Machine Voice
【2・機械人形の感情】

今はデュオ視点ですが、この話は3人視点で進みます。
ちなみにデュオファンの友人連中にはα2が滅茶苦茶評判良かったのでした(^^;;






 『ばかか、お前は?』

 事情を説明した途端、返って来たセリフはその一言だった。

 「俺だって信じられないけどさー、あいつ嘘ついてないぜ、きっと。」

 幼い頃からいろんな人間を見て来ただけあって、デュオは人を見る目というのにはかなり自信がある。その自分の直感が、彼が嘘をついていない事を告げているのだ。

 『────それで、今どこにいるんだ?』

 不機嫌極まりない声で(といっても、デュオは機嫌のいい彼の声というのを知らないのだが)、ヒイロは電話の向こうで溜め息を吐きながらも、それだけを聞いて来る。

 「えっと、トウヨウ第一ホテル、部屋は308だったかな。」
 『分かった、俺が行くまでそこにいろ』

 はぁ、と相槌をうとうとして、デュオはふと気がついて電話の相手に聞き直した。

 「行くって、お前仕事は?」

 ヒイロは現在お嬢さんの警護の仕事中の筈だった。任務第一主義のヒイロがその仕事を放棄する事なんて有り得ないから、デュオはちょっと驚いて思わず聞き返してしまう。

 『────終わり次第にだ。』

 そうだよな、と頷いてしまう至極当然のヒイロの返事。
 だが返された声は先程にも増して不機嫌で、深く、深く怒っている雰囲気がある。怒っているのは、またドジ踏んでヘンな奴等に捕まりそうになった事か、それとも見ず知らずの人間が話す突拍子もない物語を信じようとしている事へか。とにかくヒイロがこっちの分からない理由で怒り出すのは珍しくもないので、触らぬ神にたたりなしと、デュオはさっさと電話を切る事にした。

 「んじゃ、そーゆー事で。あ、多分アパートの方は帰ってもひでぇ事になってると思うからさ、あっちにあったモンは諦めてもらうしかねーかも。」

 とりあえず、怒らせそうな事は本人に会う前にいっておくに限る、とデュオはそれで電話を切ろうとした、が。

 『デュオ』

 それよりも早く、ヒイロが名を呼んでくるから、デュオとしても言い逃げは諦めるしかなくなった。

 『そいつを信用するな。お前はもっと他人に警戒心を持つべきだ。』

 いわれて今度はデュオの方が不機嫌になる。

 「はいはい、悪ぅございましたね。どうせいつもトラブルは俺の自業自得ですよ。」

 いって、すぐに電話を切る。
 切ってからも釈然とせず、ぶつぶつとヒイロの悪口を呟きながら隣の部屋へと戻ると、ドアを開けた途端に、ヒイロと同じ顔をした自称アンドロイドのHYTα2と目が合ってしまった。

 「えっと〜、その、ヒイロに連絡してきたから。」

 返事は返らない。ただ、HYTα2はデュオを見ている。
 無言で、ヒイロと同じ瞳でじっと見つめられてしまうと、デュオとしてはどうすればいいか分からなくなる。ヒイロの瞳は印象的すぎて…本物のヒイロもたまに自分の事をじっと見つめてたりする事があるもんだから、その度に何故かうろたえてしまう自分は一体なんなんだろうと思う。エージェントとして体力的なモノ以外にも、精神面での訓練も自分はつまされた筈なのだ。それなのにこいつ(等)の瞳はなんで…。

 「なぁ、その…俺、お前何て呼べばいいのかな?」

 とりあえず沈黙に耐えられなくて、どうにか会話を成立させる為の手段を探す。
 まずは、名前。

 「未来のお前はα2と呼んでいる、それでいい。」

 それでも十分呼びづらいけど、と思ってデュオは少しだけ不思議に思う。
 彼のいう事が本当だとして、彼がアンドロイドだとしても、自分がそんな呼びづらくて機械的な名前を呼び名として使うだろうか?…ちょっと、変だ。紛らわしいから『ヒイロ』と呼ぶのはないにしても、もう少しいい方がありそうなものだが…。
 考え込んでしまったデュオを見て、α2は口を開く。

 「いいづらいならば、どう呼んでくれても構わない、お前の好きにすればいい。どうせ俺は人間に従う様に作られた人工物だ、名前などには固体識別以外の意味などない。」

 そういって、本当に人工物とは思えない微妙な感情を映して、彼は軽く瞼を伏せる。その何処か投げやりにさえ見える仕草は、ヒイロといっても、昔の、出会ったばかりの頃のヒイロを思い出して、デュオは何故だか胸が痛んだ。

 出会ったばかりのヒイロ…、任務以外、自分以外のすべてを拒絶して、その自分さえ道具としてあっさりと命を棄てようとする…。

 「ばかやろう、何いってやがる。」

 怒りに震える声に、α2は軽く驚いた様に目を見開く。

 「いいか、人工物でもなんでも、そうやって自分で考えて感情があるなら、お前自身ってのがあるんだろ?だったらそんな、いかにも自分は単なる道具ですって態度を取る必要なんかないんだ。ロボットでもお前自身の主張をする権利は絶対ある。」

 自分の事でもないのに、何故だかやけに力が入ってしまう。これはやっぱり、目の前にいるのが、ヒイロと同じ姿をしているからだろうか?
 α2は、暫くデュオの睨みつけてくる視線をただ受けていたが、やがて唇の端を少しだけ釣り上げて、目を細めて微笑んだ。

 「お前は昔から同じだったんだな、デュオ。」

 目の前の作られたヒイロは、こうしてたまに笑うところが本物のヒイロと違う。話し方も、少しずつ、こちらの方が柔らかな気さえする。これは彼のベースが今から4年後のヒイロだからなのだろうか。…理由は分からないけれども。
 だけど、デュオとしてはヒイロの笑顔なんて見慣れないモノを見てしまうと、どうしても照れてしまうのだ。普段から本人には笑えといってはいるものの、実際笑った顔を見てしまうと何故だかどうも、落ち着けない感じになってしまう。

 「いやその…まぁ…と、とりあえずさ、α2ってのはいくらなんでもいかにもコード番号みたいだからさーもっと他になんか…」

 照れ隠しのような笑みを浮かべて、デュオはα2の顔を見返す。
 なんとなく感じる和やかな空気は、だがその言葉が終わる前に緊張の空気へと変えさせられた。
 目の前のα2は、多少和んでいた瞳を、ヒイロらしい、上目使い加減の睨みつける目つきにする。デュオもすぐにその緊張の原因を理解して、声を詰まらせた。

 「…敵か?」
 「ああ」

 短い確認。いいざますぐに、

 「デュオ」

 名前を呼ばれたと思ったら、α2の腕がデュオをぐいと引き寄せた。

 「え?何?」

 それに答えるも何も、デュオの反応を完全無視して、α2はデュオをそのまま自分の体で覆い被さるように抱き締める。

 「ちょ、ちょっと…オイ。」
 「しばらく息を止めてろ。」

 何がなんだか分からずにただうろたえるしかないデュオに、α2はそうとだけいってデュオを懐に抱いたまま立ち上がった。それから、その言葉の意味をデュオが聞き返そうとする前に、窓を目指して走り出す。

 視界が飛ぶように過ぎて行く。
 息を止めてろというよりも、圧迫されて空気が吸えない。
 やがて、カン高い音と共に衝撃がやってきて、直後に落下していく感覚に襲われる。どうやら、窓ガラスを突き破って、外へ飛び出した…らしい。
 そうデュオが理解した時には、今度は地面に降りた衝撃で舌を咬みそうになる。だがやはり、それに抗議をする前に、またα2はすごいスピードで走りだし、デュオは口も瞼も思い切り閉じてα2に必死にしがみつくしかなくなってしまった。

 デュオのすぐ真横を銃弾だかレーザーだかが通り過ぎていく。
 それが、例のDEEGとかいう奴等の手の者である事は確かそうであったが、その数も段々と減っていって、やがて一発も届かなくなってくる。これは追っ手を振り切ったのだろうか?
 考える間にも、凄まじいスピードでα2は走り抜けて行く。
 それに揺られながら、デュオの思考はとある事を考えて巡っていた。

 多分、デュオ達が今までいた部屋がホテルの3階。
 そこからこんな無茶ができるというのは…。

 ちゃんと暖かみのあるα2の懐に抱きつきながら、デュオは頭の中で彼がロボットである事を実感していた。

 そう、どう考えたって。

 いくらヒイロ並みの人間離れした体を持っていても、今コイツが見せたような芸当は生身の体では不可能だ。
 だから、体中に力を入れて必死にすがりつくその状況下で、デュオの頭だけは何故かその考えを導いて冷めていった。

 こんなに、暖かいのに。
 自分は作り物だからといって、自我を否定する、彼。
 ヒイロと同じ思考パターンを持っているという彼は、一体どう思ってそんな事をいうのだろう?
 かつて、自分を道具として割り切っていたヒイロ。だけどヒイロは人間だから、自分の感情に振り回されて、それに悩む事もあっただろうけど…そう、でもそのセイで心の何処かで自分が人間である事に安堵した時もあっただろう。
 でも彼は?
 彼は本当に人間ではないから、否定して、否定して…否定する事しか己を確立する事が出来ない。
 
 そう、考えただけで、自分の事でもないのに、デュオは何故だか辛くなった。
 辛くて、そして悲しい。
 ぎゅっと閉じた瞼から一粒だけ、涙が零れる。

 α2がその足を止めて、デュオが再び息を吸えるようになったのは、元のホテルが見えない程離れてからだった。

 「何故、泣いている?」

 止まった途端、デュオを離してその顔を覗き込むと、α2は不思議そうな顔をしてそう尋ねて来た。

 「お前…本当にロボットなんだな。」

 そう答えたデュオの言葉も、だから?というように、眉を顰めてただ困惑しているだけのようだ。
 どの表情をとってみても、当たり前なのだろうがヒイロとうりふたつで、これが作り物の感情だとは思えない程、細やかで微かな感情だけを表している、彼。

 「おまえが、何をいいたいのかは分からない。」

 暫く考え込んだ後に、α2は少し悲しそうにしてデュオにいう。

 「でも、お前が泣いているのが俺のセイならば、俺は、お前に謝ればいいのだろうか?」

 そういってくる表情が、やけに幼い印象を受ける。考えてみれば、彼の外見は現在のヒイロよりも大人として作ってあるのだから、そんな印象を受けるのは変なのだが。
 だけれど、そうやって恐らく困惑しながらも、心配そうに、もしかしたら心細気に、自分を見返してくる顔は、あまりにも人間らしくてデュオはまた悲しさを感じた。

 「いや、お前のセイじゃないさ。泣いてるように見えるのは目をきつく瞑り過ぎたら涙が出て来ただけでさ。」

 にっこりと笑ってそう返したデュオの顔を見て、α2が明らかに安堵しているのが分かった。
 ヒイロと同じ思考パターンの筈の彼は、でもだけど、ヒイロよりも感情表現が素直なのかもしれない。それは彼にとっていい事なのか、悪い事なのか、判断は出来ない。

 「それにしても、意外に早く奴等に場所を知られた。まさかとは思うが、俺の体内から何か特殊な電波が出ているというのでなければいいが…。」

 呟きを漏らして、α2はまた考え込む。
 顰めている表情が一番見慣れたヒイロの表情と一致するのだから、思わず笑みが零れてしまう。

 「あ…」

 唐突に思い出した事にデュオが一瞬、目を大きく見開いた。
 α2はそのデュオに驚いたように思考に耽っていた顔を上げる。

 「どうした?」
 「いや…その。ヒイロにさ、ホテルの場所いったらそこにいろっていわれてさ。あのホテルから移動したんなら、またヒイロにいっとかないとあいつ怒りそうだからなー。…まぁ、そういうワケだからどっかまた落ち着いたら、あいつに連絡入れさせてくれ。」

 α2は即答せずに、何故か又、考え込みだした。

 「本物のヒイロ=ユイ…まさかな。」

 呟いて更に思考を巡らせて、だけどもデュオに、その理由を説明してはくれない。

 「ヒイロが、何かあるのか?」

 そうして、そのデュオの質問にやっと顔を上げて、「いや」とだけいうと、考える事を止めて立ち上がった。

 「って、どこいくんだ?」

 つられてデュオが立ち上がろうとする。
 それを制して、α2は無言でデュオを抱き上げた。

 「おい…その…ちょっとっ。」

 あせりまくるデュオの抗議の言葉を無視をして、α2は走りだす。流石に、先程の様に抱かれているデュオが息が出来ない程という事はなかったが、それでもかなりのスピードで。

 「まぁ…確かに俺足怪我してるから、この方が早いんだろうけどさ。」

 走りながらもぶつぶつと文句をいっていたデュオも、そういうと黙ってα2に抱かれたまま目まぐるしくかわる風景に視線を投げた。
 人目につかないよう、裏通りを走り抜け、密接したビルの間をジャンプでつたって屋上まで登り詰めると、今度はビル同志の屋上を飛び移りながら移動していく。そのさまはまるで、子供向け番組のヒーローさながら。

 そうすっと、俺は悪人から助けられたヒロインかね。

 ふとそんな事を考えてしまって、自己嫌悪に陥る。冗談としてもタチが悪くて自分で思っておきながら落ち込んでしまう。
 下を見ればクラクラと来そうなビルの上を、α2は平然とデュオを抱いたままで飛び移っていく。
 顔はじっと前を見ているだけで、もちろん息などまったく乱してはいない。
 ヒイロよりも少しだけ大人びたヒイロの顔。デュオはじっと、α2の顔を見上げる。
 今、その表情が変わる事はない。表情のない、見慣れたヒイロの顔。
 彼にとって、今は《デュオを守る》という任務続行中なのだ。

 任務大好き人間のロボットは任務大好きロボット…なんだか救いがない気がして、デュオは小さく溜め息を漏らした。






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