坂川太郎作品集





さっきから、何か変だと思っていたが
やっとその訳が分かった
僕の左手が ない
え? と思って
左肩の辺りに手をまわそうとして 気がついた
右手もない
そういえば 足もない 首もない 胴体もない
何てことだ
今まで気がつかなかった
             「発見」
 

神様が僕に尋ねた
「明日はどうなるの?」
そんなこと神様が決めることだろ、
と思ってだまっていると
神様は肩を落として悲しそうに背中を向けて
どこかへ行った
それ以来僕には明日が来なかった
               「明日」

クボ君とボク
ミルクこぼして
くるくるまわって
すわって 泣いた
「泣いてちゃ ダメだよ」
牧師さんがいうから
クボ君とボク
こぼしたミルクふいたよ
      「くぼんだエクボ」
 

安らかな死に顔
まるで眠ってるみたい
今にも生きかえりそう
とかなんとか
平凡な言葉に見送られて
君は死んだ
         「通夜」
 

かみのけ ひっぱんないでよぉー
いたいのよぉー
ギュウーッ
やめてよぉーほんとにいたいのよぉー
ギュウッー ギュウッー
         「かみのけ」
 

「とってもよかったなあー」ってとんちゃんは思いました。
だって終わったんですもの。
ずっと気になっていたの。いつか終わらせなくちゃって。
それでとんちゃんは機嫌がよくてね、ぶーちゃんに言ったの。
「君も早く終わらせるといいよ」ってね。
そしたらぶーちゃん、悲しい目をしてこう言った。
「君が始まるずっと前から、僕はとっくに終わっていたの」
とんちゃんとぶーちゃんはとってもなかよしです。今でもね。
               「とんちゃんとぶーちゃん」
 

ノキとボラとタコが
口をそろえて言った
「テラがわるい」
テラは何も言えずに
目にいっぱい涙をためて
細い肩を カタカタとふるわせた
そのうち日が暮れて
ノキとボラとタコは
それぞれのうちに帰った
テラはそのままたった一人で
まっくらな中で ボーッと立ってて
少し立ってから 帰った
         「カプセル」
 

祐子が、鏡の前で化粧をしている。
あっ、祐子が出ていった。
静か 静か 静か 静か
あっ、祐子が帰ってきた。
まゆげ まゆげ まゆげ まゆげ
          「同棲」