『そいつは夢のような話だね』----
そいつは毬のようなバナナの種----






「大変だねぇ」

と、オレが言うと、

「大変だと思っちょらんもん」

なんて言うんだよ、真理子が。

「だめだよ、全くだめだよ、毬ちゃん。そういう時は『大変だと思うから、大変なのよ。こころがけよぉっ、このオオトカゲッ』っていうふうに言わなきゃあ」

「どうして?」

「えっ」

「どうしてよっ! どうしてそんなこと言わなきゃいけないの?」

「だって…」

「決めないでよ。何でもかんでもっ! あなたって人はいつだってそうなんだから」

「ははははははっ、そのとおり。オレはいつだってそうなのさ」

 ちょっと怒った真理子もなかなかだ。

 うん、なかなか、なかなか。


満足






 真理子が飼ってるカキは広島産で、だから鳴き声がいい。

「カキカキカキカキ」

 しかし真理子は、

「ばっかじゃないの。カキが鳴くわけないでしょ」

なんて言う。オレは、

「いいや、断じて毬ちゃんのほうがまちがってるね」

と言い、続けて、

「それにね毬ちゃん、百歩譲ってカキが鳴かないとしてもね、そういうときは、こう言わなきゃ。『カキが鳴くもんですか。メーン』」

 すると、真理子の答えはこうだ。

「あなた、館ひろし。私、食べる人」

 何を考えているのかわからない真理子も、なかなかだ。

 うん、なかなか、なかなか。


満足






「それなあに?」

「あ、毬ちゃん。ほら、バナナの種だよ」

「えぇっ? バナナの種?」

 真理子は目をまんまるにさせて、オレの掌で「うーん」って、きばっている、けなげなバナナの種を見つめた。

「よせやい、そんなにみつめるなよ」

「すごぉい。初めて見た」

「どうだい、毬みたいだろ」

「どこが? どこが? どこが?」

「よせやいっ」

「ふふっ」

 『ふふっ』の真理子もなかなか、いい。

 いぇーい、なかなか、なかなか。

「いただきまぁす」

 あ、食べちゃあ、だめだよ。

でも、満足






 うん、なかなか、なかなか。

満足