回転扉<8>




解決編…というか起承転結の「結」の1。
とりあえずこれでかなりの謎はとけてる…かな?…しかし今回伏線張りすぎと自分でも反省してます。
…ちなみにまだ全部解決してません(^^;;次回にはアレなシーンがやっとあります。
後…この小説、実は某有名映画がベースにあるのですが…分かるかたいらっしゃいます?
もちろん、元からは全然話変えてありますが…部分部分…特に今回のとあるオチがそのためだったり。
一応次回で本編は終わり。+1回分のエピローグがありますので、全部で10になるのかな?





Act8

******************

 「さて、説明してもらえんだろうな。」

 あの後。
 二人で逃げ出した後、あそこへ丁度いいタイミングでプリベンターが乗り込んできた。
 後はその場が制圧されるのを待てば、二人とも何なく脱出する事が出来る。
 
 「何からききたい?」

 いつも通りの無表情で返してきたヒイロの声に、デュオはまず言葉につまった。
 考えてみれば、説明して欲しいことがありすぎて、こちらの方が混乱してきてしまう。
 しかも、ヒイロの方といえば、憎らしいくらいいつものすずしい顔で、それにいらだってしまって余計に考えがまとまらない。
 とりあえず、先程までプリベンター本部にいたから、それがらみの件に限っては、一応説明は聞いている。
 …あの時。
 ヒイロは、奴等に協力して、ディスクの解析をするふりをした。つまり、その為のツールとして立ちあげたプログラムは実はしかけがあって、偽のガンダムの設計図画面を表示しながらも、プリベンターにその場所をしらせるしくみになっていたのだ。
 偽のガンダム設計図の出どころはカトル。いっときでも、元ガンダムを作った者たちの目を欺かなくてはならないから、本物に見える程の出来のものが必要だったという事で。…確かに、カトルなら、既にガンダムに関する資料をすべて消去しているとはいえ、作った事があるのだから、それくらいは可能だったろう。
 だが、結果的にはヒイロはプリベンターに協力したことになったといえ、向こうと連絡を取ったのは、デュオが奴等と会う時、その時ヒイロが呼び出されていく直前だというし、カトルと連絡をとったのもそれよりちょっと前くらいだという。
 …ヒイロが、なんのためにあれだけの手のかかる事をしていたのかは、さっぱり分からない。
 そもそも、ディスクを解析するふりなどしなくても、奴等のアジトがわかっていたなら、最初からプリベンターに場所を教えてしまえばそれで済んだ話ではないか?
 そう、わざわざ、本物のデータディスクを奴等に渡して見せるなんてリスクを犯さなくても…。
 待て。
 ディスクは…。

 「ヒイロッ、お前、ディスクッ。そういや、俺が渡したディスクはどうしたんだ?」

 あの時のエンジニア達…彼らが全員捕まったかどうかは、まだ分かっていない。もし、逃げ伸びた者がいて、あのディスクを持っていったとすれば、話は全然解決していない。

 だが、身を乗り出したデュオに、ヒイロはあっさりと答えた。

 「ああ…あれなら、何も入っていないから安心しろ。」
 「何ィッ?」

 そんな筈はない。
 ヒイロに渡したのは確かに本物だったし、ヒイロがあの時、ディスクを擦り変えたのだって見ていない。
 大声で怒鳴るデュオに対して、ヒイロは少し考えるそぶりを見せた。
 その落ち着きぶりが、彼だからと分かってはいても、やはり頭に血を上らせる。

 「見せた方が早いな。」

 呟いて。
 ヒイロは、机の上に置いてあったノートパソコンを持ってくると、何やら操作をし出した。
 その間、説明は一切なし。ただデュオも、彼が何か、自分を納得させるだけのものを見せられるらしいというのは分かったから、口を開くのを一時的に止める事にした。だが…黙って待ってはいたものの、その間、怒りの吐き出し口がなくて、余計頭に血が上る思いをしなくてはならなかったのだが。
 しばらくして。
 キーを叩く指を止めたヒイロが、パソコンのディスプレイをデュオに向けて見せる。

 「これを読め。」

 表情の読めないヒイロの言葉に不審を露にするものの、デュオは何も言わずに画面を見た。
 そこには、ハンス本人からと思われる文章が表示されていた。
 今回の、全てのキーを解けるだけの内容が…。

 グロスマン家をうけついだものの、そこは借金だらけで、ハンスは屋敷を手放さない為に、金の工面に走りまわっていた。
 そんなある日、彼は奴等と出会う事になる。
 ガンダムの設計図。
 それが、グロスマン家にはある筈だと。それを渡せば彼が必要なだけの金をだそうと、奴等はハンスにそう持ちかけてきたのだ。…そこまでは、デュオでも容易に調べが付いていた。だが…。
 そうしてハンスは、死んだ妻の両親について調べ、屋敷の中、故グロスマン夫妻の関連したもの全てを探して回った。
 だが、…設計図は見つからなかった…。
 それでも、金が欲しかったハンスは、奴等に偽のディスクを渡したのだ。…でたらめなデータに、幾重にもフィルターをかけて、『絶対に中身がわからない』ディスクを作って。
 当然、奴等はハンスにその解析をしろといった。だが、ハンスは、それは見つけた時からそうであったから、自分では解析方法など分からないといいはった。…それで、納得してくれる相手ではないと、彼が気付いた時には既に手遅れで…。ハンスは、後悔した…彼は、追いつめられていた。
 そんな中、ハンスの周辺を調べていた男達は、デュオの存在を知ったのだ。
 彼らには、デュオがガンダムのパイロットである事は分かっている。もちろん、ハンスは知らなかったが。
 だから、その事を聞かされた時…ハンスはデュオに助けを求めようとして、この文章を打ったのだった。
 奴等の方は、ハンスがデュオがGパイロットであるという事を知らなかったと思ってはいなかったから。…きっと、デュオから何らかの協力をえて、ハンスがデータをロックしたと思い込んでいたから。
 それで、ハンスを殺した後で、解析をさせる為に、デュオのもとへディスクを送った。
 奴等が本物のディスクの見分けがついたのは、送ったのが彼らからなら当然だろう。
 
 文章の内容が本当だとすれば、確かに、それでほとんどの意味が通じる。
 ヒイロがわざわざこれをでっち上げたなどとは思わない。
 だが、そもそも、大前提としてまだ問題があるのだ。
 そう…。

 「なんで、お前がこんなの持ってるんだよ。」

 どうみてもこの文章はデュオにあてたものだった。
 文章は全てデュオが読むことを前提としてかかれている。

 いうと、ヒイロは今度は何か小さなものをデュオの前に取り出す。
 それは、鮮やかな絵の印刷された一枚の切手だった。

 「これが?」

 最初、デュオはそれが何の為にだされたものか、理解できなかった。
 だが、ふと、思い出したように、上着のポケットをあさって、出てきた一通の封筒を見つめる。
 封筒は、初めてハンスの家にいくきっかけにもなった、彼からの手紙だった。そして、その表面からは、やはり、切手がはがれ落ちている。
 …集めているヒルデの為に、地球の珍しい切手をいつも使ってくれるベック夫妻。
 デュオは、急いでヒイロの手からその切手を受け取ると、裏返してまで凝視した。…そして、それを見つけてしまった。

 「そこに、このメッセージが置いてあった。」

 切手の裏には、小さな文字で、ネット上のアドレスとパスワード。
 丁寧に「デュオへ」という言葉まで添えて。

 「俺がそれを見つけたのは偶然だ。雨の中、お前が家に来たときに、お前が帰った後に見つけた。」

 ヒイロがいう通り、確かにそれは偶然だったのだろう。
 追いつめられたハンスは、奴等に見つからずにデュオに真相を伝える為、何の変哲もないただの手紙に、そのメッセージのある場所を書いた切手を貼って送った。既にデュオとハンス間のやりとりは奴等にマークされているから、手紙内で知らせる事や、普通にメールで出すのは危険だったのだ。
 切手までは奴等も気付かないだろう、と。
 いつもなら、ヒルデが必ず切手をはがしてスクラップする筈だから、その時に気付くに違いないと、そう思って。
 だが、偶然、その時の手紙は、デュオがそのまま地球に持っていってしまっていた。
 そして、雨の中待っていたデュオは服までびしょぬれで、その時に偶然ポケットの中の封筒から、切手がはがれてしまったのだ。
 その離れた切手は、服を乾かしている間に落ちて、…それをヒイロが見つけたのも、偶然。
 全て偶然の産物。

 それを見て、デュオが面倒に巻き込まれそうな事を知ったヒイロは、グロスマン家を調べ出し出した。そこへ、更なる偶然としては良すぎるタイミングで、プリベンターから、連絡が来た…。

 「偶然か…。」

 皮肉な偶然だとしかいいようがない。
 その偶然のせいで、こんな周り道をしてしまった。
 自分は何も知らず、ヒイロをこの件に巻き込みたくないと思っていたのも、ベック婦人の力になろうなんて思っていたのも、真相を知ってしまえば、単なる道化だ。

 …もし、あの手紙を、いつも通り、事務所ですぐに読んで、ヒルデに渡していたなら。
 …もし、自分が例の状態になってヒイロに会いになんていかなければ。
 すぐにメッセージを読んで、行動を起こせていたなら。

 …ハンスが殺される前に、間にあったかもしれない。

 デュオは重いため息をはき出して、うなだれるように床を見つめた。

 「…グロスマン家には、確かに、ガンダムの設計図がある筈だった。」

 黙ってうつむいたデュオに向かって、ヒイロは説明を補足する。

 グロスマン家は、元々、ピースクラフト王国の一貴族だった。…それも、王家と縁のある、かなりの有力貴族であった。

 そう、だからこそリリーナとも遠縁にあたり、ベック婦人は今、リリーナのところにいるのだ。
 そして、だからこそ、グロスマン家にGの設計図がある筈だった。

 当時、宇宙でコロニーの平和的独立を説いたヒイロ・ユイと、地球で完全平和主義を唱えたピースクラフト王は、公私ともに、互いに信頼関係を持っていた。
 だが、ヒイロ・ユイが凶弾に倒れた後、ずっと彼を推していたピースクラフト王にも危険が迫った。
 王は、ヒイロ・ユイが死んだ後、地球に残るその関係者を、宇宙へ逃がす事を手伝っていた。
 その中には例のドクター達がいて、その時にピースクラフトを案じたドクター達は、王にガンダムの設計図を渡したのだ。…もしもの時は、その制作も手伝うとまでいって。
 だが…王は、設計図を受け取りはしたものの、ガンダムを作る事は拒絶した。
 完全平和主義を唱える彼は、武力によって生き伸びるよりも、滅ぶことを選択するといったのだ。

 やがて、ピースクラフト王家は連合によって滅ぼされる。
 その時、王家に近しい者達は、それぞれ、王から托されたモノを持って逃げのび…。ドーリアンが、リリーナを連れて逃げたように、グロスマンはGの設計図を持って逃げたのだ。

 「その事を奴等は調べあげていた。だから、ハンス・ベックに声を掛けた。…いや、正確には、奴等が最初に接触したのはハンス・ベックではない。死んだ、グロスマン夫妻の方だ。…そもそも、夫妻が死んだ事故についても、奴等の手が加わっていた。」
 「そうか…。」

 黙って、うなだれていたデュオは、あまり興味もなさそうに、ヒイロの話を聞き終わるとそう呟いた。
 それから、ヒイロから表情を隠すように下を向いたまま、何もいわずに立ちあがった。

 「デュオ?」

 訝しげに声をかけて来たヒイロに、思い切って顔をあげて見せる。…貼りつかせたような笑顔を作って、見せかけだけでも、平静を装って。
 ヒイロの眉が寄せられたのが分かった。
 恐らく、これがベック婦人がいっていたところの「無理をした笑顔」というのだろう。…人の気配に聡いヒイロには、きっと分かっていると思う。
 でも、今、笑わなければ泣き出しそうで…。

 「悪い、お前には、本当に、いろいろ迷惑かけさせちまったな。」

 笑ったまま、デュオはヒイロから一歩後ろへと下がる。
 それに合わせるように、ヒイロは一歩、前に踏み出した。

 「俺に謝る必要はない。それに…」
 「いい。」

 いいかけたヒイロの言葉をすぐに遮って、デュオは笑った。
 唇の端が引きつるのがわかる。
 声が震えるのが分かる。
 今は、ヒイロにすがりたくなかった。押さえるのがキツイ程のこみあげてくる波がわかるから、彼の側にいたくなかった。
 今、彼にすがったら、そのまま弱くなりそうだから…。

 「今はいいや。…まだ聞きたい事もあるし、お前もいいたい事があると思うけどさ、詳しい話は今度聞くよ。」

 それから、背をむけて。
 震える指先をヒイロに見えないようにしながらドアノブを回し、ドアを開く。
 部屋から出て。
 パタン、というドアの音と共に、デュオは壁に手をついて体を支えた。
 


Act9

******************


 「どうかしたの?」

 そう、声を掛けられて、顔を上げる。

 「いや、なんでもねーよ。ちょっとばかり考え事はしてたけどさ。」

 明るい声でそう返せば、ミセス・ベックはまた悲しげに眉を寄せた。
 …どうして、彼女はこんなにも自分の嘘が分かってしまうのだろう。
 けれども、彼女に嘘を見破られるのは、不思議と怖くはなくて。…それどころか、ほっとすることにも気づいていたから。
 デュオは、笑顔を浮かべる。
 まだ、本当の笑顔は浮かべられなかったけれども、彼女の前でが、一番本物に近い笑顔を自分は浮かべられると思う。

 あれから、最後の仕上げとして、ハンスが死ぬ前に関わっていた仕事の所為で手に入った金と称して、奴らから巻き上げた金を持ってミセス・ベックのもとへといった。
 ハンスは、その金を狙った仲間の友人に殺されたと。
 話を単純にして、ハンスが関わっていた組織も、彼女の両親が持っていたかもしれないGの設計図のことも、全部伏せて、嘘で全てを収めた。…本当のことなんて、彼女が知る必要はなかったから。…幸い、その嘘は彼女に見破られずに済んだらしい。
 夫人は、金を受け取った後、デュオの前で涙を見せた。

 『ばかね。…この屋敷が貴方以上に惜しいなんてあり得ないのに…。貴方がいるなら、私は何を手放しても良かったのに…。』

 そういって泣き崩れた彼女を、デュオはただ見ていた。
 声を掛ける言葉さえ見つからずに、ただ見ていることしか出来なかった。

 けれども、何故だろう、彼女の言葉は、デュオの胸にも強い痛みを刻んでいた…。
 それを、考えていた。
 ずっと、考えていた。
 考えて、浮かぶ『彼』の瞳を追い払おうとして、出来なくて…。

 今回の件で全てのカタがついたら、ヒイロのもとへ行こう、と。
 それは既に決めていた。
 だから、こうして最後に残ったミセス・ベックの件を片付けるために、彼女と共にこの屋敷へと戻ってきて、暫く屋敷の掃除と整理を手伝って……。
 そうして、ヒイロへの気持ちの準備をしようとして…けれど、それが出来なくて、まだこの屋敷に世話になっている。
 彼女は、いつまでいてくれて構わないし、いてくれることが嬉しいといわれているが…もちろんそれが本心からのものだということが分かってもいるが、いつまでもここにいるわけに行かないことは確かだった。

 「あら?」

 軽やかなチャイムの音がして、紅茶のポットを持ったまま、ミセス・ベックは顔を上げた。

 「誰か来たのかしら?」

 いって、デュオに見てくることを告げてから、部屋を出ていく。
 それから、暫くの時間が流れて。
 …夫人に連れられて入ってきたその人物を見て、デュオは予想通りの展開に、苦しげな笑みを浮かべた。

 「よォ…やっぱ来たか。ヒイロ。」


******************


 一度、ちゃんとした面識があったため、ヒイロは快くミセス・ベックに迎えられ…、そしてその日は、そのままヒイロも屋敷へ泊まる事となった。

 もう、いつまでも逃げてられないか…。

 だから、夕食が終わり、食後のお茶も飲んでから、部屋へ帰る時。
 デュオは、覚悟を決めて、ヒイロの部屋へとついていったのだった。

 パタン、と扉が締まって。
 先に部屋の中へ入ったデュオは、部屋の中を見まわした。
 ヒイロにはちょっと不似合いな、女性らしい装飾が残る部屋。
 屋敷は、広くて部屋数はあるものの、不必要なものは殆ど置いてなくて、ベッドも夫妻用のモノの他には、客用が一つと、夫人の子供の頃のものしかないらしい。
 その、客用のモノは既にデュオが使っていたから、あと残るは婦人の子供の頃のもので…。幸い、ベッドは子供用とはいえ普通のシングルサイズであり、ヒイロも年齢の割りには小柄といえたから(それより更にデュオの方が小柄なのだが)、ヒイロにはこの部屋が割り当てられたのだった。…一応、前回ヒイロが泊まったときも、この部屋を割り当てられていたのだが、あの時は結局ヒイロはずっと自分の部屋の方にいたから…。
 ふぅ、と息を吐き出して。
 デュオは、後ろにいるだろう、ヒイロへと振り向こうとした。

 …けれど。

 それよりも早く、後ろから抱きすくめられて、何も出来なくなる。
 ヒイロの体温を感じる。首もとに掛かる息で彼の吐息を感じる。
 それだけで、デュオは瞳に熱いものがこみ上げてしまいそうで、自分の感情の高ぶりを制御するのに困ってしまう。

 ――なんで、こいつに触れられると俺は安心するんだろう?

 少しだけ呆然として。
 きついくらいに抱きしめてくるヒイロの腕の中で、宙へ視線を泳がせる。

 「デュオ…。」

 声は、心地良く耳から流れ込む。
 低い、少しだけかすれるような…平坦だけれど、その実押さえた感情がたくさん乗せられた声。
 暖かい腕、掛けられる声。…そのどれもが、闇に沈みそうな自分の心を救ってくれていた。そう、いつも。…きっと、ヒイロでなければ、自分にはいけなかった。

 ――それは、何故?

 ヒイロの腕が緩む。
 そうして、ゆっくりとデュオの顔を掴んで振り向かせると、目と目を合わせられる。ヒイロの、蒼い真っ直ぐな瞳が、自分の瞳を見下ろして覗きこんでくる。

 彼の瞳を信じていた。…信じたかった。
 いや、信じようと思っても信じ切るのが怖かった。…彼だけには、裏切られたら、自分は壊れてしまうと思った…から。

 ――だから、それは何故?

 ヒイロが顔を近づけてくる。長い睫が静かに伏せられて、彼の冴えた光を放つ瞳を覆っていく。
 けれども、デュオは呆然と、ずっと彼の顔を見ていることしか出来なくて…。
 やがて、唇同士が合わせられる。
 最初は、触れるだけ。…けれどもすぐに、唇の間からはヒイロの舌が入り込んで来て、触れるキスは自分の思考さえも奪うような激しいキスへと変わっていく。

 何も…考えずに、ただ、彼を感じて。
 何も…考えずに、こうして、自分の今だけをすべて彼に明け渡して。
 感じるだけで、考えなくてもいいから、SEXは好きだった。
 ただ感じていれば、意味なんて考えなくてもいい。自分の過去も、これからの自分も、そんなモノ考えずに、ただ、今を感じているだけでいいから。

 けれど、いつまでも『今』は留まってなんかいない。

 漸く放された唇に、デュオは深い息を吐き出す。
 それから真っ直ぐにヒイロの瞳を見つめて、また苦し気に微笑んだ。

 「ヒイロ。その前に、残ってた話を片付けちまおうぜ。」

 あんな、熱の篭った声で自分を呼んでいたくせに。…今にもベッドへとなだれ込みそうだったのに。…見上げたヒイロの顔は、憎らしいくらいに平然としていて。

 「あぁ。…そうだな。」

 声も、いつも通りの平坦なものに戻っていた。





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