BEAT 
 
訪問者
99/05/13

違いの分かる男として歴代ダバダに名を連ねる亜門さん。それでいて人なつっこい亜門さん。
「ぼかぁ、喫茶店のセガレなんだ」
なるほど、しつこ過ぎず離れ過ぎず、いいあんばいで接してくれます。
そんな亜門さんの目下のご執心は沖縄でした。あまりの熱の入れように沖縄へ居を移す程です。今作『BEAT』は全編沖縄ロケ。そしてそして!オールスタッフ(スタッフの初顔合わせ)を沖縄でやるということでなんと、編集部御一行様沖縄へご招待と相成るのでありました。ひゃっほーう!
「キィィーーーィン、あんばくね・ゆーえせーさーる!」
わけのわからぬ言葉を発しBEATLES気取り。リムジンバスの響きも耳に心地よく、「顔にシャドーでもかけてペルシャ猫でも膝にだこうかしら」といらぬ心配をする始末。しかし、そんな上機嫌も空港まで。恥ずかしながらの初フライト、文字どおり地に足がつきません。機上においてはピークに達します。
「ほら、スチュワーデスさん、あすこの尾翼にバケモンが!」と、ジョン・リスゴーさながらです。かけつけ3杯ビールをあおり無理からに睡魔と契約を交わしました。
-----------------------------------------
東京からものの2時間半程で沖縄に到着しました。
生まれて初めての沖縄。生きて再び地上に降り立つことが出来た安心感からか、宿へと向かう車中では観光モードへと突入します。
車窓から見える風景が沖縄へきたんだなぁ、と改めて実感させてくれそうでくれません。なんだかゴルフ場の多い片田舎のようです。

宿のある名護へ到着。バスから降りてビックリです。あたり一面の病院だらけ。病院の密集する場所に宿が建てられたのか、宿の客が次々と病院送りにされたのか、どちらにしろ不安が掻き立てられます。再び現れる機上のバケモノ。クラクラッとめまいを覚える中、居並ぶ病院に紛れて輝く「中島 E 院」のネオンが目に入りました。なにやら露出の高い看護婦さんが患者さんをおもてなし。
今夜は眠れそうもありません。
-----------------------------------------
翌日、オールスタッフを終え、夜に予定されていた現場見学まで時間があったので御当地探索を試みました。
目に付くものは「刺繍屋さん」「ステーキハウス」「カープ歓迎」の垂れ幕。
3つ目のそれに郷里心をくすぐられはしましたが、どれも今一つヒキが弱いようです。どうにもトロピカルなイメージが先行していたせいか水着で飛び跳ねる若者でも見つけない限り気が納まりません。進路を那覇へと切り替えます。
メインストリートを名乗る国際通りを散策するも、お土産屋さんばかり。やりきれない思いを胸に裏道へ入ると、こじんまりとした古い家々が並ぶ一帯へ出ました。土着性と生活感溢れる光景が広がります。
「観光地としての顔よりもこっちの方が僕にはお似合いさ」とご満悦の様子。
しかし、それなら名護周辺の住宅地で事足りた筈。つくづく旅行の下手な男ですが足取りは軽いようです。持ち合わせていたカメラを片手に被写体を探します。
「スナック おおくわ」
 まさか甲虫が・・・気になります。
「ホテル きばらし」
 あんまりです。
さらに歩を進め、『BEAT』の舞台となる「波の上」方面へと向かいました。

台本上では色街としての雑多な世界が前面に描かれていましたが、ざっと見た感じ、その面影は見受けられません。安心しきって角を曲がった瞬間、まるで境界線を越えたかのように風俗店が立ちはだかりました。それも、いきなりのお風呂屋さんです。ひのきの棒と旅人の服で竜王に出くわしてしまいました。店という店に座してかまえていた呼びこみ人の視線がマヌケな訪問者に注がれます。

ザガザガザガッ!!
哀れ、はぐれメタルと相成りました。

キツーイお灸をすえられたことにより失われた記憶が蘇り、沖縄へやって来た本来の目的を思い出します。
-----------------------------------------
この日の撮影現場は具志川城跡でした。
物語の冒頭、真木蔵人演じるタケシがゴロンと天を仰ぎ見るシーンです。かろうじて顔を見せているあぜ道を分け入って進むと、まもなくして一大パノラマがひらけました。
そこは、ゴツゴツとした剥き出しのさんご礁で出来た高台となっており、猫の額程の草原に総勢3、40人ものスタッフが密集しています。周りは見渡す限りの水平線。一日の仕事を終えた太陽が最後の締めくくりとばかりに辺りを優しく照らします。人の手ならざるものが創り出す絶景を前に成す術もありません。

「ここで戦争があったなんて嘘のようだ」

しかし、ところどころに気持ち程度の供養塚が造られており、ここで繰り広げられた惨劇が嘘ではなかったことを物語っていました。見れば、「しばしの間、お邪魔させてください」とばかりにスタッフは全員、現地の人が用意してくれた魔除けのわら細工を腰に付けています。
「僕も頂戴」と製作部に懇願すると、
「ない」とバッサリ。
不安が五感をつんざき、機上のバケモノが顔を覗かせます。
-----------------------------------------
あっという間に予定の日程が過ぎ、僕の沖縄初体験は無事終えることになりました。滞在中現地の人とは交流をはからなかったので、完全なる部外者として沖縄をとらえることになりましたが、足早に過ごした中にもいろんな沖縄の顔を覗くことができました。
ブラウン管からは、長野オリンピックの盛況を伝える中にも米軍との確執を報じるニュースが流れます。その一方で、商店街などではむしろ米兵相手の商いが目に付きます。それは建築物にも反映されていて、統一された琉球造りの中に原色系のペイントが施された外観のものが入り混じるといった具合です。
それらはいずれも、東京で見られるような異文化への憧れからくる取り込みというよりも、そうならざるを得なかった「あがき」にも似た模索からくる取り込みのように、部外者たる僕の目には映りました。日本の中のアジアとでも言うんでしょうか、一見しただけで複雑な背景が浮き上がってくるようです。
これだけキャラクターが強いと、外国映画で描かれがちな日本といったレベルでの受け止められ方しかされていない現状もうなづけます。
「うちなんちゅ」と「大和んちゅ」の間には埋めたくても埋められない溝があるのかもしれません。
-----------------------------------------
亜門さんの中で沖縄がどおゆうふうに位置付けられていたのかは敢えて聞きませんでしたが、『BEAT』製作に参加して思ったことは、様々な外的要因に翻弄され、もがいてはいるけれども、マイペースに、自分達の力で歩もうとする沖縄の人達、ひいては、そういったものを全てをひっくるめて乗っけている沖縄という風土を、タケシやミチを始めとする登場人物たちを通して描きたかったのではないでしょうか。
映画『BEAT』は残念ながら記録的な不入りに終わってしまいましたが、作品を通じて沖縄に触れる機会を持てたことは僕にとって良い経験となりました。

遠く沖縄の地で亜門さんは何を思っているのでしょう。
なるステップへ向けて精進しているのでしょうか。
あるいは、沖縄県民としての日々を全うしているのでしょうか。

もし再び、沖縄を題材としてあらわし手となる日が来るのであれば、その時そこに描かれている沖縄がどうゆうものになっているのか、是非とも見届けたく思います。


TOP