾を飲み込む。
 ゆっくりと、体の中へ埋め込まれていく指の感触に耐える。
 広げられる、そこの感触と、自分の中が彼の指をキツクぴっちりと咥え込んでいることを実感できてしまう。
 指は小刻みに出し入れされたり、時折ずっと奥まで入り込んできたりしながら、内部をかきまわしていく。
 だが、気づかない内に、その指に合わせて自分の腰さえもがゆらめいているのを感じて、…あまりの恥ずかしさに、見下ろした瞳で自分の様子を見ているヒイロに抱きついていった。

 「もぅ、いい…。…こいよ…。」

 恥ずかしかったから、声は小さく。
 けれどヒイロはすぐにわかって、態勢を変えてくる。
 足を押さえて、大きく開かせて、手で彼自身のものを支えながら、こちらに押し付けてくる。
 既に彼の指を抜かれた箇所に、塗れたものの感触。
 最初はまるでその周りを触れるだけのように…けれど、その内に少し力を入れられて、それが自分の入り口の中へ入り込んでくる。
 少しだけ、ひっかかるように先端が内部を押し広げて、…だんだんと強くなる押す力に合わせて、内部へと少しづつ深くへ。
 ぐっと、大分入ったところで、ヒイロが強く腰を突き上げた。
 そうすれば根元まで全てが自分の中へ収まったようで、酷い圧迫感をそこから感じる。
 けれどまた、そうして目一杯に中を満たされることは、ゆるやかな快感を自分に与えて。
 いたいけれど、苦しいけれど、じわじわと甘い疼きのような快感が広がっていく。
 それに耐えられなくなって、自ら腰を揺らしてしまえば、すぐにヒイロが動き出して、疼くように広がっていた快感は、直接的な強烈な感覚へと取って代わられた。
 
 「ウ…ア…ハァッ…」

 揺れる体に合わせて声が漏れる。
 勢い良く、彼が奥にまで入り込むたびに、大きな声で叫んでしまう。
 動きが速くなる、それどころか突き上げるリズムもめちゃくちゃになって、彼も余裕がないのが分かる。
 肉の当たる音、互いの荒い呼吸音、時折漏れる粘膜質な音。
 その全てが、欲望に繋がって、快楽を煽る。
 ぐいぐいと押されるように、目一杯広げられた場所の更に奥へ入り込まれて、そこで彼は熱いモノを吐き出した。
 熱い、熱い、彼のものが驚くほど自分の奥へとたたきつけられて、背筋を震わせる。
 その所為で体の下半身に溜まる熱が限界に達して、自分もまた再び吐き出していた。

 「好きだ、デュオ…愛している…。」

 呟いて、キスを落としてくるヒイロに、だから少しだけ微笑んでみる。

 「まったく…もの好き…な奴だよなぁ…。」

 後は少し疲れてしまったから。
 最後にされたキスは、触れる前に目を閉じて。
 離れてからも、目を閉じたままでいた。






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