回転扉<4>



久しぶりに連載再開です(^^;;。
実はこの小説はこの辺からが書きたかったんです〜。
これで起承転結の「承〜転」かな。伏線がやっと少しずつ使える…。




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 そうして、長い夜が明けて。

 朝食の後すぐにミセス・ベックはリリーナの邸宅へ行く支度を始めたものの、結局屋敷を後にしたのはもう日が暮れてからだった。
 その間、昨夜のような事は起こらず、気構えとは逆に何もなかった事は、二人にとって…いや、特にデュオにとってはありがたい事だといえた。
 というのも、昨夜、ヒイロと行為にいたった時、気分のままちょっとばかり無理をしすぎたらしく、今朝早い状態は食事に起きるのも大騒ぎという有り様だったのだ。

 ヒイロと行為に至るのは…まぁ、慣れていると言えば慣れていると言えなくもない事だから、本来ならここまでになる筈はない。…ので、あるのだが、普段ならどちらもある程度のセーブをしつつやるところを、昨夜は二人ともちょっとばかり加減を忘れてしまったようだった。

 「…すまなかった。」

 朝すぐに起き上がれないと騒いだデュオに、ヒイロは本気ですまなそうな顔をしてそういった。
 けれど、セーブしきれずに調子に乗って求めたのはデュオ自身にも自覚があるので、謝られても責めたりなんてできやしない。苦笑して、自分も悪かった、といえばヒイロはいっそ甲斐甲斐しいくらいにいろいろ気を遣ってくれた。

 そんな彼を見るのはなんとなく、微笑ましくて。
 ちょっとばかり恥ずかしいけれど、嬉しくて。

 …そう、昨夜、ヒイロの気持ちが嬉しくて、…そんな大切な感情を自分に向けてくれた事に感動さえも覚えてしまって…彼と同じ感情を返せなくても、何か返したくて、自分のこの嬉しさを彼に伝えてやりたくて…何度も、彼を求めたのは自分の方だ。…気持ちの差とはこれほど大きいのかと思う程、昨夜はいつも以上に気持ち良かった…とも思う。

 いつもは、彼に対する後ろめたさと、もっとただ体温も求めるような乾いた欲望で、彼に抱かれるから…。

 思えば、あんなに暖かい気持ちでSEXをした事はなかったから、だから本当に昨夜は自分の方から抑えられないくらいに良かった…のだ、…男相手でここまで良かったなんて、くやしいからヒイロ本人にいってはやらないけど。

 …けれど彼には聞いてみる。

 「…なぁ、お前さ、昨日はその…良かった、か?」
 「…何を聞いているんだお前は。」
 
 呆れたように呟かれた言葉の後、軽く顔を逸らしたヒイロは、もしかしたら照れていたのかもしれない。
 それが可笑しかったから、名前を呼んでこちらを向かせて、そしてもう一度聞いて見た。

 「…なぁ、良かったろ?…今までで何番目くらい?」
 「……。」

 振り向いて、じっと視線を合せてきたヒイロの目は座っていて。
 思わず、いいすぎたかと口を抑えれば、ヒイロは無言で近づいてきてから、顔を耳元に寄せてきて、ぼそりと囁くようにいってきた。

 「…一番に決まっている。」

 口許が綻んだのは…嬉しかったからか、照れ臭かったからか。
 でも自然に浮かんだ笑みは、なんだかとても暖かかった。

 だから思った、自分も、ヒイロが好きかもしれないと。


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 「…とりあえず、俺の家に行くぞ。」

 ミセス・ベックをドーリアン邸に送り、「泊まって行けば」というリリーナ嬢の言葉を断って出てきても、夕食とお茶に付き合えば、もうかなりの遅い時間になっていた。
 ここ数日、ミセス・ベックの身柄を心配しながら気を遣っていた所為か、その彼女という荷が降りたと思ったら、一気に疲れが出たように、ドーリアン邸を出たところでデュオは欠伸がでてしまった。それを見たヒイロが、欠伸と同時に少しだけふらついた体を支えていった言葉がそれで。

 「…俺、眠いんだけど。」
 「昨日も余り寝てないからな、当然だろう。」
 「…ゆっくり眠りたいんだけど…。」
 「…何か問題があるのか?」

 本気でとぼけているのか、真面目にそんな事をいってくるヒイロに、デュオはちょっと考えた。
 けれど、当然のように彼の家に向かうその足と、自分を掴む腕がシャクでわざと足を止めて、その顔を覗きこんで見る。

 「…お前、寝かせてくれるのか?」

 いわれてすぐは、得意の無言でヒイロはじっとこちらを見て来た。
 それから、唇だけをにっと釣り上げて、すぐに踵を返すと、またデュオの腕を掴んでそのまま歩き出してしまう。

 「おい…ヒイロっ」
 「……寝かせてやってもいい。」

 一瞬、自分の声と重なったヒイロの言葉がよく聞き取れなくて、デュオは首を傾げて黙る。
 そうすればヒイロは、今度は顔だけをデュオに向けて、唇に笑みを乗せたまま答えた。

 「寝たいなら寝かせてやる。…いっておく事はいったからな、今はそれほど焦っていない。」

 その言葉は少しばかり意外に思えて、デュオは目を大きく開けた。
 それから、思わず思った事がそのまま口から出てしまう。

 「…なんだ、お前本気で好きだっていってたから…その…傍にいると絶対手ぇだしてくるモンかと…」
 「本気だからだ。」
 「え?」
 「本気だから、お前が本当に望むなら、それくらいの我慢はしてやる。」

 なんだかコイツって…。

 昨夜から、ヒイロには脅かされっぱなしというか、意外な面を見せられっぱなしで、…またもや自分の顔が赤くなっているのを自覚してしまう。
 これだけ恥ずかしい事をいっているのに、いつも通りの澄まし顔の彼を見ていると、どう切り替えしたらいいのか、普段滑るようにいくらでも出て来る言葉が途端途切れてしまうのだ。

 「…お前…割と純愛ヤロウじゃねーか…」

 自分でも馬鹿なセリフだと思ったが、ヒイロの表情には何の変化もみられなくて、やはり平然とした顔と口ぶりの声が返って来るだけだった。

 「そう思ってくれるなら、お前ももう少し真面目に考えて欲しいものだな。」

 それには黙る事しかできなくて。
 …結局、半ば引きずられるように、デュオもヒイロの家へと向かったのであった。


******************


 次の日。
 正午をさす針が少しだけ動いて、一般的な会社では丁度昼休みという頃、デュオはやっと目を覚ました。
 計算すれば寝てから10時間以上が過ぎていた。…途中起きもせずにこんなに長く眠ったのは一体どれくらいぶりだっただろう。当然のように、隣にいた人物はもういない一人のベッドから起き上がる。
 それにしても、ヒイロが起きた事さえ気付かなかったなんて、自分は随分と鈍くなったモノだと思う。…いや、それだけ疲れていたという事か。

 …後は…まぁ、ヒイロだし。

 多分、今現在、一番自分が信頼している人間の傍だからよく眠れたとか。
 …そんな事をふと考えてしまうと知らずに赤面している自分に、少々寝起きの頭がパニックに陥ってしまう。
 どうも、今まではあまり深く考えてなかったことさえ、ヒイロの気持ちを知ってからは妙に意識してしまっていただけない。
 これでヒイロに会ったらまた思い出しそうだと、考えてリビングへの扉をあければ…。

 ヒイロの姿は見えなかった。

 気にしてみれば、リビングどころか周辺全てにヒイロの気配を感じない。

 出かけたのか?

 気が抜けたように椅子に腰掛ければ、テーブルにはメモが一枚。

 『出かけて来る。帰りは遅くなる。』

 「随分と、簡潔な書き置きだな…」

 それはそれでらしいけど。

 …まぁ仕事絡みなら、用件なんていってくわけにはいかないだろうしと、その事自体は別に気にする事じゃない。
 けれど、なんとなく寂しいなんて思ってしまうのは、ちょっとばかり意識しすぎかもしれないと思った。

 「まいったな、ちょっと俺どうしたんだよ…。」

 言っている間にも口元には笑みが浮かぶ。
 …心が暖かい。
 …嬉しい。
 ヒイロの事を考えるのが。

 「俺、やっぱヒイロの事…そーゆー事なのかなぁ…」

 浮かれ過ぎだと自覚はあっても、ヒイロの言葉は信じているから。
 彼の想いが本当である事は信じられるから。
 …こんな風に「特別に」好きになって貰った事はないから。
 自分にとってのヒイロへの「特別な」感情が、ヒイロと同じ「特別」なら、…それはきっと幸せな事だろう。

 そんな事を考えていると、いつまでもぼーっとしてしまって、何もできなくなりそうで。

 「…メシ食うがてら、買い物でも行って来るか…。」

 冷蔵庫には何もないし。
 気分転換と、夜遅くに帰って来るヒイロに簡単な食事でも用意してやろうなどと思いたって、デュオは立ち上がった。
 
 今はまだ、彼が一番欲しい答えを返せない代り、でもこれだけの暖かい感情をくれたヒイロに、何かしてやりたかったから。

 きっと、近いウチに、彼の望む答えを言えそうな自分を想像するのは、嬉しかった。


Act4
******************


 夜と昼の狭間、夕暮れ時は、光の反射が特殊な分、人の顔を見分けるのは難しい。
 けれど、間違いはなかった…。

 前を行く、男は走っている。

 だが、先程に比べれば、大分その差は縮まっていた。
 懐の銃を確認して、デュオは更に追い掛ける。…もしかして、自分をハメるために、男は仲間の元へ走っているのかもしれない。…が、少なくとも、そう考えるには男のここまで逃げてきたルートは効率がわるくでたらめすぎた。
 それに、この辺りの道ならばデュオもそこそこに詳しい。…だから、この先に待ち伏せに使うような場所がない事も分かっている。

 そう、偶然だった。

 偶然、買い物に出かけてふらりと歩いているその視界に、見覚えのある顔を見つけた。

 あの顔は…グロスマンの屋敷で、デュオが捕まりそうになった男…だ。

 向こうもプロだけあって、こちらが気付いた数瞬後には気が付いたらしく、未だ人波の中にあって距離がある内に逃げ出された。

 …そうしてここまで追ってきたのだが。

 男の足が幾分鈍ったかのように、前を走るスピードが気持ち落ちた気がした。
 疲労の為か、足を少しだけ縺れさせたその隙を逃さずに、デュオは男の足を撃ち抜いた。そう…ためらいなどなく。

 すぐにがくりと、その背が沈むのを見て、デュオは狙い通りに弾が当たった事を確信した。
 足を早めて、男へ近づく。
 だが、それは慎重に。立ち上がってすぐに掴みかかれってこれるような距離までは近づかずに、銃口だけをぴたりと合わせて、男へ、声を掛ける。

 「よぅ、この間は世話になったな。」

 口元に笑みさえ浮かべて、銃を構える腕には揺るぎがない。
 同業でもある男には、デュオが本気でいつでも撃てる事くらいはすぐに分かっただろう。

 「さぁて、まずは何から教えて貰おうかな…。」

 わざとらしく、カチリと銃の音を鳴らして、デュオは目の前の男に笑い掛ける。
 流石プロなだけあって、男は自分のミスを悔やむような顔はしていても、殺される恐怖を見せる事はなかった。

 「とりあえずは、アンタ達の組織の名称と目的…。後は…アンタが一体どこまで知ってるかだな。」

 恐らく雇われているだけだと思われるこの男がどこまで今回の件を知っているか。
 デュオは笑みを唇に浮かべたまま、冷たい瞳だけを男に投げていう。
 だが、その冷たい笑みを受けた男は、一瞬、口元に嘲るような笑みを浮かべると、デュオの顔をじっと見上げた。
 それは予想外の反応であったから、デュオの、完全に優位者である筈の表情が、僅かに眉を寄せた顔になる。
 それを確認した男は、また更に口元を歪めて、デュオにいった。

 「なぁボーヤ、それよりも、もっとイイ事を教えてやろう…」

 その瞬間、少しだけ逆転した空気は、だがすぐに冷ややかに威圧するデュオの笑みが消し去った。
 男を更に見下したように、口元に笑みを引いて、デュオは男を何の感情も消し去った瞳を向けていう。

 「あぁ、もちろんそっちも教えて貰うさ。だけどまずは俺の質問に答えな。…現在の立場を分かってるならね。」

 取り引きのしようもないと悟った男が舌打ちをする音が聞こえた。
 だが、それでもまた男は顔に無理に笑みを張り付かせると、見下ろして来るデュオの瞳を真っ直ぐに見つめて口を開く。

 「あの時…あの場へ現れた…かつて01と呼ばれていたガンダムのパイロット。彼がこちら側の人間だとしたら?」
 「なんだと?」

 何をいってきても無視をするだけの用意がされていた思考と感情が、僅かに揺れる。
 だが、それも本当に一瞬、表情としてはぴくりと眉が寄せられた程度のモノで、狙う銃口は少しも動く事はなかった。

 ばかばかしい。

 聞く気にもならない。
 そんなあからさまに苦し紛れのようなセリフは、男が思う程にはデュオに動揺らしい動揺を与える事はなかった。
 いや、あのヒイロに対して、そんな馬鹿馬鹿しい理由を突きつけてこの場を逃れようとする事には、顔に出さないまでも少々の苛立ちを覚えてしまう。
 こちらの反応を期待して凝視してくる男に、デュオはわざと軽く溜め息を吐いてもう一度同じ言葉を繰り返した。

 「まずはこっちの質問に答えろっていっただろ?」

 口調は先程までとまるきり同じ。…けれど、その前の溜め息がデュオの怒りを静かに伝える。…銃口は男を捉えている…答えがなければいつでも引き金をひけると、男をさらに追い詰める。
 …だが、それでも男は笑みを崩さなかった。

 「考えても見たまえ、あの時…我々が何故すんなりあの場を離れたか。」

 男の目の前には戦闘不能に陥ったデュオがいた。
 そして、暗闇には、いまだ銃を構えてこちらを見ている仲間がいた。
 …その状態で、何故デュオもヒイロも怪我一つなく、敵である男達だけが消えたなんて状況になったのか?

 『あいつらは?』
 『逃げた。』

 簡潔なやり取り。
 だが、確かに言われればおかしい。
 あの時、敵は逃げる必要なんて何処にもなかったのだ。
 ヒイロの能力を信用していたから、ヒイロが何かをやって敵を追い払ったという予想に疑問を何ももたなかったが、彼がいうところで自分の気絶した時間が4、5分…それならば。
 たった4、5分であっさり敵がいなくなる為に、ヒイロは何をしたのか?
 それに、何をしたとしても…目が覚めてすぐ見たヒイロは…息の一つも乱さず、彼の持つ銃からは撃ったばかりの火薬の匂いがしなかった。
 
 そこまで思考で巡らせて、初めてデュオは自分が少なからず動揺している事を自覚した。
 まさか…。

 「私は雇われ者だから、詳しい事は知らないが…確かに、あの時、彼は私と組んでた組織の者に、君の事は自分にまかせて欲しいといって、我々はその場を去る事になった。…嘘じゃない、…これでも彼が君が追っている組織の側の人間ではないと?」

 デュオの動揺を見て取った男は、まくしたてるようにそういってくる。
 だがデュオは、すぐにその動揺を表情から消し去ると、真っ直ぐに男を睨みつけて銃のトリガーを握り直す。

 「…嘘じゃない…か。…だけど…。」

 壮絶にさえみえる凍えた笑みを浮かべて。
 今にも引き金を引く気配だけを伝えて、デュオは呟く。

 「それが本当であるという証拠もない…な。」

 頭が…痛い。
 視界と音が遠…かった…。


******************

 『あの時…あの場へ現れた…かつて01と呼ばれていたガンダムのパイロット。彼がこちら側の人間だとしたら?』

 そんな筈はない。

 頭の中で繰り返される言葉。
 ……そんな筈はない。
 
 男のいった言葉が本当なら、今現在ヒイロが自分の傍にいるのは、その組織からの仕事によって…と考えられる。
 だがそれは違う筈。
 あれだけ真剣な瞳で告白してくれた彼の言葉が嘘だなんて事はない。
 いくら仕事のためとはいえ、彼があんな事を演技でいえる筈がない。

 「あんな事を嘘で言えるほど…アイツは、器用な奴じゃねぇさ…。」

 そんな事くらいよく知っている。…だからヒイロの告白は嘘じゃない、信じられる。
 けれど…。

 男から聞き出した組織名は、元々はいわゆるL1の急進派といわれたグループが素体となっているもので、L1におけるオペレーションメテオの協力者としてそのリストのトップに乗っているのを見た事がある。…つまり、ヒイロと関りがある可能性は高い。

 そして…。

 日が落ちた暗い部屋の中、ぼんやりと浮かび上がる光を放つディスプレイを、じっとデュオは見つめる。
 彼を知る者なら、意外に思うほど、その顔には表情がなくて。
 事務的にキーを叩く音、目まぐるしく移り変わる画面のウインドウ。
 軽快な音を立てて鳴るキーボードの音が、かたり、と止まった。

 「…やっぱり、そうか…。」

 調べて、分かった事。
 戦争が終わる前…その頃のシンキ重工はL1の急進派と何かしらの関りがあった可能性が高い。…金銭面での協力か、技術面の協力か…あるいはその両方か。ハッキリとした証拠となる程のデータはないが、細々としたデータをまとめてその可能性を弾き出せば、80%以上の答えが返ってくる。…未だ可能性の域を脱せないものの、その数値はもはや推論だけではすまされないレベルだ。

 調べれば調べる程、出て来る答えは、あの男がいった事を肯定するものばかり。
 けれど、何があってもそれだけは認めたくはなかった。
 ヒイロが、実は今現在、自分が追っている組織側の人間だなんて…。
 …いや、デュオが信じたくないのは、あの時のヒイロの告白が嘘だという事だ。
 
 信じている。
 ヒイロの言葉を。
 信じる事を決めたなら、それを否定するデータしかなくても信じる。
 信じる事は、機械的な処理による判断ではなくて、心の下す判断だから。…証拠なんて関係がない。ただ…その人物を信じられるか否かだから。

 けれども。

 感情を切り離した部分が、冷徹に計算をするのを止められない。
 それが自分の生き方だから。…その所為でここまで生き延びてこられたから。
 信じると決めた感情に、冷静な判断は、次々と心と反対の事実を確立させていく。

 あの時あまりにも丁度いいタイミングで現れたヒイロ。
 そして、自分が気を失った間に逃げたという男たち。
 その前からもやたらとヒイロが自分に世話を焼いてくれた理由とか…。
 全て、あの男のいう事を肯定すれば辻褄が合うのは分かっていた。
 それに、そもそも…。
 こうして自分が少し調べた程度の事、ヒイロが調べられなかった筈はない。
 ならばヒイロが、L1の急進派とシンキ重工の関りについて何も言わなかったのは、意図的に隠していたと考えるのが普通だ。
 少なくとも、ヒイロが何かを隠して、自分の傍にいる事は疑いようがない事実。

 信じているから…。
 彼だけは信じられるから…。

 キーに触れる指が小刻みに震える。
 どくどくと流れる血流の音が耳元で聞こえる。
 視界が赤くなる。
 ふわりと、世界から切り離されたように、感覚全てが麻痺をする。

 カタリ、と情報画面を消去するキーを押してから。
 まるで、永遠の眠りを受け入れようとするもののように、デュオは静かに目を閉じた。


******************


 慣れた気配が触れる事で意識が浮上した。
 けれどすぐに目を開けず閉じたままでいれば、慎重すぎる程に、こちらを気遣って静かに回された腕が、自分の体を抱き上げようと背に回される。…眠っている(ように見えただろう)自分をきっとッベッドに運んでくれる為に。
 こんなに、優しく、触れて来る手が…。

 嘘をついている筈なんてない。

 「…ヒイロ、帰ってたんだ。」

 目を開いて、目の前にある顔を見上げれば、その表情は一見いつも通りの無表情であるものの自分を心配している気配が伝わってきて、何故だかそれだけに泣きたくなった。
 嬉しいのか、悲しいのか、苦しいのか…泣きたい理由は分からなかったけれど。

 「顔色が悪い。」

 じっとこちらの顔を見つめていたヒイロは、唐突にそんな事をいう。
 いったと同時に、少しだけ表情も曇らせて、じっと見つめて来る群青色の瞳。

 「…まぁ、気付かない内にちょっとばかり疲れた溜まってたみたいでさ。…そのセイでこんなとこで寝ちまうくらいだからな。」

 そういって笑い掛ければ、彼は少しだけ考えるように目を細めてから、すぐに抱き上げた自分の体をベッドに連れて行くために歩き出す。

 「ヒイロ…起きたんだから、下ろしていいって。」
 「別に、一度抱き上げたからな、ついでだ。」
 「いいよ、重いし…」
 「重くない。むしろ軽すぎだ。」

 他愛のない会話。
 柔らかな空気、優しい腕。

 「それに…俺がこうしていたいしな。」
 
 ぎゅっと、少しだけ強く、抱き上げた体に顔を埋めて抱き締めてくるヒイロ。

 「お前に触れていたいから…。」

 呟く声は、戦時中の時と違う、優しい響き。
 かつて冷たいイメージしかなかった彼の優しい体温が、自分を包む。
 
 「お前が好きだ…デュオ。」

 誰もくれなかった、大切な言葉。
 …それは絶対に嘘なんかでは無い筈。
 ヒイロを信じられるという心の判断は、間違ってはいない筈…だった…。

 デュオは、ヒイロの言葉を聞いたと同時に、震える手を一度だけ強く握り締めると、顔を伏せたままのヒイロの首筋に回した。
 気付いて顔を上げたヒイロに、淡い笑顔を向けると、目をゆっくりと閉じて顔を近づけて行く。
 やがて感じる唇の体温に、デュオは一粒涙を流した。

 彼の、この、優しさ、が、嘘の筈は、ない……。

 




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