RING 2 
 
HORRORSIDE AVENUE
99/05/23

僕を構成する中の、映画エリアにおける育ての親はホラーです。

さすがに僕もいい年になったので今では「親元」を離れて独り立ちしてますが、やはり親の暮らし振りは気になります。雑誌などでは随分もてはやされているようですが、どうにも僕の望む姿ではない様子。矢も盾もいられなくなり、この目で確かめるべく劇場へ。

演目は『SCREEM』

劇場は単なるお化け屋敷と化していました。ある程度覚悟はしていましたが、あまりの変貌振りに正視できません。
「ミーもベリーベリーストロングマンね」
ボタンをはめる手もおぼつく有様。
「みんな、悪いが出てってくんねぇか」と観客を帰すわけもいかず、自らが退室します。
のりちゃんにホラーのなんたるかを熱く語ってはみますが「あたし、ついていけそうもないわ・・・」と、にべもありません。
悶々としたところに一人の男が立ちはだかります。奴は僕の肩を軽くたたき、「GOOD LUCK」と言って去っていきました。上着を脱ぐと、くっきりと手形のアザが残っています。

男の名は『BIOHAZARD』

GAMEというあらわし場にキラ星の如く現れました
湧き上がる闘志を抑えきれません。奴のいる階級に体を絞り込むべく履歴書を片手にGAME会社の門を叩く有様
残念ながらこの願いはかないませんでした。あたりまえです。エプロンを噛みしきり、歯痒い思いで過ごしておりました。

そんなある日、編集の阿部さんから一本のビデオテープを渡されました。ちょうど『らせん』の編集作業真っ最中の頃です。ラベルには「中田組・AVIDオールラッシュ」と書いてあります。疲れた体を押して自宅へ戻り、渡されたビデオをデッキにセット。

ズキュゥゥゥーン!
「こ、これはっ!」

僕の追い求めていたエンタテイメントホラーがそこにありました。
「これこれ、これよー!うおぉおおお、コルチャック先生ー!!」
そのビデオこそが『リング』だったのです。
そして、あれから一年後。続編製作の話を聞いた僕は、なんのためらいもなくスタッフとして志願したのです。
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原作では『リング』の続編は『らせん』にあたります。
しかし『らせん』は、貞子の科学的解明に重きを置いており、どちらかというとアナザーストーリー的立場にあったと言えるのではないでしょうか。
映画『リング』の正当なる続編としては、やはり貞子の暴れん棒振りが期待されるところです。
今回の脚本家は、前作の高橋さんを起用してのオリジナルストーリー。加えて主演の中谷美紀。
彼女の実力は『らせん』でも飛び抜けていました。並居る実力派を相手に一歩も引かぬ腰の座った演技は実年齢からは想像もつきません。紛う事無き女優。
「あたし女優」などとしゃあしゃあとぬかす、そこいらへんのタレントがかすみます。そしてそして!監督はあの中田秀夫さん。
いやがおうにも期待は高まります。
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今作は前作で呪われてしまった被害者による念写によって2次的感染者が続出するという設定です。
そのため、まず前作の「呪いのビデオ」をベースに念写的加工を施したVTR製作から作業は始まりました。

待ち構えるは視覚効果担当の松本さん。
松本さんは前作『リング』『らせん』、はては『ガメラ』シリーズとオールラウンドに活躍している視覚効果の達人です。最近は、中田さんと3度コンビを組み、手塚治虫さん原作の『ガラスの脳』という純愛もの!?を鋭意製作中です。
松本さんは監督の提示するイメージをかなりシャープな映像に変えてあらわします。お菓子を片手に中田さんとの肥満談議に花を咲かせつつも、イメージを形に変えていくその様は見事なものです。形にしてはお菓子、形にしてはお菓子。そりゃぁ太ります。
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松本さんを最初に意識したのは、2学期の席替えで隣の席になった時・・・でなくて『リング』での数々の視覚効果を目にしてからでしょうか・・・
『リング』が僕の琴線をわしづかみにしたのは先にも述べましたが、その理由としてエンタテイメントホラーたりえたということと、最低限の映像加工が最大限の効果を生み出していたということに尽きます。
顔が歪んだ写真、恐怖に引きつった顔のストップモーション、キャメラの逆回撮影とか、それくらいですよ、使われたもんは。あ、あと要であった「呪いのビデオ」ね。使い方がうまかった。演出と映像がお互いに補填しあってた。
あれだってハリウッドが繰り出すような、なんやゆうたらCG、やれCGみたいなもんであったなら、あそこまでの信憑性は出せんかったんじゃないでしょうか。まぁ、日本ではやりたくてもやれないのが実情ではありますが・・・
これは負け惜しみでもなんでもないんだけど、CGはね、全然夢が無いと思うんですよ。あんなもん、タネあかしされたマジックと一緒じゃんか。ぷんすか!
まぁ、結局何が言いたいのかというと、あれだけのもんが日本で創られた、凄い!ということなんですけどね。すいませんね、くどくど書き散らかして。もう、なんか気分悪いわ。あーしんど。母さん布団敷いて・・・
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撮影中、ちょいと奇妙なことが起こりました。

現場で録った音の中に見知らぬ男の声が入っているというのです。「た・か・子・・」と。
伊熊が舞を連れて貞子が産み落とされた海っぺりのホコラに連れて行くカットでのことです。
ふむ、確かに打ち寄せる波に紛れて「た・か・子・・・」と聞こえます。でも7:3で「ピチャコン」という波の音にも聞こえます。
半信半疑でいると、撮影から帰ってきたスタッフが儂も儂もと怪奇談をぶちまけます。
「誰も喋ってない筈なんだけど、話し声が聞こえたんだよ。あれはもしかして・・・」
「水に入ってキャメラを構えてたんだけどさ、ものすごい水圧を感じてねぇ。あれはやっぱり・・・」などなど。
しまいには、
「寝違えたせいか首が痛くってさぁ。これはやっぱり・・・」
「最近便秘気味でさぁ。これはもしかして・・・」
僕も便乗とばかりに
「いやぁ、遅刻してスンマセン。どういうわけか2度寝しちゃって。これもひょっとして・・・」

なりません。
口もきいてくれません。
硬くて黒い空気が辺りを包むだけでした。

この「た・か・子・・・」話は後日、とある番組で取り上げられたようですが、それよりも撮影中に「呪いのビデオ」のキッカケ(仮のタイミング)として監督が叫んでいた「きしー!きしー!きしー!」という奇声の方がよっぽど耳にこびりつくと思うんですが・・・
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中田さんはよく悩まれます。

スタッフの反応を伺いながら、自分の信じるものと照らし合わせているのか、額をバシバシ叩きながら手でスコープを作り、モニターのまん前で、あるいは少し離れた所で、何度となく出来上がってゆく作品を噛み締めます。
「呪い」が絡むシーンとなるとその苦悩はより一層深まりました。他の誰よりも自分に与えられた使命、この作品がホラーであり娯楽であるということを人一倍理解していたのでしょう。全ての試行錯誤はエンタテイメントホラーにむけて注がれていました。
これは思い込みかもしれませんが、「ホラー」「コメディ」「ミュージカル」程難しいものは無いと思うんですよ。娯楽作品であるならなおさらです。それでも、こうして気持ちいいほど僕の概念というか偏見を打破してくれる佳作と巡り合うことができた(「コメディ」においては『ラヂオの時間』)のは僕の誉れなのです。

そして、『リング』は1作目、2作目共に成功を収めました。これは凄いことです。僕自身の好みから言わせてもらうなら1作目の方が「ホラー」としての出来は良かったと思いますが、そういう作品が日本で創られたという事実そのものが僕を奮い立たせてやまないのです。それは、もう、なんでしょう。宇多田ヒカルの登場に匹敵する程の明るい未来なのです。


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