回転扉<10>




これで全部解決………はしてないです(TT)
ラストのラスト、最後の内訳が、次のエピローグにあります。
…ほらだって…まだアレとアレが???のままというかあやふやなままでしょう?





Act10

******************

 カタカタと。
 キーを叩く音で目が覚める。

 すぐに目に入ったのは、ヒイロの背中。
 それで安心して、また布団を頭から被れば…どうやら今自分は、ソファの上に布団を被せられて寝ているということに気がついた。
 布団付きで、運んでくれたのはヒイロだろう。
 
 「起きたか?」

 気配でわかったのか、ヒイロはそう声だけをかけてくる。
 振りかえってこないけれども、声だけで、彼の穏やかな心情と自分に対する優しさが分かるから、ちょっと照れてしまった。

 のそり、と起きあがって、彼のもとへ歩いていく。
 ただし、服は昨夜彼に引き裂かれてしまって自分は全裸で寝ていたから、とりあえず、布団を体に巻きつけて、歩く。
 ずるずると、布団を引きずって彼の傍までいってから、その手元…彼が操作していたノートパソコンの画面を見て……今まで半分寝ぼけていた頭が一気に覚めた。

 画面に映っていたのは…どう考えてもガンダムの…ゼロの設計図だった。

 「な…ヒイロ…これ、何だ、よ…。」

 少なくとも、見かけ上はいつも通りの平然とした表情で、ヒイロは自分の声を聞くと、初めてこちらに振り向いてくる。
 目と目があって。
 疑うように、彼を睨みつける。

 ―――だって、そうだろう?

 「お前が…見せてくれたハンスからの手紙だと…ソイツは結局ないものの筈だったよな?…お前まさか、まだ俺に隠してた事があるのか?」

 いえばヒイロは眉を寄せて、明らかに不機嫌を露にした。

 「…違う。」
 「何がだよっ。」

 嫌そうに溜息を一つ吐いて。
 ヒイロは立ちあがると、すたすたと歩き出す。…壊れた、ベッドのところへ。

 「グロスマン家自体には、Gの設計図を持っていてもおかしくはない理由はあった。…だが、ハンス・ベックは結局それを見つけられず、既にないものと判断した。ところが…やはり、あったんだ…。」

 そうして、壊れたベッドの足を、こつんとヒイロの靴が軽く叩く。

 「ここに…な。」
 「えぇっ??」

 流石にそれには驚いて大声を上げれば、ヒイロはやはりまだ苦虫を潰したように、不機嫌な顔をして説明を補足する。

 つまり、デュオが寝てしまった後、ヒイロはこのベッドを直せないか見ようとして…それをよく観察してみれば、壊れた足の中にマイクロフィルムを見つけたのだ。
 ハンス・ベックが見つけられなかっただけで、まだあるかもしれない…という可能性は確かに残っていた。それが、ここでまたとんでもない偶然で、自分たちの目の前に出てきてしまったという事だ。
 ヒイロが不機嫌なのは、その所為で、また自分に疑われた事と、…後は多分、きっとヒイロも独自にこの屋敷の中でこれを探して…結局見つからなかったに違いない。
 …よく見れば、ヒイロの顔は、不機嫌というか、単純に拗ねているような感じだ。

 「…まったくさぁ…。」

 何かを声を掛けようとしたら、それよりも思わず吹き出してしまった。
 それでヒイロが、わけがわからないようにキョトンとした顔で自分の顔を見てくるものだから、今度は声を上げてまで笑ってしまう。
 なんだか無性におかしくて。
 コレの所為で、今回これだけいろんな目にあって、いろんな事を感じて。…それがこんなに、ぽろりと単純に目の前に出てくれば、あれだけ大騒ぎをした自分たちがばかみたいに思えてくる。

 たくさんの偶然が折り重なって、今、この手元にあるもの。
 まるで、結局、自分たちのところへ来ることが決まっていたように。…恐らく、奴らに狙われて、死を覚悟したグロスマン当主夫妻が隠したときも、まさかこんな結末を想像もしていなかっただろう。

 「…そうそう使うモンのいない筈の、娘のベッドに隠すってのも…まぁ、考えればありそうだといえなくもないけどさ。」

 そうして、急激に思いついたことに笑みが消えると、デュオは大きく一つ息を吐き出した。

 「これで…本当に、全部解決…だよな。」

 けれど、いった言葉とは裏腹に、声は沈む。
 結論だけを見れば、確かに全てまるく収まったように思えるものの、そこに到るまでの過程で取り返しのつかないこともある。

 「デュオ…。」

 いつのまにか、傍に立っていたヒイロが後ろからゆるく抱きしめてくる。
 気づいて、すぐ体を離そうと思ったけれど、思いなおして、そのまま彼に寄りかかった。…少しだけ、彼にすがってしまうのも、悪くはないか、と、そう思って。

 「ハンス・ベックの死に、お前が責任を感じる必要はない。」

 …まったく、彼は、何故またこういう事には鋭いのだろうか?
 口許には苦笑しか浮かばない。

 「…でも、もし俺がすぐにあの切手を見つけて、メッセージを読んで最初からそのために地球へ降りてたらさ、間に合ってたかも…しれねぇだろ?」
 「それはかなり確立の低い仮定だ。」
 「それでも、ハンスが助かった可能性もあったんだ。だったら、やっぱり…」

 悔しいさ、と。
 いって目を瞑れば、ヒイロは抱きしめる腕の力を強くする。

 「元Gのパイロットなんていっても、俺は、結局、何も出来ないただのガキなんだよ。…ハンスが俺に、助けを求めてくれたのに、結局、どうも出来なかったんだ…。」

 呟けば、ヒイロは抱きしめたまま、ぼそりと耳元で返してくる。

 「当然だ」
 「え?」

 それから、ゆっくりと抱きしめる腕を離してしまうと、こちらの顔を向けさせて、じっと瞳を覗き込んでくる。

 「俺達は、何でもできるわけじゃない。少しばかり他人よりもいろいろな技能を持っていたとしても、結局やれる事などたかが知れている。」
 「……お前らしくねぇセリフだなぁ…それ…。」

 茶化すように笑えれば、それでもヒイロの真剣な瞳は、じっとこちらを見て動かなかった。

 「…そうだ、あの戦時中、俺は、お前にそれを教わったからな。」

 その言葉に。
 もう、何度目になるか分からない、驚きの声を上げる。
 そうすれば、ヒイロは、初めて見せる、穏やかな笑みといえる表情をその顔に浮かべていた。
 それで益々、驚きすぎて声も出せなくなる。
 ヒイロはいう。

 「ずっと、俺は一人で何でも出来ると…そのように創られたと。…回りの者にそういわれていたし、俺もそれを信じていた。だが、その俺を初めて否定したのはお前だった。お前だけは、俺を完璧なGパイロットとしては見なかった。お前にとって俺は…ヒイロ・ユイという呼び名を持つ、ただの人間だった。」

 それに気づいた時、どれほど嬉しかったかと。彼は語る、笑顔さえ浮かべて。
 デュオは、ただ驚いて彼の顔を見ることしかできない。
 掛けるべき言葉も見つからない、茶化して笑うこともできない。

 「いつでも、お前が俺に求めるのは、名前の持つ意味さえ関係ない、ヒイロ・ユイというただの人間だった。お前にとっての俺は、完璧な兵士でも、過去の英雄の名をつけられた特別な人間でもなんでもなかった。」
 「ヒイロ…。」

 やっとのことで、彼の名だけを呼べば、嬉しそうに、彼は触れるだけのキスをしてくる。それからもう一度抱きしめられて…そのおかげで、泣きそうになってしまった顔を見られずに済んだかもしれない。
 暫くそうやって、互いのぬくもりを感じて、…それがとてつもなく心地良かった。
 涙はどうにかこらえたけれど、酷く安心できて、酷く嬉しくて…酷く幸せだった。
 それでも、静かに体を離せば、彼は一度深く合わせるキスをしてきて、それからまた真剣に見つめてくる。
 自分には、その瞳をちゃんと見つめ返すのだけで精一杯だった。

 「それにデュオ、死んだハンス・ベックもきっと後悔してはいない。もちろんお前を恨んではいないだろうし、…いや多分、お前には感謝していると…俺は思う。」

 ヒイロの言い出したことが分からずに、デュオは驚いたように目を丸くする。
 静かで、諭すような目で見つめてきて、ヒイロは何か考えるように言葉を続ける。

 「ハンス・ベックは、彼の一番大切な者の為にした事で死んだ。…お前は、ハンス自身を助けることは出来なかったが…ハンスの一番大切な者を守った。」

 確かに、確立でいうのならば。
 偶然、地球にデュオが来て、偶然、グロスマンの家にいって。
 状況も何も分からなかったとしても、ミセス・ベックを守れた事こそ奇跡ともいえる確立だろう。
 …けれど、ヒイロがいいたいことはそうでない事くらい、デュオにも分かった。

 分かったからこそ、デュオはヒイロを睨みつけた。

 「いっておくけどな、ヒイロ。確かに、お前が俺のために何かをしてくれるのは嬉しいと思う。…けどな、俺の為なら死んでもいいなんて事だけは絶対許さないからな。お前の…」

 お前の命以上に、欲しい物も失いたくないものもない。
 いいきってから、デュオはふと気づく。

 『ばかね。…この屋敷が貴方以上に惜しいなんてあり得ないのに…。貴方がいるなら、私は何を手放しても良かったのに…。』
 
 ミセス・ベックが死んだハンスに向けた言葉。
 あの時、感じた事は、そういう事だったのだろう。
 単純に、自分はヒイロのことが好きだったから、大切だったから。…ミセス・ベックが彼女の夫を愛していたように。
 
 「デュオ?」

 伺うように、ヒイロが顔を覗き込んでくる。
 デュオは急いで、その顔をヒイロから見えないように後ろを向いた。
 だって、これは余りにも恥ずかしいから。
 意識して気づいてしまったら、顔が赤くなって、とてもじゃないが、目の前の彼にだけは見せたくない状況だった。
 それでも、顔を見ようとしてくるヒイロに、意地になって顔を隠せば、彼もまた意地になってこちらの顔を見ようとしてくる。

 「おいデュオっ。」
 「るっせぇな、いいから見んなよっ。」

 けれど、やっぱり力ではヒイロに勝てなくて、強引に顔を見られてしまう。しかもこういう事に疎い彼は、生真面目に眉を寄せて、どうしたんだと聞き返してくる始末だ。

 「いいんだよっ、別に何でもねーよ。」
 「だがデュオ…お前顔が赤い…。」

 殴ってやろうかと思った。
 けれど、本気で彼に悪気がないのが分かる分、それは思いとどまって……それ以前に、殴ったところで避けられてしまうだろうとも思ったりもして。

 「ほら、もうこの話はいいからさ。まだ俺達には最後のお仕事が残ってるだろ?」

 そういって、Gの設計図を映しているノートパソコンのところへ行くと、その画面を落として、ヒイロににっと笑い掛けてやる。

 「Gの設計図が見つかったなら、その破棄までが俺達の仕事だ。なぁ、ヒイロ。」

 そういえばヒイロも、合わせるように唇の端を吊り上げて、そうだな、と返してきた。
 それから、こちらに近づいてきて、読み取り装置からフィルムを取り出すと、そのまま自分へと渡してくる。
 しっかりと受け取って、目の高さまで持ってきてから、小さなそれを指だけでもてあそんで。

 「さて、どうしようかね…。」

 呟いてから、室内を見まわす。
 そうして、ガラス製のアンティークな灰皿を見つけると、ポケットを探ってライターと……この間ヒイロから渡された切手を取り出した。

 「ヒルデには怒られちまうかな?」

 それでも、灰皿の中にフィルムと切手を入れると、その切手に火をつけて、両方を燃やしてしまう。
 小さなそれは、ほんの少しだけ炎を上がらせて、でもすぐに燃え尽きる。
 それから、自分のする事をただ見ていたヒイロに、満面の笑顔を浮かべて振りかえった。

 「さぁて、これで、本当に、任務完了ってね。」

 ヒイロはそれに、そうだな、と返してきて。
 だから自分は、笑って彼に返してやる。

 「じゃぁヒイロ、そういうわけで、早くいこうぜ?」

 すぐにヒイロは、少しだけ眉を寄せて聞き返してくる。

 「どこへだ?」
 「そりゃぁまずは、朝ご飯を食べに、一階のテーブルへ。」

 そろそろ、パンの焼けるいい匂いがしてきたし。
 それに、面を食らったように瞳を丸くしたヒイロの顔がおかしくて。だからまた声をあげて笑ってしまう。
 すぐに彼は見慣れた不機嫌な顔になって、自分をにらみつけてくる。
 だから今度は、彼の顔をじっと見て。
 しっかりと視線を合わせてからいってみる。

 「それで、だ。朝食を食べたら、ここを出ていかなきゃな。」

 彼の困惑する気配は分かったから、それがおかしくてまた笑みが浮かんだ。






 「さぁて、どこへいこうか、ヒイロ。」









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