せつなさよりも遠くへ

 まだ、彼はF1を存分に戦っていない。
何もF1に残していない。グレイテッド・ドライバーでさえない。
 
 中嶋悟によって、トップ争いだけがF1でないことを教えられた。
そして、何より表彰台を切望するせつない気持ちが降り積もった。
 それは、鈴木亜久里がただ一度たっただけでは満たされず、
弱小ティレルでトップドライバーと渡り合った片山右京によって、
P.P.や優勝は、手に届くものであることを気づかされ、
夢はより大きく膨らんでしまった。
 
 それは、F1に残されている”最後の夢”。
日本人ドライバーによる、優勝、ポール・ポジション、
そして、チャンピオン‥‥‥。
 
 この最後の夢に立ち向かうことが、彼の仕事だ。
 
 まず、CARTで埋もれずに勝ち残らなければならない。
そして、F1へたどり着いても、
メルセデス、フェラーリ、ホンダ、BMWを、
新参トヨタ・ドライバーとして敵に回し、
勝ち残らなけれならない。
 
 夢は叶わぬもの、遠いものだからこそ、夢なのだ。
そして、その夢を叶えることを願う。
”決断”から、はや一年が経った今、
改めて、それを思う。
 
 
  ― せつなさより遠くへ、どこか連れ去ってくれ………

 

 

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