悪巧みは神官の嗜み





  【8】




「――ゼント……フェゼント……」

 名を呼ばれて、意識がゆっくりと浮かび上がる。
 目を開けようとしても、強く瞑っていたせいで瞼は強張ってなかなか開けられず、腕を上げようとしただけで、体中がぎしぎしと軋むような痛みを訴えた。

「う……」

 痛みに唸れば、喉が痛む。
 どこもかしこも、体中全てが痛い。

「フェゼント」

 やっと目を開ける事が出来れば、名を呼んでいた人物の顔が見える、最初はぼんやりと。だが、それがきちんとした像を結んだ途端、フェゼントの中でぼやけていたもの全てがハッキリとカタチを作った。

「シーグル……」

 目に映った彼は、いつも通り表情がない。
 青い瞳は、哀れむ訳でも、蔑む訳でもなくフェゼントを見ていた。

「もう、奴らはいない」

 フェゼントが意識を取り戻したのを確認するとすぐ、シーグルはフェゼントから顔を逸らして立ち上がる。
 見えた月の位置から考えれば、あれから然程の時間は立っていない。

「……貴方が、助けてくれたんですか?」
「ラークが、フェゼントの帰りが遅いと……もしかして騎士団にいったかもしれないと言っていた、から」

 ならば。

「見た……んですね。私が何をされていたか」
「……あぁ」

 シーグルは、呆然とするフェゼントの周りで何かを拾っている。恐らく、奴らに脱がされ散乱している装備や服だろう。

「何故、黙って騎士団に行った。一言でもいってくれれば……騎士に成り立ての者を、あの手の目的で狙う奴らの話は少なくない」

 体中の痛みと、じくじくと熱とだるさを伝える下肢と、何より自分を嬲る男達の息遣いを思い出して、フェゼントは肌を粟立たせた。それはすぐに体の震えになり、心への恐怖を思い起こさせる。震えは止められず体中に広がり、瞳からは自然と涙が溢れ出した。

「私は貴方みたく強くはないですから。女みたいな容姿で、女のように扱われて、そんなのを予想もしないほうが馬鹿だった」
「そういう意味で言っていない」

 シーグルの声が止めようとするが、感情が昂ぶりすぎたフェゼントは黙っていることが出来なかった。

「よく分かりました、自分の弱さが。自分がどう見られているのかも。弱いのに騎士に成れて強くなった気でいた、私自身が全て悪いんです」
「フェゼント」
「貴方だって本当は嘲笑っているのでしょう? 貴方は言っていたじゃないですか、弱いのが悪いって。確かにそうだ、思い知った、私は……」

 後は声にならなかった。
 瞳から落ちる涙は止められなくて、言葉を出そうとすれば嗚咽になってしまう。

 見られたのだ、シーグルに。
 女のように男達に嬲られて喘ぐ、あの無様な姿を。

「弱いのを自覚しているなら、強くなればいい。強くなれないなら、回避する方法を考える。いつでも最悪の状況を考えて、それにをどうにかする事を考えておけばいい」

 シーグルの声には、やはり感情がない。
 ……当然だ、彼が自分に感情を向けたのは、十年ぶりにあったあの時が最後だから。
 あの時から、シーグルは自分にとって血の繋がっているだけの他人になってしまったのだから。
 フェゼントは顔を手で覆った。

 きっと、これは罰だ。

 自分の愚かな嫉妬で、彼を傷つけた罰だ。
 あの時の罰として、彼に嫉妬した自分の愚かさをまざまざと自覚させられたのだ。嫉妬などするのも馬鹿な程に、彼と自分には差がある事を。
 彼は嘲笑っているだろうか、まさか心配しているのだろうか。
 シーグルの態度からは分からない。けれどもフェゼントは心配などされるくらいなら、いっそ嘲笑っていて欲しいと思った。もしこれで心配などされていたら、それはあまりにも自分が惨めすぎる。
 体中が痛んだ。体中が悲鳴を上げていた。自分から臭っているのだろう、男達の生臭い臭いで吐き気がした。
 けれどもそれ以上に、心が痛かった。
 痛くて痛くて、自分が今ここに存在するだけで苦しかった。

 シーグルは喋らず、黙ってフェゼントの傍に集めてきた装備や服を置いている。よく見れば体にはマントが掛けてあって、彼が気遣ってくれたのだと分かって余計に辛かった。……自分という存在があまりにも惨めだった。

 だから、フェゼントは逃げる事しか出来なかった。




END
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 やっと3話終了。回想シーンが多かったので読みにくかった……かも?
 ここまでこのサイトにあるHシーンて最初のフェゼントとウィアの以外無理強いばっかですね。本当は最後にこっちの二人の甘いシーンを入れるつもりだったんですが、流れと長さ的に断念。次回のメインは今度はシーグルが複数人に……ヤバイ、またか。ていうか、やっと「その濁りない〜」からの流れでシーグルとセイネリアがメインの話になります。
 うんでもここでフェゼントのそういうシーンが入っているのは、いい加減受けの人をちゃんと喘がせたかったんです、えぇ、無理矢理ですが。
 ちなみに、ここまでお読みの方は分かってらっしゃると思いますが、フェゼントとシーグルは、やけに同じようなシチュエーションが実は多いんですね。フェゼントはどっちも食われてて、シーグルは助かってるのに、悪い方悪い方にいっているのはシーグルの方という。



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