Machine Voice
【1・ヒイロでないヒイロ】

α2は<アルファツー>と読んでください(^^;;
後、今更注意ですがこの話、一応ある種のハッピーエンドではあるのですが…
死にねた入ったりとちょっと悲しい話です…。
悲しい話が一切だめな人は読まない方がいいかもしれませんね…。






   目を覚ませば、そこは白い壁の中────。

 「ったく…何処…連れてこられたんだ、俺は。」

 手足を見て、どこも拘束されていない事に少し驚き、辺りを改めて見回す。
 起きた時すぐに目に入った白い壁。だが、別にそこは特別な監禁するための部屋などではなくて、適当に家具や調度品が揃えられた…どう見てもホテルの一室だろう。
 しかも今、自分がいる場所といえば、清潔で柔らかなベッドの上。体の何処にも異常はないし、何かされた形跡も見つけられない。

 「一体全体、何でこんなとこに…。」

 呟きが終わる前に、部屋のドアノブがカチリと音を立てる。
 ドアの向こうから気配はないのに、誰かがここへ入って来る…らしい。

 「誰だっ。」

 反射的に胸元へ手を伸ばし、そこにある自分の愛用の銃の感触に又、驚く。
 まさか身体検査をしなかったワケじゃあるまいし、ここへ自分を連れて来た者はなんのつもりだろうと考えながら、目はじっとドアを見つめて。
 ドアが開いていくにつれて、緊張を高め、銃の握りに力をこめる。
 だけど。
 ドアが完全に開かれ、そこに現れた人物を見て、デュオの手からはおもわず力が抜け落ちてしまった。

 「ヒイロ?」

 自分でも間抜けな声を上げて、銃を持つ手を緩め、立ち上がる。
 しかしそれは、本当に一瞬の事で、すぐに目の前の存在が自分の知る者でない事に気付き、新たに警戒を身に纏った。

 「ヒイロ…の筈はないな、誰だお前はっ。」

 暗い茶の髪、そして彼としか思えない強い意志を宿した深い蒼の瞳。どこからみても、ヒイロにしか見えないその人物は、しかしながら、確かにヒイロではないのだ。
 なぜなら。
 身長、体つき…全てが本物のヒイロよりも1、2まわり程大きい。顔つきも多少大人びていて、少年といえる年齢のヒイロに対して、彼は青年というのが正しいだろう。
 そう、まるで…そこにいるのは数年後のヒイロ、というのが一番合点がくる、そんな人物。

 「体に異常はないな。」

 青年は、表情を少しも崩す事なくデュオへ話し掛けて来る。
 聞いた途端に、デュオはビクリと肩を揺らした。

 「お前…。」

 声はそのままヒイロだった。
 間違える筈なんかない。この声はヒイロでしかありえない。
 だけど、そんな筈などない。

 「誰だっ、ヒイロの知り合いかっ。」

 理解出来ない事態に緊張と警戒が極限に高まる。
 銃を突きつけて、相手の動きを待つ、が…。
 ヒイロと同じ顔をした青年は、デュオの構えた銃口を興味もないように一瞥だけして、そのまま、近づいて来た。

 「近づくなっ。俺の質問に答えろっ。」

 声を掠れさせて叫ぶデュオの顔を見て、青年は少しだけ眉を寄せる。
 その動作の一つ一つがヒイロらしくて、デュオはそんな筈は有り得ないのに、彼がヒイロである事を心の何処かで肯定している自分に驚いた。

 「お前が尋ねる事を答えるよりは、俺が最初から状況説明をするほうが効率的だ。」

 恐ろしく抑揚のない声でそれだけをいうと、何の迷いもなく青年は近づいてくる。
 咄嗟に、デュオはすぐ目の前まできたその人物に銃を構えて、威嚇に引き金を引こうとする、けれど。
 青年は、素早く銃を持つデュオの手を掴むと、力任せにその手を握り締めた。その凄まじい力に、デュオの手が痺れ、銃は床へと転がる。

 「安心しろ。俺はお前を襲ったヤツらとは敵対する立場にある。俺の仕事はお前を守る事だからな。」

 床に転がった銃を拾おうとしたデュオの肩を掴んで、青年はそう告げた。驚きにデュオはその青年の顔を見上げて、ヒイロと同じ、蒼い輝きに目を止める。

 「なん…だって?」

 目を見開いて固まるデュオに、青年はじっと睨みつける様な視線を投げると、一言一言、ゆっくりと言葉を綴り始めた。

 「俺はHYTα2(ヒイロ・ユイ・タイプ・アルファ・ツー)、未来のお前からはα2とだけ呼ばれている。」
 「未来の…俺?」

 青年のいう言葉がすぐには理解できなくて、デュオは眉間に皺を寄せて青年を凝視する。

 「そうだ、これから4年後、お前達ガンダムのパイロットは、DEEGと呼ばれる組織と対立する事になる。その時にお前が果たす役割が、奴等にとって大きな障害となる。だから奴等は、その前に、過去に戻ってお前を殺してしまおうとしている。」

 ヒイロの顔をした青年は、ヒイロとまるで同じ話し方でデュオに夢物語の様な事を話す。デュオは、混乱する頭をどうにか宥めながら、その話を聞くしかなかった。
 簡単には信じられない、彼の話は続く。

 今から4年後。
 表だった兵器をすべて排除した地球圏は、DEEGと呼ばれる、旧OZや連合軍の科学者からなる組織に支配される。彼らが密かに作り上げていたMDの軍隊は、抵抗の手段のない地球やコロニーを次々と簡単に手中に納め、独裁政治を始めたのだ。
 当然、その状態で元ガンダムのパイロット達が黙っている筈はなく、彼らは再び協力してDEEGに対する抵抗を始めた。ガンダムを再び復活させて────。

 当時、モビルスーツを作る工場はことごとく廃棄されて、作業用のモノを作る工場だけが細々と稼動しているという状態であった。となれば当然、モビルスーツ関連の技術者も激減し、しかもその少ない技術者達は全てDEEGの管理下に置かれていた。
 中心が科学者の集まりだけあって、DEEGの技術分野に対する管理は徹底し、地球圏全ての技術力はDEEGに集められたといっても過言ではなかった。なにしろ彼らの考えは、「こちらに対抗するだけの技術力がなければ、どんな抵抗も蚊程のものでしかない」というものだったので、それを実践して、彼らは益々その独裁体勢を作り上げていったのだ。

 だが、彼らを脅かす唯一の兵器としてガンダムが現れた。
 優れた兵器、ガンダムと、優れたパイロット。DEEGのMDも彼らには適わなかった。
 DEEGはガンダムとそのパイロットを抹殺するために、様々な手段を用いた。
 そして、とある情報を手に入れる。
 ────破壊された筈のガンダムが何故、こうして又、存在しているのか。

 DEEGから見て、ガンダムの復活にはたくさんの疑問があった。彼らの調べでは、ガンダムを作成した科学者達は死んだ筈だったし、5体のガンダムの全てが破壊された事も確認済みだった。ガンダムをまた作成するにしても、製作者は誰一人とおらず、彼らに協力できそうな頭脳を持つ者は、すべてDEEGの管理下に納められていて、どうする事も出来ない筈なのだ。だが、再び姿を現したガンダムは、旧データに記された姿そのままで、その圧倒的な強さも何処も変わっていなかった。
 最初は、何処かに死んだ科学者達が残したかなり詳細な設計図があったのだと予想された。しかしながら、実際はそうではなかったのだ。

 「ガンダム…の設計図…。」

 デュオが呆然として言葉を零す。
 それを横目で確認して、HYTα2と名乗る青年はデュオに尋ねた。

 「そうだ、ガンダムの細部まで記された設計図。5機分全ての…そこまでいえば、お前には思い当たる事がある筈だな。」

 呆然とした表情のまま、デュオは暫く無言で、そして段々と俯いていく。
 その様子を見て、HYTα2はさらに言葉を畳み掛けた。

 「科学者達が死ぬ直前、お前は彼らからガンダムに関する全てのデータと設計図を脳へ直接記憶させられた筈だ。そのデータを元に、4年後、おまえたちはガンダムを復活させる。」

 デュオは何も答えない。

 「だから、奴等の目的は、過去のお前を探しだし、その頭から情報を引き出して殺してしまう事。俺は、お前達ガンダムのパイロット側からそれを阻止する為に送られて来た。」

 淡々と説明だけをHYTα2は続ける。その顔を、俯いたまま目だけを上げて、デュオは睨みつけた。話の内容はどう考えても現実味を感じられない。けれど、彼のいう事は何処も間違っていない、デュオしか知らない筈の…事実だけだった。

 「てめぇ…。」

 ゆっくりとデュオは顔を上げる。
 HYTα2はそのデュオをただ見つめる。何の感情も映さない瞳で。…そんなところも嫌になる程ヒイロらしい。

 「それで、てめぇは一体何者だ。ヒイロでないなら、なんでそんなにヒイロそっくりなんだ?」
 「もっともな質問だな。」

 眉一つ動かさないで彼は答える。

 「俺は、人間ではない。人工人間、いやアンドロイドというべきだな。ヒイロ=ユイの思考パターンと外見を与えられた、機械と生体部品で作られた作り物だ。」
 「なん…だって?」

 デュオの目が驚愕に開かれ、顔を上げてまじまじと目の前の存在を確かめる。どこをどう見ても人間にしか見えない彼がロボットだなんて、冗談としてもばかばかしい。

 「嘘つけよ…てめぇがいった話は全部とんでもねーが、今のは一番タチが悪ィぜ。どうみててめぇがロボットだって?冗談もほどほどにしやがれ。」

 その言葉を受けても、HYTα2の表情は変わらない。ただ、益々不信感を込めて彼を見つめて来るデュオへと、相変わらず説明を続けるだけだった。

 「DEEGが全ての技術力をまとめた事によって、科学は飛躍的な進歩を遂げた…」

 それまで夢物語とされていた事は次々と現実となり、またその技術をDEEGが独占する事によって、益々DEEGの独裁体勢を強固なものにしていったのだ。
 そして彼も、人間の形をしたスパイ兵器としてDEEGによって作られた。

 「元々俺は、ヒイロ=ユイの代りにガンダムパイロット側へ送り込まれる為に作られた。」

 その計画が実現する前に、ガンダムパイロット達に盗まれて、今はそちらの方についている。と、彼はいう。

 DEEGの科学力を誇示するモノ、人間と違わぬ外見を持つ人工人間、さらに人工の感情さえもつハード面とソフト面の最高峰を極めた…それが彼。そして、もう一つのDEEGの科学力の結集が、過去へと時間移動を可能とするタイムマシンだった。
 タイムマシンが完成し、まず最初に計画されたのがこの計画。

 「────で。なんで今なんだ?」

 思い付いた疑問をデュオは問い掛ける。その答えもすぐに返された。

 つまり。
 タイムマシンといっても、どんな時間でも自由に行き来できるというものではない。理由は解明出来ないが、時間の流れには波があって、未来からいける時間というのはその波が浅くなっている時でなくてはならない。その条件を満たせる時間は極わずかで、その中でも、デュオが存在し、一番狙いやすい時を狙って彼らはやってきたのだ。

 「狙いやすいって?」
 「お前は今足を怪我している。更に、今ならばお前の傍にはヒイロ=ユイがいない。」

 返された答えに、デュオが納得がいかないと顔を顰める。

 「怪我はいいとして、なんでヒイロが出て来るんだ?」
 「あいつがいれば、お前を守るだろう?」

 即答。
 相変わらず、目の前の存在は、感情がある…という割にそのカケラさえも見せようとしない。だが、デュオにとって今の発言はそんなあっさりいわれる様なものじゃないのだ。

 「ヒイロが俺を守るってぇ??ちょっと待てよ。なんだそれは??」
 「言葉通りだ。」

 ヒイロと同じ顔で、ヒイロとまったく同じ声で当然の如く肯定されてしまう。
 何だか分からないが、デュオは自分の顔が今赤くなっているのだけは自覚出来た。

 ────ヒイロが、俺を、守る。
 ────俺が、ヒイロに、守られる。

 考えただけでも、こそばゆい様な、気恥ずかしいような、そんな感じ。
 心臓の鼓動さえ、速くなっているらしい自分に向かって、デュオは懸命にいいきかせた。

 ────落ち着け、落ち着け。俺が死ぬとガンダムのデータが失われるから、ヤツとしても守らざるえないだけだ。そうだ、そうに違いない。ヤツが守ろうとしているのは俺じゃなくて、俺の頭ン中のデータであって…あれ?でもアイツってその事知らねーか?

 赤くなりながらぐるぐると思考を回すデュオを見て、その時初めて、HYTα2の表情が緩められた。
 微かに、本当に微かに唇を歪めて、笑う。
 その表情にデュオは混乱していた思考を止めて、見入ってしまった。
 それはきっと、笑ったところを見たことがないヒイロが笑ったらこんなだろうと、デュオが勝手に想像していたビジョンそのままだったので。

 「ヒイロ=ユイがお前を守るのは意外か?」

 デュオは言葉が出せずに、コクリと肯くだけで肯定した。

 「だが、俺がお前を守りに来たのも、ヒイロ=ユイと同じ思考を持っているからだ。」

 その言葉は意味が深すぎて、デュオには理解が出来なかった。




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