デジタル産業革命
 カラン、カラン・・・


いらっしゃいマ・・・ おや、聡一さんじゃないデスカ。

やあ、ジェイク。久しぶりだね。

ホント、久しぶりデスネ。あいかわらズ、お忙しいのデスカ?

うん、まあ、おかげさまでね。順調にやらせてもらってるよ。
今のところは、だけどね。

オヤ、どうしマシタ?ズイブンと弱気ですネ。

いやあ、ここんところ業界そのものが慌しくてね、移り変わりが激しいのさ。

ト、言いますト?

ポスプロにデジタルが導入され始めてもう数年が経つんだけど、それによって結構いろいろと変化が起きてるのさ。

デジタルによって、デスカ?

うん、例えば僕は編集をやってて、そこにAVIDというデジタル編集機が導入されたわけなんだけど、「AVIDがあれば助手はいらないだろ」って声も出てきてるのさ。

WHY? それは穏やかでナイですネ。

つまりこうさ、AVIDに素材を取り込みさえすれば、カットくずを出したり、ラッシュを繋いだりなんてのは全部AVIDが賄ってくれる。実際、編集作業中はモニターの前に監督と編集技師が座って作業してるけど、助手は後ろで見守るだけ、だからね。

助手がする作業は無いのデスカ?

もちろんあるさ。素材の取りこみはもちろん、オプチカルの発注や、現像所とのやりとりとか、技師が編集に専念できるようにその他の事務的なことをこなしてくれるのが助手だからね。ただ、その姿が人目につきにくいことだから、「助手いらないじゃん」なんて言われるんだと思う。

ナルホド、日本は特に分業性がアイマイですからネ。どこかマルチタレント的な働きぶりがありますモンネ。

そうなんだ。アメリカとかだと分業性がハッキリしていて編集ひとつにしても、ドラマの編集とセリフの編集は別の人が受け持つからね。そんなに必要あるの?って言うぐらい細かく分業されてて、かつ、お互いに領空侵犯は侵さない。気を利かせたつもりで手伝うと、「オレの仕事を奪うのか!」ってなっちゃう。

それが日本だとお互いをフォローし合ったり、持ちまわり以上のことをやってしまうト?

うん、全てがそうだとは思わないけど、そういう風潮があるのは否めないね。そもそもアメリカのように予算もゆとりもないから、仕方のない処世術と言ってしまえばそれまでなんだけど。

日本の映画製作期間は早いですカラネ。

そこにデジタルが入ってきたからね。デジタルの最大の利点はアナログの数値化さ。いくらでも編集パターンが残せるし、やり直しもきく。しかもその場で即座に具体的に確認がとれる。音楽やオプチカル、時には効果音なんてのも編集作業で貼りつけたりもする。
そうなると、ダビング時点での録音部や音楽家のやることなんて編集データをまんまなぞるだけになっちゃうんだ。クリエイターとしては面白くないはずだよ。

「そういうことはできません!」と言い放つことも編集部である聡一さんの努めなのデハ?

うっさい、ハゲ!!

What’s!?

・・・・・あ、いや・・・・・ゴメン。監督に欲しがられるとね、断りきれないのさ。わかるだろ?

フン、そんな弱蔵君ハお家に帰ってママのオッパイでもシャブッてナ。

・・・・・上等だ。今度メールに全面真っ黒で1メガバイトの添付画像送りつけてやる・・・

OH!まさにデジタル的イヤガラセ!ハハハ、ジョークですよ、ジョーク。
ええっと・・・オヤ?アチラのテーブルでは、なんにもない六畳一間のアパートに電動マッサージチェアがそびえ立つ山下さんが何やら話してるようデスヨ。ちょと聞いてみましょう。


ジェイク、オレは誤魔化されねえゼ・・・

 ガヤ ガヤ ガヤ ガヤ ガヤ・・・・・
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僕の知り合いに印刷業界で働いてる友人がいるんですけどね、あと数年もしないうちに印刷職人というのは、この世から消滅するんじゃないかって危惧を持ってましたよ。

いや、それはさすがにないんじゃない?、色の具合とか調整ってのはそんな一朝一夕には獲得できんもんじゃろうし。

そういうものは全てコンピューターがやてくれるんだそうですよ。ソフトを使いこなす能力さえあれば誰だって印刷職人になれるんだそうです。アニメ業界にしたって今セル画を使ってるところは少ない、なんて情報も。

ふーん、せちがらいねえ。まあ、確かに映画業界にも職人的気質ってのは失われつつあるもんねえ。そのうち「フィルムなんて触ったことありません」、なんて人が編集やったりするんだろうなあ。

現にやってるじゃないですか。テレビやCM業界の人達が立派に作品創ってるし、映画業界そのものにしたって、シネを触ったことがない録音部は珍しくありませんからね。

そうね、それはデジタルということに限らずハードの進化がもたらす必然なんかもね。僕だって実際ムビオラ(フィルム投影編集機の一種)なんて使ったことないもん。

まあ、デジタルのおかげで色々と面倒くさいことをソフトがやってくれるようになりましたけど、それと同時に職人の垣根もとっぱらわれたってとこなんでしょうね。

それは肌身に感じるよ。やっぱり今まで「手に職」ってことに甘えとったんかなあ。ある意味閉じた世界じゃったけんね。今そんなこと言ってたらテレビやCMの人に仕事持ってかれちゃうよ。今はソフトを使いこなす能力とその人のセンスそのものが問われる時期なんじゃろうなあ。

要領よく小手先で切りぬける才能か、天賦の才がないと生き残れませんからね。まさにサバイバル時代突入ですよ。近い将来フィルムそのものすらデジタルになっちゃたらフィルムなんてただの有害ゴミになるかもしれない。

なんやそれ、気分悪いな。ほしたらアレか?ワシは有害ゴミを創り出してるだけ言うんか?

いやいや、ものの例えですよ。だって考えてみてくださいよ、フィルムがなくなるということはネガ編集の必要がなくなる、光学オプチカル処理が必要なくなる、ひいては現像所が必要なくなるってことじゃないですか?

うーん、確かにそうかもしらんが・・・・・現にデジタルにリストラされた人はおるからなあ。

 ガヤ ガヤ ガヤ ガヤ ガヤ・・・・・
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うーん、シビアですねえ、この先、業界はどういった様相を呈するんデスカねえ、聡一さん。

・・・・・オレは誤魔化されネエと言ったんだぜ、ジェイク。今夜おまえのベッドには愛馬の首が転がることだろうよ。さっそくボスにご報告だ。

ソ、聡一さん!?いつ組織に入ったんデスカ?そもそもワタシは馬なんて飼ってませんヨ!

あれ?そうだっけ? なあんだ、それを早く言っとくれよ。

(・・・イッタイどこまでが洒落なのか・・・とにかくメールアドレスだけは変更しておかなけレバ・・・)

いやあ、でも今の話しは僕も身につまされるね。『ラヂオの時間』で早くからAVIDを覚えてたからよかったようなものの、これから先には何の保証だってないんだから。

まさにデジタル産業革命といったところデスネ。

うん、でもね、やっぱり映画創りの面白いところは共同作業だからね。
時にはそれが仇になることもあるけど、各人の妙味がひとつの作品にプラスアルファを盛り付けていくことや、思いも寄らないサムシングが生まれるところが魅力なんだ。それを見極めないといけないね。

文明の力は人を楽な世界に導きマスガ、それによって人は本来持ち合わせていた潜在能力を失ってもいきますカラネ。

そうさ、いかに優れたグラフィックソフトが出来ても、ゴッホやピカソを超える絵師は登場してないからね。本質を見抜く力も必要なのさ。

でも、人は一度楽を覚えると後戻りできマセンからネエ。

なんで僕を見ながら喋るのさ。

聡一さんだって、あんなに嫌ってた携帯4回も買い換えてるし、パソコンだって右から左じゃないデスカ。

ぬっ、くっっ!

そのうち「今時フィルムなんて出来ないよ〜」なんて言っちゃうんじゃないデスカァ?

うっさい、ハゲ!!

What’s!?

ハゲだからハゲっつたんだよ!グレイシー気取りか、オマエは!

Don’t touch my hair!

いっそのこと髪の毛もデジタルで書いてもらえば?ふふん。

You Baster!!

 ガヤ ガヤ ガヤ ガヤ ガヤ・・・・・
00/05/29
 
 


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