彩雲(C6N1)   
  全幅12.5m
  全長11.15m
  全高3.96m
  正規全備重量4.5t
 
 当初、ツイン・エンジン(双発ではなく、櫛形・直列に胴体内にエンジンを納め、両翼のプロペラを駆動するという独創的なもの)として企画された。
 というのも、海軍の高速艦上偵察機という要求を満たすためには、2000馬力級のエンジンが必要だったが、当時の日本にはまだそれがなく、1000馬力級のエンジンを2器使うことが考えられたからである。
 その後、大馬力小直径エンジンの‘誉’の開発が進み、単発機として計画が変更され、十七試艦上偵察機(C6N1)として、試作を進められることが決定された。
 だが、大馬力エンジンとは言え、誉は1600馬力の出力しか得ていなかった。出力における400馬力の不足を機体側の設計で補う知恵の成果、それが、“彩雲”であった。 
 

  

 
  1. 基本たる胴体は、エンジン・カウリングの直径とほとんど同じ断面に、乗員を含めたあらゆる装備品を納めるという、明快かつ空力的に洗練されたものであった。その前面投影面積は、三座にもかかわらず、攻撃機はもちろんのこと、単座の零戦よりも小さかった。
  2. 主翼面積の減少……高速性能の効率を上げるため
  3. 主翼内に燃料を搭載……5300kmという爆撃機並みの航続距離を満たすため
  4. 大直径プロペラの採用……主翼面積の減少、および、大容量の燃料を搭載したために困難となった離着艦性能を補うため(副産物として、上昇力も向上する)
  5. 長い引き込み脚……大直径プロペラを納めるため
  6. 大揚力装置の採用(ファウラー式フラップ)……主翼面積の減少に伴った揚力の減少を補うため(今日のジェット機と同等の技術)
  7. 層流翼型の採用……空気抵抗の減少と大迎角での大揚力の両立のため
  8. 排気管のジェット効果……エンジン出力を15%増大させた効果を生む
 これらのことから、彩雲は細長く、そして、主脚が長いため、空を仰いだ形で、その大きなプロペラをかざしている、というのが特徴的な姿となった。 
 

  

 
 中島飛行機の設計によるもので、主任設計者は、福田安雄氏。層流翼は、内藤子生技師によるもの。(層流翼は、当時の普通風洞では揚力を十分に確認できず、物議をかもした設計上の翼であったが、内藤氏らは、実機なら大丈夫という自信を持っていたようで、事実、その通りとなったそうだ)
 戦時中、幾多の飛行機が企画・設計されたが、完成し、実践配備までこぎつけたのは、この彩雲一機のみである。(他に戦時中に実践配備された機種は、すべて、戦前から開発に着手していたもの)愛知県半田と、群馬県小泉とで生産され、総計398機であった。
 彩雲の最高速は、635km/hであり、海軍の要求(648km/h)には達していなかったが、それでも、当時の日本機の新記録であり、グラマン・ワイルドキャット(509km/h)はもとより、新鋭機ヘルキャット(610km/h)を上回っていた。
 戦後、米軍によるテストでは、米軍機同様の高オクタンの良質な燃料を与えられて、694.5km/hを記録し、日本軍用機中最高速であったという。
 通信員が「我に追いつくグラマンなし」と打電したくなる気持ちも良くわかる。(ただし、この通信員は、後に、余計な電信は打つなと叱られたそうだ)
 もっとも、ただ、壮快だったわけではない。終戦近くには、彩雲の写してきた敵船の写真を目標に、特攻隊が出撃していったのである。  
 
 佐貫亦男氏は、「続々ヒコーキの心」の中で終戦直後(つまり、彩雲完成からわずか数年後)にガンで逝去された福田氏に対してこう送っている。
「第二次世界大戦終戦後の荒れた国電の混む座席に、ひっそりと座っている人物がいた。その顔を見ると中島彩雲の設計者福田安雄さんであった。どこか身体のぐあいが悪いらしく、表情も暗く、明らかに病人に近かった。それでも新宿辺りにあった中島の後継会社の事務所に通っていたのは、生活のためであった。」
「その後も顔を合わせることがあったが、病状は次第に悪化してゆくらしく、やがて見かけることがなくなった。(中略)三菱中攻の本庄季郎さんが、肖像写真を撮って送ったら、これは自分の告別式ようにとっておこうと言って、死期の近いことを覚悟していたそうである。やがて、その日が到着して、一人の名設計者は消えた。」
「このような壮烈な技術革新を行った福田さんは、精も根もつき果てて戦後の暗い環境の中であの世へ去った。そのとき乗っていた雲にはあやなす彩色があったろう。そもそも、彩雲という呼び名には、何か現世をあきらめ切った思いが既にこめられていた気がしてならない。」
 
 
参考資料
「保存版軍用機メカ・シリーズ3 彩雲/零水偵」
 雑誌「丸」編集部編、光人社1993刊
「続々ヒコーキの心」
 佐貫亦男著、講談社1976刊
「飛行機銘々伝(第一巻・天の巻)」
 秋本実著、光人社1996刊
「写真でみる世界シリーズ・日本の戦闘機」
 秋本実著、秋田書店1970刊
 


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