秘密を教えて




  【3】



 話を聞き終えたフェゼントは、暫くは驚いて返す言葉を思い浮かべる事が出来ず、ただ黙って恋人の顔を見返すことしか出来なかった。だがそれはウィアにとっては想定内の出来事だったらしく、いつでも前向きな神官青年は、にぱっとやけに明るい笑顔で笑って見せた。

「ってまぁ、そういう訳で、俺の初めては兄貴だったわけでさ。まぁ、あいつ言うだけあって経験値は高いから上手くてさー。気持ちはよかったけど、なんか兄貴の事がすごい許せないってか嫌になって、教えてもらった通りあちこちで遊び回ってたのも、今にして思えば兄貴に対するあてつけだったんだよな」

 はははっと笑って誤魔化そうとするウィアの頭を、フェゼントは耐えきれなくなって抱き締める。そうすればウィアは体をすりよせて来て、フェゼントの腕の中でおとなしくなる。
 それから、彼にしては珍しい、弱い声がぽつりと言う。

「……フェズは、嫌かな? 俺さ、その頃すっごいいろんな奴と寝たんだ。もう軽い気持ちでつき合って、気持ちよければいいやって。……だからその、恋人がそういうのしてたって、フェズは嫌かなって」

 フェゼントは抱き締めたウィアの頭を更に撫でる。優しく、優しく、出来るだけ彼が安心出来るように。

「そんな事はありません。ウィアはウィアですよ。大好きです、ずっと」

 そうすればウィアは顔をあげる。満面の笑顔で見上げる彼の顔に、満面の笑顔で返したフェゼントは、そのまま彼の唇にキスをした。
 それに嬉しそうに、フェゼントに抱きついてまで自らも唇を求めたウィアは、だが今度は急に顔から笑みを消すと、手でフェゼントの体を弱く突き離すように押してから俯いた。

「ウィア? どうかしたんですか? 大丈夫ですよ、私はどんなウィアでも……」

 そう言いかけたフェゼントは、がばりと顔を上げたウィアのその表情を見て口を止めた。
 何を言うでもなく、思いつめた真剣な目でじっと見つめてくるウィアは、それからごくりと喉を鳴らす。どうみても並ならぬ決心を秘めたその顔に、フェゼントも驚いて息を飲んだ。
 そして。

「ごめんっ、フェズ」

 唐突にそう叫んで頭をフェゼントの胸の押し付けたウィアは、その体勢のまま、一気にその理由を言い切った。

「俺さ、フェズを騙してたんだ。最初に会った日、宿屋でさ、フェズは目が覚めた時、自分が俺を襲おうとしてたって思って謝ったじゃないか。あれ……本当は違う、逆なんだ。俺が、寝てるフェズを襲おうしてたんだ。だけど、目ェ覚めたフェズが勘違いしてくれたから、そのままこっちの都合のいいように話を持っていったんだ、俺が……」

 それでも、そこまで言ってから後はどう言っていいのか分からずに、小さくなって消えた声を聞いたフェゼントは、軽い笑みと共にウィアを体毎引き寄せるように緩く抱き締めた。

「知ってましたよ」

 そうすればウィアが顔を上げて、抱き締めたその体勢のまま、すぐ間近で目と目があう。

「私もあの時、起きた瞬間は気が動転していましたけれど、でもすぐに気がつきました。……分かっても、怒る気になんてなりませんでした。だって、貴方が余りにも幸せそうな顔をして私を見てくれるんですから」
「フェズ……」

 目を潤ませて優しい恋人の顔を見つめてくるウィアに、フェゼントはそこでくすりと笑ってしまう。

「それにですね、その時も、それ以後も今までずっと、結局、貴方はいつでも私の方を気遣って、ずっと我慢してきつい側をしていてくれたじゃないですか。貴方がどれだけ私を好きでいてくれるかはちゃんと分かっていますから。だから、怒りませんよ」
「フェズ、俺、フェズに抱かれる側だって嫌だとか、我慢してやってるんじゃないからなっ。フェズになら下やっててもすっごい幸せですこっしも嫌なんて事はないんだ」

 必死に抗議するウィアにまた笑って、フェゼントはその言葉を止めるように、ウィアの額に軽いキスを落した。

「それも、分かっています。大好きです、ウィア。愛しています」

 ぐし、と鼻を啜って目の端の涙を拭ってから、ウィアはじっとフェゼントの顔を真っ直ぐ見返す。

「うん……俺もフェズが大好き。愛してる、すごくすごく、いっち番愛してる」

 言い切ってからまた鼻を啜ったウィアに、今度はフェゼントはその唇に顔を近づけた。

 愛しているのキスは、最初は軽く唇を触れさせるだけで、互いの体温と存在を確認しあうように唇を触れたまま軽く擦りあわせたりする。それから、ちらと舌を出して違いに触れてひっこめて、ようやく舌をもっと出して絡めてから唇を開いて互いの舌を招き合う。粘膜が絡まっていけば水音も聞こえ出して、それは体の熱を煽ってもぞもぞと腰が動いてしまうが、そのもどかしさもなんだか嬉しい。
 何度も離しては絡めなおして、何度も互いの唾液を交換して、ちゅっという可愛らしい音にさえ興奮してしまう。そんなキスを、二人は今までも何度もしてきた。そして、これからも何度もする。
 自然と絡まった指はいつの間にかしっかりと掌毎組まれて、空いている手は互いの髪を愛しそうに撫でている。そんなじゃれ合うような触れあいは、互いの繋がりを確かめ合うようで心地よかった。
 けれど、早く続きをしたくて尚もキスを強請ってくるウィアに、だがフェゼントは少し体を離して目と目を合わせた。

「どうしたんだよ、フェズ? じーさん達ならもう寝てると思うぜ?」

 理由がわからないウィアがそういえば、フェゼントは笑顔のまま軽く首を左右に振ってから答えた。

「貴方ばかりに告白させる訳にはいきませんから、私の話も聞いて下さい」

 ウィアが困惑しているのを見て、またくすりと笑ったフェゼントは、ウィアの額に軽くキスをしてその笑顔のまま言った。

「前にも言いましたが、私は騎士になった時、騎士団の人に無理矢理乱暴されました。よく、覚えてませんが、何度も……」
「いいよフェズ、それは思い出したくないんだろ、分かってるんだ。だから……」

 眉を寄せて止めようとするウィアに、フェゼントはやはりくすりとまた笑うと、今度はそのまま抱きついて、その耳元で彼に言う。

「だから、ウィアは、そんな私でもいいですか? それとも、嫌ですか?」

 その問いには、当然ウィアは即答する。

「何言ってんだよ、当たり前だろ。嫌な筈ない、フェズがいいんだ。俺はフェズが大好きなんだ」
「良かった」
「何だよ今更っ、わざわざそんな事聞かなくても、俺は知ってたんだし……」
「でも、ウィアだって、今更私に聞いてきたじゃないですか? 私がそんな事くらいでウィアを嫌だなんていうと、本当にウィアは思ってたんですか?」
「う……」

 そう返されれば、ウィアだって口ごもる。
 それにはくすくすと、楽しそうなフェゼントの笑い声が返されて、それから彼は本当に楽しそうに、何でもない事のようにさらりと言った。

「でも良かった。ウィアがいいというなら、安心して貴方に私をあげられますね」
「え?」

 その言葉の意味を理解しながらも信じられなくて、ウィアがフェゼントの顔をじっと見つめれば、彼はやはり満面の笑顔をウィアに返した。

「私を、抱いて下さい、ウィア。貴方がほしいです」

 ウィアは今度こそ、口をぽかんと開けたまま目を大きく見開いて、大好きな恋人の顔をまじまじと見つめる。

「え、ぇ、え、ぇぇぇ……本当に、いいのか?」

 驚いて大声を上げた後、自信なさげに聞き返したウィアに、くすくすと笑いながらもフェゼントはこくりと頷く。ウィアは驚きと笑みがごちゃまぜになった顔で、彼の顔をやはりじっと見つめることしかできなかった。

「ずっと勇気の無かった私を許して下さい。もう、大丈夫です。私には貴方がいますから。私は貴方を愛して、そして、貴方に愛されたいです」

 ウィアは思わずフェゼントに抱きついて顔を彼の肩に埋めた。これから自分が上やるのに何してるんだと思うのだが、目から涙が出てきてしまって顔を見せられなくて、顔を隠したかったという事情もあったのだ。

「私を、愛してくれますか、ウィア?」

 優しいフェゼントの声に、またじわりと涙が浮かんできそうなのを、ウィアはぐっと堪える。そして、思い切って顔を上げると、優しい亜麻色の髪の恋人に笑い返した。

「勿論、フェズ。たくさん、たーーーくさん、愛してやるからなっ」

 それから二人は、再び唇を合わせた。





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やっとこさ告白タイム終了。次はエロです。でもなんかいちゃついてるだけでなかなか進まないエロだったりします。
後、2,3話かな……。



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