メッセンジャー  
 
自転車便?
99/05/21

自転車便の話です。

自転車便って何?と思われる方も多いでしょう。
要は、バイク便のやってることを自転車でやるというシロモノなのです。何でもバイクで書類なんかを運んでいるのは日本くらいのもんで、海外では、もっぱら自転車便なんだとか・・・ふ〜ん、左様でございますか。
それを題材に、かつて一世を風靡したホイチョイプロダクションが世に送り出す作品こそが『メッセンジャー』なのであります。

今回、編集を担当されるのはフジテレビ御用達の田口さん。
この作品がクランク・インした当初も『古畑任三朗』『蘇る金狼』(これはニッテレ)とレギュラー2本をかかえていた超売れっ子です。
『踊る大捜査線』で監督を務めた本広監督とも旧知の仲らしく、いろいろなこぼれ話しを聞かせてもらいました。どうやら本広さん、早速SONYのAIBOを購入するようですよ。

最近、TVで活躍されてる編集マンが映画編集を務めるというパターンが多いようです。これもAvidなどに代表されるデジタル産業革命の影響なのでしょうか。最近でいうと『踊る大捜査線』の松尾さん、『英二』の新居さん、『催眠』の深沢さん。他にも予告界の巨匠、ガル・エンタープライズの板垣さんまでもが映画編集に携わっていると聞きます。ひぇぇ、これはうかうかしていられません!
いや、こうなればせっかくなので『踊る大捜査線』や『リング2』の予告、『メッセンジャー』の特報なんかを手がけた白仁田さんを編集に起用した劇場用作品なんかも見てみたい気がします。監督としては『I・Q』『だんご3兄弟』の佐藤さんや『jojoの奇妙な冒険』を描いた荒木さんなどを起用した作品なんかも是非拝んでみたい、刺激的参考にしたいところではあります。
物欲キング
99/05/22

先にも述べましたが今回はTVのレギュラーを2本も抱えた編集マンということもあって、作業は田口さんの所属する「バスク」というビデオスタジオで行うことになりました。
僕は、もともとフリーの身なので、作業場がどこであろうと対処できるのですが、こ、ここだけはマズイィィ!最寄駅がJR新宿ではないか!あああっ、あすこにも、あすこにも家電量販店の垂れ幕が!
あれも欲しい、これも欲しい。いや!そんなことを考えるなら即座にATMに走り貯金残高を確認しOA機器購入に最大限のパーテションを設け例えそれが現在持っているものとカブろうともこの行為はまるで正しいのだと自分に言い聞かせ「ポイントは?」と聞かれたなら迷わず「貯めます」と答えそれをささやかな散財抑止力とし電車のなかでは取説を読破し家に帰って早速取り付けてご満悦に浸ってはみるけれどものの5分で「うわぁ失敗買い物だぁ」と嘆くのが男子たるものの誉れであると言えよう!ですよね?スタパさん。

この作品が終わる頃には、8ピース食パンを1週間の糧とし、日曜日には2枚食えるぞ、なんて散財のあとの巨大なシワ寄せが襲ってくるような気がしてなりません・・・
接触篇
99/06/29

ビデオスタジオ「バスク」では日々民放ドラマが創られております。
TVの制作スケジュールは映画のそれと比較にならない程の殺人的なもので、編集の田口さんも『蘇る金狼』に関わってる時なんかは放送当日まで缶詰状態という、一つとしてつまづけない過密作業を強いられています。
「いやあ、まったくもってお忙しいかぎりですなぁ。それはさておき、『メッセンジャー』のほうもいい感じに素材がたまってきたので後ヨロシク。じゃっ!」
と、まるで対岸の火事といった具合に言い放ち、ヨドバシカメラへ小踊りしながら向かっていた6月半ばの日々。今は、その影も形もありません。昼夜を問わずの24時間営業とあいなってしまいました。
撮影は延びに延びて10日延長したものの、公開は延ばすことができないため、延びた分のシワ寄せが仕上げスタッフを襲います。
素材は溜まりに溜まって2週間分。しかもカット割がまるで出鱈目なレース関係の素材が大半を占めてます。「撮るだけ撮ってあとはよろしくカット」の大行列です。
日本の公道規制が厳しいことからくる結果なのでしょう。現場スタッフに聞くと、撮影現場はまさに戦場だったようです。
警察からはめでたく「パターン青」扱いとされ、行く先々で集中砲火を浴びたようです。
「品川方面にメッセンジャー出現!」
「よしっ、第一次戦闘態勢」
「ダメです、まるで言うことを聞きません!」

クランク・アップを迎えた頃にはスタッフの屍が累々と横たわっていました。
しかし、僕達仕上げスタッフにとってはこれからが本当の戦です。
目の前に立ちはだかる膨大な素材。
白色彗星に立ち向かうヤマトのようです。
眠らない街-新宿の眠らない編集室。
終わりの見えない戦いに漂いつつあったあきらめムードを一掃したのは田口さんのAvid操作でした。
マウスをほとんど使わぬキーボードからの直接入力。ショートカットに次ぐショートカットが、拡散波動砲が如く白色彗星をなぎ払いました。超過密スケジュールなTV編集で培ったテクニックの賜物です。
「俺達、生き残ったのか・・・?」
「やったぞー、これで地球に帰れるんだ−!」
「わっしょい、わっしょい!」
「おいっ、まてっ!あれを見ろ!」
「なんだ、あれは!?」
発動篇
99/07/05

ババーン!
白色彗星の残骸から姿を現した都市帝国。
そう、馬場監督の入場です。

満身創痍で繋ぎ終えた田口さんの編集が、簡易試写室にてチェックされます。
真っ暗な試写室に時折、チカッ、チカッとライトが灯ります。
見れば馬場さんが、懐中電灯を点けてはなにやらリクエストを書き連ねています。その明滅は留まることを知りません。まるで、自動車免許終了検定における教官のペンの動きにビクつくかのように、ライトの明滅に怯えます。
たっぷりと書き出されたリクエストをたっぷりと時間をかけて説明した馬場さんはホイチョイの仕事のために編集室を後にしました。

監督が入ってからの直しは至極当然のことなのですが、ここへきての、この量の直しは正直キツイ!
しかし、ここで頓挫することは許されません。傷だらけになりながらも一歩一歩前進していきます。

このような、試写→リクエスト提出→直し作業、といった日々が数日続きました。
加藤が、斎藤が、真田さんが・・・宇宙の塵となって消えていきました。
多くの犠牲が実を結んだのか、自分でも信じられない程の短期間でオールラッシュに漕ぎつくことができました。
「こんなスケジュールで映画が創られていいのかよー!」
兵隊の慟哭が響き渡る中、それを一蹴するかのような馬場さんのコメント。

「自費でもいいから空撮を撮りなおしたい」

深夜の編集室にジュリーのレクイエムが静かに流れていきます・・・
Tomorrow never knows
99/07/10

数々の苦難を乗り越え、Avid編集はようやくの落ち着きを見せました。
オールラッシュの前日、ドン・ピシャリとしか言いようが無いタイミングで数時間のコンフリクトをしてのけたAvidも今は骨休めです。もしかしたら、今作の一番の功労者はAvidかもしれません。お疲れ様でした。
しかし、我々戦士に休息は許されないのです。
田口さんは一先ず『メッセンジャー』から離れ、会社のホームページ製作、『小市民ケーン』の編集へとシフトしていきました。さらには映画『GTO』も待ち構えています。
僕はといえば、Avidのデータを日活編集室に持って行き、ポジ編集をこなさねばなりません。
先に準備を進めてもらっていた阿部さんと合流し、シコシコとポジを繋いでいきます。
そうです。今回はポジ編集の応援が見つからなかった為、いつもは助手として仕えていた阿部さんに、あろうことかポジ編集の手伝いをしてもらうことになったのです。
『女優霊』の舞台にもなった、あの日活編集室で、これまた昼夜を問わずの作業が続きます。

Avidをコンフリクトさせたほどのカット数。切っても切っても終わりません。
椅子の背もたれは外れ落ち、ポジカッターは動かなくなり、フィルムを入れるバスケットは裂け破れ、爪が剥がれ、歯が抜け落ち、角が生え・・・・・たっ、助けて・・・ハエになる・・・・・

しかし、悲しいことに、これまた信じられない程の短期間でフィルムを繋ぎ終えてしまいました。
このことは、結果しか重要視しない幾つかの製作会社にとっては好都合な「判例」となってしまう為、本来ならばやり遂げてはならないことなのですが、これも兵隊の悲しい性なのでしょうか。
ただし、「やり遂げた」といっても、最低限のことしかやれてないわけで、結局このことがシワ寄せのシワ寄せとなって、ダビング準備を控えた録音部や、オプチカル処理を控えたネガ編集、現像所へと受け継がれていくことになるのです。悪循環なわけです。
「こんなことがまかり通っていいのかよー!」
慟哭が響き渡る中、それを一蹴するかのような録音部からの電話。
「音のデータがきえちゃった」

新たな宇宙が、今、誕生しました。
・・・僕・・は・・・・鉄・・雄・・・・・
 


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