回転扉<6>




今回はまたデュオサイドに戻りました。
デュオ、迷走編というか、次回が対決編なので、その前のワンクッションです。
次回は敵地にて奴らとの決着が着きます。それで、やっと起承転結の「転」が終わりますねー。





Act6

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 「んで、結局、お前らの雇い主はどこにいるんだ?」

 突きつけた銃口に男の顔が強ばる。…だが、男は口を閉ざして目を瞑る。…プロらしく何があっても言わない気らしい。

 頭痛が…酷い…。
 耳鳴りさえしてきて、少しでも気を抜くと気を失いそうだった。
 ともすれば、こうして突きつける銃さえ落としそうになる…。

 引き金を引く手応えも、銃声も、何処か遠い。

 気付いた時には、血溜りに倒れる男の姿があった。
 …胃液が競りあがってくる。

 デュオは、肩と腕を打ち抜かれ、こちらを凝視しているもう一人の男を睨みつけた。
 その顔からは、おおよそ表情といえるものは全て消し去られている。感情のない、冷たい瞳だけが男の顔を見つめる。
 目の前の光景を見ていたその男の顔が、デュオの顔を見て、明らかに恐怖を浮かべた。

 「さぁ、話しな。居場所をしらないっていうなら、直接の連絡を取れる方法だけでもいい。」

 …それから、暫くして。
 また、銃声がその場に響いた。


******************


 部屋の壁に寄り掛かって、半場呆然としてデュオは目の前の惨状を見つめた。

 まただ。
 …また、撃ったつもりはなかったのに…。

 きつく目を閉じて、精神を落ち着ける努力をする。
 大きく息を吐いて、強く拳を握り締める。
 爪が掌を破って血を流す…それが少しだけ感覚を蘇らせた。
 しっくりと手に馴染み過ぎた銃が重い。…けれどもまるで手の一部のように、それは当然のように握られている。持っている感覚などないのに、それはある。
 
 これじゃぁ、本当に、ただのヒトゴロシだ…。

 男が喋らないと判断したと同時に、もう一人の男の口を割らせる為には、見せしめに殺してしまうのが一番早いとしっている自分がいた。それから、もう一人の男は、話した後に、向こうに連絡されると面倒だと、…そう、思っただけだった。
 だが、撃つかどうか考える前に、既に自分は相手を殺していた。
 本当に、ためらいなどなく。
 ただ、冷徹すぎる判断だけで。…いや、頭が判断するよりも、それは自然に。

 頭痛は益々酷くなっていく。
 もうどうすればいいのか、デュオには分からなかった。
 何を信じればいいのかも、何の為にこんな事をしているのかさえ、よく分からなくなりそうだった。

 そう、信じられるものなんてもう何も──…。

 デュオは、壁にもたれ掛かったまま、もう一度大きく深呼吸をする。
 ほんの気分程度に、少しだけ頭痛はマシになった気がした。

 重い体を引きずって、また歩きだす。

 こうして、強引な調査方法で進めていった結果、望んでいた情報はどうにか手にする事はできていた。少しでもソレ関連と思われるものを片っ端から襲撃して回ったのであるが、うまく当たってそうだった場合でも、実行部隊として存在しているのは雇われモノばかりで、内情を知る者が見つかるのは希だった。…その為、こうして中心に辿り付くまで、一体何人を殺したのか…。

 予想通り、シンキ重工は旧L1の急進派と繋がっていた。いや、繋がっていたというよりも、シンキ重工そのものが急進派の母体といっても過言ではなかった。ドクターJも、ウイングガンダムを作成する為に、シンキ重工にいたという事も分かった。…そして、ヒイロも…かつてシンキ重工内に作られた施設で訓練を受けていた事が。

 シンキ重工の重役失踪事件。アレもL1の急進派の派閥抗争がそのまま現れたと思えば確かに理解できる事件だった。何人かの元シンキ重工関連の者から聞き出した話しをまとめると、後はだいたい予想で繋げられる。
 当時、戦争が終了直後、L1の急進派達は、その内部でさらに意見の違いから二つの派閥に別れる事になった。単純にいえば『これからは地球も良くなる筈、だから地球と共存していこう』という親地球派と『それでも地球は絶対に信じられない』という急進コロニー派にである。
 もちろん、戦後の状態と世情を考えれば、圧倒的優位にいたのは親地球派であり、また、シンキ重工内部でも地位の高いものは親地球派に多かった。そこで、親地球派は、いわゆる地球への協力的態度を見せ付ける為に、急進コロニー派の面々を戦犯として突き出してやる事を考えた。逆に追い詰められた急進コロニー派は、今となっては唯一の援助元であるバートン財団へ自分達の派閥抗争を隠蔽するためにも、自分達が生き残る為にも、強引な方法を取るしかなくなった。
 …それが、重役以上の役員の全員失踪事件だったのだ。かつて急進派としてひとくくりにされた者達全員が姿を隠す…いや、その中でも親地球派の者は全てそこで殺されたのだが…そうして、活動は全て地下へと移された。

 だが、マリーメイアの反乱失敗により、バートン財団さえもが崩壊した今…彼らは焦っていた。
 もはや活動を続ける事事態が困難になってきた彼らは、起死回生を狙える圧倒的な力を欲した。
 一度は失敗した。…だが今なら。

 彼らは考えた、平和主義に兵器の撤廃が進む今、圧倒的な武力…ガンダムがあったなら。

 実際の制作に関わった老科学者達の行方は知れない…恐らく死んだだろう。そしてあの老人達は、自分達の制作現場から、資料も設計データも全てを処分してから姿を消していた。
 ガンダムは全て破壊されている。
 だが、急進コロニー派として残った者達は、元ウイングガンダム開発の手伝いをしていた部門の者達(つまりそれが丸々メンバーが消えた部署だったわけだ)が多かった。…つまり、技術者はいるのだ。

 ならば、後はガンダムの設計図を。

 何故彼がそんなモノを持っていたのかは知らないが、ハンス・ベックが殺された理由…L1急進派の者達に追われてたのは、彼がガンダムの設計図を持っていたせいだった。

 そしてそれは…今、一応は、デュオの手の中にあるのだ。


******************


 デュオは、古い知り合いに連絡をとり、地球でも調べモノ程度の作業を出来るような部屋…というかねぐらを確保していた。一時期はL1にいった方がいいかと考えた時期もあったが、どうやら旧L1急進派の者達は、今現在コロニー内の方が内部取り締まりがきつくなった為、活動拠点を殆ど地球に移しているらしかった。
 …それに、いくら安全だと思われる場所にいるとはいえ、やはりミセス・ベックの身が気になったというのもある。
 どちらにしても、敵の目的がガンダムの設計図であるならば、自分か、ミセス・ベックか、向こうはどちらかにあたるしかない。となれば、今の状態では彼らが動くのは地球の筈である……なにも、向こうの活動場所を分散させることもない…。
 
 デュオは、情報の整理と次の段階への準備の為に、一度、地球に確保した部屋へ帰ることにした。
 やっと相手に仕掛けるだけの情報が揃ったのである、焦って失敗する事はしたくなかった。
 …だが、ほんの気まぐれ…いや、何故か無性に誰かに会いたくなって、デュオはリリーナの屋敷にいるミセス・ベックの元に立ち寄る事にした。…リリーナがその時間屋敷にいない事は分かっていたから…本当に少しだけ、彼女の顔を見る為だけに。…そんな事を考える事自体が、自分が余程精神的に参っている証拠のようだったが。



 リリーナの屋敷では、本人かどうかのチェックはいろいろされたものの、基本的には顔パスに近い状態で中へ通してもらう事ができた。…実はもし、ここで誰かに連絡をとられたりしたら面倒だと思っていたのだが、それは杞憂に終わったようだ。
 長い廊下を歩いて、中庭に面した部屋へ出る。
 テラスで本を見ていた夫人は、デュオの姿に気が付くと、笑顔でその名を呼んだ。
 
 「まぁ、デュオ。…何かあったの?」
 「え?何かって?」

 手を振って、笑顔で答えたデュオに、夫人はいきなりそんな事を聞いて来る。

 「ほら、またあなたそんな無理に笑って。私に隠してもだめですからね。」

 そういって、小さい子供をしかるように彼女はデュオの頭をぽんと叩く。
 その感触が、ふわっと、心に染みて。
 途端、ぽたり、と何かが落ちた。

 「あれ?」

 自分でも気付かなかったのに、気付けば、それはどんどん零れ落ちて来る。

 「えと…ごめん、その…おっかしいな…俺。」

 涙が。止めようと思うのに止められなくて。
 思わず手でぐいっと拭っても、笑おうとしても、余計に涙が溢れてしまう。
 みっともなくて、顔を隠してしまおうとすれば、ふわりと感じる暖かさ。

 「いいのよ。ほら…。」

 軽く頭を引き寄せられて抱き締められる。
 視界は全て塞がれてしまって、体温しか感じられないけど、それが心地好いと感じる。…何故だろう?

 「辛い時は泣いてしまいなさい。男の子はね、泣いちゃいけない事が多いけど、お母さんの前だけでは泣いてもいいのよ。…私の事はお母さんだと思っていいっていったでしょ?」

 小さな子供をあやすように、デュオの頭を胸に抱き締めたまま、ミセス・ベックはその頭をぽんぽんと優しく叩く。ゆっくり、ゆっくり、そのリズムは聞こえてくる彼女の穏やかな心臓のリズムと同じで…自分の心さえも穏やかになっていく。

 どれくらい、そうしていたのだろう。

 いつの間にか止まった涙に気付いて、デュオはゆっくりと顔を上げた。
 緩やかな笑みを浮かべる彼女と顔が合い、思わず照れ臭さに笑みが沸く。

 「えぇと…その…みっともないとこみせちまって…」
 「いいのよ。それよりも貴方、今の顔の方が来た時よりもずっといいわ。その事が嬉しいもの。」

 そうして、まるで彼女の笑みにつられたように、デュオも柔らかい笑みを浮かべた。

 「あのさ…えっと…ありがとう。」

 それに彼女はただ笑みだけで返してくれる。
 彼女に言われた通り、ひとしきり泣いてしまった今は、前にくらべればずっと気分がいい。…それに、あれだけ酷かった頭痛が、殆ど収まってもいたのだ。礼の言葉は自然と出ていた。

 「でも…。ねぇ、デュオ。本当に何か有ったの?…私では相談に乗れないかしら…それに…もしもハンスの事で貴方が何かあるなら…」

 けれど、そういわれた言葉には、デュオにはいつも通りの笑顔を作って否定の言葉を返すしかできなかった。…例え、その笑みが無理に作っているものだという事が、彼女には分かってしまうとしても。

 「いや、そうじゃない。本当に、…ちょっと個人的な事情でさ。すっごく嬉しいけど、人に話せる事じゃないんだ。」

 予想通り、寂しそうに自分を見る彼女の瞳に、デュオは少しの罪悪感を感じる。
 だから、話を逸らすように目線さえも逸らしてしまう。

 「…んじゃ、俺もう帰るからさ。…貴方も早くあの屋敷に帰れるといいよな。」

 だが、そういって後ろを向いたデュオに、彼女は寂しそうな顔のまま返した。

 「あの屋敷はね…売ってしまおうかと思うのよ。」
 「え?」

 発言に驚いて振り返ったデュオの目には、先程見せたのとはちょっとだけ違う寂しさを浮かべた彼女の顔が映った。…いや、寂しさというよりも哀しみと辛さが、彼女の瞳には込められていた。
 …その彼女の表情と、言葉に、デュオは二重に驚く事になる。

 「…私…考えたのだけど、やっぱり…もう、あの人は死んでしまったのね。…それも、きっと、あの屋敷を手放さないようにしようとして…。私ね、知っていたの。相続した家は借金だらけで、本当は屋敷を手放してしまうのが一番良かったんだって…。あの人が、地球に来てからずっと様子がおかしかったのは、それでも私のわがままを聞いて、あの屋敷を手放すまいとお金の工面に走りまわっていたからだって…。」

 いってる間に、彼女の声は震えて行く。瞳には涙を溜めて、それでも悲しげな笑顔を浮かべて。

 「だから…もう遅いけれど、もっと早く決断してしまえばこんな事にならなかったかもしれないけれど…あの屋敷は手放してしまおうと思って。…本当に、私だけなら、あの屋敷は広すぎるものね。」

 デュオは何も言えずに彼女の話しを聞くしかなかった。
 ただ、彼女の痛みを聞くしかなかった。
 あの状況の中、それでも彼女がハンスの死を認める事はしなかったのに。…でも、認めた今、彼女は内に深い哀しみを湛えて笑顔を作る。
 その顔が、泣く顔よりも哀しいと感じて。

 人の死の大きさを、また、知った。

 「デュオ。」

 見ていられなくて目を伏せたデュオを、彼女は呼ぶ。
 顔を上げたデュオが見たのは、それでもいつも通りの穏やかな笑みを浮かべる彼女だった。

 「あなたの悩みが何かはしらないけれど。後悔のないようになさい。…特に…それが誰かの事ならば…自分が出来るだけの事をしないと絶対に後悔するわ。」

 デュオは、彼女に笑顔を返す。

 「うん。分かったよ。…本当に、ありがとうな。」

 そうして、今度こそ本当に別れを告げた。


******************


 
 部屋の中には、キーを打つ音だけが、絶える事なく響いていた。
 だが、ふと、その手を止めて時計を見れば、作業を始めてから、既に5時間が経っていた。

 「やべぇな、夜があけちまう…。」

 呟いたデュオの後ろで、別のマシンから、作業の終了を知らせる電子音が鳴る。
 それにすぐ反応したデュオは、椅子の向きを変えて、そちらのディスプレイに視線を向け…そしてすぐに落胆したように、ため息を一つ落とした。

 「やっぱ、これもだめか…。」

 画面には、作業終了のメッセージボックス。それと、いくつかの候補キーコードと、それをキーとした場合の解析結果。…一目でみて、でたらめだとわかるデータばかりの。

 わざわざ、L2に行ってまで引きとってきたハンスから送られてきたディスク。
 それが、恐らく今回の件の大元でもある、Gの設計図である事は間違いない。…添えられていた手紙に書かれていたのだ、その筈だった。
 だが、実際そのデータを確認しようとすれば、かなり固いロックプログラムに守られているか、何重にも暗号化フィルターがかかっているようで、どうやっても中身の確認はできない。…元ジャンク屋だけあって、ハンスがこの手にかなりの技術があるのはわかるとしても、まさか自分がこれほどてこずるようなものというのはデュオとしても意外すぎた。
 …中身が中身であるから、このまま破棄…しても良いといえば良いともいえる。
 だが、これから奴等へ渡す為のニセモノを作るにあたって、向こうがこのディスクの解読方法を知っていた場合を考えると、まるきりデタラメなモノを作るわけにもいかなくて…。だから今は、ひたすらその解析を急いでいるワケなのだが…作業は一向に進まなかった。

 …このままでは、予定に間に合わない。

 データの受け渡しの為に、既に向こうには連絡を入れてある。
 先程それに対する返答も既にきていたから、その為の場所も時間も決まっている。
 …時間は、もう、あまりない。

 デュオは、データが手に入った時点で、まずどうするべきかを悩んだ。…本来は破棄すればそれで済むはずのものであるから、それならばプリベンターに連絡をとって、このディスクと奴らの情報を渡せば、後は万事上手く行く。…恐らく、それが一番安全で、効率がいい。
 けれども、それでは、あまりにも……死んだハンスが浮かばれない。
 彼が、危険を賭してまでしたことが全て無駄になる。
 だからデュオは、プリベンターに全てを引き渡す前に、ハンスの最初の望み通り、ミセス・ベックがあの屋敷を手放さなくて済むくらいの金を奴らから取ってやろうと考えたのだ。
 そのために奴らと連絡を取り、ディスクと金の引渡しの約束を取り…。

 「こういうのは、ヒイロの得意分野だよな。」

 ふと、あせる気分を紛らわす為に、エラーを返す画面にそう呟いて。
 思い浮かんだいつも通りの無表情に、デュオはわずかに眉を寄せた。

 結局、あれから一切彼に連絡をとっていない。
 …未だ、彼に対する疑いが晴れないから、それはしかたないけれど。…こうして、今まで生きてきた、自分の生き方からすれば、それは当然の事だけど。

 けれど、彼に対して後ろめたさを感じてしまうのは、まだ自分が彼を信じているからだった。…自分でもバカな事だと否定していたのに、…ミセス・ベックと話していて、気付いてしまったのだ。

  そう、今までなら、これだけの状況的な証拠がそろってしまえば迷うことなく切り捨てられた。なのに、…彼だけは、どうしても割り切って、完全に切り捨てる事が出来なかった。

 「どうして、だろうな…。」

 状況だけなら、決定づけてもいいくらいの事を見た筈なのに、心には「裏切られた」という思いが浮かんでこない。
 それどころか、彼の顔を思い出す度に、それが間違いであるか、何か事情があるかと考えてしまう自分が信じられなかった。

 ……信じたかった、と。

 言った言葉で、自分はもう彼を切り捨てた筈だった。あの時は本当に辛くて、なんの弁解もきかなかったけれど、時間が経つにつれて、どうしても彼を切り捨てられない自分に嫌が応にも気付いてしまう。

 『あなたの悩みが何かはしらないけれど。後悔のないようになさい。…特に…それが誰かの事ならば…自分が出来るだけの事をしないと絶対に後悔するわ。』

 ミセス・ベックがいっていた言葉。
 後悔しない為に、今、自分が選択すべき事は?
 今ある状況を受けとめて、それでも本当に優先すべき事はなんだろう?
 本当に信じられる事は、一体なんなのだろう?

 そう考えた時、気がついたのは…自分が、まだヒイロを信じているのだという事。…信じたがっているのだという、その事。

 …そうであるなら、本当は分かっている。
 …どうする事が、一番後悔のないことかなんて。
 けれど、その理由が見つからないから、その道を選べない。感情だけで道を選べる程、自分は奇麗な心をもってはいないから。後を振り返らずに、信じるモノを追えないから。
 だから、きっと、今、自分がこうしているのは、ただの逃げだ。
 信じきる事もできないから、彼から離れて。
 ほんのわずかの可能性にすがれるように、彼自身に裏切りを聞く事も出来ない。
 そうして自分を守って、そんな自分を卑怯だとわかっている…のに。

 「ごめん、ヒイロ…。」

 好きだといってくれた言葉を信じていた。…本当は、今でも信じている。
 大切な、大切な言葉。
 その言葉をくれる人にまた会えたなら、きっと、今度はできるだけの事をしようと、神父様とシスターが死んだ時に思ったのに。
 彼が自分にむける感情にも言葉にも、きっと、嘘はないと、そう思えるのに。
 ミセス・ベックがいうように、ここでアイツを信じなければ、きっと後悔するとそれがわかっていても、何故?

 何度も、彼に連絡を入れようとして、そして止めた。
 彼を信じて、彼本人から話しを聞こうとして、…だけれどできなかった。

 何故、彼の側に行く事が恐い?
 真実が、自分の信じた結果でなかったらと、そう考えるだけで、こんなにも恐い?
 信じているのに、信じるべきだと思うのに、どうして、それに従えない?
 裏切られる事は慣れている、きっと真実がヒイロに裏切られる結果となっても、彼を信じた事を後悔はしないと、そう思っている。
 自分の意志で信じると決めた人間に裏切られたなら、後悔はしないと、相手を恨みはしないと、そう思えるのに、…事実そうして生きてきたのに…何故?

 …何故、ヒイロにだけ?

 これが、トロワやカトル、五飛だったなら、裏切られる事が哀しくはあっても恐くはない。…彼らは信じられる。…嘘だったとしても、信じて行動する事ができる。
 
 けれど。
 理性は判断する、単純な2択だと。信じるか、信じないか…どちらかを選んで、自分の意志で決定した答えが間違っていても、それは自分の判断ミスで悔いはない筈だと。
 そして感情は、ヒイロの事を信じたいと願っている。
 でも、もう一つの感情は、それを恐いと。

 もし、彼がいった事が全て嘘だったなら───…自分は…。

 ──?
 なんだろう、今、一瞬、何かが分かった気がしたののに。
 また、分からなくなった。…何を、今自分は思ったのか。

 深い溜め息を吐く。
 ヒイロに関しての結論はでない。
 何度も考えたけれど、いつも結論は出せない。
 だから今取れるのは、彼に関らないようにして、目の前の目的に没頭する事。
 …それも、結局は、やっている事の内容が内容であるから、いつかは、ヒイロの事が分かってしまうのだろうけど。

 …本当に、矛盾だらけだ。

 本当に、もし、彼が自分を裏切ったという結論が出たのだとしたら──…どうするのだろう?…自分は。





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