駆け出し騎士の仕事事情
初心者騎士シーグルが初めて大人数パーティに参加する話。



  【8】



 シーグルにとって納得いかない扱いはその後も続いた。

 とりあえずその日は、水場の近くで動物避けの結界をきっちり張っていというのもあって、水浴びが終わった後もそのままここで一夜を過ごそうという事に決まった。下で待っていた依頼主達も戦闘が終わった段階で呼んで死骸の確認をしてもらっていたから、暗くなる前には合流して夕食の準備を始められた。しかも依頼主の商人の計らいで、僅かではあるが酒も配られる事になり、夕食は半分打ち上げの宴会となった。

「いやー、結構な難敵だったが全員無事で終わってよかった」
「んだなぁ、やっぱこれだけ戦力があるとどうにかなるな」

 ほっとして陽気に話しているのはいいのだが、返り血を浴びて服を洗った連中は基本的に皆裸だ。この時期は夜でも寒いという程ではないため、皆火の前で裸のまま飲み食いしている。一部をマント等で隠している連中もいるが、割と皆気にしないで素っ裸で騒いでいた。……勿論、別にそれ自体何かをいう気はないのだが、やはりシーグルだけは裸のまま火にあたる事はなかった。

「シーグル、寒くないですか?」
「いや、俺は大丈夫だが、クラットが寒くないのだろうか?」

 服を洗った者のうちシーグルだけは服が乾くまでの間、マクデータ神官であるクラットのローブを貸してもらって着ていた。というか、水浴びから出たら、それを着ておけと渡された。

「いやこの時期じゃ別に寒くはねぇよ。それよりお前さんに風邪でも引かれたら困る。ま、ンな気にしなくていいぞ、寝る前にはそっちの服も乾くだろうしな」
「そんなに早く乾くだろうか」
「風魔法ってのは便利なんだぜ」

 な、と笑ってウインクしてくるクラットだが、やはりこちらに気を使ってくれているのは確実だ。それを申し訳ないと思いつつ、微妙に落ち込んでしまうのも仕方ない。

――そんなに俺は体が弱そうに見えるのだろうか。

 確かに子供の頃からよく寝込んでいたし、食べられなくて細いこの体を強いとは言い難い。裸で笑い合っている他の戦士連中と比べても明らかに体が細いのは確かだ。それでも鍛えているという自負がある分、騎士として術者枠の人間よりか弱く見られるのは悲しいものがあった。皆からみれば子供扱いされても仕方ない歳だし、裕福な家で育った分の環境的に耐性がない部分はあるものの、それでもここまで気を使われるのは情けないとしかいいようがなかった。

 はぁ、と思わず溜息をついてしまえば、クルスが顔を覗き込んできた。ちなみに彼は返り血を浴びていないため、一緒に水浴びはしたが服はそのまま洗わずに着ている。彼に限らず後衛にいて返り血を浴びてない連中は皆そうだ。

「どうかしましたか?」
「皆に気を使ってもらってばかりで、情けないな、と」

 彼には本音としてそう漏らしてしまえば、優しいリパ神官はにこりと柔らかな笑みで言ってくる。

「私たちは皆からすれば子供扱いなのは仕方ないですよ」

 確かにそれはそうだと分かっているが、それでもちょっと気を使われ過ぎではないかと思う事があるのだ。

「私もシーグルもいろいろ経験不足ですから、年上の皆さんのいう事は聞いておきましょう。シーグルはその……自分に厳しい人ですから、皆さんに甘やかしてもらっているようなのが嫌なのだと思いますけど、慣れて自信持って動けるようになるまではこれも勉強だと思うしかないです」
「確かに……そう、だな。分かってはいるんだが」

 そうしたらクルスと反対側の横にいたグリューが背中をバンバンと叩いてきた。当然彼も裸ではあるが、腰から下はマントを巻いて隠している。

「何落ち込んでンだよ、女王コロッカを倒した今日一番の功労者がよ!」

 シーグルは持っていたお茶をこぼしそうになったが、それは叩かれたせいではなく言われた言葉に動揺したのが大きい。

「今日一番の功労者が俺だなんてあり得ないっ、攻撃して倒したのならイージェンもだし、シンジラとグリュー、ノノが盾役になってくれなかったら俺は攻撃する余裕もなかった、それに……」

 とむきになってそう返せば、グリューがうんうんと頷きながら言ってくる。

「まぁそうだなぁ……んで、それになんだ? 続けてくれていいぞ」

 だからシーグルもまた息を大きく吸って、今度は一気に言い切った。

「コロッカを一番多く戦闘不能にしていたのならティーフォで、クルスはずっと持続呪文を掛けていて、それが出来たのはタレットがついていたのと他の人間の盾の術をマツィネがやっていたからだ。クラットは準備から戦闘中もずっと風を操ってくれていて、いなければもっとコロッカは増えていた。皆がいたから倒せただけで、俺はお膳立てをされた上で最後の一撃を入れただけだ」

 ……と、最後まで言ってからシーグルは皆から思いきり注目されていたのに気付いた。それに気づいてから思わず言葉に詰まってしまえば、今度は途端に周りから拍手が起こった。

「やべー、俺ァ育ちの良さがここまでいい方に出ている人間を始めてみたぞ」

 と涙目で言ってきたのはクラット。

「その……暗黙の了解で分かってた事を言葉にされると嬉しい、よな」
「だよな、盾役は褒められる事まずないからなぁ」
「俺の攻撃は補佐的なモノだったから、気にしなくていいんだけがな」

 そう嬉しそうに言い合っているのはシンジラとノノ、イージェンで、3人で言いながら乾杯をしていた。
 そこで横から高い叫び声が聞こえて、シーグルは思わずビクリと固まった。

「きゃー褒めてもらえちゃった〜」
「もーシーグル様に名前覚えて貰えたならがんばったかいがありますぅ〜」

 見れば、やけにテンション高くそう言っているのは思った通りティーフォとタレットで、その高い声はやはり苦手だが彼女達が冒険者としていい腕なのは間違いない。

「貴方こそリパの守りを受けるに相応しい方です」

 最後はマツィネが手を胸にあてて祈ってくれ、更には他パーティーでこちらを覗き込んでいた数人が手を上げて言ってきた。

「シーグル様ぁ〜俺らの働きはどうでしたか〜?」

 皆の視線が自分に集まりすぎてとてつもなく恥ずかしくてたまらないシーグルだったが、そう言われれば無視する訳にはいかない。

「勿論、こちらのパーティが女王に専念出来たのは他のコロッカを極力引き受けてくれた貴方がたがいたからだ。感謝している」

 それでまたわっと他パーティーからも拍手と声が上がる。シーグルは自分の顔が赤くなっているのに気付いていたからそれ以後は顔を下に向けた。その頭をぐしゃぐしゃと撫でてきたのはグリューだろう。

「まぁったくよぉ、ウチの若様はこれだからなぁ、シーグルのやった役が一番えばって得意になってるのがフツーなのによぉ。本当にお前はいい子過ぎだろ」
「グリュー、その、分かっているが子供扱いは……」
「うんうん、すまねぇ、ちゃんと戦力としては子供だと思ってねぇからよ」

 それは……実力は大人と同等だと認めてはいるが、頭と行動は子供だと思われているという事だろうか――そんな事を考えてしまったが、皆がわいわい楽しそうにしているのを見ていればヘタにこれ以上何か言ったらまた何か言わされると思って黙る事にした。






 ともかくそうして、シーグルの初めての大人数パーティでの仕事は、誰一人欠けることなく無事終わった。

 一応パーティーリーダーはシーグルという事になっていたので、翌朝は食事時間に依頼主と話して、仕事の完了証明書にサインを貰った。向こうとしては余計に時間が掛かる事も犠牲も出ることなく順調に仕事が完了したという事で報酬の方には全員少しづつ色を付けてくれる事になった。……やたらこちらを持ち上げ捲って話を続けようとしてきたから、恐らくはシーグルへの機嫌取りもあるのだろうが、結果的に皆が喜んだからいい事にした。なにせもともとそういう目論見もあって、シーグルがリーダーとなっているのもあるのだ。雇い主が金持ちや貴族なら、シーグルの名前を見ただけで繋がりを作っておきたくて勝手にいろいろ気を利かせてくれる。今回のような追加報酬もだが、安全を重視して多めに人数を募集してくれたり、経費をケチらずに待遇が良かったり……とにかく、自分だけでなくパーティーメンバー皆にメリットがあって仕事がやりやすくなるのだから大人しく受けておけばいい。貴族として特別扱いされるのは嫌だと思っても、利用できるものは利用しておけばいいんだ、というのにも最近のシーグルは大分慣れてきていた。

 依頼主は余程シーグルと出来るだけ長く話をしたかったようで、何故今回の仕事頼む事態になったのかその事情も話してくれた。勿論、『ここだけの話ですが』『秘密ですよ』とか何度も付け加えてきたのだが、確かに内容としては秘密にしたいのは分かるものではあった。
 早い話、あの山にはちょっとした金になる鉱脈があるのだ。
 だが依頼主の商人の部下がそれを調べ上げていざ採掘の準備が整ったところでコロッカの群れが住み着いてしまい、仕方なく冒険者を雇って退治させようという話になった。
 事情が事情だから金の話に汚いような連中は雇えない。だから信用ポイントがやたら高かった(シーグルがリーダーになっていたせいだが)こちらのパーティに声を掛けたという事だ。
 グリューも仕事内容を聞いて最初は無理だと断ったそうだが、依頼主が募集人数をグリューの希望通り増やすという条件で受ける事になったらしい。

「本当はさ、大規模パーティーといっても最初は十数人くらいのを考えてたんだよ。だがどうしてもって頼み込まれてな……」

 今だから言うけど、と前置きしてからグリューはそう耳打ちしてきた。それで古い友人やら、とにかく必要だと思うメンバーに声を掛けてクルスにも頼んで今回の面子を集めたそうだ。
 ちなみに他の2パーティーは依頼主がよく護衛に雇っている連中だそうで、信用は出来るが女王コロッカを倒す程の戦力はないといって、こちらも最初に話を持って行った時は断られたらしい。彼等もこちらのパーティーが女王コロッカを引き受ける事を聞いてどうにか了承してくれた――と、その事情を依頼主はシーグルに訴えるように延々教えてくれた。

 確かに話自体は聞く価値はあったと思ったが、ちらちらと含みがありそうな目線でこちらを見てきたり、あからさまにおべっかを挟んだりというのに付き合うのは正直苦痛でしかなかった。傍にくっついて来ようとするのはグリューがそれとなく間に入って阻止してくれたが、やはり依頼主との交渉役は出来ればやりたくない……とシーグルは思ってしまったくらいだ。

 首都に帰るまでも隙あれば話をしようとしてくる依頼主には困ったが、最後は今回仕事をした皆と冒険者番号のやりとりをして、また組もうと笑って別れたから楽しく終る事は出来た。

 ただ後になってシーグルはふと思った事がある。

――そういえばあれだけ俺と話をしたがっていた依頼主だが、よく倒した後の宴会の時には話しかけてこなかったな。

 勿論その理由は、パーティメンバーが他のパーティの連中にも声を掛けて全力で阻止してくれたからなのだが、シーグル自身それにはまったく気づいてなかった。



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次回は他のメンバーによる大反省会。というか裏話暴露飲み会。
 



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