回転扉<2>



これでまだ起承転結の「起」がやっと終わったトコです、とかいったらだめですか?
やっと次回から話が展開できる…。しかし今回…ヒイロ出てない…。




Act2

 「じゃあ、ハンスは最初からおかしかったワケだ。」

 やっと少しだけ落ち着きを取り戻したミセス・ベックにちゃんと話を聞く事が出来たのは、もう日も暮れた夜になっての事だった。
 ちょっとしたきっかけで情緒不安定に陥りそうな夫人を宥めて聞けたのは、最近…いや、この屋敷に引っ越してきた時からずっと、ハンスの様子がおかしかったという事だった。
 とにかく、まず出かける事が多くなった。…これは、この屋敷を引き継ぐ為の手続きやら何やらでいろいろ手間取っている…という彼の言い分を彼女はそのまま信じていたのだが…それだけでなく、考えてみれば雰囲気からしておかしかったというのだ。
 デュオが知っているハンスは、陽気で、面倒見が良くて、少々タチの悪いジョークをいったりするものの、基本的には裏表のないのんびりとした人柄だった。
 だが、そんなハンスはこの屋敷に越してからというもの、しょっちゅう何か悩みがあるのか、考え込んで、顰めているような表情をしている事が多かったのだという。

 「あのハンスがねぇ…あんまり考えられないな。」

 デュオの発言に夫人も相槌を打つ。

 「そうね、コロニーにいた時からは考えられないかもしれないわね。」

 はじめ、相続後は屋敷を手放して財産を全てお金に変えて処分してしまおうとしたのを、この屋敷で暮らしたいといったのはミセス・ベックだった。幼い頃を過ごしたこの屋敷を出来れば手放したくないといった彼女に、ハンスはL2での仕事を捨てて地球で生活する事を決めてくれたのだ。
 だから、彼女はそうして様子のおかしい夫を見ても、何も言えなかった。…仕事を捨てて自分の望みを聞いてくれた、彼に、罪悪感を感じて…。
 そんな夫に不安な日々を過ごしていたところで、デュオがやってきた。こんな屋敷に住んでいると、昔のように近所の奥さん連中と井戸端会議…というわけにもいかなくて、彼女としては、丁度良い話し相手が来たと特に歓迎してくれたわけだったのだ。

 「でも、まさか…こんな事になるなんて…。ごめんなさいね、デュオ、あなたにまで迷惑を掛けてしまって…。」

 L2にいた頃は、よく手料理をごちそうになったりと世話をやいてくれた夫人の言葉に、デュオとしては掛けてやる言葉もない。子供のないベック夫妻は、事ある毎に、若すぎる近所の同業者に声を掛けてくれた。親のいないデュオに『おかあさんだと思っていいのよ』といってくれた事だってある、できればどうにかしてやりたし、せめて夫人に危険がなくなるまでは側についていなくてはならないだろう。

 「とにかく、迷惑じゃないなら、俺暫くはここにいるからさ。」

  いった言葉に明らかに彼女は安堵の表情をうかべる。

  「本当にごめんなさい。今夜からは警察の方もいらっしゃるから安全だとは思うわ。」
  
 だから多分、危険はないから。
 その言葉には苦笑を浮かべて。
 昨夜の事は、彼女には”自分が男を撃った”という部分を省いて伝えてある。まさかただの若いジャンク屋であるデュオが、実は警察なんかよりよっぽど修羅場をくぐっているなんて、彼女は思ってもいないだろう。だから、自分と一緒にいる事でデュオにまで危険が及ぶ事を、彼女は先程からしきりに心配してくれていた。

 「もし何かあったら、あなたはすぐに逃げるのよ。かっこなんかつけて、無茶な事をしてはだめですからね。こーゆー事は専門家にまかせるのが一番よ。」

 本来ジャンク屋よりも、こっちの方が専門だけど。
 そういいたくなるのを堪えて、デュオは曖昧な笑みを返す。
 もう、そんなに小さな子供というわけではないのに、ミセス・ベックがデュオにいい聞かせる口調は10才そこらの子供に聞かせるそれで、ご丁寧にも頭まで撫でてくれる。それがくすぐったいような、困ったような…でも、それがいやというわけでは決してなかった。
 きっと、『おかあさん』というのがいればきっとこんな感じ。
 ずっと昔、やはりデュオにこんな口調で話しかける人は一人だけいた、けれど。
 その人と過ごせたのは、本当に少しだけだから。
 彼女は、死んでしまった、から…。
 瓦礫の中に埋もれる、たくさんの、死体、の、なか、大好きな、シスター…は、血に、濡れて…。

 「……ッ」

 目の前が一瞬だけ、真っ赤に染まる。
 反射的に、デュオはきつく目を閉じた。

 「どうしたの?…まぁ、顔が真っ青。」

 ミセス・ベックが、体をよろめかせたデュオの肩を支えていう。
 幻覚はすぐに消えたものの、彼女にささえられたまま、デュオはもう一度、固く目を閉じてから、気を落ち着かせるようにゆっくり瞼を開いた。
 心配気な、ミセス・ベックと瞳が会う。

 「ちょっと、疲れただけ。全然心配することないって。」

 にっこりと、笑顔をうかべて。
 けれど。

 「うそおっしゃい。」

 そういった彼女に、デュオは驚いて目を見開いた。

 「そんな無理した笑顔なんかで騙されるものですか。いい、子供はね、辛い時には正直に辛いっていえばいいの。その歳から作り笑いなんて覚えないで、甘えられる時には甘えてなさい。」

 腰に手を当てて、彼女はデュオの額をこつんと叩く。
 それが、何か、嬉しくて。
 思わず口元が緩んでしまう。
 先程の幻覚が嘘のように、どこか暖かくて、楽しくて。

 「ひっでぇ、俺そんなガキでもないぜ…」
 「何いってるの、私とあなた、いくつ歳が違うと思うの。」

 本当に久しぶりに、自分で、自分が笑っていると感じた。

******************

 コールは、2回。
 コイツやけに早いな、と思って向こうの答えるのを待っていれば、返されるのは沈黙だけ。
 デュオは軽く眉をしかめた。
 まったく用心深い事だね。
 考えてみれば、ヒイロに連絡を取る時はいつもメールばかりだから、電話なんてモノは初めてだった。…この分じゃ、ヘタするといつでも逆探知が出来る用意もしてありそうで、その考えがあまりにもらしくて嫌になる。
 相手に見えるわけでもなく、ちょっと肩をすくめてから、デュオはしょうがなく口を開いた。

 「えーとヒイロ?ヒイロだよな?、お、れ♪」

 嫌みに、語尾にはハートマークでもつきそうな程明るい声で。

 「…………」

 それでも、相手が返すのは沈黙だけ。
 …だがそれからしばらくして、

 「ハンス・ベックについて、多少引っかかる情報を手に入れた。」

 ワンテンポ遅れて(この一瞬の沈黙でヒイロが嫌そうに顔をしかめているのが目に見えるようだ)、イキナリ本題に入るその唐突ぶりに、デュオは話に入る前からまたため息をつきたい気分になった。
 相変わらず、余裕のない人生送ってるね。
 …もうとっくに戦争は終わったのに。
 それでも長年培われた習性というのは、なかなか抜けない。それは分かっているけれど…現在の自分が人の事をいえる立場ではないけれど…でも、なんだかヒイロのそういう面を見るのは昔に増して嫌だった。

 「…どうかしたのか?」
 「…いや別に。気にせず続けてくれ。」

 それでも、黙ってしまった自分にこんな声を掛けてくるのは、結構たいした進歩かもしれない。
 苦笑して、ため息。
 …だがめずらしくも、ヒイロはまだこちらの様子をうかがっているようで、話を続けようとはしてこなかった。

 「なんだよ、気にせず話せよ。それとも、俺が黙ってるとそんなに変か?」

 いえば

 「ああ」

 と、やけにあっさりと返してくる。

 「何だよ、俺ってお前にとっちゃ、そんなにいつもいつもしゃべりまっくてるヤツに見えるワケ?」

 それには即答が返りはせず、彼得意のだんまりが続いた。

 「別にな。俺だって、そうそううるさいばっかじゃねーんだぞ。」

 思い切り声に不機嫌を含んで、わざと刺のある言い方でいえば、ヒイロはやっと言い返してくる。

 「…分かっている。」

 その声は、どこか悲しそうで。
 理由は分からないのに、奇妙ないごごちの悪さを感じてしまって…。
 …別に、ヒイロが気にするような事をいった覚えはない。
 でも、なんだろう、変に引っかかるような違和感。
 なんとなく…ヒイロとの会話としては何か違う…という感じ。
 だが、そうしてふと思い出せば、もうこうして戦争が終わってから大分経つのに…自分はあまりヒイロと話をしていない気がする。会うだけなら何度も会っているのに、あまり会話というか…一般的な友人同士がするような普通のコミュニケーションをとっていない。

 なんだ、重症なのはやっぱ俺の方か。

 苦い思いに唇を歪める。
 きっと、本当はヒイロも変わっているのだ。
 あの戦争の時の、兵士として…戦争の道具としての彼ではなく、きっと彼も変わっているのだ。…自分はそれを見ていないだけで、彼は彼でちゃんと新しい生活へ前進している。
 
 「…デュオ、本当に何でもないんだな?」
 
 あまりにもこちらの沈黙が続いたので、ヒイロがまたそんな事を尋ねてきた。
 あの、ヒイロが、自分の事を気にして、彼の方から声を掛けてくれている。
 
 そんなに心配そうな声出すなよ、…嬉しいじゃねーか。
 
 「いや、本当になんでもねぇよ。…ご心配ありがとさん。」
 
 口元に浮かぶ笑みを押さえきれなくて、声もやけに陽気になる。
 それに返されたのはやはり沈黙だったけれども、今度のは本当にむこうはあきれただけだろうから、それにまた笑ってしまう。けれど、これで笑った声なんかだしたら、ヒイロはますます変に思うだろうから、気を落ち着かせて。
 ゆっくりと息を吸って、吐いて。
 できるだけ声を落ち着かせて会話を続ける。
 
 「本当に感謝してるんだぜ。でも特にこっちには問題ないからさ、話、続けてくれよ。」
 
 なんだか無性に今お前と話したい気分だし、とはいわなかったけれど。
 
 
******************
 
 
 ヒイロが手にしてきた情報は、ハンスが最近頻繁に発信者不明のメールを受け取っていたという事と、ガンダム関連の事柄を調べていたらしい、というその2点だった。
 前者の情報は、最近のハンスの行動を考えれば、何か公に出来ないような輩と連絡を取っていたらしいという事を決定付ける要因の一つとなるとして、後者の情報は、それがもしかするとG関連のきな臭い連中だったかもしれないと予想させる要因になる。

 「…ったく、またガンダムか…。」

 いい加減にもうその呪縛から離れられたと思っていたのに。
 苛立ちまぎれに、デュオは我知らず爪を噛んでいた。
 とにかく、今はまだ情報が少なすぎる。
 多分、もう少しすればまたヒイロが何らかの情報を見つけてきてくれるとは思うものの、あせる気持ちは押さえきれない。ワケの分からない状況の中にいるというのは、それだけで苛立ちがつのる。…しかもそれが…G関連のことなら…尚更。
 
 「こーしてても仕方ねぇ…やっぱミセス・ベックにまた話を聞いてみるか…。」
 
 もしかしたら、何か手がかりになるような事を思い出してもらえるかもしれないし。
 
 ヒイロが外部的な情報を調べてくれるかわりに、デュオの方はグロスマン家の内部からの情報を調べることになっていた。内部…といっても夫人から情報を聞いたりハンスの部屋を調べたりするだけだが、まぁ知り合いである自分でないとやりづらいことではあるだろう。とはいえ、デュオの方は私的にこの件に関わっているだけだが、ヒイロはプリベンターの依頼のもと調べているのだ、別に堂々と屋敷に調べに来ても構わない筈ではある…いや、それでもやはり自分が調べて、極秘裏に進められる方がいい事は確かではあるが。
 しかし、そう考えれば。

 「…結果的にはこれもプリベンターに協力してることになるんだよなぁ…。」

 だったら、ちゃんと仕事うけて報酬もらったほうが得だよな。
 そうは思ったが、ハッキリ言ってもう仕事としてこんな事をやりたくはないのだ。
 本当なら、銃を持つ事だってしたくない…否、正確には、銃を持つ事で安心する自分を見たくないというのが正しいが。
 銃を撃つ自分、迷いもなく人を撃てる自分、いざとなれば人殺しさえも厭わない―――そんな自分を実感することが嫌で、できるだけそんな事とは離れた生活を送りたかった。
 でも、それでも…時々膨れ上がる自分を責める無意識の声に耐え切れなくて…ヒイロに会いにいっていたのは…もしかしたら…離れうよとしていたのとは逆に、思い出そうとしていたのかもしれない。
 あの時の…自分を。
 そして、あの時…自分達が生み出したものが屍だけではなかったのだと。…自分を呼んでくれるのは死者の声だけではないのだと。あの時の現実と今の現実と…ヒイロに会って、彼に触れることで繋いでいたのだ、自分は。

 「くっそぉ、俺ってこんなに弱かったのか…。」

 本気で沈んでいきそうな気を紛らわすために、わざと軽口のように口に出してみる。
 でもそれが虚勢だってことぐらい、自分でもわかっているところが悔しいのだ。

 それにしても。
 こうしていろいろ考えてしまって…なんだか、次にヒイロに会ったらどんな顔をしようか悩んでしまいそうだ、と思って。

 …そんな事を考える事自体にため息を吐きたくなった。
 
 
******************
 
 
 長い廊下に出て、2部屋程離れたミセス・ベックの部屋へと向かう。
 部屋の前には警察からまわされた警護の者がいて、それに挨拶をしてからノックをし、彼女の部屋へ足を踏み入れる。確か警護の者は屋敷の中と外には会わせて4、5人いる筈だが、狙っているものもハッキリしない状況で、この人数はちょっと多いだろう。…多分、プリベンターから少しだけ働きかけがあってこうなったのだろうが…何人いても役に立たないことはかわりがない。逆に足を引っ張ってくれる可能性の方が高そうだ。
 そんな事を考えてなんとなく顔をしかめながら、デュオはベッドサイドのテーブル前に座って、何かを読んでいる夫人に声をかけた。
 
 「えーと、お邪魔しちゃったかな?」

 いえばミセス・ベックはにっこりと笑顔でデュオの言葉を否定して、手にしていた本をテーブルに置いた。
 
 「あなたがハンスについて何か思い出せたらっていってたから、私、自分の日記を読み返してみてただけですよ。」
 
 それはどうも、そういってからちょっとだけ間を置いて尋ね返す。

 「で、何か分かった事は?」
 「ごめんなさい…、まだ読み始めたばかりなのよ。…でも、もし何か思い付いたらすぐに知らせるわね。」

 そういった夫人に、「そっか、頼むな」とだけいうと、デュオはすぐに部屋を出ようとした。
 だが、部屋の中まで入らずすぐに退室しようとするデュオに、夫人は眉をひそめて尋ねてくる。

 「何か用があったんじゃなかったの?」
 「いや、別に。おやすみの挨拶だけだよ。」

 じゃぁ、おやすみ。
 それでドアをしめようとしたデュオは、ミセス・ベックに呼びとめられて、再び振り向かねばならなくなった。

 「ねぇ、デュオ。何か思い出したら、すぐにあなたにいうけれど…、危険な事だったらあなたは関わる必要はないのよ。自分で事態を解決しようなんて思わないで、危ない事は警察の方にまかせるのよ。」 

 それには苦笑して。でも、そんな彼女の心づかいは嫌ではないから、安心させる為に了承の返事を返して。
 再びおやすみの挨拶をしてから、デュオは部屋をあとにした。

 さてと。
 扉をしめて、ふぅと一息。
 顔を上げたところで、ドアの前にいた警備の人間と目が合った。
 部屋入る前と同じく、その人物は軽くデュオへ会釈をする。

 「はいはい、ごくろーさん。」

 それにはにっこりと返してやって、くるりと背を向け、先程来たばかりの、自分の部屋のある方へと体を向ける。そうすれば、警備の者も、何事もなかったようにデュオから視線を外す。
 それに、

 「で、あんたはどこの誰なんだい?」

 つい少し前の挨拶と変わらない笑顔で、デュオは言う。…その警備の男の背には既に銃がつきつけられていた。
 あまりにも突然の事に、男は振り向く事さえできない。
 声さえ出せない相手に、デュオはにっと笑みを深くすると、男の靴を軽く蹴った。

 「ここの屋敷ってこんな広いのに使用人がいなくてさ、掃除は全部ミセス・ベックがやってんだ。だからいろいろうるさくて、ちゃんと玄関から入った人間なら、靴の泥は落としてないと入れてもらえないんだぜ?…なぁ、おっさんさ、どこから入った?」
 
 咄嗟に、男は自分の泥の付いた靴を見て、舌打ちをする。
 そしてすぐに振り返って、自分も銃を構えようとする。
 だが。
 
 「随分甘くみられたモンだね。」
 
 自分の銃に手を掛ける前に、足を撃たれた男は床にうずくまっていた。
 笑顔を消した、冷ややかなデュオの瞳がそれを見下ろす。
 
 「もう一度聞くぜ、てめぇはどこの組織の何モンだ?」
 
 男は答えない。
 脅えた瞳をデュオの持つ銃口に向けて、身体を小刻みに震えさせても…懸命に口を閉じている。
 そんな男の様子にじれて、デュオが顔を顰める。
 しかし次の瞬間、背後に敵意を感じて、デュオはその場から飛びのいた。
 
 仲間がいたのか?
 
 すぐに響く銃声に、デュオはそれを確信する。
 続けざまに数発が放たれ、それは避けたデュオではなく、床にうずくまる男に向けたものだと分かった。
 男のくぐもったうめき声が、銃を撃った相手に振り向いていたデュオの背後で聞こえる。
 きっと、また口封じ。
 だが今度は、前回と違い相手は姿の確認できる場所にいる。
 抑えられた照明の下、男の顔こそは見えないが、薄暗い廊下の向こうにいる相手は、目的を果たしたと同時に駆け出したらしい。
 
 「今度は逃がすかよっ。」
 
 デュオも走り出す。
 逃げる男の影を追って。
 廊下を走り、階段を駈け下りて……それでも他にいる筈の警備の者に会う事がないのは、もう、始末された後か…頭の片隅でそんな事を考えながら。
 一階まで降りたところで、男は身近な窓に飛び込んで外へと飛び出す。
 どうやら、その窓は最初から脱出用に開けておかれたものらしく、相手の行動は計画的に見えた。
 
 …嫌な予感がする。
 
 だが、ここで追う事をやめるわけにもいかない。
 男に続いて、デュオも窓から外へと飛び出した。
 屋敷の庭、窓の外は丁度背の高い木が何本も植えられているところで、おまけに暗闇、逃げた人影を探すのは難しい。しかし、向こうの方が場所を知らせてくれる様に、デュオに向けて銃声が響いた。
 弾はデュオの体を外れる。
 すかさず、デュオが弾の来た方向へ、威嚇に一度引き金を引く。
 そしてすぐに傍の木の影へと隠れると、また、同じ方向から弾がこちらへ放たれる。
 相手の腕は悪くない。
 今まで当たらないのは、運がいいくらいに。
 けれど、何か。
 …何かおかしい。頭の何処かで警告音が鳴る。
 そして、何発目かの撃ち合いの後、ふいに背後に感じる気配。
 
 「………ッ」
 
 振り向くよりも、向こうが構える方が早い。
 お決まり通りに、銃を捨てるように背後の声は告げる。
 そして。
 
 「ガンダムパイロット、デュオ・マックスウェルだな。」
 
 …そう、どうして気付かなかったのか。
 彼らの狙いは自分だ。
 先程から、相手はこちらを撃つ時に致命傷になる部分を狙ってきていない。
 口封じの為に仲間を殺すような輩が、ミセス・ベックのおまけ程度の自分の命を気遣ってくれるとは考えにくい。それなら、あそこで仲間を殺す事も、それを自分が追い掛ける事も、仲間の元へおびき寄せて、こうして自分を生きて捕まえる為の計画通りだったというわけだ。
 そして、ガンダムパイロット、と自分を呼ぶなら……ヒイロからの情報もある…ハンス・ベックが追われていた奴等はやはりG関連の何者かだ。
 
 「さぁて、何の事だい?」
 
 自分でも白々しいと思いながらもそれだけ返すと、背後では笑ったような気配がした。
 後ろの相手に隙はない。…先程、ミセス・ベックの部屋の前にいた男は殆ど素人のようなものだったが、今、背後にいる存在はちゃんとしたこの手のプロだ。
 
 「君には聞きたい事がある。我々と一緒に来てもらおうか。」

 ゆっくりと、気配は近づいて来る。
 一歩、一歩近づいて来るにつれ、自分の神経が砥ぎすまされて行く。
 近づいて、多分、すぐ目の前まで来て、男は足を止める。
 それから手を伸ばして、腕を掴み、自分を振り向かせる。
 だからその時に───。
 
 男の短いうめき声と、重い音。
 振り向き様のデュオの廻し蹴りが、男の腹に命中した。
 形成逆転、すかさずデュオは男の頭に銃を当てる。
 もちろん、さっきまで自分と銃撃戦を演じていたもう一人の相手が暗闇の先にいる事も忘れていない。…こいつまで口封じに殺されるのは面倒だ。
 男に指示をして木の影に隠れ、向こうの出方を見る。
 …気配はある、だからまだ敵はいる。
 けれど、相手は沈黙を守り、向こうは向こうでこちらの出方を待っているようであった。
 緊張が、極限まで高まる。
 そして、突然。
 
 視界が、ぶれる。
 
 「な……。」
 
 なんで、こんな時に。
 思っても、もう手後れだ。
 今この瞬間まで高まっていた緊張感が、冷たくひいて行くような感覚。
 さぁっと、血の気がひくように、寒気のようなモノが体を覆う。
 その隙を、デュオに銃を突きつけられていた男は見逃さなかった。
 固まるデュオの腕から銃を叩きおとし、再びデュオに銃を向ける。
 デュオは今の自分の状況を理解しながらも、現在自分を包む感覚に耐える事が精一杯だった。…声さえも上げられない。
 歪む視界の中、男の拳が自分へと迫る。
 衝撃が、腹へと当たる。
 視界のぼやけがが、今度は意識の薄れへと変わって行く。
 
 だが、そんな中、何処かで…ヒイロの声を聞いた気が…した。
 
 




RET   NEXT


小説トップ   トップ