記憶の遁走曲




  【16】




 次の日もやはりよく晴れて、そしてやはり寒かった。

「おー、こー寒い日が続くと腰が辛ェなぁ」

 ローンじぃさんが手を擦りながらその場で足踏みを始めれば、その横でボレスが体操を始める。

「雪降ってない分マシってモンでしょ。今年は雪かきの手間がなくていーやね」

 にやにやと返すボレスに、小さい体を更に小さくしていた初老の騎士は、そこから背を伸ばし、胸を張って答えた。

「へっ、雪かきは若いモンに任すからな、俺ぁ知ったこっちゃねぇ」
「えばンな」

 その二人の後ろから、バグデンがのそりと姿を現す。歳の割に体格のいい彼は、前の二人に比べて頭一つ以上、ローンじぃさんからは二つ分近く身長が違う。
 そんなジジィ組の3人が訓練場にやってくれば、集合時間には少しまだ早い時間であるにも関わらず、既にそこには彼ら以外の隊の連中が集まっていた。

「おンや……こらまた、若けぇ連中は元気だねぇ」

 言いながらも、彼らの表情からいろいろ察せたらしく、ローンじぃさんはにやつきながら顎を擦った。
 三人は暫く元気な他の連中の動きを観察した後、それをやはり離れて見ていた、前期組からわざわざ続けて参加している男のところへと向かった。

「おぅ、グスよぉ、前期の連中も、朝はこんな感じなんか?」
「そうだな……まだこっちは早起き慣れしてないやつらが多いからなぁ……前期の連中はこの時間にゃもっときびきび動いてんな」
「まぁそこはなぁ、春になる頃にゃかなり良くなってんだろ」
「今年は春を過ぎても、残る連中がいそうですな」
「だろうなぁ」

 いつでも顰めっ面のバグデン以外は皆一様ににやにやとして、朝の訓練に動いてる連中の顔をじっと観察する。

「リーメリ、まだ動き鈍いなお前」
「うるさい、だから朝はなかなか体に力が入らないんだっていったろ」

 二人で組んで半分遊ぶように剣を合わせているのはリーメリとウルダで、面白い事に、傍ではサッシャンが座り込んで絵を描いている。
 そこから暫く離れた場所では、アウドが黙々と重そうな袋を担いで歩いていて、更に奥では、シーグルとラナが剣を持ちながら話している。
 だが、そろそろ開始時間が近づいてきたのもあって、訓練場には人影が増え出し、他の隊の連中もぞろぞろと姿を現す。それに気づいたシーグルが顔を上げると、じっと見ていたグスと目があった。

「少し早いが、皆揃っているなら始めてもいいか」

 シーグルが言えば、それぞれ訓練をしていた者達もそれを止めて集まりだす。
 ジジィ組の連中も、寒そうに手を擦り合わせながらも小走りで向かっていく。
 シーグルが話し出せば皆背を伸ばし、真剣に聞く彼らのその様子をちらりと見て、グスは口元の笑みが止まらなくて困る事になった。
 この青年が騎士団を変えてくれるというその予感は、決して自分の勘違いなどではないだろう、と彼は思う。
 だから改めて、彼は誓う。シーグル・アゼル・リア・シルバスピナの為になら、自分が出来る事はなんでもしてやろうと。例え、自分の命を掛ける事になっても、この青年の為ならその価値はあると。




END.

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最後はいかにもまとめといった短いお話でした。
しかしまた長くなりましたねぇ(==;;まぁ、一気に新規登場人物出していろいろ解決させたので仕方なし、と思っていただけると幸いです。



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