WEB拍手お礼シリーズ38
<ストーカー達編>








☆☆ストーカーな人々(1/3) ※ランダム表示

 首都セニエティの昼下がり。
 たまには騎士団内の様子も見ておかないと、と思ってこっそり忍び込んでいたフユは、目的のシーグルが部屋を出たところで、彼特有の細い目を少し見開き眉を曲げた。
――あれ、なんスかね?
 シーグルが廊下を歩けば、その後ろからこそこそとついていく男が一人。そして更にその少し後ろに、もう一人。
 最初の一人は、確かシーグルの幼なじみだとかで、現在シーグルに頑張ってアプローチをしているロウという男だった。こそこそはしているものの気配を消す気など全くないように気配で自己主張をしまくっていて、フユからしたらこそこそしている方が疑問に思えるくらいだった。
 その後ろにいる男の方はそれなりに訓練済みらしく、気配もかなり殺せているし隠れている意味もある。ただ惜しいことにどうも片足が悪いようで、歩き方が少しだけおかしい為、完璧な音消しは出来ていなかったが。
 とはいえ二人とも、ターゲットであるシーグルに気づかれているのは確実で、若い銀髪の貴族騎士殿は、しばらく歩いて廊下を曲がると、そこで立ち止まってため息をついた。
 当然、それを追っていたロウという男も急いでそこを曲がる訳だが、彼は曲がった途端に、待ち伏せていたシーグル本人にぶつかりそうになることになった。
「ってうわぁっ、何してんだよ」
「それはこっちのセリフだ、こそこそとつけてきて何の用だ」
 思い切り冷たい目を向けられていても、すぐ目の前にシーグルがいるせいなのか、ロウはどこか嬉しそうに見えた。
「いやその用っていうかさ、昼休みに部屋の外へ出てきてるなんて珍しいし、その目の保養というか、好きなお前を見ていたいっていう男心がさっ、分かんないかなぁ」
 と、力説した途端に、シーグルがロウの臑を蹴る。
「分かるかっ」
「うが……ぎぐげ……」
 そうして、痛みに足を押さえてうずくまっている間に、シーグルはさっさとその場を去っていってしまった。更には。
「はい、お疲れさん」
 と、その後ろにいた男がロウの頭を殴っていけば、反射的にロウは頭を押さえつつも立ち上がる。
「おいっ、何がお疲れさんだ何がっ」
 と、文句を言って犯人を探そうと辺りを見回した彼の目の前に、今度は突然、さっと手が伸びてくる。そうして彼は、その手の中に握られていた宝石を見た途端、くてりとその場に倒れこんだ。
「あんたは面倒臭いんで寝ててくれますかね」
 手に持っていた宝石をひょいっと宙に投げてから受け止めて懐へ戻したフユは、プロらしく気配を断ってやはりシーグルを追って行く。

「おや、選手交代ですかぁ」
 それを執務室の入り口で見ていたキールは、のんびりと呟くと背伸びをした。
「いやぁ、シーグル様は本当に、ストーカーさん達にモテモテで困ったものですねぇ」
 そこでふと、もし、最後の一人が部下じゃなく黒い騎士本人だったらこれはさぞ怖い図だったろうなぁと考えて、キールはいつものんびりとしているその顔を引き攣らせた。



☆☆ストーカーな人々(2/3) ※ランダム表示

「○月×日、最初の掃除確認はまずシーグルの部屋、と」
 
 部屋に入っていったフェゼントを廊下の隅からチェックして、ウィアは何やらメモをとっていた。
「次は書斎、と……」
 ふむふむ、と、難しい顔をして頷きながら、やはりウィアはメモを取る。
「その次の部屋は、客室、か。お、今日は誰か来るのかな、花を持っていく、と」
 と、またメモしようとしたところ、後ろから声が掛けられた。
「何やってんだよ、ウィア」
「ちょ、静かにしろって、気付かれんだろっ」
 小声で言えば、状況は察していないので嫌そうながらも、ラークも小声で返してくる。
「てか、にーさん付け回して何やってんだよっ。気付かれる、じゃないしっ」
 ウィアは一瞬、嫌そうな目をラークに向けたものの、次には胸を張って答えた。
「そりゃ勿論、愛するフェズの事なら何でも知りたいからなっ、フェズの一日の行動を記録してるところだっ」
「ウィア……そういうのってさ、ストーカーって言うんだよ」
 どや顔のウィアに、ラークの冷たい視線と冷たい声が返る。
「んだとぉ、俺はな、フェズとは相思相愛の恋人同士なんだからいいんだよっ」
 ムキになってウィアは上から睨みつけるものの、ラークもまた負けていない。
「恋人が実はストーカーでしたって、よくあるパターンだよね」
「フェズも俺をちゃぁぁんと愛してるし、別にフェズの行動を監視しようとかってんじゃねぇし。何せ俺はフェズを信じてるからなっ」
 そんな感じで小声で言い合いながらも、次の部屋へとフェゼントが移動する度に、二人は影からこそこそと追っていたりする。
「信じてる、なんて言葉に出して言っちゃうのって、不安だからだよねー」
「フェズの愛を疑ってなんかいないぞ、疑って記録してる訳じゃなくてだなぁ……」
「独占欲が強すぎるのって、別れる理由でよくあるよね。『元』恋人になるのも時間の問題かなぁ」
「俺とフェズが別れる訳ねーだろっ!!」
「元恋人のストーカーって、一番多いパターンだよね」
「元じゃねぇっ!!」
 とそう返してから、ウィアは一旦深呼吸をして、今度は見せつけるように大人の余裕の笑みを浮かべる。
「……じゃぁ、そういうお前は何一緒になってフェズ追いかけてるんだよ。まだ兄離れ出来ないおこちゃまかよ。お前みたいなのは金魚のフンって言うんだぜ」
「フンってなんだよフンって。そもそも俺は調べなくてもにーさんの日課なんて分かってるしっ」
 ――と、額が触れそうになる程傍で睨みあっていれば、そこに二人にとっては『神の声』ともいうべき声が降りてきた。

「二人共、別に私についてくるのは構いませんが、ついてくるなら掃除を手伝って下さいね」
 ――勿論その後、二人がしっかり掃除を手伝わされたのは言うまでもない。



☆☆ストーカーな人々(3/3) ※ランダム表示

 今はアッシセグにある、黒の剣傭兵団の屋敷にて。
 ここの最高責任者というか、全てをひっくるめた長のセイネリアの後ろについて歩きながら、エルは微妙な顔をしていた。
「いいのか、あれ」
「あれ?」
「いやその、クリムゾンだろ、あれ……」
「あぁ、いるな」
「命令なのか?」
「いや、あいつが勝手について来てるだけだろ」
 明らかに、気配を極力消すもののわざと全く消す訳でもないという状態で、ひっそりとこの団の赤い髪の剣士が、セイネリアの行くところをずっとついて来ているのだ。
「いいのか?」
「別に問題はないな」
 そう言われれば黙るしかないが、セイネリアに向かって、何か言いたそうにも思える視線と気配で、じっと見つめてきているのがエルにも分かる。あれはただ、主の命を待って控えている部下のものではない。
「カリンが出ている時など、用があれば呼べばすぐ出てくるから便利だしな」
 へぇ、と気の乗らない返事を返しながらも、エルは妙に落ち着かなかった。彼はあの視線が気にならないのだろうかと疑問に思う。
「あいつは、あんたに何か用があるんじゃねーのか?」
 と聞いてみれば。
「いや、別にそういうのではないだろ。あいつは割とあんなモノだ」
 やはり軽く流してしまうセイネリアには、エルはは益々不思議に思って顔が引きつる。
 まぁ実際、クリムゾンが何を思っていたとしても――ありえないだろうが、例えセイネリアの隙を狙って殺そうとしていたとしてさえ、この男にとっては気にならない事ではあるのだろう、とはエルも思う。
 普通は、自分のプライベート部分を見られるのが嫌ではないのかと思うところだろうが、その点は昔から部下を影からついていかせていたセイネリアなら、慣れているから問題はないのだろう。なにせ、自分が好きな相手を犯してる時でさえ、部下に見張らせていたのだから。
 だからこうして理論的に考えれば、セイネリアがクリムゾンを気にしないのは理解出来るのだが、人間、こんなじっとりねっとりいかにもストーカーといった視線で見られて付けられて気にならない筈がない。
「あのさ、あいつの視線、気にならないのか?」
 だから思い切って、エルはそう聞いてみた。
「別に。というか、あいつのあの視線は、それで俺がどう反応するかを見たいというのもあるんだろ」
 あぁ、なるほど、とエルは思う。
「俺もよく、遠くからシーグルを見つめて、あいつが気付いた時に取る行動を見て愉しんでいたからな」
 と、楽しそうにセイネリアが言うに至って、エルは深く、深く納得した。

 あぁそういや、この男自身が元からストーカーだったじゃねぇか、と。


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 この話の登場人物、ストーカー気質が多すぎじゃないかと思いました。

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