WEB拍手お礼シリーズ9
<それぞれの新年編>








■■■それぞれの新年(1/3)

 新年を迎えた朝、フィラメッツ大神官の屋敷では、なさけないウィアの声が響いていた。
「もーいいよフェズー。どーせ誰も俺がちゃんと来ると思ってないってー」
「ウィア、流石に新年最初の礼拝くらいは行きましょう、テレイズさんが壇上で挨拶されますし」
 新年最初の礼拝はリパ神殿の大きなイベントの一つで、王族や大貴族がやってきたり、大神官達から特別な挨拶の言葉を聞けたりする。
 ちなみにフェゼントがここにいるのは、新年最初にフェズの顔を見たい、とウィアがだだをこねたので昨夜は泊まったという理由があった。
「あー……それは尚更行きたくねー。フェズーいいからもちょい寝てようぜー。あ、今年最初の愛の確かめ合いとかするなら起きるけど」
「ウィ〜ア〜、だめですよ、昨夜ちゃんとテレイズさんに行くって約束したでしょう」
「確か姫初めっていうんだっけ〜? うん、そうしようそれがいいーフェ〜ズ〜、大好き〜」
 抱きついてくるウィアに苦笑しながら、フェゼントはため息をつく。実は、テレイズにウィアを礼拝にひっぱってくるように頼まれていたのだ。
「行かないとテレイズさんに怒られますよ」
「いーよ、行ったって言っておけばいいんだから」
「テレイズさんが挨拶で何言ったかって確認に聞かれたらどうするんです?」
「俺頭悪いから忘れたーって言えばいい。去年はそれで乗り切った」
 どれだけいってもくっついたまま離れようとしないで、隙さえあればベッドに引きずり込もうとするウィアに、フェゼントは更に大きくため息をつくと、今度は優しい声で言ってみた。
「ウィーア、私は首都の大神殿の新年の礼拝は行った事ないんです。だからウィアと行けるのを楽しみにしていたんですが……ウィアがこの調子なら、ラークと二人で行ってきます。……とても残念ですが」
 抱きついて、ごろごろと猫のように頬を擦り寄せていたウィアがぴたりと止まる。
「……………………起きる」
 呟いて、もそもそと上掛けから這い出すウィア。
 やれやれと、笑顔で立ち上がるフェゼント。

 *****

 大神殿にて。
「すごい人ですねぇ」
「皆朝からよくこんなとこ来ようと思うよな」
「にーさんにーさんはぐれないように手を繋いでよっ♪」
「あ、俺も俺も♪」

 どうにか各大神官の挨拶も終わり、最後に主席大神官が新年の祈りを捧げる事になる。
 神殿に押し寄せた人々が一斉に胸に手を置いて祈りの姿勢を取った。
 フェゼントは祈る。今年こそ、シーグルと和解できますように、と。
 ウィアは祈る。今年もフェズとたくさんいちゃいちゃ出来ますように、と。
 ラークは祈る。今年はにーさんと邪魔者なしで二人で静かに暮らせますように、と。




■■■それぞれの新年(2/3)

「それでは行って参ります」
 新年最初の日、旧貴族の当主達は城に集まって、それぞれ王に新年の挨拶をする事になっているのだが、今年は高齢である祖父に代わってシーグルが行く事になっていた。
 祖父に挨拶を済まし、使用人達に見送られ、シーグルは城からの迎えの馬車に乗る。
 だが、リシェから首都セニエティに入った辺りで、シーグルは馬車の行く方向がおかしい事に気がついた。
 おかしい理由もその犯人にも途中から気づいたシーグルだったが、憮然としながらも黙って馬車に乗り続けた。

 もちろん、馬車が止まった場所は黒の傭兵団の敷地で、シーグルはセイネリアの前に連れていかれた。

「どういう嫌がらせだ。今度は俺の立場を悪くして、家の失脚でも狙っているのか?」
 シーグルがおとなしくセイネリアの前にまでやってきた理由は、彼の意図が知りたかったというのと、文句の一つも言いたかったからだ。ただどこかで、セイネリアは本気でシーグルの立場を悪くする気はない、と思っている部分もあったのだが。
「まぁ、怒るな」
「これで怒らない方がおかしいだろう」
 セイネリアはいつも通りの余裕の笑みを浮かべていて、傍にいたカリンに茶を持ってくるように言って椅子に座った。
「王の具合が悪いらしくてな、今年の新年の謁見は中止になったそうだ」
「なんだと?」
「今頃それを知らせる使者がお前の家に行ってるとこだろうな」
「……本当なのか?」
「そうでなきゃこんな冗談はしない。お前を困らせるのは楽しいが、冗談で済む域くらいは心得てるぞ」
 シーグルはじっとセイネリアを見つめて、彼の言うことが本当だろうと判断する。
 大きくため息をついて、思い切り顔をしかめたシーグルに、セイネリアは喉をならして笑った。
「それで、何の用だ……」
「別に用がなくても、チャンスがあればお前を連れてくる意味が俺にはあるが」
 その言葉に、ギクリと顔をこわばらせるシーグル。
「流石にこの時期、外でお前を抱くのはまずいだろうしな」
「帰る」
 立ち上がってくるりと背を向けたシーグルに、セイネリアの笑い混じりの声が掛けられた。
「まぁまて、冗談だ。これから団で新年の宴があってな、お前も招待してみた」
「なんだそれは」
「一応毎年恒例の行事だ。まぁ、お前を呼んだのは、たまたま貴族どもの新年の謁見が中止になったという情報が入ったから思いついただけだ。他の連中もいる場所だ、俺もヘタに手を出さんさ、素直に楽しんでいけ」
「食事も酒もいらない俺に、宴をどう楽しめというんだ」
「いいじゃないか、たまにはこういう席の雰囲気だけでも眺めていけば」
 ずっと顔をしかめているシーグルに対して、セイネリアはやけに機嫌がいい。何か裏がありそうでシーグルは気味が悪かった。だからそれをそのまま口に出してみる。
「……お前は随分楽しそうだな、俺を騙せたのがそんなに嬉しかったのか。それともそんなに宴が好きなのか?」
「そうだな……」
 セイネリアの琥珀の瞳がすっと細められる。
「俺も別に宴会なんぞ楽しくもないが、お前の顔を見られるなら話は別だ」
 シーグルは目を見開く。
 セイネリアは細めた目でじっとシーグルを見つめる。
「年の最初からお前の顔を眺めていられるなら、酒も料理もいらんな、それだけで十分楽しいさ」




■■■それぞれの新年(3/3)

 黒の剣傭兵団、新年の宴にて。
「うわ、マスターがすげぇ機嫌が良さそうなんだが」
「俺あの人が笑ってるのって初めてみるぞ、なにがあったんだ?」

「……そりゃお前、マスターの隣みてみろよ」

 と、団員達がこそこそ話す中、シーグルはしかめっ面のまま出されたぶどうの絞り液、いわゆるジュースを飲んでいた。
「何か食べられるものがあれば、お取りしますか?」
 セイネリアをはさんだところにいるカリンが、主に酌をしつつ、シーグルに声を掛けてくる。
「いや、俺は……」
 困ったように口ごもるシーグルに、セイネリアがその彼の頭を撫でながら言う。
「断ってもカリンは別に気にしない。お前が食わないせいで気を悪くするものもいない、何も言わなくても、何も飲まなくても、誰も気にしないさ」
「そんな事……」
 図星だったのか、下を向いたシーグルにセイネリアが笑い掛ける。
「お前実は賑やかなのは嫌いでもないんだろ。ただこういう席だと、自分が飲み食い出来ないせいで気まずくなるのが嫌だっただけだろ」
「……」
「生憎うちの連中はそんな細かい事にいちいち気にするような事はなくてな、誰もお前がどうしてるかなんて気にしちゃいない。お前はお前が楽しいと思うようにしていればいい」
 言って酒を飲むセイネリアは本当に機嫌が良さそうで、シーグルも思い切りしかめていた顔を少しだけ和らげた。
 宴会という場合、いつも他人の視線を気にしていたシーグルとしては、確かに目の前で好き勝手に騒いでいる人々をただ見ているだけでいいと思えば気が楽だった。割り切ってしまえば、楽しそうな人を見るのはそれなりに面白くて、見ているうちにいつしかシーグルの口元も緩んでいた。


「マスターの今のお気に入りってすっげー美人とは聞いてたけど、確かになぁ……」
「馬鹿、あんまじろじろ見るなよ、後でマスターに殺されっぞ」
「くそー、良く見たいけど怖くて見れねー」
 と、陰ではこそこそ話していた者がいた事をシーグルは知らなかったが。

※注意※毎度の事ですが、本編とは関係ないお遊びストーリーですので深く考えないで下さい。





ーーーーーーーーー後日談(ここからは日記より)

「いやー、あの坊やがこっちに来てくれた所為で、俺も今日は宴会参加出来るってモンです」
 シーグルの報告役であるフユは、言いながら酒を飲み干す。
「フッ、だからお前はまだまだ青いんだッ。そんな事で気を抜いてるようではなッ」
 隣の席でしたり顔でそういうレイを、フユは笑顔を崩さずに見る。
 ちなみにフユはちゃんとプロなので、酒くらいで腕が鈍る事はないし、仕事に少しでも支障が出そうな程飲む気はまったくない。
「そうやレイはプロでしたからねぇ、逆に飲んだ方が仕事できるくらいっスから格が違いますよねぇ」
「フフフ、俺が酒を飲むとッ、何故か記憶がない内に仕事が完了しているッ」
「えぇそうですねぇ、飲んで寝ててくれた方がこっちの仕事も捗りますからねぇ」
 実際は仕事で組んでいた時代、よくレイを酔いつぶしてどこかへ寝かせて、その間にフユは仕事を済ましていたのだが。


「うっわー、なんだマスター、あれこそ両手に花って奴かねぇ」
 段取りに走り回ってすっかり宴参加が遅れたエルは、珍しくこんな席に大人しくいるセイネリアを見て、それから彼の隣を見て、挨拶をしにいく気を無くした。
「花ねぇ……まぁ確かに、ヘタな女性よりはよっぽど華やかだね」
 窓際でリパの女神官を従えて酒を呑んでいるサーフェスが、笑いながらそう答える。
「まぁあの男も、あんな嬉しそうな顔すんだねぇ……」


「…………」
「そんな睨みつけてるなら部屋帰りゃいいじゃねーか」
 先程からじっと黙ってセイネリアを見ているクリムゾンを見て、流石にうっとおしくなったラタは彼にそう告げた。
「ったく、何でいつもこいつと席一緒にされるんだ……こっちを詮索してこないのは気楽だが、付き合いが悪いとか協調性がないってどこの話じゃないんだがな……」
 お陰でこのところそうそう美味い酒にありつけない、とラタは不機嫌そうにひとりごちた。



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