黒い騎士と黒の剣
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【16】





 爆ぜる火は、ちらちらと揺らめいて辺りに光を撒き、暗闇をゆらゆらと照らす。動いていなくても照らす明かりが揺れるせいで、二人の影は止まったままではいられない。重なる影は殆ど動いてはいなくても、光の揺らめきに怪しく蠢き、妖しい行為のその先を急かすように気持ちを煽る。

「ン……ふん……ウン……」

 唇を求めれば、男は静かに与えてくれる。口腔内の熱を求めれば、やはり望む通りに与えてくれる。いかにも慣れた自然さで、ゆっくりと口内に引き入れてくれて、逆に引けばこちらに入ってくる。冷たい男の態度と違った口内の熱が嬉しくて、求め返してくれる舌の激しさが嬉しくて、ラスハルカはただ彼に熱を求め、そして与えられる喜びに酔う。
 もっと男が欲しくて強く唇と体を押し付ければ、力強い大きな手が頭を押さえて引き寄せてくれる。舌を互いに深く入れて根本から絡め、そうと思えば引いて舌先同士の感覚が鋭敏な部分を擦り合わせる。互いの粘膜が絡まるせいで、濡れた音がぴちゃぴちゃと淫らに溢れて、顔を離せば濡れた口元が艶やかに火に照らされて光る。

「慣れてますね」

 この行為に情などないくせに、相手の慣れた扱いが癪で、ラスハルカの口からは思わずそんな皮肉が出る。けれど、それにさえ何の情も湧かない男は、軽く口元だけに笑みを引いて返してきた。

「お前こそ」

――えぇ、そうですとも。

 心だけでそう返すものの、口に出す気にはなれない。代わりにこちらも笑みを返して、髪を結んでいた紐を解き、手を首筋に回して髪を掻き上げてみせる。

「何せこちらも本職ですから」

 そうすれば黒のイメージが濃い男は、掻き上げたせいで現れた首筋に唇を寄せてくる。項から耳元に掛けて、唇でなぞるように薄く唾液の跡をつけていき、耳の後ろを鼻でくすぐって、耳たぶを軽く噛んでから、耳の中に小さく声を投げてくる。

「お互い様という奴だな」

 ぞくりと背を震わせたラスハルカは、溜まらず男の頭を手で押さえて自分の唇を押し付ける。噛みつくような口づけは噛みつくように返されて、男はそのままラスハルカの体を押して、地面へと倒した。
 上から押し付けられる唇を受け止め、時折離されれば縋るように顔を上げて、手で男の頭を引き寄せる。そうしている間に、器用に男の手はラスハルカの肌を暴いて行き、気づけば上着は完全に脱がされていた。

「随分とがっついてるじゃないか」

 セイネリアが上からそう言ってくる。
 影になって見えない彼の表情は、だが僅かに細められた琥珀の瞳と白い歯で、彼が笑っている事が分かる。
 だからラスハルカも笑うしかない。
 出来るだけ妖艶に、出来るだけ誘って見えるように、唇を濡らして、深く口の端をつり上げる。

「えぇ、欲しいんです、貴方が、早く」

――あぁ、本当に、早く、この男が欲しい。

 慣れた体はこの行為を簡単に悦びだと感じられる。それがたとえ、どんな相手であってもだ。
 今、既に期待に焦がれる体は、男が与えてくれる快感を思い出して疼き、早く埋めて欲しいと自分の後孔さえもがひくついている事を自覚する。

「正直なのは嫌いじゃない」

 憎らしくもセイネリアはそれを鼻で笑い、だが彼の瞳の中に僅かな熱を見つけられて、ラスハルカは腰を揺らめかす。

「だから、今日くらいサービスしてやる、最後だしな」

 言って彼が装備を外し出したのを見て、ラスハルカは目を見開いた。
 ガチャリ、ガチャリと、彼が外した装備を落としていくの見て、期待に体が疼く。早く彼が欲しいと、待つのをもどかしく思うとともに、この男の肌に抱かれる事が出来るのだと、その事が胸を高鳴らせる。
 装備を外し、中の服を脱ぎ捨てた彼の素肌が現れる。
 ゆらゆらと揺らめく火の光は、見事な筋肉の盛り上がりを波打つ様に色濃く描き、ゆっくりと自分の上に被さってくる時の、それらの蠢く様を見せてくれる。それに見とれたままその体に覆われて、触れた肌と肌の感触だけで、ラスハルカは歓喜のため息をついた。

「早く……ぅ」

 甘ったるい声を上げて、興奮しきった自分の雄を彼に向けて突き出す。
 それにはやはり笑みの気配が返って、彼は悪戯のように、軽くラスハルカのソレを手で撫でた。

「はぁ、ん」
「もう少し我慢しろ」

 セイネリアの大きな手が、ラスハルカの薄い肌に包まれた敏感な性器を握る。くちくちとゆるく先端を指で擦って、それだけでイキそうになったラスハルカは、強請るように腰を揺らす。

「こっちを慣らしてほしいんだろ?」

 言うと同時に、指がずる、と体の中に入ってくる。

「あぁぁぁん」

 まだ物足りない、けれども一番欲しかった場所に与えられて、ラスハルカはきゅうっとそれを締め付けた。

「こっちの方がもっとがっついてるな」

 ぐん、と指が奥を抉り、中をかき混ぜる。

「はぁ、ぁぁあっ」

 ラスハルカは夢中で目の前の男に抱き付く。
 指は中を広げるように暴れ、時折疼く芯のような場所を押してくる。それだけでもうラスハルカは限界で、けれども上手く相手はその感覚をはぐらかすように、上り詰めようとするその直前で止めてしまう。

「やぁ……早くぅ、早くナカを貴方で埋めて……」

 もう限界のラスハルカには、男が笑って見つめてくるその気配しか分からない。
 ようやく相手が足を抱えて広げてくれた時には、ラスハルカは自らも足を広げて、腰を揺らめかしながら突き出した。

「は、あ、あぁぁぁぁぁぁっ」

 男が、入ってくる。
 蠢く内部の肉が望むものを与えられて、その悦びにぞくぞくと全身が震える。みっちりと奥まで隙間なく熱い肉で埋められて、肉同士が食み合って、その満たされた感覚にラスハルカは歓喜の声を上げた。

「そんなに嬉しいか?」

 喉で笑った男は意地悪くそんな事を言い、同時に腰を引いてしまう。追いすがるように彼の雄を包み込んでいた肉達は、蠢いて、抜かれていく彼に絡みつく。だがそれは、去ると思えば今度は勢いよく押し込まれて、再びラスハルカの中を埋め、奥を突く。

「あぁぁぁっ」

 引いて、押されて、肉の内壁を叩くように、滅茶苦茶に中を熱い男の肉で突かれる。

「はぁ、あ、ぁ、はぁっ、あん、あっ、あ、あ……」

 奥に穿たれる度に、ラスハルカは体を跳ねさせ、高い声を上げる。リズミカルに、力強く、だんだんと速く。けれどもやはり、もう少しというところまでくると彼は一度動きを止め、締め付ける肉の感触を愉しんだ後、再び動くという事を繰り返す。

「やぁっ、もう、最後まで……」
「そうだな」

 散々嬲られるようにそんな事を繰り返されて、ラスハルカはまるで悲鳴にも聞こえる声で叫んだ。そうすればやっと許してくれたのか、彼の動きが止まらずに、小刻みに早い抽送の動きに変わった。

「はぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁああああっ」

 きゅうっと男を中で締め付けるのと同時に、男の体に片足を絡ませ、強く抱き付く。
 相手はそれでも動きを止めず、暫く乱暴にラスハルカを揺らし続け、そしてその中に注ぎ込んだ。

「あぁ、あ、あん……ふ」

 中の深い部分に熱いものが流れてくる感触に、ぶるぶると体中が震える。思わず両足で男の体を挟み込めば、仕返しのようにその体勢のまま奥を叩くように数度突き上げられる。イったばかりの体はその程度の刺激さえ強烈で、意識せずに、まだ中にある男を締め付ける。生々しい雄の感触に、背筋が甘い快感に震えた。







「愉しめたか?」

 呆けた瞳で、ラスハルカが暗い空を見つめていれば、そう言いながら、男は体の中から去っていく。けれど、その体までもが去ってしまうのが嫌で、ラスハルカは引き留めるように男の胸に抱き付いた。

「なんだ、まだやるのか?」
「そうですね……いえ、止めておきます」

 体は限界だと言ってはいたが、正直を言えばまだ足りない。まだ、彼が欲しい。
 けれども、ここで止めなくては明日歩けない事は分かっているし、それに、ラスハルカもわかっていた。おそらく、いくらこの男に抱かれても足りないと思うだろうという事を。
 だから彼は、ただ離れないようにセイネリアに抱き付いて、その固い胸に頬を寄せる。この体温とこの肌の感触を覚えておくくらいしか、ラスハルカが彼にこれ以上望める事はない。次は、おそらくあり得ないから。

「よければ、少しだけこうしていて貰えますか?」
「あぁ」

 男の声には抑揚がない。けれども、抱き付けば頭を撫ぜて抱き寄せてもくれる。ただそれは、この手の行為に慣れた彼の条件反射のようなもので、別に彼がそうしたいからしている訳ではないのだ。
 こうして、恋人同士のように、お互いの肌を合わせて抱き合っていてさえ、彼の感情には熱がない。彼は別に、ラスハルカを欲しくて抱いた訳でもなく、この行為には何の意味もない。強いていうなら、性欲を満たした程度、身体的な悦楽を一時的に得た程度。その為の作業をしたとしか思ってないのかもしれない。

 そう思えば、何故、胸が痛むのか。
 何故自分が、今、こんなにもこの男が欲しいのか。

 その理由を、ラスハルカはほぼ理解している。それがどれだけ虚しくて、意味のない事なのかもわかっている。それでも、心というのは未練を残す。自分はこんなに女々しいのかと、それは多少驚きだったが。

「……そういえば、どうして、あの地下からわざわざ私を助けてくれたんですか? ずっと貴方が担いでくれていたと聞きました、らしくない」

 誤魔化すために笑って聞けば、セイネリアの答えは、予想通りのものであった。

「助けられるだけの余裕はあったからな。一応お前は使える、助けられるなら戦力は減らさないようにはするさ」
「それじゃ、余裕がなければ見捨てたんですね」
「そうだ」
「……ですよね」

 男の声には熱がない。感情がない。
 抱き合っている最中は激しく求めてくれるのに、その目が感情を乗せて自分を求めてくれる事はない。
 ただ、慣れた彼は、肌を合わせる時のルールを知っているだけで、そのルールに従って行為をしているだけ、求める振りをしているだけだ。

「もし、私が王の魂に乗っ取られたまま、戻す手段がなければどうしました?」

 それでも、そんな事を聞いてしまうとは、我ながら諦めが悪い。

「そうだな。縛って連れていける程度なら、まぁ、どうにかしてやったかもしれんが……暴れるようなら、縛りつけて置いていくか、邪魔なら殺すか」

 それでラスハルカは笑う。
 いや、まだ未練を残す自分を嗤う。

「ねぇ、セイネリア・クロッセス」

 顔を見て、そのどこまでも冷たい琥珀の獣の瞳を見つめる。

「貴方が人を助ける時は、いつでも『殺さないほうがいい』と判断したからなんでしょうね。『殺したくない』から助けた事はないのでしょう?」

 声の調子が変わった事に、聡い彼はすぐに気づく。ラスハルカが何を言いたいかを探るように、瞳は尚更冷たくこちらの顔をのぞき込んでくる。そんな彼に、ラスハルカはただ笑う。

「だって、貴方は誰もいらない。誰も必要だと思った事がない。理性ではなく感情で、この人物をどうこうしたいと思った事もない筈です」

 彼はその言葉に怒る事もない。そして、それに苦しみを抱く素振りも見せない。今の彼に、その言葉が指す意味を理解する事は出来ない。それがどれだけ、不幸で、虚しい事なのか、今の彼は分からない。
 けれど、もし。
 もしも、彼が心から誰かを求める事があれば、彼はきっと理解する。
 今は感じないその苦しみを、彼はその時、一度にすべて理解する。
 果たして、そんな日がくるかどうか。それは、分からないが。
 ラスハルカは、昏い微笑みを唇に乗せて、今は何モノにも動じない、獣の瞳の男の顔に手を伸ばし、愛し気にその頬を撫ぜた。

「ねぇ、貴方のその凍りついた心に、いつか感情という熱をくれる人物は現れるのでしょうか?」




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ラスハルカさん最後のエロでした。慣れてる前提キャラのエロを書いてると、台詞がいかにもエロゲとかエロ漫画っぽくなりますね(==;;


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