Remember <4>




 <Six Day>
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 部屋の中は真っ暗で、中からは人の気配がしない。
 けれど、ヒイロはここにいる筈。なにせさっきこの部屋に入っていったのをみたばかりなのだから。

 「ヒイロ、いるんだろ?」

 声をかける。
 そうしてから、中の様子を注意深く伺えば、確かにベッドの辺りから微かな人の気配を感じる。

 「寝てんのか?もしかして、体調悪ぃ・・のかやっぱ。」

 そう、こうやってわざわざヒイロのところに来たのは、出撃から帰ってきたヒイロの様子がへんだったから、それがどうしても気になったのだ。

 「さっきさぁ、お前真っ青な顔して部屋の中入ってったろ?・・なぁ、体調悪いんだったら俺薬かなんか貰ってきてやろうか?それとも水だけでも飲むか?・・・困った時はお互い様だろ?遠慮とかする必要はないんだぜ?」

 いいながら、ベッドへと近づいて行こうとする。
 だが、そのデュオへ返されたのは、一言。

 「近づくな。」

 完全な拒絶の言葉だった。

 「なんだよ、お前。」

 眉を寄せて、表情に不機嫌さを表して、デュオがベッドの上から睨み付けてくる蒼い双眸に抗議の視線を投げつける。

 「体調が悪い時に、他人に近寄られたくないってぇ気持ちは分からないでもないけどな。一応今俺達は一緒に戦う仲間なんだしさ、もうちょっと信用してくれたっていいんじゃねーの?」

 そしてまた一歩、ヒイロに近づく。

 「そうじゃない。・・・出て行け。」

 だがヒイロは、まったくこちらに気を許す気はないらしい。

 「来るな・・。」

 例の、彼らしい、思いっきりきつい視線で自分を睨みつけている。
 ──────あーあ。
 溜め息を付いて、さらに近づく。
 なんでまたこいつってば、こう、人慣れしてないかねぇ。
 などと思いつつ。
 デュオはヒイロの言葉を無視して、ヒイロのいるベッドへと近づいていった。
 そして、ベッドの前まで来て、その上でうずくまっているヒイロに触れようと手を伸ばして────。

 途端。

 背に触れる筈の手はヒイロに捕まれ、ぐいとすさまじい力でひっぱられた。

 「なっ・・」

 声を上げる暇もなく、背中に衝撃がくる。
 息が詰まって、軽くむせて。目を開けるとヒイロの顔がすぐ前にあった。

 「デュオ・・」

 暗闇の中、真っ青な瞳だけが自分を見下ろしている。
 ベッドの上に倒れているのは自分、ヒイロがその上から自分の体を押さえつけている。
 押さえつけている?──────何故?

 「おいっ、ヒイロ?」

 この事体に何が起こったのかわからなくて、デュオは尋ねるだけの視線を投げる。

 「お前が──────」
 「何?」

 ヒイロの呟きに、聞き返そうとした声はその唇でふさがれた。
 そこまでいたっても、デュオには何が起きたのか理解が出来ず、ただ目を見開いて目の前のヒイロの顔を見ることしか出来なかった。

 「ヒイロ?お前一体・・何を?」

 唇が離されてすぐに、そう声をかけてみる。
 だけどヒイロは何も言わず、乱暴にデュオの服を引き剥がし始めた。

 「ばかやろうっ。何しやがるっ。」

 さすがにその意図を察したデュオが、闇雲に暴れてヒイロの腕から逃れようとする。
 そんな抵抗も、だがしかしヒイロにはあまり意味はないようで、多少は手間取ってはいるものの、デュオを逃がす事はなく、確実にデュオの素肌を露にしてゆく。
 ビッと、布地の裂ける音がデュオの中の恐怖を煽り、ヒイロが何もいわない事が困惑を益々強める。

 「なぁ・・お前、どうしちまったんだよ?」

 それでもヒイロが答えてくれる事は、ない。

 「ヒイロ・・おい冗談だろ?」

 瞳を動かす事さえなく、ヒイロはデュオの身体から全ての衣服を取り払い、その肌に唇を押し当ててくる。

 「うっ・・っ。」

 何故こんな事になったのかがわからなくて、ただ混乱する。
 そんな中でもヒイロの舌と掌は的確にデュオの快感を煽って来て、出したくもない声を出させられる。

 「やめろっ。てめぇ・・やめろっていってるんだよっ。」

 何を言っても、ヒイロが反応を返してくれる事はなく、ただ自分の身体を弄ってくるだけだった。
 やがて、逃げようとした身体を引きずられて、腰を上げさせられる。

 「いやだ・・。」

 小さな呟きも無視をして、ヒイロは一気にデュオの身体へ入ってきた。

 「うわ──────。」

 痛みだけしか与えられない行為に、デュオの口からは悲鳴が上がる。
 ヒイロはただ自分の欲望だけを追う行為を続けるだけで、自分を気遣う事は一切ない。

 「てめぇ・・。」

 痛みに翻弄されて、意識さえ遠くなりそうな中、出来る限りの怒りを瞳に込めて、相手の顔を見る。
 だけど。

 「デュオ・・」

 最後に、本当に最後に見たヒイロの表情は、自分を陵辱した張本人とは思えない辛そうな表情をしていたから。

 「何故?」

 出したくても出せない言葉を、ヒイロに向けて、言う。
 何故、ヒイロ──────。

 「すまない・・。」

 混乱と痛みの中、ハッキリと聞こえたのはその言葉だけ。
 後は意識から切り離されて、掛けられた言葉は届かなかった。

 ああでも。

 ずっと遠くで「好きだ」という囁きが聞こえた気がする。
 それは、自分の望みがそう聞こえさせただけの幻聴だったかもしれないけれど。


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 身体が、だるい。
 ふぅと大きく息を吐き出し、あちこちがぎしぎしと軋む身体に顔を顰める。

 喉が乾いた。
 水─────取ってくれよ、ヒイロ。

 そう言おうとして、すぐに気が付く。
 傍にヒイロはいない。
 それは分かっていた事だから、また一つ、デュオは大きく息を吐いた。
 それから瞳を閉じて、今度は大きく息を吸う。
 そうすれば、未だに肌にはヒイロの唇と掌の感触が残っているようで、たまらず、デュオは両腕で我が身を抱きしめた。

 「ばかやろう・・。」

 言葉としてはそれだけいって。
 本来ヒイロのために割り当てられた部屋の中で。
 一人、デュオはそうしていた。


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 「目が覚めたのか。」

 それから数時間後、部屋に入ってきたトロワは、ベッドの上に上半身だけ起き上がった体制のままのデュオを見て、そう言葉を掛けてきた。

 「トロワか・・。いつ来たんだ?」

 ゆっくりとした動作で振り返り、トロワの顔を見るデュオ。
 心なしか、表情は辛いような疲れたような、そんな力ない印象を受ける。

 「起きれるか?」

 そう尋ねると、

 「ああ、別にどこも悪くねぇよ。すぐに起きる。そしたらシャワーを使わせて貰って、俺もそろそろここ出て行く準備しねーとな。」

 「デュオ、ヒイロは・・」

 思わずいってしまった言葉に、デュオは別に意外そうにもせずに力ない笑みを浮かべて返してくる。

 「ああ、もういねーんだろ?分かってるよ。」

 いうと、背伸びをして、殊更元気そうにベッドから飛び起きる。
 あくびをして、首をまわして、手首の間接をまわして。
 そして、

 「じゃ、ちょっとシャワー浴びてくっからさ。」

 そういってトロワの横を通り過ぎていこうとする。
 鼻歌まじりに、別段なんともないように。
 いつも通りの明るさを顔に張り付かせて。

 あからさまに、無理をして。

 「デュオ。」

 デュオが振り返る。

 「何だぁ?」

 何気なく。
 トロワは一度だけ目を閉じて、そしてまたすぐに目を開いて、口を開く。

 「お前には、話さなくてはならない事がある。」



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 <After>

 風が通り過ぎて行く。
 空は何処までも高くて、天井が見える事はない。
 地球でしか見られない、本物の・・作り物でない青い空。
 コバルトブルーの澄んだ、青。
 誰かの瞳と同じ色。

 風がまた、吹く。
 ざぁっという音が、すぐ傍にある木から聞こえてくる。
 今は夏、緑色の葉をめいっぱい身につけた木の枝からは、風が吹くたびに葉のこすれ合う音が響く。
 高い太陽が、眩しい。
 こうして、芝生に寝転がったまま仰向けでいると、どうしてもその光を遮る為に腕を目の前にかざしていなければならない。
 だから、今のヒイロの表情は見えない。
 もっとも、目を隠していなくても、いつも表情が欠けた顔しかしていないヒイロの感情など、誰も読み取ることは出来なかっただろうけど。

 遠くで、人の話し声がする。

 夏期休暇中の今、この学生寮に残っている人物などたかが知れている。
 だから、普段ならば大勢の人間の声に混じってざわめきの一つにしかならない声も、静かすぎる今はやけに気にかかってしまう。
 とはいえ、会話までは聞き取れない。遠くの、声。
 その声もすぐに消えて、また静寂が辺りを満たす。


 風が吹く。
 頬を撫ぜて、少しだけ暑さにじっとりとする肌をさらりと冷やして行く。
 目を閉じて、耳をすませて風の音を聞く。
 ざわざわ。
 さわさわ。
 寄せる波にも似た、静かな、音。
 その中に、小さな別の音が混じる。
 サク、サク、サク。
 芝生を踏みしめる、人の足音。
 その音が聞こえるくらい、その音の主は自分の傍まで来ている筈なのに。
 気配を感じない、この自分に気配を感じさせない、人物。
 ──────。
 足音は止まる。
 自分の目の前で。

 「お前って、本当に学校好きだよな。」

 掛けられた声。
 信じられなくて、全ての思考が停止する。
 だけど・・・。
 ゆっくりと、目の上の腕をどけて、瞳を開く。

 太陽が放つ眩しい光。
 すぐなれなくて、目を細める。
 だけど、馴れてくると、次第に視界もはっきりとしてきて。
 目の前の、自分の顔を覗き込んでいる人物の顔が見える。

 夏の空と同じ、高いところの澄んだ青色。
 その瞳はじっと、自分を真っ直ぐに見つめていた。

 中には、憎しみの色など破片もなくて。
 ただ真っ直ぐに自分を見てくれていた。







  「好きだよ、ヒイロ」






                    END


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うわっ、分割の割合ミスった!!! すいません、最後は短くて(T_T)。3が長かっただけに、まだ後結構話があると思った方いたらすいませんでした。 あーあ、3は二つに分けて全部で5ファイルにすれば良かった…
さて、甘々ストーリー、どうだったでしょうか?…途中の二人のじゃれあい…書いてるときは確か楽しかったのですが、今読むと恥ずかしいですねー。 今はこんなのギャグじゃないと書けない…(^^;;しかしこのデュオ、後で記憶喪失の時の自分の話とかヒイロからでると、かなり恥ずかしがりそう…。 とりあえず、ヒイロもデュオも、「互いのことをわかってない(記憶がない)」状態なら、素直にラブラブできる、という事で。




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