回転扉<3>



やっとこさラブラブな二人書きました〜。
しかし…今回やけにラストくさい展開ですが、
これで起承転結の「承」です。次回は残念ながら場面転換します(笑)




Act3

******************


 ガクガクと、体が揺さぶられる、感覚。
 痛ってぇ…。
 目を開けば、そこに、暗い視界にも映える群青の瞳。

 「なんだ…オマエ本当に来てたんだ。」

 口を出た言葉は、本当にただ、なんとなく。
 しかし言葉を掛けられた本人は、眉をピクリと跳ね上げて不機嫌を露にした。

 「あいつらは?」

 腹の痛みに顔をしかめ、起きあがったデュオは まずそう尋ねる。

 「逃げた。」

  あっさり彼はそれだけしかいわないから、軽口で「逃がしのか?」と聞き返してみる。そうすれば、いっそう不機嫌な瞳が責めるように向けられて、無言でプレッシャーを掛けてくる。

 「…悪かった。助けてくれてありがとよ。」

 言えば今度は視線を逸らす。
 無言で、自分に背を向けて、用がすんだとばかりにヒイロは、意識を辺りに向けてしまった。
 その後ろ姿を、まだ少しだけクラリとする頭で見つめながら、整理の為に状況を思い起こせば…

 「やべぇ、俺どれくらい気ィ失ってた?ミセス・ベックは…。」

 唐突に思い浮かんだ事に、自分でもみっともなくあせった声を上げる。
 だが、振り返ったヒイロは、落ち着き払った声で答えを返してきた。

 「ほんの5、6分というところだ。…安心しろ、夫人は無事だ。」

 とりあえず、それを聞けばほっとして、デュオは体の力を一気に抜く。
 辺りにはもう、敵の気配はない。
 ヒイロの様子も、…警戒してないわけではないが、敵がいる事を前提とした緊張のはり方をしているわけではないから、きっと、彼が安全を確認した後なのだろうと思う。

 本当に、今回は運が良かった。

 感覚の狂いが、随分と頻繁に来ている。…おそらく、状況的によるものではあろうけど、もし、病状が進んでいたなら、これ以上は日常生活にさえ支障が出る。
 …このまま、この件に関わるのは、自分に取ってマズイかもしれない。
 けれど、ミセス・ベックを放っておくわけにはいかなくて。
 いや、それより、手を引こうと思っても、もう遅いだろう。
 今回の事で分かった、奴等の目的はガンダムに関する何かだと。そして、既に、Gパイロットとして自分は奴等のターゲットに組み込まれているだろうから。

 「手っ取り早く、かたずけちまうしか手はねぇか…。」

 未だ、辺りを調べるヒイロに気付かれないよう、そっと、デュオはつぶやいた。


******************


 屋敷の中へ帰ると、残っていた奴等の仲間は全て逃げた後らしく、すぐ見えるところには人影の一つも見あたらなかった。
 だが、屋敷の、デュオ達が撃ち合いをしていたのとは離れた場所にいた警備の者は無事であったらしく、後の処理を彼らに押し付けて、デュオは、ヒイロの紹介と事情の説明をミセス・ベックにするだけして、今日のところはとりあえず休んでしまう事にした。


******************


 割り当てられた部屋に帰り、一息を付く。
 それからわざと勢い良くベッドに座り込み、更に背伸びをする。
 目の前には、ちゃんと違う部屋を割り当ててもらったのに、とりあえず自分についてきてしまったヒイロが立っていた。デュオが座ったのを確認すると、傍にあった椅子に彼も腰掛けて、こちらにじっと、視線を向けている。

 あまりにも丁度良く、突然現れたヒイロ。
 あれだけの騒ぎの後、いきなりミセス・ベックのところに彼を連れていくのはどうかとも思ったものの、彼がここへ来たのにはちゃんとした理由があった。しかもその用件はデュオにではなく彼女へのものであったので、だから、こんな時間の不自然な来訪にも不審に思われることなく、ヒイロも、こうして客として歓迎して貰えることになっていた。
 …そして、更に、そのヒイロの用件も、デュオにとっては良い知らせと言えるものであったのだ。

 「…本当にお前って、いっつもいいタイミングに現れるよな。」

 返事を返さないヒイロに向かって、デュオはにこりと笑いかける。
 
 今回の件で、デュオにとって一番の足かせは、ミセス・ベックを守らなくてはならないという点だった。しかも、どうやら相手の狙いがこちらにもあるとわかった今、…だが彼女を無視するわけにも行かず…、デュオとしては何をするにも身動きがとれないという状態だった。…しかし、ヒイロが今日、彼女へともってきた用件というのが、その事に関して全てクリヤできるものであったのだ。
 
 ヒイロの調べで分かったことだが、グロスマン家は元がピースクラフト王国の一貴族であったらしい。それも王室と親類関係のあるかなりの地位で、そうなればつまり、リリーナ・ピースクラフトとも遠いながらも親類であるといえるのだ。
 その事をリリーナ――今はドーリアンと名乗っているが――に伝えれば、彼女は快く、ミセス・ベックを事態がどうにかなるまで、安全な場所へとかくまってくれる事を承諾してくれた。…現在、宇宙で一、二位を争う重要人物である彼女の周辺ならば、その警備体制にしてもかなりの信用ができるだろう。それに、あの時、デュオが銃撃戦をしている間に彼女が連れ出さなかった事を考えれば、敵の狙いとして現在彼女の優先順位は低いと思われる。…だったら、多分、リリーナ・ドーリアンにの元にいるだけで、敵はもう彼女に手を出してはこない筈だ。という事であれば、ミセス・ベックに関する事はほぼ心配しなくて済む。

 「しっかし助かったぜ、これで動きやすくなるってモンだ。…お嬢さんにはお前頼んでくれたんだろ?…助かったよ、ありがとな。」

 目の前にいるヒイロは、憮然とした表情のまま、デュオの顔を見ている。
 返事をするではなく、どこか怒っているようにも取れる雰囲気でいる彼に、ちょっとだけ苦笑して、デュオは肩をすくめると、つぶやきのように言葉をつけたした。

 「本当に…またお前には借りをつくっちまったなぁ…。」

 少し、自嘲ぎみに、ため息を吐いて。
 今回の件だけでなく、ヒイロには随分と借りばかり作ってしまった。彼自身はそうとは感じていないだろうけど、…迷惑を掛けない様にしたいと思っているのに、気付けば彼を頼りにしている自分がいる。
 時々沸きあがる、自分を暗闇へ引きずり込むような感覚。…それを和らげる手段として、ただでさえ彼を利用しているというのに…。
 
 そう、その件に関しては特に。
 あれは…精神的な、自分のココロの問題だから。

 だから、本当は自分で克服しなくてはならないと…分かっている、けれど。…初めて自分のココロの内にまで入れる存在を作ってしまって、自分のココロの負担を他人に頼る事を覚えてしまったから…楽に救いを受け取る手段を覚えてしまった、から。

 「別に、貸しを作ったとは思っていない。」

 突然な言葉に、デュオはふと思考の底へ沈んでいた意識を戻した。

 「それに、これまでにもあった覚えはない。俺の意志でやっている事で、お前に貸しを押し付けるつもりはない。」

 ヒイロの表情はいつも通りの無表情。声も、ほとんど抑揚のない感情の薄い声。
 けれど、気配で、彼の優しさが分かる。
 そう、こいつは優しいんだ…。
 思い浮かんだ事はそれだけ、そして表情に出たのはどこかぎこちない笑み。
 嬉しいのに、泣きたい、ような。
 少しばかり弱気になっている今、ヒイロのそんな優しさは酷く胸に響いて。
 …すがりたく、なってしまう。
 頼ってしまいたくなる。
 もし、彼の優しさに甘えて、自分の弱さを全て晒せたなら、どんなにか楽になれるだろう。
 けれど。
 頭を切り替える、緩みそうな精神を引き上げる。

 …自分はそこまで弱くなったつもりはない。

 それに、自分の事は自分でケリをつける。どうしようもなくなってしまったなら、自分自身を始末する覚悟くらい、いつでも出来ている。

 「ありがと、な。ヒイロ。」

 顔を上げて、ゆっくりと彼の真っ直ぐな視線に合わせる。
 視界の中、僅かに目を細めたヒイロの顔が、近づいてくるのが分かった。
 頬に添えられる、手。
 更に細められた群青の瞳に、自分も瞼を閉じて答えれば、唇に暖かい感触が触れる。

 けれど、彼はそこまでしか求めない。

 すぐに消える感触に、デュオは少しだけ意外に感じて、離れていこうとするその唇の表面を軽く舐めてみた。
 けれど…完全に顔を離した時、目に映ったヒイロの表情は、何故か悲しそうで…。

 「なんだ、その気になったか?」

 ことさら明るい声でそういって見れば、ヒイロの瞳は伏せられてしまう。

 「やりたいならいいぜ。ただ、動けなくなるわけにはいかねーから、多少手加減はしてもらわねぇとなんないけどさ。」

 自分でもハズレた事を言っているという自覚はあるものの、この気まずい雰囲気をどうにかしたかった。
 笑いかけて顔をを覗き込んで、彼の反応を伺う。…怒っても、あきれられても、この雰囲気を崩せるならとにかく良かった。
 だけれど、ヒイロの返す沈黙はただただ重くて…そんな、意味の無い自分の態度を責めているように感じてしまう。
 とりつくろう為の笑顔さえもう保つ事は不可能で、瞳を伏せたままのヒイロから離れると、靴を脱いで、もう寝てしまうつもりでベッドへ乗り上げた。

 けれど、そうして彼から視線を外した途端、沈黙ではない、声が、返された。

 「…俺は、お前にずっと聞きたかった事がある。」

 顔を上げれば、先程まで自分を見ていなかった彼の瞳が、自分をじっと見つめている。
 彼特有の、瞳の奥を覗くような視線が、ただ、じっと自分に向けられている。
 瞳の真剣さは、ごまかす事を許さない。まるで自分の中の真実を見極めるように動かない瞳は、それだけで酷く重いピレッシャーをかけてくるようだった。
 その、強い視線にさらされて、一瞬、言葉が詰まる。
 それと同時に思い出す。…そう、これはかつてのヒイロと同じ瞳だと。
 はじめて彼をみた時の、強烈な瞳のインパクト。あの頃のヒイロはいつもこんな風に人を睨んでいて、自分も慣れていた筈なのに。
 …なのに、久しぶりに向けられて驚くほど、自分は、彼のこんな表情を忘れていた。
 それは、ヒイロが変わってしまった事を示すのか、それとも…。

 自分は、戦争が終わってから、そんなに長い間、ヒイロの事をちゃんと見ていなかったのか。


 目を、細める。
 本当は、いっそ逸らしてしまいたかったけれど、彼の瞳はそれを許さない。

 ヒイロは、そのデュオの表情を見て、彼もまた、僅かに目を細めると、軽く息を飲み込んだ。
 そして口を開く。その動作が、酷くゆっくりに見えるのは、きっと追い詰められた自分の気のせい。

 「お前が、俺のところへ来る理由はなんだ?」

 言った言葉は、見事に自分が聞かれたくなかった事。

 「…理由が必要だったのか?お前の顔見に行くだけで?」

 こんな返事が無意味だと分かっていても、考える間の時間が欲しかった。
 今の彼にごまかしは通じない。
 だから、予想通りにますます眉をしかめて、瞳に怒りを込めて、自分を睨みつけてくる。

 「…そういう意味じゃない…。…お前は、戦いが終わってから、出来るだけあの時の知り合いに関わる事を避けている…。」
 「なにいってんだ、ちゃんと皆とは連絡とりあってるだろ?」

 すぐさま返した言葉は、明るい口調で。
 笑顔を作って、目を軽く見開いて、なんでもない事のように答える。
 …完全に、怒らせた。そう、思いながら。
 思った通りに、気配で怒りを伝えるヒイロの姿を確認して、それから一度ゆっくりと瞬きをして。
 視線を…逸らした。
 
 落ち着いた声でありながら、深い怒りを含んだヒイロの声だけが聞こえてくる。

 「確かに…お前は他の奴等と連絡を取り合っている。居場所も隠していない、マトモな職業にもついている。」

 彼が怒るのは当然だし、その彼の怒りを静められる事を自分が言うこともできない。
 だからデュオは、下を向いたまま沈黙だけしか返せなかった。

 「…だから、安心して、誰もお前に無理に会おうとは思わない。」

 何も告げず姿をくらませば、かつての仲間たちは必ずデュオを探そうとする。
 けれども逆に、ちゃんと居場所が分かっていて、いつでも連絡できるのなら、いくらデュオに会う事がなくても、彼らは不審に思わない。
 プリベンターの仕事、何かしらのパーティの誘い、そして仕事で傍へ来たから会おうという話まで、デュオはそれらを殆ど…最近では全て断っていた。だが、わざわざデュオの家を尋ねる暇もない彼らは、デュオからちゃんと連絡があれば、とりあえずは安心してしまうのだ。

 だから、当時の仲間で…最近でも、デュオに直接会う事があるのは、結局はヒイロだけだった。

 「それだけ、あいつらに会うことを避けているのに…なぜ、俺のところへお前は来る?」

 言いきれば、後に続くのは、こちらの返事を待つための沈黙。
 デュオは瞳をそらしたまま答えた。

 「そっか、悪いな…お前のとこばっかいって迷惑だったんならもう…」

 けれど、力ないその声が言葉を終わらせる前に、ヒイロの腕が伸びて、デュオの顔を押さえつける。そして、無理やり上げさせた顔を自分の目の前に固定して、視線を真っ直ぐに合わせた。

 「誰が迷惑だといった。今いっているのはそんなことじゃない。」

 キツイ視線が、デュオを真正面から見つめる。
 だがそれにさえ、ただ目を見開くだけで何も答えようとしないデュオを見て、ヒイロの瞳は急激に怒りの色を失くした。
 怒りとはまるで違う、どちらかといえば悲しみを含んだ瞳で、ヒイロはデュオを見つめる。

 「…お前が…今、あいつらに会いたくないというのは、最近のお前の様子を見ていれば分からないこともない。…今のお前は、何か、おかしい。」

 言われた途端、デュオの瞳が、一瞬、こわばった。
 …気づかれているかもしれないとは思っていたものの、ハッキリしてしまえば思考に逃げ道が無くなる。…ヒイロに気づかれているのなら…もう、彼に頼ってはいけない。そこまで彼に迷惑は掛けられない。
 前までなら、どんなにキツイ事でも、自分のことなら一人だけで片付けられたのに。…他人に自分の弱みなんて見せられなかったのに。

 …もう、こいつと会うのもやめよう。
 会えばどこか弱くなってしまうから…。

 何も言わず、瞳を閉じたデュオを見て、ヒイロは苦しげに眉を顰める。そして、どうしても答える気がないデュオの顔から手を離して、その体を抱きしめ、肩口に自分の顔をうずめた。

 「…何故分からない。そうやってお前に何かある時に、俺のところへ来てくれるのは……誰でもなく、お前が俺を頼ってくれるなら…それは…俺自身も望んでいる事だ。」
 「…ヒイロ?」

 ずっと口を閉ざしていたデュオは、驚いて彼の名を呼ぶ。
 強い力で抱きしめているヒイロの腕から逃れることはできなくて、また伏せているヒイロの顔を見ることもできない。

 「お前が俺のとこへ来るのは…俺は…嬉しいんだ。」

 声は耳元で呟かれる。
 表情は見えないけれど、嘘ならば、ヒイロはこんなことはいわない。

 「もし、お前が俺のところへくる理由が、お前が俺を特別視しているというなら…。」

 予想外の事態に、思考がうまく回らない。
 何が起こった?ヒイロは何を言おうとしている?

 「お前にとって、俺が他の奴らと違う、特別な存在であるなら…」

 違う、こんな事は考えていなかった。
 自分はこんな事望んではいなかった。
 …少しだけ、彼には自分でも予定外に心の内を見せてしまったけれど、それだけで良かった。ただ、ほんの少しだけ、ぬくもりを分けて貰えれば良かった。

 「俺は…そう、望んでいるんだ、デュオ。」

 怖い。そこから先を聞いてしまうのが。
 聞いてしまったら、自分はどうすればいいのだろう?
 けれど。

 「お前が…好きだ。」

 聞こえてしまった言葉に、デュオはきつく目を閉じた。
 込みあがる感覚に耐えるように、声を出さず、ただ目を瞑る。
 抱きしめるヒイロの腕が、少しだけ強くなる。余計に彼の体温が感じられて、鼓動さえ伝わってくる。
 ヒイロは嘘をつかない。
 ましてや、今のがヒイロの本心だなんて、確認を取らなくても分かってしまう。
 彼の言葉が信じられてしまうからこそ、怖い。
 
 好き…好きって?
 自分にとって、ヒイロは多分特別だ。
 肌を合わせるのも、彼だから求める。こんな状態の自分を見せられるのだって、傍で眠ってもいいと思えるのだって、彼だからこそ。
 単純に、人の好き嫌いで分けるだけの意味で使う『好き』ならば、当然彼のことは好きだと思う。
 でも、ヒイロがいっているのはその『好き』じゃない。
 彼が求める『特別』の意味も、多分、自分が感じているものとは違っている。

 「デュオ…」

 いきなり抱きしめる腕が緩められたと思えば、目の前に彼の顔がある。
 そのままヒイロは唇を合わせてきて、今度はいつもの行為の時と同じ、深いキスをされる。
 瞳を閉じて、自分の舌を唾液と共に相手の口内へ差し入れて。
 そうすれば、舌を絡ませながら、返すように今度は相手の舌が自分の口内へ押し入ってくる。
 互いに舌を差し入れ合ううちに、いつの間にか唇からはどちらのものか分からない唾液が溢れて顎を濡らしている。…でも、熱の上がる感覚に夢中になっている今は、それを気持ち悪いだなんて思わない。思考さえも熱に冒されて、感覚が高まっていく。
 けれど。
 ふいに、唇は離される。
 気づいて、ゆっくりと目を開ければ、ヒイロは真剣な瞳で、じっと、自分を見つめて。
 答えを、待っていた。

 「ヒイロ…俺は…」

 彼はただ待っている、彼が自分に尋ねた言葉に返る返事を。
 その瞳には、怒りもなく、悲しみもなく、ただ、静かに自分を映して。

 「どういったらいいのか…俺…お前の事は特別だとは…思う。他のやつらとお前は確かに俺の中では違ってて、こういう事するのだってお前だからだ。…でも…俺がお前に感じてる感情は…お前が望んでるとおりのモンじゃない…多分。」

 ヒイロは本当に真剣だから…きっと男である自分にこんな事をいうのは大抵じゃない決心が必要だと思うから…それでもこんな告白をしてくれた彼に、自分も嘘は返せない。…とはいえ、これが精一杯で、他に言い様もなかった。

 「…そうか。」

 たどたどしく言葉を紡ぐデュオを見て、特に喜んだ様子も落胆した様子もなく、ヒイロは彼にしては穏やかな声でそれだけを返した。

 「ごめん…。俺…本気でよく分からねぇんだ。そんな真剣に好きとかいうのは…。」

 だが、それにヒイロは軽く首を振って返す。

 「分からないなら、構わない。…ただ、俺がお前をどう思っているのかはいっておきたかった。勝手な勘違いをされて、お前が俺も避けるようになるのだけは耐えられなかった。」

 さらりと言った、ヒイロのそんな言葉。だが先ほどの告白と合わせれば、余りにもそれは情熱的で。

 「どうした?」
 「…お前、結構恥ずかしいやつだったんだな。」

 少しだけ頬が熱くなるのが自分でも分かってしまう。
 けれど、それを気づかれるのはシャクだから、下を向いて、デュオは顔を隠すことにした。

 「デュオ…」

 下を向いたのが不満だったのか、ヒイロはすぐに自分の顔を押さえて上を向かせる。そして、顔が赤くなっているのには気づいている筈なのに、何も言わずに触れるだけの口付けをしてくる。
 ゆっくりと離されていく顔をじっと見れば、少しだけ彼は嬉しそう…なのかもしれなかった。
 こんな返事でもし彼が少しでも喜んでいるなら…それは嬉しいと思う、自分も。
 でも、彼が期待するだけの感情を自分が持てるかはわからないから、言い訳のようにいってしまう。

 「…なぁ、でも俺。お前のことは全然、そういう対象だなんて思った事ないんだぞ。」
 「だったら、これからはそういう対象としてに見るようにしろ。」

 その命令口調がなんだかおかしくて、デュオは思わず吹き出した。
 更にそれは、妙に自分的ツボに入ってしまってしまったらしく、笑い声をあげたら止まらなくなってしまった。
 当然のように、ヒイロは顔を顰めて不機嫌になる。
 でも良く見れば彼も多少照れているらしく、僅かに耳が赤くなっていた。

 「俺もさ…お前の事そーゆー意味で好きになれたらいいよな。」
 「だったら、そうなるよう努力しろ。」
 「へぇ〜どうやって?」
 「そうだな…」

 まだ半分笑いながら喋るデュオの肩を、ヒイロがつかむ。
 それから、本当に真剣な表情でじっとデュオの瞳を覗きこむ。

 「とりあえず、お前が本当に何か問題を抱えているなら、俺に言え。その事で俺に迷惑が掛かるとは考えるな。お前は俺の気持ちを利用してもいい、お前の為に俺がする事は俺の意思で、お前が引け目を感じる必要はない。」

 彼は何処まで分かっているのだろう?…ふと、そう考える。
 言葉遣いは偉そうでも、いっていることは余りにも優しすぎるから。
 本当に、嬉しかった。泣きたくなるくらいに、彼の気持ちは嬉しかった。…多分、自分はそう簡単に彼の言葉には従えないだろうけど、そう、言ってもらえた事だけが、嬉しかった。

 本気で涙がこぼれそうになって、でもこういう意味で弱いところは見せたくないから、自分から彼に抱き着いて、その肩に顔を埋める。

 「なぁヒイロ…続きしようぜ。」
 「デュオ?」
 「俺今すげーしたい気分なんだよ。やらねーの?」

 言えば、ヒイロは黙ってまたキスをくれる。
 深いキスは了解の意味で、離された唇はすぐに体をなぞりはじめる。

 目を閉じて、ヒイロの与える感覚に身を任せながら、デュオは彼に聞こえないよう、小さな声で呟いた。

 「サンキュ…ヒイロ。本当に…努力はしてみるよ。」

 
 




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