彷徨う剣の行方
シーグルと両親の過去の事情編

※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。





  【8】



 木製のベッドが軋む、耳障りな高い音。
 肉が打ち付けられる音と、耳元で吐き掛けられる男の呼吸音。
 抑えても抑えても、自分の吐息に時折混じる高い声と息を飲む音は、聞こえる度に悔しくて涙が競り上がってくる。

 ベッドの上に、獣のように手足をつけた格好で、シーグルは揺れる視界の中のシーツを見ていた。
 自分を抱くシェンの顔は見えない。だから、音と感触と気配だけが彼を感じる全てで、そして見えていないからこそ、より体の感覚で相手の存在を感じてしまう。

 体の中に、父の友人であった筈の男の肉が捻じ込まれる。
 ぐっと奥までが質量で埋められる度に、そこから溢れた熱い液体がとろりと足を伝って行くのが分かる。体の中に、ぐちゃりと嫌な音が感触と共に響く。
 漏れそうになる声を抑えて、シーグルはただそれに耐えてシーツを固く握り締めた。
 引き抜かれれば、隙間なく埋められた内壁が、まるで男の肉に追いすがるように引っ張られ、腰さえもが持っていかれる。けれどもすぐに今度はまた奥深くまでひらかれ、突き上げられ、反射的に吐息が小さな声になる。

「う……んぅ……っ、ぅ、ふ……」

 最初の内は、体の中に他人を感じるだけで吐き気がした。
 内臓を抉られるその感触だけで吐きそうになった。
 例え声が漏れても、それは苦痛だけしか含まず、体を好きにされても心は守る事が出来ていた。少なくとも、屈さないと意志だけは強くあれたとシーグルは思う。
 けれども、今は違う。
 体の中を擦られていれば熱が生まれる。
 男の肉が行き来する度、意識せず中の肉が動く、締め付け、より肉と肉が食む感触を実感してしまう。
 揺さぶられるまま腰が揺れる。
 押して引かれるままに、腰が相手を追って動く。
 揺さぶられているのか自ら揺らしているのかさえ、途中からシーグルは自分でもわからなくなってきていた。
 体の芯が疼くような感覚に、震える程体に力が入る。
 声を出したくないのに、口が開いたままになる。
 声を抑えて、荒い息だけで留めて、けれども口を閉じられないから、唇から唾液が溢れ、汗に混じってシーツへと落ちて行くのが分かった。

「あ……や、め……」

 男の手がシーグルの性器を掴む。
 体の中に少しづつ積み上げられていた疼きが、急激に強い感覚になって、耐え切れずに体がきゅうっと緊張する。それとは逆に、力が入らなくなったかのように足がガクガク震える。力が入らなくなれば、男の動きを受け止められず、がくりと先に腕が崩れた。
 顔がシーツの上に落ちて、腰だけが男に押される。

「う、あっ……ぅ、んくっ」

 口から溢れた唾液がシーツに染み込む。
 シーツに擦り付けられた頬に、濡れた布が擦られる。
 男が体を倒してきて、また男の吐息が耳元で聞こえた。
 腰が揺れる。
 視界が揺れる。
 体の感覚全てを侵食する熱く切ない疼きに、びくびくと体が震える。

「いや、だ、いや、いやだっ……」

 涙が溢れて。
 シーグルは上り詰めた感覚が、弾けて、引いて行くのを感じた。それと同時に、より強く男の肉を締め付けた体の中の、そのもの自身では届かない奥に、熱い流れが叩きつけられるのを感じた。
 とくとくと注がれて、中を満たし溢れるもの。
 ちゅ、と液体が音を鳴らして、今度はゆっくりと、完全に、中を埋めていた肉が去って行く。
 急激に質量を無くした自分の中が、失ったものを確かめるようにひくりと動く。
 その所為で、体の内部の温度と同じ液体が、そこからどろりと大量に溢れた。
 そんな感触にさえ、シーグルは体を震わせて歯を噛み締める。


「ふむ、この体勢だと、動き易い分君を味わう事は出来るが、やはり顔が見えないのはつまらんな……」

 シーグルの頭上で男が呟いて、後ろから髪を捕まれ、顔を無理に上げさせられた。

「君が感じてイク顔が見たいな。背をベッドにつけて寝てくれないかね」

 声だけなら、この忌まわしい父の友は優しい。
 シーグルは未だ整わぬ息を飲み込んで、男に言われるまま、力の抜けた腕で体を持ち上げ、あお向けに寝そべった。
 欲望というよりも、愉悦に歪んだ男の顔がシーグルを見下ろす。
 シーグルはその視線から顔を逸らして目を閉じた。
 シェンの笑い声が聞こえる。
 狂気じみた高い声が、神経を逆撫でる。

 ――考えるな、所詮、体など既に自分のものではない。

 どれだけ汚されようが、どれだけ堕ちようが、生きて役割さえ果たせればいい。
 その辿りつく先を考えてはいけない。
 目の前を閉ざす真っ黒な絶望を見てはいけなかった。

 シェンの手がシーグルの足を掴む。
 大きく広げられ、だがそれ以上は何もせずに男は黙る。
 ただ、視線だけを感じ、自分が今どれだけ無様な姿でいるかを思い、シーグルの濡れた頬が赤みを帯びる。それだけではなく、体の奥に熱が生まれる。そんな自分を自覚して、シーグルの瞳がまた涙を流す。

「あぁ、いい格好だ。君は顔だけでなく、きっと性格もアルフレートに似てるんだろうねぇ。綺麗で、誇り高い、どこにもケチの付けようがない立派な騎士様……男の前に足を開くのはどれだけ悔しいのかな?」

 勿論、シーグルはそれに何も答えない。
 シェンがシーグルの足を押さえたまま、体を倒してくる。
 彼の熱く滾った欲望が、未だ出された物を溢れさせる入り口に触れる。
 再び中を埋められる感触を思い出して、シーグルの意志とは関係なく、中の肉壁が男を欲しがって蠢く。
 けれども、男の肉は入り口を撫でるだけで、中へ押し込まれはしない。
 そのまま下肢を重ねられれば、それはシーグルの半分程しか反応を見せないものに触れて、性器同士を擦り合わせるように男が腰を揺らす。
 シーグルは声を出さず、歯を噛み締めて首を左右に振った。

「ほら……こんな事をされて感じるんだよ、君の体は。触れただけでもの欲しそうにひくひくと動いて誘うなんて、随分と淫乱だね」

 シーグルはただ目を閉じて、口を閉ざして、顔を背ける。
 心を守る為には、これ以上男の声を聞いてはいけなかった。

「アルフレートは天上でどんな思いをしてんるだろうなぁ。ただでさえ、全ての責任を息子に押し付けた上に、自分の所為でその息子は更にこんな目にあっているんだ。嘆き、その罪にもがいて、自ら地獄へと落ちればいい」

 シェンは、顔を背けたままのシーグルの頬を、舌を出して舐める。
 溢れる涙で濡れそぼった頬の、その涙を全て舐め取るように舌を大きく出して、べっとりと頬全体を舐める。
 興奮しきった荒い息が、耳のすぐ傍で聞こえた。

「……次はどうして欲しいかな? ただつっこむだけじゃおもしろくないだろ? あぁ、楽しみだ。そうして耐えるだけ耐えて、耐え切れなくなった時、君はどんな顔で喘ぐんだろうね、どれだけの絶望を抱えるんだろうねぇ」

 耳障りな笑い声が、耳元で鳴る。
 掠れて声にならない息の音が、張り詰め切った精神にやすりをかける。

「まぁ、急がないよ。少しづつ少しづつ、君の心を削り取って、暗闇の底まで堕としてあげよう。誇りも、その綺麗な魂も、すべてどす黒く染めてあげよう」

 シェンが腰を浮かし、一時的に合わされていた彼の性器の感触がなくなる。
 けれどもすぐに、先程は触れるだけだった孔の中へと、今度は挿れるつもりで強く押し付けられる。

「う……」

 嫌悪感に肌が震える。
 けれども、男を受け入れるそこだけは、与えられたものに喜ぶように蠢いているのが分かる。ぐっと中へ入ってくれば、苦しいと感じると同時に、背筋をぞくぞくと駆け上がってくるものがあった。

「嫌……だ」

 そんな事に体の何処かが喜んでいる事を自覚するのは。
 歯を噛み締めて目を固く瞑って、それでも目尻は溢れた液体で熱くなる。
 シェンはただ入れただけで、動きはしない。
 ただ、見下ろしてくるその黒い瞳の視線だけをシーグルは体に感じる。

「それじゃ、今度は自分で触るんだ」

 シーグルはその言葉の意味が、一瞬、わからなかった。

「私の手は塞がっているからね、君が自分で自分のモノを触るんだ」

 この男は、一体、何を言っているのだろう?
 理解出来ないというよりも、理解したくなかった。
 じれた男の手が片方だけ足から離され、シーグルの手を掴み、股間へと持って行く。
 はっきりと勃ちあがっている自分のものに触れて、シーグルは反射的に手を引こうとしたが、男はそれを許さなかった。

「ほら、握って。君は自分で慰めた事がないのかい? やり方が分からないとは言わないだろう? どこを触れば感じるかくらい分かっている筈だ」

 男の手が、シーグルの手ごと震える性器を握って、上下に擦るように動かす。

「やめ、ろっ……」

 頭を左右に振って拒絶しても、男の手は離れない。
 自分の手で、自分の醜い欲望が膨れて行くのを、シーグルは感触で理解させられる。

「ほら、ちゃんと、自分でやるんだ。君は私に逆らえない、私の言う通りにするしかないだろ?」
「う……う、ぅぐ……」

 嗚咽の声を抑えられない。
 シーグルは男の手で教えられた通り、自分の欲望を掴み、扱く。
 暫くは一緒に動いていた男の手は離れ、再び足を持ち上げる。
 そして、男は挿れただけで放って置いたその状態から、ぐっと深くを突き上げた。

「う、あ、あうっ……」

 思わず声が上がって、手がびくりと震えて、掴んでいるものを強く握る。
 その衝撃に体が跳ねて、体の中で男の肉のカタチを強く感じる。
 ゆっくりと、男は抽送を始めた。

「ほら、手を止めては駄目だ。ちゃんと動かしたまえ」

 言われてシーグルは、震えながらも、手を動かす。
 奥に穿たれる感触、自分の中が男を締め付ける感触。覚束ないながらも、自分の手がたまに敏感な部分を擦って、びくりと背が跳ねる。更に強く、中が男を締め付ける。

「や、だ……いや……く……」

 甘い痺れが下肢全体を包んで、その感覚のままに声を上げたくなる。
 下肢の痺れは上半身へもじわじわ登ってくるようで、そのもどかしい感覚に、自覚せずシーグルは身を捩った。
 男の動きは段々と速くなっていき、シーグルの手の動きもそれにあわせるように速くなる。
 口を大きく開き、空気が足りないように口全体で息を継ぐ。
 喉を逸らして、それでも熱に染まりそうな頭を否定して顔を振れば、口から溢れていた唾液が宙に散った。

「いやっ、や、いあだぁぁっ」

 目を見開き、涙を流して叫ぶ。
 視界に映るのは、男の顔をした絶望だった。
 狂気の喜びと肉欲に塗れた男の顔が、黄色く濁った目でシーグルを凝視していた。

 心の深くが冷える。
 けれども、それと反対に体は熱くなって行く。
 熱が感覚の全てを奪って行く。
 シーグルは叫ぶ。
 ただ拒絶の言葉を、それだけが最後の砦だった。
 心はまだ堕ちていないと、拒絶する事だけが自分を救う手段だった。

 体の中に、男の欲望が注がれる。
 感じすぎた体がガクガクと震え、広げられた足のつま先までもが強張って伸びる。
 男を受け入れている中は嬉しそうに収縮を繰り返し、閉じきれないそこに納まる男の感触を強く覚えさせる。
 痙攣するように締め付ける度、奥へと未だ注がれる熱い流れ。
 それを感じながら、何時の間にか自分の手も、自分の吐き出したもので濡れている事にシーグルは気がついた。

「声を抑えても、もう、体は抑えられないんだね。知らないだろ? イク時の君の顔はとても綺麗で、可愛そうで……淫らだったよ」

 黒い瞳の絶望が、シーグルの顔を覗き込む。
 男が体を離せば、引き抜かれる感触に、また体がびくりと震える。
 不意打ちで小さく声を漏らしてしまったシーグルに、シェンは笑うと、閉じきらないそこに指を入れ、わざと水音をさせて中をかき混ぜた。
 シーグルは息を飲む。

「いい具合にぐちゃぐちゃだ」

 指で突き上げられる感覚に吐息を震わせながら、無駄だと分かっていてもシーグルは男から目を閉じて顔を背ける。
 水音と男が喉を鳴らして笑う声が、シーグルを追い詰める。

「すごいね、完全に男を喜ばせる為の体になってるじゃないか。これなら客が取れるよ、紹介して上げようか? ……あぁ、そうだなぁ、君に体で稼いでもらうのもいいなぁ。見ず知らずの人間に、金で腰を振る君の姿を想像しただけで堪らないな。誇り高い騎士様の君が誇りを捨てて体を売るなんて、堕ちた姿としては最高じゃないか」

 男の言葉を聞かないようにしても、聞こえる事を完全に拒絶する事は不可能だった。
 考えたくなくても男の言葉を想像し、歯を噛み締めて青い顔で震えるシーグルに、男の高い狂った笑い声が浴びせられる。

「……まぁ、安心したまえ。今はまだそこまではしないよ。まだ、ね」

 散々笑った後に、今度は優しい声でそう囁くと、シェンはシーグルの中から指を引き抜き、今度こそその体から離れて行った。







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やっとエロ、でした。シーグル酷い状態です(==;。

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