Machine Voice
【14・Machine Voice】

タイトルの理由はこれでわかりましたよね?(^^;;。
この話はその部分と最後のヒイロの台詞がずっと書きたかったのです。






 プロジェクトHYTは変更された。

 「なんだ、それは?」

 唐突にいうα2の言葉に、間の抜けた声で聞き返すデュオ。
 ヒイロも難しい顔をしてα2の顔を見る。
 あの場から逃げ出す直前、α2は、戦った敵のロボットの残骸を調べ、まだ生きていた一部の記憶制御システムから、情報を少しだけ抜き取った。
 それで分かった、そいつの正体。

 「コードHYTβ1、このプロジェクトのほぼ完成版に近いモデルだ。」

 そういうα2にデュオは、あれがヒイロを元にして作っているのかと顔を顰めた。

 プロジェクトHYT。
 そう、確かに元々はヒイロ=ユイの代りとなり、ガンダムパイロット達のスパイをする為のアンドロイドを作るプロジェクトだった。
 だが、HYT型は試作段階で敵側に盗まれ、しかも彼らは盗む時に、保存していたヒイロ=ユイに関するデータをことごとく破壊していったから、だからどう見ても、それ以上プロジェクトを進める事は不可能になった。

 ちなみに、そこまではα2も知っている事で、そこでヒイロに関するデータが壊されていた事を知っているから、彼は最初、DEEGの手の者がヒイロの記憶を持っていると思わなかったのだが。────α1が残っていたのは計算外だったので。

 だからHYTプロジェクトは、完全にその制作目的を変えた。

 人間と変わりなく見える、スパイ目的のロボットではなく、自分の判断で戦闘をする忠実な戦闘ロボットを作る。
 人間型を保っているのは、とりあえず人間の兵士の中へ紛れさせるため。
 頑丈さとパワーを一番重視して作られるから、体は大きく。別にヒイロ=ユイに似せる必要などない。
 間近で見られる事や触れられる事まで考慮しないから、外装は固くても問題ない。もちろん体温もいらないし、触覚や嗅覚といった感覚器官のセンサーは、思考に繋げずただの情報媒体でしかない。
 目的と命令から自分の判断で戦闘をする事だけが出来ればいいから、感情はいらないし、思考アルゴリズムも極めて単純で事足りる。
 以上の事を考慮すれば、扱いがデリケートで難しく、制作に手間のかかり過ぎる生体部品も使う必要はない。

 そうして出来たのが、あの姿。
 結局、人工人間といえるカタチで作られたのはα1とα2その2体だけ。
 でも、α1はもうないから────キューブを抜き取った後、α2はα1を部屋ごと燃やして来たから────α2と同じモノはどこにもいない、彼はたった一人だけの人工人間。
 だから本当の意味で…彼の心を分かる者なんていないんだと思う、誰も。

 デュオはそう思う。
 でも、デュオは彼を機械として見れないから。
 α2という人間として、彼を見て、彼に応えてやる。彼が自分を機械だといい放つのが、だから哀しいと感じる。
 α2の感情はまだ幼い子供のようで、ちゃんと段階を踏んで行けば、きっと、全ての感情を手に入れられる。
 今の自分はもうすぐ彼とお別れだけど、きっと、未来の自分は彼が全ての感情を手に入れるのを望んで、待っている。

 「α2…お前はロボットなんかじゃない。たとえ作りものでも、今あるお前はお前だけで、その心がある限り、お前はちゃんと生きているんだ。」

 いえばα2は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 人間の手で作られた、ある意味神に背いた存在。
 だけれど彼はこんなにも純粋で、罪などないから、彼の苦しみを救ってあげたいと、そう願う。

 「α2、俺、お前スキだよ。」

 にっこりと笑顔でそういえば、α2は一瞬驚いた表情を見せてから。

 …また、静かで優しい笑みを浮かべた。


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 α2が最初に現れたデュオとヒイロの住んでいたアパート、その一室。

 今は一つの部屋が完全に崩されているから、とてもじゃないけど、人は住めない。
 だが、その部屋に彼らは立って、時間を待っていた。
 元の時間へ帰るα2、帰るためには、来た場所へいって未来から呼んでもらう事。
 時間は決めてあるから、後は待つだけ。

 「もし、帰らなかったらどうなるんだ?」

 デュオがそう聞いた事がある。

 「帰らなければ、その時間に留まる事になるが…あまりに長時間本来の自分の時間から切り離されると、その人間の記憶がおかしくなるという事が実証されている。だから、恐らく、次に時間の波が来てそこで戻れたとしても、その人間が元のままの自分を自覚出来ない可能性が高い。」

 その後に、最も俺は機械だから分からない、とα2は告げたのだが。
 時間の流れという大きな力は、その時間にいるべきものでないものには、それを無理にそこへ当てはめようと作用する。それは時間の波が閉じている時は特に顕著に現れて、波の浅い今と違い、急激に作用するらしい。

 ちなみに、その、『その時間にいる筈のない者』の関わった事柄は、やはり時間の力で少しずつ修正されていくので、未来から来るときに知っていた情報も、関わっている内にどう変化してしまうかは分からないという。そういうワケで、ヒイロの記憶の通りに敵がこちらを見つけていた時に、向こうとしても、どう変わるかわからない状態で動く事は出来ないので、予め分かっている場所で待ち伏せしたりする事はせず、記憶が確定された後になって動いていた。

 「デュオは?」

 α2の問いに、ヒイロは少しだけ不機嫌そうに顔を顰める。

 「下の大家のところにいる。一緒にくるなといわれたが…。」

 α2の感じたところでは、敵の者はすでに皆引き上げているとの事だったが、ヒイロとしては、まだ完全に時間が閉じてしまうまでは安心など出来るものではなかった。

 「そうか、ならば丁度いい。」

 何がだ、と尋ねれば、α2はじっとヒイロを見つめる。

 「未来のデュオから、お前に伝言がある。」

 いうα2の顔は何処か悲し気に見えた。

 「これは直接録音したものだから、俺は内容を知らない。お前に聞かせる間も、俺は自分の感情と記憶から切り離すから、聞かない、と思ってくれていい。」

 いうとα2は目を閉じて、身体中の力を抜く。
 そして数秒後、口だけが、静かに開かれた。



 「ヒイロ…。俺はお前に言えなかった事がある。」



 口を動かすのはα2だが、声はデュオの声、そのまま。
 いや、僅かに今のデュオよりも少しだけ低いのは、それが4年後の彼の声だから。

 「お前がいる間は気付けなくて、ずっと、ずっと言えなかった。だから今そこにいる俺も、言うことが出来ない…でも俺の中の本当の気持ち。」

 言葉はそこで一旦途切れる。
 ヒイロはただ、その後の言葉を待つ。

 「好きだよヒイロ。お前に抱かれたのは同情じゃない。俺もずっとお前が好きだった。お前はこれから何度も俺を愛してるといってくれるけれど、それに俺は何も返せないけど…でも、本当は俺もお前の事を好きだから。俺も、愛してる、お前を。それだけは絶対だから。」

 そしてまた、声は途切れる。この暫くの間がデュオの様子を教えてくれる。
 はぁ、と大きく息を吐き出す声がして、言葉は続けられる。
 きっとそこで泣いているに違いない、声は震えて小さくなって。

 「ごめんなぁ…直接、お前にいえなくて。俺ばかだから、気付けなかった。恐くて、気付けなかった。もう気付いても遅いのに…だけど、お前には伝えなくちゃならないから…愛してる…ヒイロ。ずっと、ずっと愛してた。」

 声は終わる。

 α2は暫くの沈黙の後、又、目を開いた。
 そしてすぐに、背を向けてヒイロから顔を背ける。
 彼が、泣いていたから。

 「ばかが…。」

 声として呟いたのはそれだけ。
 後は声にはならなくて、ただ、歯を噛み締める。
 涙は最初の一粒だけで、後はもう流さない。
 初めて、嬉しいという感情に涙が流れた。

 『愛してる…ヒイロ』

 それだけが、自分が欲しかった答え。
 その事実だけがあれば、自分はこれから死ぬまでの間、デュオからの返事がなくても満たされる。

 「お前は、4年後、DEEGの基地にデュオと乗り込んで、デュオを庇い、大怪我をする。そこでお前はもう助かる事が不可能だから、奴等の手に自分の体が渡らないよう、デュオに自分を殺せという。それに────デュオは殺せなかった。その場で捕まって、後でデュオだけが救出された時には…デュオはずっと自分を責めて一時は半狂乱にまで陥ったそうだ…。」

 ああ、ならば。

 ヒイロは思う。
 自分は幸せだと。
 戦争の道具として作られた自分の最後がそれならば、自分はすべてを受け入れられる。

 「ヒイロ=ユイ。」

 α2は表情のない顔で彼を呼ぶ。
 真っ直ぐに、自分と同じ瞳で。
 だけれど、彼は自分ではない。

 「俺は、お前が羨ましかった。お前になりたかった。何故だか知っているか?」

 思考が同じ彼、恐らく未来のデュオは自分の事をよく聞かせたのだろう。
 ならば。

 「知っている。」

 それにα2は瞳をまったく動かさずに、声にさえ少しも抑揚なく、尋ねる。

 「俺にとってデュオは特別だった。けれど、俺にはそれをどう伝えればいいのかが分からない。」

 ヒイロは、それで一度瞼を伏せた。
 暫く考えて、ゆっくりと瞳をまたα2に向けると、彼も抑揚のない声で答える。

 「教えてやる。そういう時は『愛している』というんだ。」
 「ああ…」

 驚いたように、目をまるくするα2。
 けれどすぐに瞳を伏せて、僅かに口許を綻ばせて、彼はいう。

 「そうか…。」

 それが、ずっと彼の求めていた答え。


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 「α2っ、まだいるよなっ。」

 息を切らせて、デュオが部屋へ入って来る。

 「ったく、用件だけ済ませてくれればいいのに、ぐちを延々と聞かされるし…。」

 だが、α2の姿を認めて、彼は顔に笑顔を乗せた。

 「良かった、間に合ったみたいだな。」

 いうと、すぐにα2のところへ行き、少々驚き加減の彼の手を取る。
 それから、もう片方の手でズボンのポケットを探ると、何かを取り出し、α2の手の中へ押し込んだ。
 目を丸くして、α2は無理に握らされた掌を目の前でゆっくりと開く。
 手にのっていたのは、銀色の小さな十字架。

 「業者に問い合わせたらさ、奇跡的に見つかったんだ。間に合うかどうか自信なかったんだけど、今朝、大家のとこに届いててさ。」

 実のところ、あの時、デュオが捕まる原因となった電話の内容は、この部屋の処理をした業者へと問い合わせる為のものだったのだ。
 笑顔で喋るデュオに、α2は驚いた瞳のまま尋ねる。

 「これを?」

 聞かれたデュオは、益々笑みを深くして、ゆっくりと答えた。

 「お前にやるよ。ずっと、俺を守ってくれた礼かな。それにそれが、お前との約束の印…な。」

 いわれてα2は、大事そうにその十字架をまた握り締めると、デュオに笑い掛ける。

 「ありがとう。」

 デュオも笑う。





 少しの間、また一言二言言葉を交わして、それからα2は、「時間だ」といって彼らから一歩後ろへさがった。
 やがて、彼の体は光に包まれ…そして消える。
 破壊された後の部屋には、今はデュオとヒイロの、二人だけが立っていた。




 「俺は、あいつが羨ましかった。」

 ぽつりと、呟くヒイロにデュオが驚いて振り返った。

 「笑える…あいつが。」

 言葉を聞いて、デュオはヒイロに笑い掛ける。

 「なぁにいってんだよ、ヒイロ。お前だってきっと笑えるようになるって。」

 いってから、「今のお前の笑顔って、見たことあんのは全部恐いからな」とおどけて見せる。
 そうして自分のいった事にウケて笑うデュオの三つ編みを引っ張ると、

 「いてででっ、何すんだ。」

 騒ぎ立てるデュオを引き寄せて、ヒイロはその体を抱き締めた。

 「愛している…」

 目を閉じて、耳元に囁けば、デュオは笑う事を止めて不安気に瞼を伏せる。

 「ごめん、ヒイロ…俺は…。」
 「いい。」

 その先を聞くことなく、ヒイロはデュオをさらに強く抱き締めた。
 デュオはどういう事か分からずにただ困惑し、口を閉じる。





 「お前の返事は要らない。…俺は知っているからな。」









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