『そいつは夢のような話だね』----そいつは毬のようなバナナの種----
1
「大変だねぇ」
と、オレが言うと、
「大変だと思っちょらんもん」
なんて言うんだよ、真理子が。
「だめだよ、全くだめだよ、毬ちゃん。そういう時は『大変だと思うから、大変なのよ。こころがけよぉっ、このオオトカゲッ』っていうふうに言わなきゃあ」
「どうして?」
「えっ」
「どうしてよっ! どうしてそんなこと言わなきゃいけないの?」
「だって…」
「決めないでよ。何でもかんでもっ! あなたって人はいつだってそうなんだから」
「ははははははっ、そのとおり。オレはいつだってそうなのさ」
ちょっと怒った真理子もなかなかだ。
うん、なかなか、なかなか。
満足
2
真理子が飼ってるカキは広島産で、だから鳴き声がいい。
「カキカキカキカキ」
しかし真理子は、
「ばっかじゃないの。カキが鳴くわけないでしょ」
なんて言う。オレは、
「いいや、断じて毬ちゃんのほうがまちがってるね」
と言い、続けて、
「それにね毬ちゃん、百歩譲ってカキが鳴かないとしてもね、そういうときは、こう言わなきゃ。『カキが鳴くもんですか。メーン』」
すると、真理子の答えはこうだ。
「あなた、館ひろし。私、食べる人」
何を考えているのかわからない真理子も、なかなかだ。
うん、なかなか、なかなか。
満足
3
「それなあに?」
「あ、毬ちゃん。ほら、バナナの種だよ」
「えぇっ? バナナの種?」
真理子は目をまんまるにさせて、オレの掌で「うーん」って、きばっている、けなげなバナナの種を見つめた。
「よせやい、そんなにみつめるなよ」
「すごぉい。初めて見た」
「どうだい、毬みたいだろ」
「どこが? どこが? どこが?」
「よせやいっ」
「ふふっ」
『ふふっ』の真理子もなかなか、いい。
いぇーい、なかなか、なかなか。
「いただきまぁす」
あ、食べちゃあ、だめだよ。
でも、満足
4
うん、なかなか、なかなか。
満足