宝石子守歌 −4(最終話)−





−−−−【四】−−−−


 密閉されたコクピットの中、発光する液晶パネルの中を見て、『彼』はふと、目を見開いた。
 埋め尽くされた状態報告用のLEDはオールグリーン、異常は何もない。
 けれど、『彼』には見えたから。

 「よぅ」

 にっこりと笑い掛けたソレは、『彼』にも笑みを返した。





 『おぃ、どうしたんじゃ?』
 老人の声に今やっと気付いたように、『彼』は驚いて顔を上げる。それから、通信用パネルに映る老人と目が合ってすぐに、子供らしからぬシニカルな笑みを浮かべた。

 「別に、異常ないぜ。そっちこそどうかしたのか?」

 わざとのんびりとした声で答えれば、ため息と共に老人の声が返ってくる。

 『バカモン。お前がぼおっとしておった事なぞ、こっちはお見通しじゃわい。一体何があったんじゃ。』

 やれやれ、とおおげさに肩をすくめてみせて、『彼』は老人に見せ付けるようにふてくされたような顔をしてみせた。

 「ちぇーっ。ちゃんと結果は出してんだからいいだろ。別にミスはねーんだからさ。」
 『まったく、その一時の気を抜いた事が、本番では命にかかわってくるといったじゃろうが。』

 まるで傘でもかぶったような髪型の老人は、その、自分に劣らずスレた性格上、何があってもあからさまに激怒する事はないが、声は十分怒っている。
 …まぁ、怒ってるって事は、こっちを人間として見てくれてる証拠かね。
 『彼』は口元にだけまた笑みを浮かべて画面をみる。

 「なぁに、友達が尋ねてきてくれただけさ。」
 『何じゃそれは』
 「まぁ…生きてないお友達。じーさんにはわかんねぇだろうけど。」




 ―――なぁ、オマエ、誰?―――

 突然かけられた声に、『彼』は振り向くと、その少年を大きな、今まで見ていた水の惑星と同じ色の瞳で見つめた。

 ―――なぁ、オマエの名前は?―――

 重ねて掛けられる言葉。
 しばらく考えてから、『彼』はぽつりと呟いた。

 『俺の名前は、デュオ・マックスウェル』

 途端、少年は嬉しそうに笑みを浮かべた。
 本当に、曇りのない無邪気な笑みを。
 実験素材として預けられた子供、死ぬ為にきたような場所。そんなところで笑える少年がデュオには信じられなかった。

 けれど、でも。

 少年の笑みは、何故かとても暖かくて。
 忘れそうだった、幸せな時間をデュオに思い出させたから。
 だから、デュオの顔にも、忘れていた筈の笑みが浮かんだ。大好きな人達をなくしてから、ずっと無くしていた笑みが浮かべられた。

 笑顔は、浮かべた人も、その顔を見た人も幸せにできるのだと。
 亡くした人が教えてくれた言葉を思い出す事ができた。

 その少年は、本当は、生きた人間ではなかったけれど…。

 その後、デュオは、傘頭の老人の強い主張で、施設での処置を中断して、組織に連れ戻される事になった。
 生きてここから出られる事を知った時、少年は喜んで笑ってくれた。
 そして、その正体を教えてくれた。



 「あぁ、そういや。」



 デュオはコクピットの中、呆れて切られた通信画面を見て、思い出したように呟いた。

 「あいつ確か、いつでも最後に会った奴の姿を借りてるっていってたな。」

 デュオが施設で会った時の少年は、赤茶色い髪の、昔ソロと呼んでいた友達に少しだけ似ている姿だった。
 けれど今、あの施設から開放され、逝く事を告げにきた姿は…。
 黒に近い茶の髪の、印象的な、暗い青の瞳の少年。

 「頑固そうな顔してたな」

 くすくすとデュオは笑う。
 きっと、その姿の少年が、『彼等』を開放してくれたのだろう。
 その人物が生きているかは分からないけれど、もし、生きて会えたなら、礼の一つも言えればいいと思う。
 自分を救ってくれた友達、その彼等を開放してくれてありがとう、と。
 そう、この広い宇宙でたった一人の人間に会える確立なんて低いはずなのに、何故か会えそうな。

 ――――そんな、気がするから。




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−−−−【エピローグ】−−−−

 「お前に、コードネームを与えよう。」

 ほぼ壊滅状態に陥った施設から、彼は元の契約組織に引き取られ、訓練は別の場所で引き継がれた。
 それから、また数年の日が経ち、とうとう彼に最終的な目的である任務が言い渡された。
 あの、宇宙に浮かぶ青い惑星に降りる事、この、強大な白い機体と共に。
 彼は、コクピットの中から、光ない宇宙の暗闇を見つめる。その中には、ぽっかりと開いた穴のように、青い光をまとう星の姿も映っていた。
 通信機からは、聞きなれた老人の声が聞こえる。

 「お前のコードネームはヒイロ・ユイじゃ。」

 彼は瞳を一度閉じて、そうしてゆっくりと開いた。
 レバーを持つ手に力を入れ、強く握り締めると思い切りそれを引いた。
 口元で呟く言葉は、任務了解、とその一言だけ。
 白い機体が深淵の宇宙に舞う。
 そうして、それとほぼ同時に、その目指す場所への軌跡を、4体の光が追った。



 ――――青い星、そこで彼は『彼』と出会う。
END.




最終話です。…まぁ、大方は読んでくださった方の予想通りだったのではないかと思いますが。
最後の、そしてTV本編へ続くっていうのがやりたかったわけなんですね。この話しの、地球で出会ってからの二人は、皆様のご想像におかませします。初対面であって初対面でない二人…のような感じで。地球で出会って、最終的にはきっとくっついてハッピーエンドになるんです…っていうところまでご想像くださいませ(笑)
ちなみに今回、文章的にもちょっと冒険というかテストとして、固有名詞を殆ど使わないで書くというのをやっております。なので、多少文章の組みがややこしいのわざとなのですが…。ラストで、結局どの部分の「彼」が誰かは分かりました…よね?(^^;;分からなかったらすいませんですー。一応流れとしては、施設には先にデュオが来て、その後ヒイロが来てる、とそういう事なのです。



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