駆け出し騎士の仕事事情
初心者騎士シーグルが初めて大人数パーティに参加する話。



  【1】



 貴族であるシーグルは本来なら試験免除で騎士の称号を貰える。だが一般人の条件と同じく騎士の従者をしたのちにきちんと試験を受けて騎士となった。
 ……のだが、まだ16歳という年齢もあって、騎士と名乗れば当然のように貴族特権でなっただけだろういう目で見られるのがいつもの事だった。いかにもそう思っているだろうという視線はとてつもなくムカつくがそれにいちいち怒って説明する程馬鹿でもない。勿論、親しくなった、もしくは親しくしたいと思うような信用出来る人物に対してだけはちゃんと事情を話している。単にどうでもいい人間にはわざわざ反応しないだけだ。

――口で訂正するより、ちゃんと実績を作って納得させればいいんだ。

 影口にいちいち反応するのは小者のやる事だとシーグルは思っていた。そして、そう思えるだけの自信もあった。
 ただしそれは騎士としての能力についてであって、一般常識や生活能力に関しては思いきり自信がない。事前にいろいろ勉強はしてきたものの、所詮自分は世間知らずの貴族のボンボンであるという事は痛いほど実感していた。

「えーとまず、連中がちゃんと信用出来る人間だってのは保証する。あーいや勿論今回の仕事相手全員がそうって訳じゃないが、少なくとも行動を一緒にする奴は大丈夫だ。だからそんな緊張しないでいいんだぜ」
「そ、そう、だな」

 ここはいつもの酒場、目の前にいるのはシーグルが冒険者になって間もなく知り合ったグリューという男である。彼はなかなか気のいい男で、冒険者になって暫く一人で仕事をしていたシーグルは彼と知り合ってからはずっと彼と組んで仕事をしていた。更にその前に知り合っていたリパ神官見習いのクルスが正式に神官になってからは彼も呼んで固定パーティを組み、このところはずっとその3人で仕事をしていた、のだが。

 今回シーグルが緊張しているのは、初めて大人数のパーティの仕事に参加するからである。

 そろそろ大規模な仕事もやってみようと言うグリューの提案で、今回はちょっと規模の大きい化け物退治の仕事に参加する事になったのだ。募集人数は30人、ただしチーム分けされているから30人全員がパーティーメンバーという扱いではないという。シーグル達が組むメンバーはグリューとクルスの知り合いばかりで、信用出来るという事だから問題はない、とは思う。
 ただ緊張する原因として、シーグルはそういう大人数での行動が初めてだった。

 一応今までグリューとクルス以外の人物と仕事をしたことがない訳ではない。ただそれはこちらの固定パーティに1,2人知り合いを入れた程度の話で、大人数といえる数では勿論なかった。

「あとー……貴族っていうのを隠してくれってのは無理だからな」
「え、だめ、なのか?」

 驚いて聞き返したシーグルにグリューはひきつった笑みを浮かべる。
 実はシーグルは貴族だと名乗りたくないからこそ、冒険者としての登録名はただの『シーグル』にしたという事情がある。

「あぁ、絶対隠し切れないからへたに隠さないほうがいい」

 思いきり断定口調で言われると、シーグルも思わず口調が弱くなる。

「だが、その……貴族というと、皆俺の扱いに困るんじゃないかと思うんだ」
「まー……そりゃな、最初は距離感分からなくて警戒はされっと思うけどさ」

 グリューはポリポリと顎の辺りを指で掻く。それから少し考え込んだ素振りを見せた。シーグルは思わず下を向く。

「出来れば俺は……貴族だからと特別扱いされず、皆と同じように接してもらいたいんだ」
「わーってるよ、それは」

 顔を上げればグリューは今度は笑っていた。

「でもさ、皆に隠しごともよくないだろ」

 それを言われるとシーグルも反論出来ない。

「ちゃんと信頼し合える仲間になるにはだ、ちゃんと貴族であるあんた自身を受け入れてもらわないとならないだろ」
「確かに、そうか……」



 ……と、いうやり取りがあったのが、実際の仕事に入る3日前の話。



 そうして当日、実際の集合時間前に一緒に組む人達と先に待ち合わせたシーグル達だったが、シーグルはやはり緊張していた。

「よう、グリュー久しぶりだな」

 今回実際組む人間はグリューの知人5人とクルスの知人2人。こちらと合わせて10人で一つのパーティにして申し込んだそうだ。だから基本、やってきた人間はまずグリューに声を掛ける者が多いのは当然だろう。

「おー、ノノ、元気そうじゃねぇか」

 ノノと呼ばれた男は、服装は割合軽装だが盾や短めの剣を腰に下げている辺り戦士登録の戦闘職枠の人間だろう。30代前半くらいの、グリューの知り合いだけあってそれなりに経験を積んだ冒険者のようだ。
 グリューはノノが傍までやってくると楽しそうに肩を叩き合い、それからすぐにこちらを紹介してくれた。

「んでノノ、こっちが最近俺が組んでる騎士のシーグルで、こっちがリパ神官のクルスだ」
「よろしくお願いします」

 そこでまずノノと握手を交わしたのはクルスだった。シーグルもすぐ手を伸ばそうとしたのだが、それではっと気が付いた。いくら何でも兜をしたままは失礼だろうと。だから急いで兜を取れば、手を伸ばすより先に向こうが声を上げた。

「あー……」

 え? とシーグルの頭の中は疑問符が舞ったが、唐突にノノはこちらに向かって恭しく頭を下げてきた。

「よろしくお願いします、シーグル様」

 シーグルの頭の中には更に疑問符が湧く。そして頭を下げられてしまった事で、握手しようとして伸ばしかけた手の行き場を失った。思わずグリューの顔を見れば、彼は左右に首を振っている。……つまり、グリューは事前にシーグルについて何か言ってある訳ではないという事だろう。

「……様はいらない。シーグルでいい」

 どうしていきなり様付けなのか、貴族だと聞いていたのか、もしかしてシルバスピナの名も分かっているのか……等々、聞きたい事はいろいろあったが、とりあえずシーグルが言えた言葉はそれだけだった。

「そうですか、それなら仕事中はシーグルと呼ばせていただきます」
「あぁ」

 にこりと向うは笑ってくれたが、やたら丁寧な言葉遣いはそのままだ。そうすればすぐ、そこでまたこちらに走ってくる者が見えて声が聞こえた。

「ノノー、おーグリューも、久しぶりだな」
「クラット、久しぶりって随分太ったな、もうかってるのか」
「ンなことねぇ。こンとこ商人様のとこの息子の家庭教師やってたから、ちょぉっと体が鈍っててなー」
「足手まといになんなよ」
「お手柔らかに〜」

 ノノやグリューと小突き合いながら話しているクラットという男は服装を見ればどうみても術者枠で、ちらとマントから見えた印からすると風の髪マクデータの神官だろう。船を使う商人は風神の神官とは関わりが深いから商家の家庭教師も納得が出来る話であるし。

「よろしくお願いします」

 クルスがクラットの前に行く。マクデータ神官もそれでクルスと握手を交わして挨拶をするが、その後ろにいたシーグルを見ると目を丸くしておぉっと声を上げた。

「これはこれは、我が名はクラット、マクデータ神官です」

 そこでまたノノの時と同じく頭を下げられる。

「……シーグル、と普通に名前で呼んでくれ」

 様と言われそうだったからそう答えたのだが、向うは嬉しそうにはするもののやはり恭しく頭を下げながら了承を返してくれた。
 この後も、狩人、戦士、戦士、リパ神官、戦士と予定通り7人がやってきたのだが、皆が皆シーグルを見るといきなり礼を取られて、どう考えても最初からこちらの身分を分かっている風な態度を取られた。

 だから出発前から既に、シーグルは少し落ち込んでいた。





*********仲間の内緒話**********
グリュー「いやー……シーグルの場合、貴族ってのを内緒にしてくれは無理だろう」
クルス 「ですね」
グリュー「あのお綺麗で上品な顔みたらいい身分の人間だってすぐわかるからな」
クルス 「でもそう言ったら顔を出さなければよかったのか……って言ってましたね」
グリュー「そりゃ顔見りゃ一発だが、顔隠しててもよー……だってあのピカピカの装備であんなきっちりした身なりってだけでまず金持ちってわかるし、声聞いて若かったらこらもう一発で貴族様だって思うじゃねーか」
クルス 「でもシーグルは貴族だと思ってもらいたくないから、冒険者登録名をフルネームにしなかったんだそうです」
グリュー「え? でもよ一応、登録の時に姓がない奴は今なんでもいいから付けてくれって言われるだろ?」
クルス 「それを『規約では絶対になくてはないとなっていない』と言って通したそうです」
グリュー「あー……そりゃぁシルバスピナの若様にそう言われたらそれでいいですってなるわな」
クルス 「そもそも登録時に姓をつけてくれって言うのは、名前だけにすると同じ名前の登録が大量に出てしまうから……って事らしいですから、出来るだけ区別しやすくするために基本つけてもらうようにしてる、と職員の方から聞きました」
グリュー「いや……うん、まあ、分かるんだけどさ。シーグルの場合は隠す意味がないというか、隠しても無駄というか」
クルス 「それでもシーグルは皆にとけ込みたくて考えたんですよ」
グリュー「あいつは頭はいいとは思うんだが……そういうとこが抜けてるというか、世間知らずというか、やっぱいいとこの若様だなぁと。……うん、だから危なっかしくてこっちがちゃんと見ててやんねーとって気分になっちまうんだよな」
クルス 「そうですね」



---------------------------------------------

この番外編はこんな感じで仲間の突っ込み小話をつけていこうかなと。
 
 



Next

Menu   Top