Machine Voice
【4・痛み】

次回までがα2とデュオのふれあい編って感じでしょうか(^^;;






 ヒイロと同じ顔をして、じっと自分を見つめるα2。
 手を伸ばして顔に触れて、頬を撫ぜる。

 ああ、そういえば。

 たまに、本当にたまに、ヒイロもそうやって自分の頬に手を触れて来る時がある。最もヒイロの場合は「なんだよ。」というと決まって頬をつねりながら「頬袋」とかいうものだから、それは単なる厭味の一つだと思っていたのだけど。

 でも、よく考えてみれば、触れて来る時のヒイロの手は、とても優しい動きをする。
 瞳も、いつものキツイ睨みつけるようなあの瞳じゃなくて、とても優しい。そう、今目の前にいるα2が自分を見ているその瞳のように。

 何もいわず、だが触れたまま離さないα2のその手を、デュオはそっと自分の手で握る。そうすれば、α2は目を見開いてすぐに眉を顰めて首を傾げるから、デュオはその反応にクスリと笑う。

 α2の右手。彼はいつでも手袋をしている。ただ、右の手袋だけは指先が切ってあるから、直に指に触れる事ができる。触った感触は、前に握った事のあるヒイロの手と変わらなくて、若々しい手なのにゴツゴツしていて触り心地は悪い。
 だけど。

 「指…冷たいんだな。」

 ヒイロの手も冷たい方だが、彼の手はもっと…簡単にいえば体温がない。抱き締められていた時の彼の体は確かに暖かかったのに、指先にはその温もりを感じない。

 「体の末端部分には、体温を発する機能がほとんどない。」

 こうして手袋や靴で隠せるし、人間でも末端部分は冷たい者もいるので、必要ない機能はついていない。体自身には本来温度はいらないモノだから、人に触れられてロボットだとバレてしまう部分にだけ体温というものが設定されている。

 そういって、自分の事を説明するときの彼はひどく無表情だった。
 いつでも二言目には「自分は機械だから」という言葉で全てを終わらせてしまう彼は、平然とした声とは裏腹に、何処か悲し気な顔をしている。もしかしたら、その言葉は彼自身にいい聞かせているのかもしれない。

 握った手を広げさせて、その掌を両手で包み込む。そうして暫く握っていると、デュオの体温がその手に移って、僅かに彼の手も温度を持つ。

 「暖かいって、分かるか?」
 「ああ。」

 デュオに手を預けたまま、少しだけ伏せた視線をその掌に置いて、α2は答える。

 「じゃぁ、今、お前暖かいって感じてる?」
 「ああ。暖かい…な。」

 そういって、嬉しそうに、ほんの少しだけ微笑んだ気がしたから、デュオも嬉しくなってもっと強くα2の掌を握りしめる。

 「なぁ…暖かいって感じて、お前は嬉しい?」

 思わず聞いてしまうと、α2は少しだけ困ったように眉をひそめて、それから、

 「分からない。いや、嬉しい、かもしれない、こうしているのは心地良いと思うから。」

 そうして又、デュオは笑う。
 α2も、その笑みを見て笑う。

 ヒイロと同じ顔をした、静かな笑顔。人間であるヒイロは笑わないのに、彼を象ったロボットであるα2はこうして笑う。
 ふと疑問に思ったから、デュオは尋ねた。

 「お前、なんで今笑った?」

 そうすれば、α2は少し考え込む素振りを見せて、静かに答える。

 「お前が、笑っているのが、嬉しいと思った。」

 返って来た答えを聞いて、瞬く間にデュオの顔が朱に染まった。

 「それって…」
 「それに。」

 デュオの声よりも早く、α2の声は言葉を続ける。

 「未来のお前は、いつも自分が笑って、俺にも笑えといっていたから。」

 それでデュオは理解する。
 ロボットであるα2、ヒイロと同じ顔をした彼。だからいつも自分が思っていた、ヒイロを笑わせてみたいというその願いを、未来の自分は彼に求めたのだ。

 「なんだ、俺、歳くっても進歩がねーの…。」

 その呟きに、α2はまた首を傾げる。だからデュオは、掴んだままの手を引いて彼を引き寄せると、にっと明るい、おどけた様な笑みを作ってα2に語り掛けた。

 「自信もてよ、α2。嬉しくて笑えるってだけでも、お前本物のヒイロよりもずっと人間らしいくらいだ。だからそんなに自分を否定する事ないんだぜ。」

 すぐ傍まで近づけられたα2の顔、彼は目を細めてデュオの顔を見つめる。まるで何か眩しいモノでも見るかのように。

 「デュオ…」

 呟いて目を伏せる。そうして彼自身からデュオに近づいてくる。

 だが。

 突然、その目をぱっと開いて、α2は体に緊張を走らせた。
 デュオもその意味を理解して、顔を強ばらせる。

 「囲まれた。逃げるだけの強行突破は難しい。」

 α2の言葉に、デュオは尋ね返した。

 「じゃあ、どうする?」

 彼は辺りに注意を向けながら、分析結果を口に乗せる。

 「人数は…6人。全てが完全武装済み。現在地から半径20メートル以内に他人の反応はなし。逃げるよりも、敵は速やかに片付けるべきだ。」

 身体中のセンサーに処理の優先を割り当てている為、α2の顔はまるで人形のような無表情になる。元々、表情の少ないヒイロと同じ顔をする彼は、普段が無表情ではあるけれど、今見えているのはそれとも違う、魂のない作り物の顔。それは、電子頭脳の感情処理を行う部分が、緊急時には、身体機能制御のサポートに回されるからで、理由が分かれば理には叶っている。

 ロボットらしい彼の一面を見てしまい、デュオはまた辛くなる。けれど、その感情を振り切って、デュオはα2に声を掛けた。

 「攻撃に出るなら、俺もサポートする。走りまわる事は難しいが、援護射撃ぐらいは出来る。」

 デュオの言葉を聞いた途端、顔に表情を取り戻したα2は、デュオの顔をじっと見つめ、

 「そうしてくれ。ただし、無理をする必要はない。お前の身を一番に考えろ。」

 といって立ち上がった。

 「了解。」

 自分を見つめるα2の目が元に戻っていたのに安心し、笑顔をのせてそう答える。
 その笑顔を見て、ほんの一瞬だけ表情を和ませたα2は、次の瞬間、即座に走り出し、デュオの前から離れていった。

 敵の撃って来るレーザーの雨を抜けて一直線に敵の中の一人へ向かっていく。

 「があっ」

 男の断末魔の叫びが聞こえて、まずは、一人。

 その死体の首を締めた状態でいるα2の背中を狙って、彼を撃とうと男の一人が乗り出す。その頭を、物影に隠れていたデュオが撃ち抜いた。これで二人。

 気付いた彼らは今度はそのデュオを狙ってレーザーの矛先を変える。そのスキに高く跳躍したα2が敵の後ろに回り込み、腕を振り下ろすと男の頭が嫌な音をたててつぶれた、三人目。

 目の前の光景に恐怖しすくみ上がったその隣にいた男も、α2の手刀によって瞬時に命を失う。後2人。

 再びα2に降り注ぐレーザーの軌跡が間に合う前に又、彼は跳躍して一人の頭を吹き飛ばした。
 これで、後残るはたったの一人。

 α2は向きを変えて、最後の一人の位置を確認する。
 だが、その姿を認めた途端、彼の表情は一瞬にして強ばった。
 男はデュオを狙っていた。
 もちろんデュオはちゃんと物陰に隠れていたし、その男の位置も確認していたから、普通ならば問題はない…筈だった。男が構えているのが、普通の武器だったならば。

 「デュオ、そこを離れろっ」

 叫んでα2はすぐに走り出す。男の位置は遠すぎて、撃つ前には間に合わない。だから、彼はデュオに向かって走って行く。
 そのα2の声を聞いて、だがすぐに何故なのかを理解出来ないデュオの反応は遅れた。

 キィンという高い音と共に発射された、白い光が地面を這ってデュオのいる場所へと進んで行く。

 それを見たデュオが物影に身を隠す、けれど。

 「だめだっ、逃げろっ」

 声と共に、伸ばした腕が辛うじてデュオの体を突き飛ばす。できるだけの手加減はしたものの、あまりに急いだ為力を削ぎきる事は出来ない。だからその衝撃でデュオは大きく飛ばされ、壁に叩き付けられた形になって噎せてしまった。
 だが、それでもデュオが何処にも怪我をしていない様を見て、安心してα2は、地面に転がっていた石を拾って男に投げ付ける。

 悲鳴、そして沈黙。これで敵は全て片付けた。
 α2はゆっくり立ち上がるとデュオに近づいて行く。

 「大丈夫か?」

 なかなか咳が止まらなかったデュオが、声を聞いて顔を上げる。

 「悪ィ、ちょっと手ェ貸して…。」

 だがそこで、言葉は途切れる。
 α2は言葉通り、デュオに手を差し出した。手袋に覆われた左手を。

 なぜなら。

 デュオを突き飛ばした彼の右腕は、肘から下が奇麗になくなっていたから。
 
 「どうしたんだよ、お前っ。」

 デュオが顔を蒼白にして、叫ぶ。
 α2はちらりとだけ切断された自分の腕を見ると、すぐにデュオを引き起こしながら、なんでもない事の様に説明を始めた。

 「最後の男が持っていた武器は、向こうでも最近に開発されたモノだ。有効射程内ならば、どんな障害物でも全て切断する。」

 見れば、男が発射した位置からデュオが隠れていた場所の直線上にあるモノ全て、そこに線が引かれた様に、皆真っ二つに切断されている。そして、α2の右腕も、奇麗に切り口を見せてやはりそこに転がっていた。

 「痛くないのか?」

 恐る恐るデュオは尋ねる。

 「切断部の痛覚は切った。」

 やはりα2の顔には表情が表れない。

 「すまねぇ…俺が…すぐに反応できなかったから…。」

 いいながら、静かにデュオは肘から下のないα2の右腕に手を触れると、ゆっくりとさすってやる。

 「血が…出てる。」

 ロボットだから切断面は完全に機械剥き出しかと思っていたデュオは、確かに機械のようなモノも見えはするものの、予想以上に人間に似せて作られた肉感に眉を寄せた。

 「血ではない。血に似せて作られた循環液だ。これで生体部品の情報伝達をサポートする。」

 α2はそういうと、暫く目を瞑って黙り込む。すると、見ている間にボトボトと地面へ流れていた赤い液体はその流れを止めて、そうして再びα2は目を開く。

 「右腕の機能を全て切り離した。液は出なくなる。」

 その言葉を聞きながらまだ腕を見ていたデュオは、顔を上げると表情のないα2に尋ねた。

 「この腕…どうなっちまうんだ?」

 不安気なデュオの視線に居心地の悪そうに眉を顰めると、α2はそれでも抑揚のない声で答える。

 「修理はする。片腕のままでは不利だからな。」

 いいながら、地面に転がったままの自分の腕を拾いに行く。
 その姿をぼんやり見つめて、デュオは小さな声で呟いた。


 「修理…か。」






BACK


小説トップ   トップ