Machine Voice
【8・狂気の始まり】

はじめてα2の未来での話があります(・w・)…ちょっとだけだけど。
なんか色々理屈合わなくても気にしないで下さい(^^;;;;;;






 白い壁、白い世界。
 彼は気がついた時からそんな世界しか知らなかった。
 たまに聞こえる声がいろいろ聞いて来たけれど、彼らは声だけで姿を見せてくれた事は無かった。

 白い世界に、たった一人。
 でも不思議と、一人である事には何も感じなかった。
 寂しいとか、辛いとか。そういう感情を自覚したのはそこでではない。
 ただ、自分はここにいる。存在理由は知らなくて、ただ、そこにいる事だけを漠然と感じて。
 聞かれた事以外、何も考える気などなくて。

 でも。

 そう、いつからか。
 自分は何かを期待していた。
 何かが来るのを…いや。
 誰かが来るのを待っていた。

 閉ざされた彼の世界。ある日突然、その世界は壊される。
 崩された白い壁、その中から現れた数人の人影。
 そのどれもに、なんとなく見覚えがある気がした。
 だけど。
 彼が実際に目を止めたのはたった一人、長い髪の毛を後ろで一つに編んだ細いシルエット。

 「さぁ、行こうぜ、α2。」

 差し伸べられた手を握り締めるのに、不思議と迷いは感じなかった。
 自分は彼を待っていた、そう感じたから。


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 「お前にしてもらう事は簡単だ。追っ手を撒くな。殺したり捕まえたりする事も必要ない。そうすれば、デュオに会わせてやる。」

 何もいわず、ヒイロは眉を顰めてα2を見る。何をいいたいのかが分かっているα2は、ヒイロが口を開く前に説明を付け足す。

 「お前の記憶は奴等の中にある、だから。」
 「分かった。」

 ヒイロ=ユイは囮、おそらくこの言葉を記憶から探し当てた奴等もそれには気付くだろうけど、『デュオに会わせてやる』という言葉があるから彼をつけるしかなくなる。
 ヒイロ自身は分かっているだろう、デュオに会わせるという言葉は嘘の事を。だが、追っ手の者達はヒイロの記憶は持っていても、その思考から読み取ってなどいないので、そんなところの判断はつかない。

 「では、おって連絡はする。」

 いうと、α2は身を飜してベランダから飛び降りた。
 後は、囮に奴等が引っ掛かるのを待つだけ。
 だからそれまで、彼はデュオの元へと帰る。
 今ならば、自分以外の誰にも会わせなくていい、デュオの元へ。


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 気付いたのはいつだったか、デュオはいつも自分を見ると悲しそうにする。
 悲しい、という感情を知ったのはその時。
 彼がしているその表情を、悲しみ、だと感じた。

 「デュオ」

 いつものように、α2はデュオの傍にいる。他のメンバーを嫌っているワケではなかったけれど、デュオの傍にいたい、彼はそう思っていたから。

 『そういうトコも、やっぱり君は同じなんだね。』

 カトルはいう。

 『でも、出来ればもう少しデュオを一人にして上げてくれないかな。だって、デュオは…君を見るとどうしても彼を思いだして…辛いと思うんだ、きっと。』

 『彼』とはヒイロ=ユイの事、それは何度もいわれたから知っていた。
 けれど、α2はデュオといたいのだ。何も無い自分の中の、たった一人の特別な存在であるデュオと。
 デュオはいつも笑っている。笑って話し掛けて、「お前も笑うんだよ」とα2に何度も教える。
 最初はいわれても何も出来なかったけれど、少しずつそれも自分の感情と連動して表現出来るようになれば…デュオは喜ぶ、だから自分も嬉しいと感じた。

 だけど、笑顔はふっと消えて、デュオはまた悲しみの顔になる。

 「俺は…あいつの笑った顔を一度も見たことはなかった。」

 α2の顔に手を伸ばして、その前髪を掻き上げて、じっと蒼い瞳を見つめる。

 「ヒイロ…。」

 大きな瞳から零れるのは涙。
 真っ直ぐα2の顔を見つめるデュオの瞳は、本当は彼を見てはくれない。
 自分は彼の代りなのだと、その時に思った。
 その為のロボットなのだと、自分は思った。
 だから彼は…ヒイロ=ユイになろうと思った。


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 デュオの無事を確認して、一度また場所を変えさせてから、α2はヒイロの元へと戻って来た。
 だが、今度はヒイロに会う事が目的ではない。
 そろそろ奴等のマークが付いたか、それを確かめに。
 アパートの中へ入らず、見える位置まで近づいて周囲の気配をただ探る。
 じっと瞳を閉じて、センサーの処理をすべての最優先にして感覚を広げれば、周囲の雑多な音が全て情報となり流れ込んでくる。その音の一部分だけを取り出して、片端から検索していけば、怪しい者の立てる音などすぐに分かる。

 『まだ…変化は…なし』

 見つけた。

 続く電子音が、彼らの使う通信機の独特の警告音である事まで確認すれば、完全に確定される。
 後は、そいつを捕まえて、ヒイロの記憶のありかを聞き出すだけ。
 彼は走る。
 彼の目的の為に。


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 「奴等の居場所が分かった、これから乗り込む。お前は、どうする?」

 聞けば、ヒイロはすぐさま自分も行くことを告げる。
 もちろんその返事がくる事は分かっていたから、α2はわざわざ知らせにきたのだが。
 ヒイロを見張っていた、男に吐かせた場所は二つ。
 一つはこの時代に来ている彼らを指揮するリーダーの現在の居場所。
 もう一つはヒイロの記憶を引き出す為の機械がある場所。
 α2はリーダーの男がいる場所をヒイロに教える。
 そして実際、ヒイロと共にその場所へ向かう。
 傍まで来て、「二手に別れる」と告げてから、ヒイロとは離れて別行動を取る。
 後はあの場を彼にまかせて、自分は記憶を奪いに行けばいい。
 そう、自分の目的の為。

 ヒイロ=ユイの記憶を手に入れれば…自分は彼になれるのだ。


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 α2は、自分を囮にするつもり。
 それはすぐに理解出来るし、納得も出来た。
 だから、今、彼が別れる時に告げた言葉は全て嘘。
 敵は確かに目の前にいるけれど、自分達の目的のモノはあそこにない筈だった。もし本当の目的があそこにあるのなら、α2はここへヒイロを連れてこない。目的のモノへは今、α2が向かっている筈だから。

 だから現在、ヒイロのすべき事はここにいる奴等を引き止めて、α2の邪魔をさせない事。
 α2が仕事を終えるまで、ヒイロは彼らを引き止める。しかも、ヒイロが来る事を分かっている奴等を。

 α2から別れ際に渡された、敵から奪った例のレーザーカッターをまずは設置する。どうせ使えるのは最初だけだと(この機械は一発を撃つのに時間がかかる)位置を固定して、発射と同時に飛び出す事にし、スイッチを入れて待つ。
 パネルに浮かぶ発射までの秒カウンター、一つずつ確実に減って行くそれを目で確認して、ヒイロも手に持つ銃を握り締め、心を落ち着かせる。

 3、2、1、0
 光が地面を走り抜ける。
 それを追ってヒイロも走る。
 予期していた襲撃とはいえ、うろたえる彼らのパニックが収まらない内に、ヒイロは確実に目に付く人影を撃って行く。目指していた壁の影に隠れるまでに、そうして3人は始末していたのだろうか、敵も用心して、壁にいるヒイロを迂闊に撃ってはこなくなった。

 いや、もしかしたら。

 ここまで走ってきた、その間の事を考えて。ヒイロは何故か、敵が自分の致命傷になる部分を狙って来ていない事に気がついた。

 もしかしたら、気のせいかもしれない。または偶然なだけかもしれない。
 試しに思い切って、ヒイロはもう一度、今度は向こうで隠れてヒイロを狙っている男のところまで走り抜ける事にした。
 出来ればあの男を殺さずに、話をきければベストである。

 ヒイロは再び走りだす。
 すぐにレーザーの光が辺りに交錯する。
 だけれど、それで確信してしまった。
 彼を狙うレーザーの光は、全て足元を抜けて行く。
 頭や心臓を狙う光は、一つたりとも有り得なかった。


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 冷たい、部屋。
 わざと冷気を保つ部屋、ここには目的のものがある筈。

 扉の前にいた数人の見張りを殺し、α2は部屋の中へ足を踏み入れる。
 中はガランとしていて、目的のものはすぐに見つかる。
 中にいた作業員が、α2の姿を見つけて悲鳴を上げる。
 それを銃声一つで片付けて、彼はゆっくりと作業員がいた機械へ近づいた。

 「やはり、これか…。」

 生体機械用に作られた特殊な記憶メディア。
 あまりにも多すぎる容量を検索できるシステムは、今のところ専用に作られた生体部品製の電子頭脳だけ。

 だから、彼らがヒイロ=ユイの記憶を取り出そうとするなら方法は一つ。

 目の前に設置されたその為の機械。
 人間大の大きさもあるその中には、α2とまったく同じ顔をした、もう一人のHYT試作品が眠っていた。

 試作品、HYTα1。狂って処分された筈の存在。

 眠る体を良く見れば、腕や足はボロボロで、彼が発狂した時に取り押さえられた時の光景が目に浮かぶようだった。
 思考の為のシステムはすべて焼ききられた筈。
 だから、彼はもう自分でモノを考える事は出来ない。
 体の制御システムは、彼を取り押さえる時真っ先に破壊された筈だから、動く事ももちろん出来ない。
 かろうじて残された、記憶と思考を繋ぐ制御部分が残っているから、こうしてそれだけを外部のコンピュータに繋げてどうにか記憶を読み取る。

 迷いもなく、α2は彼の眠る機械のカバーを開けた。途端、冷気が体を襲うけれど、彼はまるで気にもせずに、眠る存在の体を抱き上げ、うつぶせにする。
 後頭部からは数本のコード、自分にも繋ぐ為のプラグは付いている。
 左手の手袋を外し中指のカバーを外せば、小型のレーザーメスが現れる。彼のコードをすべて抜いて、自分と同じ構造である、後頭部のプラグのすぐ下にメスを入れる。そこから表皮を剥げば、何重にも被された小さな鉄板が現れる。

 一枚、一枚、軽く回せばそれは外れる。
 そうして、中へ指を潜らせ、目的のものを取り出した。
 二センチ四方の小さなサイコロの様なそれは、キューブと呼ばれる特殊な記憶メディアで、これ一つで一般的な人間の脳に匹敵する程の容量を持つ。
 α2や彼の型では、このキューブを二つ装備する事が出来た。先程指に触れたのは、だからもう一つあったのだが、あれは新たに書き込まれる記憶の為のものなので、こちらにあるのが、ヒイロ=ユイの記憶であるのは間違いない。

 α2の中にある、本来このキューブが入れられる筈の場所には、今は完全版でない、一部の記憶だけをコピーされたものが入っている。それをこれに入れ替えたなら…彼はヒイロ=ユイになれる。

 そう、恐らくは。
 だけれども…。


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 呆然と、ヒイロはその場に立ち尽くしていた。
 辺りに転がるのは敵の屍。
 こちらの命を狙おうとしない敵を殺す事はためらわれたが、放っておけば、彼らはデュオの命を狙う。
 人殺しの後の、やりきれなさ。
 確かに今、ヒイロを襲う感情にそれは含まれていたけれど。

 「お前は死ぬんだ。」

 自分を狙わない理由は、最後に殺したここのリーダーの男から聞いた。
 今から4年後、DEEG発足の初期に自分は死ぬ。
 その時、自分の屍から取り出されるデータの為に、今ここで殺すわけにはいかない。

 「どうせ、お前は死ぬんだ。」

 しかも、その遺体を敵に利用されて。
 死に際の男の顔はヒイロに対する嘲笑を浮かべていた。

 ────自分の命を惜しいだなんて、思った事はなかった。

 長生きをするつもりなんてない。
 それに、α2が説明した彼の事、聞く内に半分くらいはそうではないかと思っていた。それが確定されただけ。
 命なんて惜しくない。
 地球に降りたあの時から、作戦が終わるまでに自分は死ぬと思っていたのだ。

 だけど。

 生き残ってしまったから。
 生きたい理由ができてしまったから。
 あいつに、会ってしまったから。

 屍だけが転がる中、気配のない足音がヒイロに近づく。
 振り返ったヒイロの瞳を確認して、α2は口を開いた。
 
 「目的は果たした。デュオのところへ…行くのだろう?」






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