Machine Voice
【5・4つの蒼】

HTML化で読み返しながら、自分でも改めてα2がかわいいなぁ…とか思ったり。





 L1行きのシャトルのチケットを握りしめて、ヒイロは走る。

 地球圏統一会議は無事全日程を終了した。
 爆破予告をしていた団体を検挙し、数名の工作員を捕まえ。表向きには平穏無事に進められた会議の中、裏では決して平和などではなかったけれど、それでも会議は成功したといっていい。
 だから、会議の間、仕事としてその場にいなくてはならなかった彼も、これでようやく開放される。

 「あれ?ヒイロ、もう帰るの?」

 そんな事を聞いてくるのは、予想通り、カトルしかいない。

 「会議が終わったら、リリーナさんが会いたいって…聞いてる?ヒイロ。」
 「…ああ。」

 返事だけで、顔は見ない。

 「俺は急いでいる。そういっておいてくれ。」

 本当は無視して去っていきたかったが、一応そこまでの返事を返す。カトルの事であるから、かえって無視した方がしつこいと、そう判断しての事だった。
 だが。

 「待ってください。」

 呼び止められて、また、足を止める。
 忌々し気に振り向けば、カトルは真剣な表情を向けて来た。

 「君がそんなに急ぐ程…デュオの事、何かまずい事になってるんですか?」

 ヒイロはやはり返事をせずに、ただ顔を顰める。

 「ぼくに何か手伝えるなら…」
 「必要ない。」

 いいかけた言葉をあっさり拒絶されて、カトルはふうと諦めたような溜め息を吐き出した。
 その様子を見て、ヒイロは話が済んだとばかりに踵を返す。だけれどカトルは再び呼び止めると、益々表情を険しくさせているヒイロにいった。

 「ねぇ、ヒイロ。ぼくはずっと聞きたいと思っていたんだ。」

 言葉を途切って、カトルはじっとヒイロを見つめる。
 その瞳を不審気に見返すヒイロを、ただ、暫くの間何かを探るように見つめて。
 それから一瞬、浅く瞼を伏せてもう一度ヒイロを見直すと、何かいいづらそうに口を開いた。

 「君は…何故、デュオと一緒にいるの?」

 突然の内容に、瞬間驚いて目を見開き、すぐにヒイロは不快気に眉を顰める。

 「だって、君はデュオに冷たい。いつも突き放したような素振りしか見せないのに、どうして一緒に暮らしてなんかいるの?」

 ヒイロはカトルを睨みつける。
 それを見て、カトルはゆっくりと、溜め息を吐き出して顔を左右に振る。

 「いい方をかえるよ。」

 声は僅かに震えていて、押さえている彼の感情が見え隠れする。
 カトルはくっと唇を一度だけ噛み締めて、それから思い切った様に又顔を上げた。

 「君は…デュオと一緒にいたいと思っているのに、そうやってデュオに何かあればいてもたってもいられないくせに…何故、いつもデュオに冷たいの?君はデュオの事をどう思っているの?」

 いい終えたカトルは口を閉じる。目だけはヒイロを見つめたままで。

 ────だけれど、ヒイロはずっと無言で。

 彼は返す言葉をいうわけにはいかなかったから。
 ぎりりと歯を噛み締めて、言葉が出そうになるのを止めて、ただ、背を向ける。

 「お前には関係がない。」

 心を宥めて、本当にいうべき言葉を棄てて。ヒイロには拒絶しか返せない。
 歩きだし、目の前を去って行くヒイロに、カトルは呟いた。

 「君はひどいね。」


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 視覚を微細モードにして、神経組織の映像を拡大する。生体部品で作られたそれは、予想通り、切断面の細胞がつぶれて、すべてを繋ぎ直すのにはとんでもない時間がかかる。

 仕方がない。

 優先すべき細胞のみを繋げて、後は棄てる。製作者は彼をできる限り人間のように作り上げようとしたから、不必要な機能は多い。
 動く事が優先。
 筋組織を繋げて、骨格代わりのケーブルパイプは代りがないから継ぎを当てる。これだと強度に難が出て、前程の負荷には耐えられないが、今は部品がない。とりあえずは修理が終わっても、上からも何か補強しておくしかないだろう。
 機械部品の修理はあまり問題はない。
 切断されたケーブルをすべて繋がなくてはならないが、繋ぎさえ出来れば多少雑に扱っても大丈夫な分、作業に時間はかからない。

 無事な左手を顔の前に持って来て、手袋の端を口で咥え、そのまま外す。
 外した手袋を口で放り投げれば、重いそれはドサリと音を立てた。
 視線を戻して、作業を始めようと空気に晒された自分の左手を見て。…見て、彼は一瞬動きを止める。

 普段は隠れた、α2の左手。
 外見だけなら人間とほぼ変わる事なく作られた彼の、唯一、見ただけで分かる機械らしい部分。一応筋組織と人工皮膚につつまれているそれは人の肌の色をしてはいたけれど…でも、たくさんのプラグとプレート、指の内の数本は完全に機械部分が剥き出しで、どう見ても醜悪な印象を受ける。

 彼の左手は、あらゆる機械との接続インターフェースと、機械部分の修理の為の道具として作られていた。逆に右手は感覚的な部分が必要となる作業用で、痛みも温度も触覚も、すべて人間のように、否人間以上に鋭敏な感覚機能がつけられている。

 俺はロボットだから。
 当然の事、このほうが本来の姿。

 でも彼は左手が嫌いだった。
 いや。
 彼がこの手を嫌いな理由は後天的なもの。この手を初めて見たときに…未来のデュオはとても悲しい顔をしたから。だからα2も、この手を見るのが嫌いになった。

 『俺、何か手伝える事あるか?』

 この手を見せたくなかったから、そういってきたデュオの言葉に首を振った。修理の間は見て欲しくないともいった。彼の仕事からすれば、それはいうベき言葉ではないのに。

 感情が、どこかで軋む。

 だけれどそれを表情に表せる程、彼はその感情を理解していなかった。
 無視をして、作業に没頭する、彼が今すべき事はそれだけ。

 機械剥き出しの人差し指をねじれば、簡単に外れて中は細い針のようになっている。
 後は不必要な組織を引き抜いて、必要なものだけを手早く繋げてしまうだけ。
 問題はない。なにも。
 自分は機械だから、壊れれば修理すればいいだけだから。
 機能の一部はなくなるけれど、元々不必要な部分だから問題なんかない。

 その筈だった。


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 「どうだ?治ったか?」

 心配そうなデュオの顔。α2が部屋からでてきてすぐに、デュオは彼にかけよってきた。
 こちらが作業をしていた間、ずっと自分の事を考えていたのだろうか?デュオは。
 そう思うと、少しだけ嬉しいと感じる。
 彼が自分を心配してくれた、その事が嬉しい。
 言葉では返さずに、α2は繋げたばかりの右腕をデュオの目の前に差し出した。デュオは目を更に近づけてくる。

 「あ…本当に…繋がってる…な。」

 流石に繋ぎ目もなく奇麗に…とはいかないものの(製作者ならばそれも可能だが)、腕はちゃんと繋がっている。切られた部分は焼き繋げられて赤黒いアトになっていた。
 ほっとした様にデュオは息を吐き出す。
 見上げてくる顔は笑っていたから、α2も嬉しいと感じる。

 「動くのか?」

 ふと気がついたように聞いて来るから、デュオの目の前で、ゆっくり指を動かしてみせた。そうすれば、デュオはその手を掴んで「良かったな」とまた微笑む。

 問題はない。

 指は動く、腕も曲がる。前程ではないが、それでもかなりの重いものを持つのだってほぼ支障はない。
 何も、不自由などない。問題なんてない。

 なのに。

 「α2?」

 デュオが驚いて、α2を見上げた。
 何に驚いているのか分からなくて、彼は困惑する。

 「お前…なんで泣いてるんだ?」

 涙?

 「泣いている?」
 「ああ。」
 「俺が?」

 そんな筈はない。確かに自分には涙を流す機能もついていた筈だけれど、そんな機能使った事はない。必要ない機能の一つ。

 だって、自分に泣くようなことがある筈はないから。
 今だって、泣く理由なんかない。
 感情の処理をするネットワーク、入れる入力値は、どれもが『悲しみ』を導くモノなんかではない筈。
 何も問題はない、けれど…。

 「α2?」

 心配気に見上げて来るデュオの顔。両手は直ったばかりのα2の手を握ったまま、彼はじっと自分を見ている。
 そう、あの時と同じ、デュオの手はα2の手を両手で覆うように握り締めて。

 涙は零れる。

 今度は彼自身も、頬をつたう感触で、自分が泣いているのが分かった。

 「感じない。」

 そして、その理由にも気がついて。
 彼は呟くだけ。

 「感じない…。」

 何も、感じない。暖かくない。
 あの時、彼が手を暖めてくれて、その時は確かに暖かいと感じたのに。
 今は感じない。当たり前だ、いらない機能はすべて棄ててしまったから。
 いらない、不必要な機能。
 なくしても、問題なんてなかった筈。

 …その筈なのに。

 暖かい筈のデュオの手。握り締められて、きっと前ならば暖かいと感じた。
 そう思ったら、悲しい、と。
 多分、そう、これが悲しいという感情。
 知ってはいたけれど、他にも悲しいと感じた事はあったけれど、泣く程悲しいと感じたのはこれが初めて。
 そして、自分はデュオの体温を感じたかったのだと、暖かいと感じるのが嬉しかったのだと、そう気がついて。
 それをなくしてしまったのが、とても、泣きたくなる程、悲しいと。
 だから、今、どうしてもそれを感じたくなって。

 「α2…何?」

 驚くデュオの声が聞こえる。
 だけれど、それは今は無視をして。
 手を伸ばして、デュオの体を抱き締める。
 デュオが苦しくないくらいで手加減をして、でも出来るだけ自分の体と彼の体がぴったりとくっつくように、すこし強めに抱き締める。
 そうすれば。

 「ちょっと、お前、なにしてんだよ。」

 良かった。

 「暖かい。」

 今度はちゃんと感じる、デュオの体温。
 手ではもう感じる事は出来ないけれど、こうしてただ、人が暖かいと感じる事がこんなに嬉しいと思えるなんて。
 彼は知らなかった。
 初めて知った。

 そして、又、涙が零れた。


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 コロニー間シャトルの中、真っ暗な星空しか見えない窓の外、ようやく目的のL1コロニー群が見え始める。
 ヒイロはシートに深く座り、ちらりと窓を見てから、目を閉じて思考の中へ没頭する。

 『君はデュオをどう思っているの?』

 カトルの疑問。でもそんな事、いつでも自分は自分に問い掛けているのだ。

 デュオをどう思っている?

 考えて、考えて、答えが出そうになって止める。
 答えは出せない。
 もし答えを出して、この感情の存在を認めてしまったら、きっと自分を押さえられなくなる。それだけは確信している。
 だから、答えはずっとしまって。気付かないふりだけをする。
 いつからそんな事を続けているのか、今はもう忘れた。

 気付けば、自分はデュオを見ていた。
 最初はその存在が苛立ちの原因だったはずなのに、いつの間にか、見える場所にいない事の方に苛立ちを感じていた。

 あの、戦争が終わって。
 もう会えないと感じた時に苦しかった。
 だから、一緒に住まないかといわれた時は即答で答えた。
 デュオは驚いていたけれど、ヤツは冗談だったかもしれないけれど、でも。自惚れかもしれないが、デュオは嬉しそうに、笑っていた。

 一緒にいられる、理由はあったから。
 だから、大丈夫。自分はまだデュオといてもいい。
 そう思っていた。
 どんな理由でも、少しでも理由があれば一緒にいられる。

 だから。

 あの、マリー・メイアの反乱騒ぎの後。
 プリベンターからの正式依頼。正規メンバーになって欲しいとの要請を、ヒイロもデュオも断った。だけど、何かあった時には協力すると、その約束で皆と別れた。
 その時、デュオはいってきたのだ。

 『なぁ、お前。これから何処へ帰って何やるんだ?』
 『どういう意味だ?』

 聞き返せば、半分ひきつった笑顔でデュオは答える。

 『まぁ、はやい話がさぁ、今何処住んでて何やってんのって事でさ』

 じろりと睨むヒイロに、デュオはいいづらそう視線を外した。

 『いやその…俺さ、今ずっとヒルデんとこに世話になってたんだけど。プリベンターの依頼があればいつでも協力するって約束しちまっただろ?…そうすっと何時、へたすると頻繁にそっちに呼ばれて行く事になるかもしれないから…今まで通り、ヒルデのとこに世話なってるとちょっと迷惑っていうか心配かけちまいそうなんで…かといって、一人で生活してっと俺って一ヶ所にずっと留まってられない性質だからさ…住所不定はやばいだろうしなぁ…。』

 一通り、周りに視線をぐるりと回して、一息つく。
 それから、そおっと上目使いにヒイロを見て、デュオは一つ唾を飲み込む。

 『だからさ、お前も状況的には似たようなモンだし、多分一人暮らしだろーし。もしよければ、俺もご一緒させてもらいたいなーと。あ、もちろん置いてもらえんなら、家賃も経費も半分は持つ、お前だってそうすれば金銭的な負担へるし…。』

 いってから、ちらりとヒイロの顔色を窺う、デュオ。
 表情の変わらないその顔に、相手にされていないと判断したのか、デュオはすぐにいつも通り、にぱっとした笑顔を見せて、前の言葉を無い事にしようとした。

 『あーって、まぁ、それは冗談だけど。そうなるといいかも、っていうだけの話。気分悪くしたなら忘れてくれ。』

 だけどヒイロは答える。

 『…分かった。』

 デュオは一瞬、それをどう受け取ったらいいのか分からないらしく、間の抜けた顔で呆然としていた。

 『空いている部屋はある。』

 それでようやく理解したのか、大きな瞳をさらに開いて驚いてから、信じられないといった顔のまま尋ね返して来た。

 『本当に、いいのか?俺、本気でお前のとこいっちまうぜ?』

 それにも肯定の言葉を返してやって、そうすればやっとデュオは笑う。嬉しそうに。
 本当は、そうしてデュオが笑った恐らく何倍も、ヒイロの方が嬉しかったのだけど。

 デュオから提示された一緒にいる為の理由。
 それを否定するなんてする筈がなかった。
 その理由ならば、今のまま一緒にいられるから。
 恐らく、自分はもう気付いているデュオへの感情、その答え。
 それは押さえたままでいいから。
 一緒にいられれば、見ていられるならば、それだけでいいからと。
 本当は、どうすればデュオと離れないで済むかと、考えていたのは自分の方だったのだから。

 窓の外、目的のコロニーはもうすぐ側に見えている。
 ぽぉんと、チャイムが鳴って、船内放送が流れ出す。

 傍にいられれば、見ていられれば。
 あいつが俺の前で笑っていてくれるならば。
 いつまでも答えを出さずに、それ以上を望まないでいられる。


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 「デュオ、足は?」

 いわれてデュオは、顔を顰める。

 「さっきちゃんとサポーター巻いたから、普通に歩く分には問題ないって。」

 少しだけ怒りながら後ずさる。
 α2はそんなデュオを不思議そうに見ながら、手を伸ばして腕を掴んだ。

 「おいっ、だから自分で歩けるっていってるだろー。」

 怒鳴り散らして暴れようとするデュオに平然としながら、α2は引き寄せたデュオをそのまま抱きかかえた。いわゆる横抱きで。

 「普通に歩ける程度では話にならない。」

 それには反論出来ないデュオは、赤くなりながらも、思いっきり顔を顰めて黙ってしまう。
 そんなデュオの顔を見て、α2はくすりと笑う。

 「それに…。」

 いいながら、抱き上げたままのデュオの胸に顔を埋める。

 「俺はこうしていたいから。」
 「ばっ…」

 何かをいいかけて、デュオは黙る。顔をみれば頬は赤くて、視線があった途端に、デュオは大急ぎで顔を背けた。

 「お前は嫌なのか?」

 聞けばデュオは顔を向けて、少し調子の外れた声で怒鳴る。

 「そーゆー問題じゃなくってなー。男が抱き上げられて嬉しいわけないだろうっ」

 そういうものなのかと、α2は考える。
 だけれど、デュオを抱き上げている事を嬉しいと感じるのは事実だし、こうするのが移動するには効率的でもあるし。デュオが嫌がっているのは残念だが、思考だけの状況判断としても、感情からの欲求だとしても、今はこうするべきだと結論が出せる。

 それでもデュオはぶつぶつと文句をいって、未だ納得をしていないようだった。
 暫くの間はちゃんと聞いていたのだが、その文句のどれもが現在のこの状況を変化すべき理由にならないものばかりなので、α2は無視をしてさっさと行動に移る事に決めた。

 だんっと、大きく跳躍して。建物の壁を蹴って隣の建物の屋上に出る。
 動き出せば、デュオはもう何もいわず、不貞腐れながらもα2の体にしがみついた。
 体を寄せて、そうすれば彼の体温がよく分かる。

 暖かい、体。
 それを感じられる事が嬉しい。

 だから、α2は移動の時には必ずデュオを抱きかかえる。奴等から逃れる為に、居場所は頻繁に変える事にしているから、機会はたくさんある。デュオはその度に嫌がりはするものの、移動ならば結局はしょうがないと、こうして抱き上げさせてさせてくれる。移動の理由は、本当はたくさんこうしていたいというのが大きいのだが、デュオはそこまで勘ぐったりしなかった。

 「あ、α2、ちょっと…。」

 デュオがそう声を掛けてきたから、一旦足を止めてデュオを見た。

 「あのさ、最初の日からもうそこそこたってるし…。出来れば、一度アパートに帰りたいんだけど…。」

 何故今更。
 α2は首を傾げる。

 「とあるモンを探したいんだ。爆破された部屋の机に置いておいたモンで…放っておくとあの部屋きっと壊して片付けちまうだろ?。だからその前に…。」

 確かに、そろそろ向こうを見張っているものもいなくなっているかもしれないが、それでも危険な事にかわりはない。
 だからそのことを告げてみると、デュオは「そうだよな、やっぱだめだよな。」といいながらもとても悲し気な顔をして俯く。
 デュオがそんな顔をしているのは、嫌だ、と思う。
 だから、デュオを抱いたまま、α2は方向を変えて爆破された彼のアパートへと向かった。



 そうして、その場についた時。



 彼は見つける。
 崩れた部屋の中、佇む人影。
 顔を強ばらせて、部屋を見つめる少年を。

 「ヒイロ?」

 半壊したベランダに立った途端、デュオも彼を見つけて叫ぶ。

 「デュオ。」

 明らかに安堵の顔をして。でもすぐにまた顔を顰めて、彼はデュオの名を呼ぶ。
 デュオを見れば、自分の腕の中、彼を見ている。
 彼は、デュオへと向けていた視線を今度はこちらへ向けて、じっと自分を見ていた。
 自分と同じ色の瞳で。その中へ怒りを孕みながら。
 初めて見る、彼が、ヒイロ=ユイ。

 自分のオリジナル。本物の、『デュオのヒイロ』。







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