理佐が愛した男たち
  (MEGA MIX)



プロローグ

 彼女は眠っていた。

 起こしちゃいけないと思った。

 それでぼくはひそひそごえで、アマガエルのドリフタ−氏に、こう言った。

「理佐はね、死んじゃったんだよ」

 その時、彼女が何か、つぶやいたように感じた。

「ごめん、起こしちゃった?」

 ぼくは、てっきり彼女が目を覚ましてしまったんだと思って、少し大きな声でそう言った。

 でも、彼女は答えなかった。

 僕の声だけが、薄暗い部屋の中に響いた。

 彼女は眠ったままだった。

 
*    *    *    *    *    *    *



 ぼくは、理佐が死んだ後も、仕事を変えなかった。ぼくは自分の仕事を気に入っていなかったのだが、でも、どうしてもやめられなかった。



 ある夜、ぼくは眠れなかった。だんだん、息が苦しくなってきた。肩で息をしていた。そして、呼吸のピッチが、はやくなっていき、はやくなっていき、ぼくは頭を、胸を、そして顔をかきむしりながらベッドから飛び起きた。

 ぼくは忘れていた。

 言い忘れていた。

 まだ、理佐に言いたい事があったんだ。

 ずっと、ずっと、十五年も忘れていた。言い忘れていたんだ。

「わぁーっ!」



「似てる」

「似てるわ」

「似てるわ、パパ」



「情けないわね」「情けないわね」「情けないわね」「情けないわね」「情けないわね」
「情けないわね」「情けないわね」「情けないわね」「情けないわね」「情けないわね」



         「許しておくれよ、理佐」



 あっ…。
 
 理佐がいた。


「ひっさあしぃぶうぅぅぅぅぅーりぃぃーにぃ、てをひいぃーてえぇっ」



 アマガエルの、ドリフター氏が、ラジオを見ている。じぃーっと。そう、じぃーっと。

「霊感が閃いたわ」

と、彼女は言った。あの夜、確かに、大きな声で。

「霊感?」

「そう」

「何? どういうこと?」

「れいかんよ」

「ふぅーん」



 幸せすぎて、家に帰ることも忘れてしまいました。

 家に帰ることも。

 家に…。

「ふぅーん」




『理佐! なんて馬鹿なことを』



 美しい娘に、恋をした。



*    *    *    *    *    *    *


エピローグ

 確かに、理佐は勘違いしていた。

 薄暗い部屋に、声が響く。

「理佐、理佐!」

 あたしは、いいっす。いかねぇっす。




HAPPY  END