KAMIKAZE TAXI 
 
築地素材市場
99/05/13

僕がこの世界に足を踏み入れることになって助手を任されることになった最初の作品です。ちょうどVシネマ全盛の時期で、この作品も2話分同時進行という形で撮影がすすめられました。もっとも、監督の中では、「劇場公開作品として」ということしか頭になかったようですが・・・
それは、現場からあがってくるラッシュをばらしていてもハッキリ伝わってきました。そこに映し出されていたものは、ビデオ作品のレベレをはるかに超えてましたねぇ。
ラッシュばらしですから当然編集もされてなければ音楽もない、あるのは現場で撮ってきた画と音だけ。素の状態のものです。食材ですな。でも、調理を施さずとも十分食するに値する食材だったのです。
美味しそうだった。
食べたかった。
我慢できなかった。
ちょっとだけなら・・・
カツオ!
いててて、姉さん痛いよ!

・・・・・・・・・

当時から、もうかれこれ5年経つけど食材の段階で興奮したのは原田作品か『ラヂオの時間』ぐらいでしょうか。
「編集でなんとか、ね」という尻拭い的役割を任されることもある昨今でとても貴重な存在だと思います。もっとも、当時の僕にとっては、この作品が初体験なわけで、そんなお寒い未来が待ってることなんか知る由もありません。
「日本映画ってこんなにおもろかったんかのぅ」と武者震ってた記憶があります。
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で、何がそんなに美味しそうかというと、それは芝居です。
切り取られた空間もさることながら、「よぉい、スタート!」から「カット!」までの間に繰り広げられる役者さん達の芝居はピチピチと輝いてました。
芝居といっても「オオ、ロォミオ」的なものじゃありません。ごくごく自然な演技です。
最近では、この「自然な演技」という言葉を随分お安く使ってるタレントがいますが、実情は自分の実生活をさらけ出しているにすぎないものが多く残念でなりません。ここで言う「自然な演技」は、ちゃあんと登場人物に還元されたものです。登場人物がみんな、その世界で息づいていたのです。極めて自然に。虚構のドキュメンタリーとでも言うんでしょうか。そんなリアリティーに溢れていましたねぇ。
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食材がそれだけ美味しいわけですから調理をして不味くなったとあっては一大事です。編集部をはじめ仕上げ班は、腕によりをかけます。
しかし、冒頭でも述べたように、この作品は単館ロードショーのVシネ作品として立ち上げられた企画ですから、時間も金も用意されてないわけです。とくに時間がまるでない。ああ、ございませんね。ありませんとも。
ない時間は身体を削って捻り出すしかありません。不眠不休の毎日が続きました。
右も左もわからない僕はユニコーンの『働く男』を口ずさむ間もなく、ただただ目の前にあるものをとっちらかしてましたねぇ。
ただでさえ時間がないのに、助手が新人とくれば編集の阿部さんの心労は倍増です。へそが茶を沸かします。ウソです。ちゃぁんと反省してます。
僕のとっちらかしが功を奏したのか、どうしても時間が足りないということで急遽応援部隊を要請して、編集部を2班体制にシフトさせるという異例の処置でその場をしのぐことになりました。しょっぱなからたいそうな洗礼です。
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監督の原田さんは、2つの部屋を行ったり来たりしながら編集をチェックします。原田さんは柿の種がお好きなようであっちでポリポリ、こっちでポリポリしてました。原田さんの去った後には必ず柿の種が散らかっており、その様がまるで産みの苦しみをあらわしているようでもあり「ぬぅ、映画的」と思ったりもしましたが、単にお行儀が悪かっただけなのかもしれません。

僕達とは別班でやってた編集室は、もともと『写楽』の為に用意された部屋だったんですが、こちらが急を要することを知ってか『写楽』編集チーフ担当の宮島さんは「あいわかった」と快く部屋を提供してくれました。
いったん借りてしまえばこっちのもんです。
壁にスチール写真を貼りまくったり、映像が見えにくいといってはおかまいなしに照明を落としたり、柿の種をまき散らしたり、もう好き放題です。さぞかし「たばかったな」と思われたことでしょう。ごめんなさい。
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数々の苦難を乗り越えてようやくのオールラッシュです。マルコ、母と再開です。

結局、2時間40分弱の劇場公開版と1時間30分強の前編、後編に分けたノーカットビデオ版の2ヴァージョンという形で編集は落ち着きました。
ペルーの民族音楽を思わせる川崎さんの叙情溢れる音楽と、硬質で派手な柴崎さんの音響効果がさらなる魅力を加えて作品は完成しました。スタッフは全員満身創痍です。おつかれさまでした。
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僕はこの年の暮れに『トラブルシューター』という作品で原田さんと再会することになります。作品としての評価は『KAMIKAZE TAXI』程のものは得られなかったようですが、食材のイキの良さはここでもピカイチでした。特に、堕ちたアイドルがヤクザによってビルから突き落とされるシーンの美味そうなことといったら・・・
いただきまーす。
カツオ!
いててて、姉さん痛いよ!

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最近では『バウンスkoGALS』でも、その手腕を発揮してます。この作品は僕は就けなかったんですけどね。うぅん、残念。
原田さんの作品でとびきりの芝居を披露してくれた役者さん達はその後も、いろんなところで活躍されてたようです。
思えば、役所さんの一大ブレイクは『KAMIKAZE TAXI』に端を発してたのかもしれません。
でも、うーん、これは僕の個人的な感想ですが、原田作品で光ってた役者さんがそれ以外の作品でも同じような輝きを見せてたかというと「そんなことはない」と、これはもうはっきり言えちゃいます。原田さんと仕事をして随分開眼された人もいましたが大半は、原田作品でしか輝きを発せないでいましたねぇ。

かように、原田眞人という人は、役者から未知なる能力を引き出す術を持った、とても貴重な監督と言えるでしょう。これからも、おおいに活躍してくれることを期待してます。


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